小説部門 2009年物語三昧のなんちゃってベスト

考え方はとしては、僕が読んだもので順位を付けているので、2009年に発表されたモノとかではないです(←微妙に意味なし)。そもそも絶対量を読んでいないので、今年は評価をつけても仕方がないなーと思いつつも(苦笑)。だから、「なんちゃって」です。海燕さんがいっていたけれども、数百冊くらい読んでいないと、意味ないんだよねー。まぁとはいえ、どれを読んでも問題なしの、面白さだと思います。それなりにそもそも審美眼がある状態で選んでいるつもりなので。あと、僕がどういう「読み方」で読んでいるかもなるべく記述しています。

番外編:グインサーガ最終巻130巻
見知らぬ明日―グイン・サーガ〈130〉 (ハヤカワ文庫JA)

これは切ない出来事だった。栗本薫さん、本当に素晴らしい物語を体験できたことを、ありがとうございました。

第1位:『1Q84』村上春樹
1Q84 BOOK 1

2009年の大収穫。日本の文学史にとっても価値のある一冊になることは間違いない。続編があるというのが、さらに胸を躍らせる。今年の僕の大収穫は、個人の実存や個人主義を深掘りしていくと、底が抜けて「世界」に通じてしまい、それを表現するのに並行世界的なパラレルワールドの構造をとるということが、80年代以降の全世界、全ジャンルの作品の基調低音なるようだ、ということが見つけ出せたこと。その最先端にあり、かつエンターテイメントとしての面白さと「容易さ」を失わない、村上春樹の天才に、感動です。この作品を読んで、過去の残作品を読み返しました。自分が村上さんの世界をちゃんと包括的に理解できていないことがよくわかり、本当に素晴らしい読書体験でした。これを世界で最初に読めるのは、日本語を母国語とするもの特権だ、と嬉しくなります。ただ、そうはいっても「行き着いている最先端」の作品であるだけに、最低限過去の村上春樹作品を深く読み込んでいないと、物語としての楽しさの次元だけで消費してしまうかもしれない。それではもったいなさすぎる。過去の作品の問題提起に素晴らしい切込みをしているので、それをわかった上で、この素晴らしさを味わってほしい珠玉の逸品です。村上春樹作品で、唯一といえる女性が主人公という点も、この作品の注目すべきところだが・・・彼女の、青豆のあまりにあっぱれな生きざまに僕は胸が締め付けられました。愛することの素晴らしさを知っている人は強い。たとえ、この世界の「個」としての地獄を痛切に感じてしまったとしても。

第1位:『中原の虹』『珍妃の井戸』 浅田次郎
中原の虹 第一巻
珍妃の井戸 (講談社文庫)

蒼穹の昴』から続くたぶん4部作になるであろう清朝末期から中国近代史を扱った浅田次郎さんの大傑作。この小説に出会えたことを、いるかいないか知らないが神様に感謝しちゃったりするくらい、僕にとって素晴らしく愛する作品。清朝末期の中国の近代化にかけた漢(おとこ)たちの姿は、坂本竜馬西郷隆盛勝海舟新撰組など日本幕末の大スペクタクルと全く同じ中国幕末版。西洋列強(パワーズ)や近代日本の帝国植民地主義と闘いながら、四億の民を未来に導くための歴史の重みと民族の未来を賭けた、群像劇。こういうのは、日本のナショナリズムのきわまった司馬遼太郎さんの『坂の上の雲』やみなもと太郎さんの『風雲児たち』と同時に読みたい。これほど格好いい男たちが、やはりアジアにはいたのだ!と実感できるだろう。たとえ物語だとしても、大枠の歴史の流れにこういう「大きな物語」があったこと自体は否定できないから。そして、偉大なる征服王朝ダイナスティコンクエスト)清朝の天子(ティェンズ)を柱とする中華帝国易姓革命システムの落日の美しさ・・・・。このシリーズを読まずとして、なんとする!(←意味不明)と叫びたくなる大傑作。そして、東大の教授の加藤陽子さんの『それでも、日本人は「戦争」を選んだ』などの歴史の本との出会いもあり、この時代の近代日本の本当の姿がやっと見えだしてきた気がする・・・。失われた(僕らの世代は歴史教育がとても貧困で統一の見解がない)日本近代史と、アジア近代史の、ミッシングリンクが、いま僕の中で埋まりつつある・・・・素晴らしい。きっとこの先に、ヨーロピアンコミュニティーのようなたらしいステージが待っているんだと思う。NHKで1/2から放送なので、映像もぜひ。
http://www.nhk.or.jp/subaru/

第2位:『鹿鼎記』 金庸著 
鹿鼎記〈1〉少年康煕帝 (徳間文庫)
鹿鼎記〈8〉栄光の彼方 (徳間文庫)

浅田次郎さんの中国近代史の歴史小説の出会いによって、このへんの中国史の接続が非常に良くなって来ており、その中で、この康熙帝(第三代清朝皇帝)の時代の話を、それにまつわる反清複明の漢民族による異民族排斥運動などのつながりがものすごくふっと頭に入ってきた。これは、『蒼穹の昴』と『中原の虹』が、清の満州女真族が、東北地方の小さいバラバラな部族であったころから、豊臣秀吉朝鮮侵略を契機に明が衰退した間隙を縫って統一部族を形成して、その力の背景に、明を倒していく部分が、同時に並行して描写されているのだが、それがあるので、中国の民衆が常識で知っている・・・日本でいえば忠臣蔵徳川家康の天下統一の物語など、民衆に膾炙した歴史リテラシーが、足りないなりにある程度ある前提で、この作品を読むと、さまざまな中国史の英雄物語がつながって、、、、たまらない。そして、きっとこれは金庸というエンターテイメント作家が、最終的にナショナリズムなどのイデオロギーを解体して、民衆の目線、面白さの目線で、到達した物語であり、そういう意味ではすごく素直に面白い。出会えてよかった。この人の全作品を読むと、きっと中国の物語を読むリテラシーが格段に向上するであろう。素晴らしい出会いだ、、、。ちなみに、金庸は、奥深さがありながらもエンターテイメントに特化している作風で、ひたすら萌と面白さに特化したライトノベルと思って読めば、間違いないと思います。


第2位:『獣の奏者』 上橋菜穂子

獣の奏者 (4)完結編
獣の奏者 1 (シリウスコミックス)
獣の奏者 1 (シリウスコミックス)

脚本の出来が素晴らしすぎるのであろう、漫画もアニメも、まったく小説と変わらないレベルの質を維持している。どれを見てもこの傑作巻は確実に感じることができる。エリンという少女の全生涯を「描き切った」素晴らしい作品。個人的に、たとえば、須賀しのぶさんの暗黒女神伝シリーズに比べると、その世界の「いい加減さ」のなさが、唯一、僕個人として納得いかないのだが・・・・それを含めても、今年最高の傑作であるといって問題ない。単体の完成度でいえば、もう断トツ。さすがです、としか言いようがない。先の指摘のパラフレーズだが、そのあまりな気真面目さと救いのなさ、がどうしても、、、、、物語としてもう一つ違う広い世界と歴史を描いてほしいという思いを抱かせるが・・・・しかし、エリンの個人の力では「ああ」しかできなかっただろう、とも思う。漫画版『風の谷のナウシカ』『もののけ姫』やジェームス・キャメロン監督の『アバダー』などと関連する、人と異生物との共生についての究極地点まで追求した傑作。僕は子供に絶対に読ませるし、アニメとかも見せます。偉大な作品です。

第2位:『ローマ人の物語/35-37 最後の努力』塩野七生
ローマ人の物語〈35〉最後の努力〈上〉 (新潮文庫)
ローマ人の物語〈35〉最後の努力〈上〉 (新潮文庫)

あの偉大だったローマ帝国が、中世に変わっていく姿を描いたもの。僕の中では、もうスペクタクル大長編小説扱い。この作品は、ディクレティアヌスなど、、、ものすごく優秀な皇帝が素晴らしい統治と戦術で、混乱したローマ帝国を何とかマネージしていくのだが・・・・根本的な「戦略」の次元が間違っていれば、物事の「本質」を突いた行動をしなければ、どれほど優秀でどれほど全力を尽くそうとしても、世界は良くならない、ということを見せつけられた気がしたものだった。まさに「最後の努力」。しかし、間違った努力・・・・。あの偉大なローマ帝国とヨーロッパの中世がぜんぜん繋がらなかったのだが、このディオクレティアヌスコンスタンティヌス帝の話を読んで、非常に納得した。ああこうやって中世のヨーロッパに繋がっていくのか・・・と感心。

第3位:『ひぐらしのなく頃に解皆殺し編竜騎士07
ひぐらしのなく頃に解 第三話~皆殺し編~(上) (講談社BOX)
ひぐらしのなく頃に解 第三話~皆殺し編~(上) (講談社BOX)
ひぐらしのなく頃に解 皆殺し編 1 (Gファンタジーコミックス)
ひぐらしのなく頃に解 皆殺し編 1 (Gファンタジーコミックス)

いろいろな意味でつたないかもしれない。終わった後から俯瞰するとたいしたことがないといえる作品かもしれない。けれど、この時代のある種のメタ的な視点を利用して平衡世界を描いていくという意味では、その頂点にある作品の一つだろう。それゆえに、すさまじいメディアミックスの展開と広がりを見せている。こういうのは同時代性が非常に重要なので、できれば、リアルタイムで出会うべき作品だとは思う。けれども、まーとにかく面白いよ。エンタテイナーが作る作品ですね。文句があるやつらは、これよりおもしろいものを作ってからいいやがれ、と思う。まぁヲタク業界・・・というか、こういうエンタメ系の世界が好きで見ているのならば、見ていないと、「頭おかしいんじゃない?」って気はする(←いいすぎ(苦笑))。まぁこの皆殺し編カタルシスは、もう凄まじいものがある。平衡世界モノのインプロヴィェーションを、これほど清く正しく美しく描いたものはないと僕は思う。


http://d.hatena.ne.jp/Gaius_Petronius/20090725/p3

第3位:『わたしを離さないで』『日の名残り』カズオイスグロ著
わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)
日の名残り (ハヤカワepi文庫)
日の名残り (ハヤカワepi文庫)

カズオイシグロさんは、いいねぇ。でも、読むのをいつも少し躊躇して、、、本当は時間があれば、英語の原文で読みたいのだ・・・。この人はまさに「文学の馥郁たる香り」を持つ正統派の作家で、こういう人の作品は、文章や余韻などを楽しむべきものなのだ。『わたしを離さないで』なんかは、去年読んでいるんだが、今年もゆっくり読み直してしまった。この人は作風の幅が広いので、何の前情報もなしに読むと、いったいどこへ連れて行かれるんだろうと、と凄く不思議な緊張感にあふれてくる。

第4位:『偽物語(下)月火フェニックス』 西尾維新
偽物語(下) (講談社BOX)

この作品単体がというよりは、化物語シリーズの全体像に、僕は偏愛。これってすべてが、「偽者が本物らしくあろうとすることこそが本物だ」というアイロニーを語っていて、アイロニーの癖にストレートな主張という不思議な作品だ。とても感覚が00年代というか、僕のような80年代をベースに青春時代を育って90年代を見ている人からすると、新しい。今の世代にとってはこれが普通なのかもしれないが。

第5位:『柳生大戦争』『魔岩伝説』 荒山徹
柳生大戦争
魔岩伝説 (祥伝社文庫)

なんというか、ここまで嘘も極まると感動だよ、というぐらいの大風呂敷がたまりません。逆に言うと、これだけの巨大な嘘がつけるということは、逆説的にそれだけ朝鮮の文化や歴史を深く知りえているからこそ、であって、深い知識のある人の全体からの視点が感じられて、ほんとうに興味深い。特に『柳生大戦争』で、朝鮮の王が、豊臣秀吉朝鮮侵略時の東アジアの戦略状況を説明するシーンがあるんだけれども、「ああっ!そうだったのか!」と目が鱗だった。それが女真族ヌルハチによって明が打ち倒されて清朝が成立するのに繋がっているのがわかると、もう鳥肌モノだった。そういう戦略マップが頭にないと、当時の豊臣秀吉徳川家康がなにを考えていたのか、、、李舜臣や朝鮮の李朝の王たちがなにを考えていたのか?ということがぜんぜんわからない。素晴らしい手がかりをもらって、この本のおかげで、いろいろなことが頭の中で有機的に繋がった。もちろん物語ではあるんだが、ちゃんとした物語は基本の骨格(=歴史)の部分は嘘をつかないので、全体イメージが凄く手に入る。もっとも大事なものは、本当は『それ』なんだと思う。

第6位:『ぼくのメジャースプーン』『凍りのくじら』 辻村深月
ぼくのメジャースプーン (講談社文庫)
凍りのくじら (講談社文庫)

丁寧な内面の描写。人間の観察眼の鋭さが、とても光る。特に、藤子・F・不二雄への愛をこれでもかと示した『凍りのくじら』は良かった。この人が現代の若者の心を描くのがうまい、新世代の作家、と呼ばれる理由はとてもよくわかる。90年代以降の日本社会というのは、激しく且つ広範囲共有される『動機』が消失した社会だと僕は思っている。正確に言えば消失したわけではなくて、共有されるイメージや目的が失われたので、それがどこにも行き場を失ったままさまよっている(自分探し!)傾向が強い社会という意味。00年代では、それが、『さまよっている』という喪失の自覚すらなく、そもそもエネルギーの向け先が良くわからないのはデフォルトな社会になってしまっている。この社会での最も重要なの問題は「なにをしていいかわからない」ということ。言い換えれば、動機がない。基本的に、動機が、目標に向かわないで静止したり行き場を失う「苦しさ」を描くの現代の作品の、自分の内面描写をする基礎となる。この人の作品傾向に、「子供の視点」と「動機のないアパシーで闇に捕らえられてしまった犯罪者やストーカーなどの視点」を、対比させて、接続させて描いている。こうすることによって、動機LESSな子供の内面が基本であって、簡単にそれは、闇にとらわれて一定舞うことの、敷居のなさが描かれることになる。実はそこがこの人の怖いところなんだよね。


http://d.hatena.ne.jp/Gaius_Petronius/20091023/p1

第7位:『ウルトラダラー』 手嶋龍一著
ウルトラ・ダラー (新潮文庫)

第8位:『スリーアゲーツ-三つの瑪瑙』『プラチナビーズ』 五條瑛
スリー・アゲーツ―三つの瑪瑙 (集英社文庫)
スリー・アゲーツ―三つの瑪瑙 (集英社文庫)
プラチナ・ビーズ


北朝鮮の偽札作りの話。下記の2作品とあわせて読んで、北朝鮮の東アジアにおける政治的位置づけとか、資金源とか、いろいろな構造が凄く浮き彫りになって面白かった。上記で「失われた日本近代史」とか北東アジア近代史が像を結びつつあるので、今まで歴史から独立してボコッボコッとイメージが独立していたものが、繋がり始めていて、、、ああー「あの」は手にこういう国ができるのか・・・とか、いろいろ思うところがあって最高です。荒山徹さんとか李舜臣を描いた『孤将』とか、朝鮮を舞台にした小説を結構読んでいたりするのも、とても大きいのかもしれません。特に中国や韓国は、月に一度は必ず出張しているので、自分的にもとてもなじみが深いというのもあります。特に中国、韓国の経営者が、リタイヤした日本の技術者や、事業が撤退して不遇に苦しむ技術者をリクルートして、情報を戦略的に獲ろうとするのは、もうある種の「常識」で、僕もそういうのはビジネスにおいては織り込み済だったんですが、、、、こういう風に、さまざまなルートから戦略的に技術を盗んでいったり組み合わせていく、その広さと深さに驚愕しました。一見何のつながりもなさそうなことが、深く繋がっている可能性があるんだ・・・とインテリジェンスの世界の奥深さを知りました。五條瑛さんのこのシリーズは、何冊も繋がっていて、読みたい!!と思わせるんですが、、、いかんせん絶版になっているものが多くて、手に入れにくい。リアルタイムで読んでいないと、入手に困ります。。。しかし、、、絶対に手に入れます。

第9位:『ソードアートオンライン』『アクセルワールド』 川原礫
ソードアート・オンライン〈1〉アインクラッド (電撃文庫)
アクセル・ワールド〈1〉黒雪姫の帰還 (電撃文庫)
アクセル・ワールド〈1〉黒雪姫の帰還 (電撃文庫)

この人は才能あります。いや、本と全部おもしろい。ないが凄いかって、SAO1巻は、とある飛空士〜と同じように完全に完成していてまとまっている。こういう完成度の後って、ろくにかけないものなんだけれども、その後も凄く面白い。まずこれが驚き。それと『アクセルワールド』も所詮、SAOと同じ電脳世界の話であって、基本のコンセプトは同じ。こういうのって、ダメで才能のなさが露呈するパターンが多いんですよ、普通。けど「にもかかわらず」面白いってのが、この人の才能を物語っている。それに、結構、『アクセルワールド』とかへたれ君のへたれ克服物語なんだけれども、そういったものがエグく臭みのあるものにならないところが、人間性として好感が持てるだけではなく、バランスのよう読んでてすがすがしい成長物語のエンターテイメントになるので、負にとらわれないところが凄く僕は好感が持てる。作者がそういう人なのか、それともエンターテイメントのバランスを良くわきまえているのか。。。。ライトノベルというか、読んで「面白いかどうか」の物語は、無駄に難解にしたり心理描写を苦しくする必要は僕はないと思っています。作者の「自分探し」に読者をつき合わせるのは、せめて村上春樹の文学級を、少なくとも僕は要求する。あっ、しかしながらリネージュ2とかFFのオンラインゲームをしたことがない人には、「この感覚」はわからないかもしれないなー。そこがポイントかも。

第10位:『エトロフ発緊急電』『ストックホルムの密使』『ベルリン飛行指令』 佐々木譲
エトロフ発緊急電 (新潮文庫)
ストックホルムの密使〈上〉 (新潮文庫)
ベルリン飛行指令 (新潮文庫)

今では警察の物語で有名な佐々木さんですが、僕はこの第二次世界大戦三部作が、物凄いスキ。手に入りにくいですが、お勧めです。もちろん、僕の「失われた日本近現代史」というテーマで読むのが面白いのです。というか、どれも凄い面白いですよ。

第10位:『芙蓉千里』須賀しのぶ
芙蓉千里
喪の女王〈8〉―流血女神伝 (コバルト文庫)
喪の女王〈8〉―流血女神伝 (コバルト文庫)

これも「失われた日本近現代史」のテーマの一つ。満州の女郎屋が舞台なんだよね。系統としては、流血女神伝と同じだと思うんだが・・・・なんというか、主人公の女の子の生命力の太さには感心する。けれども、ある種女神伝のときは、それが無謬に見えてしまいがちではあったが、こっちのほうが舞台がファンタジーではないだけに、しっくりくる。まだまだ始まりに過ぎないんだが、とても素晴らしい。実際、売春宿での話は、もう暗くて、どうしようもない暗さなんだけれども、この主人公の視点みると、とても明るいものに見えてくる・・・・のは、とてもうまい。主人公として世界に屹立している存在というのは、世界から愛されるのに疑わない感じがあるんだよね。けれども、その明るさや肯定って、主人公が、すでに完全異世界に、社会に絶望しているから得られるものであるということを、この作品も良く描けていて、僕はスキです。やはり須賀さんは、大河ドラマが似合う。


第10位:『とある飛空士への追憶』『とある飛空士への恋歌』 犬村小六

とある飛空士への追憶 (ガガガ文庫 い)
とある飛空士への恋歌3 (ガガガ文庫)

4冊目で、鮮やかに完結していた1冊目の『とある飛空士への追憶』とのつながりが見えて、その物語の広がり間を感じられたので、僕的には、ウルトラスマッシュ!の作品だった。特に1巻は、これは映画化しないとおかしいだろう!といっていたのがちゃんと映画化になったので、おーちゃんと見ていんるなーとうれしくなった。次の感が非常に楽しみ、、、どう鮮やかに世界のなぞをつなげてくれるのだろうか?って。そもそも、関係性やキャラクター自体は、ほとんど世界のなぞに注意を払っていないで、僕のような小うるさい読者をひきつけるんだから、とてもうまいのだ。ましてや1巻の完成度は高かった。これはいいですよ。まさかあれほどの1巻の完成度で、続きが見れるとは思わなかった。

これからの日本社会で、エンタメの発信源になるのは、ライトノベルだと思う。少なくともここ数年は。需要が不確か不安定な現状では、投資効率が一番いい媒体に実験が集中するから。エロゲーがある程度失速していることを考えると、この「先行投資が非常に小さくてすむ」ということ、単体でも一回目の部数を抑えれば、企画で冒険がしやすいことを考えると、ここが一番、投資効率が良くまわせるメディア媒体になるので、ある種の伝統芸能化もしくは狭い確実なセグメントで設ける悪循環に陥っているアニメーションと比較しても、ここがここ数年の注目ポイントだと僕は思う。