Muv-Luv [another&after world] 小清水 著 シェアワールドとしての楽しみ方

Muv-Luv [another&after world]

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シェアワールドのおもしろさ〜タケルの主観の外で何が起こっていたか?

マブラブオルタのSS。100話近くある圧巻ボリューム。にもかかわらず、止めることのできない面白さ。大満足の小説でした。すばらしい。こんな才能がバカバカ埋もれているんですね、すげぇよ、ネットの世界。。。基本的にIFの設定で、横浜基地襲撃でも桜花作戦でも、A-01部隊がすべて死ななかった設定。そう、イスミバルキリーズが大活躍なんだぜ!。しかも帝国陸軍のレールガン部隊として伊隅あきら中尉とか登場しちゃったりするんだぜ!。そういった、ちょっと極端なIFなんだけれども、それが違和感なく(少なくとも僕は)ちゃんと小説世界として成立しているところに、作者の力量を感じます。特に、その世界に帝国斯衛軍のオリジナルキャラが登場することによって、そのIFが十分説得的になっているところは、無理がなくて非常に良いシュミレーションだと思った。とても論理的。月詠真那の同じ部隊になる朝霧叶、斉御司灯夜、九條侑香らのキャラクター設定は、ビックリするほど見事だった。

ある種のシュミレーション(=もし桜花作戦がもう少し戦力的に強ければ・・・という)なんだけれども、、、、設定が強固に構築されているシェアワールドのおもしろさってのは、やっぱり、オリジナルのストーリーの背後で何が起きていたかってことだろうなーと思う。本来は、おもしろくないはずの、オリジナルの漫画化が凄く興味深く読めてしまうのも、同じ。基本的にはタケルの主観で構築されたオルタの物語の「その背後」や「前後」で何が起きていたのか?ってのを、多角的に見たい(=異なる視点からかいま見たい)という動機なんだろうと思う。設定や歴史観が確固としているだけに、、、その舞台が広大なだけに、シェアワールドとして、の楽しみがいろいろできる。実際に、スピンオフがこれほどしやすい作品もないだろう。だって、そもそもが並行世界というIFで成り立っているので、さまざまな設定が時系列的に作れるし・・・・また全地球が舞台の歴史が設定されているだけに、それぞれの地域で簡単に類似の物語が作れてしまうもの。たとえば、↓もね。こういうシェアワールドとして広大さを備えると、設定を読みこむと、さらにさらに世界が面白くなる・・・。まぁこれも、そもそもオルタという主軸の物語が超ド級の深みをもっているからこそできることなんだろうけれどもね。

マブラヴオルタネイティヴ クロニクルズ01
マブラヴオルタネイティヴ クロニクルズ01

『マブラヴ オルタネイティヴ』公式メカ設定資料集 MUV-LUV ALTERNATIVE INTEGRAL WORKS (TECHGIAN STYLE)
『マブラヴ オルタネイティヴ』公式メカ設定資料集 MUV-LUV ALTERNATIVE INTEGRAL WORKS (TECHGIAN STYLE)


■マリア・シス・シャルティーニ少佐って、よくねぇ?

個人的には、白銀武中佐率いる欧州方面国連軍第2師団所属第27機甲連隊Crusadersの副隊長であるマリア・シス・シャルティーニ少佐が、めちゃめちゃのお気に入り。めちゃかわいすぎる。。。ほとんどの話の主軸が、白銀中佐率いる欧州方面国連軍第2師団所属第27機甲連隊で、オリジナルキャラクター中心に進むのに、マブラブオルタの雰囲気や世界観を非常に秀逸に再現していることろが、読んでて感無量だった。

時は西暦2005年4月19日。あの歴史的反攻作戦「桜花作戦」の終幕から今年で3年目。BETAに対する人類の巻き返しはようやく本流を下り始め、最大時26もあったハイヴの数は19まで低減。
開戦以後後退に後退を重ねていた前線は緩やかに前進を開始している。
 欧州方面国連軍第2師団所属第27機甲連隊 通称「Crusaders」と謳われる国連軍部隊。
 H12制圧作戦で一度として後退することもなく、突入部隊が反応炉を破壊するまで地上戦力を支え続けたこの連隊は、設立2ヶ月で一躍有名になった。
 その連隊長 白銀武の名も急速に広まり、今回反応炉の破壊に成功した部隊の衛士たちに並んで知られることになるのだが……。
 本人にその自覚はほとんどないようであった。

ふつうこれだけオリジナルのキャラクターを出して、オリジナルの設定を作ってしまうと、「違う物語」になってしまう物語だが、完全にマブラブの世界観を秀逸になぞっているのがよかった。それ故に、本体よりも凄い作品!ということではなく、本体のレースになってしまっているんだが、これだけの物語世界を構築できたら、作者としても読み手(=受け手であるわれわれ)としても、もうそんなチーセーことどうでもいい、というレベルだろう。

■人事のこと〜部隊の目的(マクロ)と参加している個人の思い(=ミクロ)を両立させること

個人的に、素晴らしい物語だが、、、おおっと思ったのは、54話の中隊の人事構成にマリアと武が頭を悩ます場面。この作品が、いぶし銀のように安定した戦記モノとしての魅力を発揮するのは、どこまでも戦力としての「組織」や「機能」の部分を背景に押さえて書かれているからだと思う。BETAという物量を戦術の基礎に置く相手と戦う時に、戦術機の持つ機能が発揮できるのが「中隊規模」であるとい前提を、はっきりと作者が認識して、それをベースにすべての物語展開を考えているところが見事。

54話

 白銀武は執務室で唸る。部隊運営に際してここまで悩まされたのは彼も初めての経験だった。
 補充人員ゼロ。決して予想しなかった結果ではない。寧ろ、人事関連については最悪の事態としてマリアと協議し、しばらくは各隊の人数を調整しながら次の人員補充まで凌ごうかと考えていた。そういうのも、部隊は1度解隊してしまうと、同様の戦力を持つ部隊を再結成するのに比較的長い時間を要するのである。
 だから、次の人員補充までに大きな作戦に組み込まれる心配がないのならば、多少強引でもその状態を維持し、再編に備える方が得策であるケースは多い。

 しかしながら、今回最も肝となっているのは、“次回の人員補充までも望みがない”ことだった。

 欧州の人事関係がシビアなのは間違いなく、圧倒的に兵士は不足していた。各所で同様の部隊再編が敢行されたとしても、余剰人員が出る可能性は限りなく低い。
 そうなると自然と人員に関しては入隊してくる新兵に頼ることになる。だが、最低半年の訓練期間を持つ衛士の場合、主だった任官シーズンは年に2回だけ。欧州の場合、ほとんどの新任が組み込まれてくるのは2月と8月だった。
 次の任官期まであと2ヶ月。長過ぎる。そして、これから2ヶ月以内に何か起こる可能性があまりにも高過ぎる。

「白銀中佐。発言の許可を」
「許可する。マリアはどう思う?」
 しばし武の傍で静観していたマリアの言に、武もようやく呼吸が出来たような気分だった。ほとんど答えなど決まっているようなものだが、独断など出来る筈もない。
「中佐のご決断に従います。少なくとも、“その”判断が間違っているとは私も思えません」
 その返答に、武は軽く肩を竦める。どうやら、彼女にはすべてがお見通しらしい。一瞬、そう感心したが、よくよく考えれば武でも辿り着くような結論だ。マリアがそちらを選ばない筈がない。

 2個中隊の解隊。

 その結果、完全充足状態とすれば24名の余剰人員。現状では20名の人員が不足しているため、総合すれば4名の余剰人員が生まれることになる。
 即ち、13人にて構成される中隊が合計4個。部隊としては変則だが、9人で1個中隊を構成するよりも大抵の状況下では衛士の生存率が高まるだろう。
 今後、人員補充が望めないのならば、それが得策。そもそも、2ヶ月後の任官期を迎えたところで、1つの連隊に20名も衛士が回されてくる保証などなく、可能性も低いのだ。

もともとマブラブオルタの素晴らしかった点は、「人類を救う!」というマクロの大義と、武の自己の存在意義や内面のヘタレなど個人としての戦う意味(=ミクロ)の、そのバランスをどうとるかということを深く深く考察している点にあったと思う。ヘタレな自己を解体していくという90年代に代表的な自己解体の物語が、00年代の国家論台頭的な全体優先のテーマとが上手く組み合わさったのは、けっきょくは、「生きていく」ということ、言い換えれば社会で価値を認められ発揮するということが、全体と個のバランス地点をどうやって見出して行動していくか?って言うことにあるからなんだと思う。

マブラブオルタは、結局は、白銀武が、ずっとそのことをに悩みぬいて、あがいてあがいて、そのバランス地点を見出した物語だったと思う。だから、何度も作中で説明されていますよね?。白銀武が、悠陽にトリアゾンを投与できなかったこと、、、、自分の手を汚すことで、全体の目的を優先し達成するという「逃げ道のない選択肢」で「決断」するしかない状況に追い込まれた時に、「現実としては」その「責任から逃げること」は、両方を失ってしまう行為であるということを。そういう二択の状況に追い込まれたくない!というのは、甘えであって、現実は待ってはくれない。そういう場面に出会ってしまったら、その取り返しのつかないリスクや汚さも、自分がすべて引き受けて、それを抱えていきていくことしか個人にはできないんだ、ってことを。まぁ、これは死が間近にある(=人類滅亡をかけた最終戦争中)であるという前提を置いたファンタジーなのではあるけれども・・・。

そして、このSSが良くできているのは、白銀武が見出した「個人の希望(=スミカを守ること)」と「全体の目的(=人類を守ること)」というもののバランスが確固とした基礎として、武の人格の基礎にあること。だから、どれだけオリジナルにしても、アフターストーリーが確固として成り立つ(逆に言うと、「そこ」から発展しない、変化しないのは、やはりオリジナルではないんだけれどもねー)。そしてこういうことができる人間は、もちろん物語的ご都合主義ではあるとしても、やはり英雄としての風格を感じさせるし、マリアをはじめとして、ハーレムとは言わないけれども、沢山の周りの女の子に惚れられちゃっても、これはまったくもって納得できる。だからこれはハーレムメーカーではない。なぜかっていうと、男である僕が見ても惚れるもの、これ。これは理想の指揮官であり、理想の「その背中を追いかけた人」なんだもの。女性に特別にとかいうこともなければ、女の子が次々好きになる理由・根拠が分からないってことも全然ない。根拠は、わかりすぎるほどわかる。ミクロの悩みをギリギリまで考え抜いて、ミクロを心から愛しながらも、全体のために、目的のために、それを天秤にかけること・・・・。

あっ、ちなみに、「全体や目的のために個を犠牲にできること」というのはダメだと思う。というのは、それは、全体主義だから。全体と個は、どっちが優先されてもいけないものなんだと思う。けれども、僕らの生きる世界には「現実」というものがある。その両方をほしい!ということができない状況に往々にして追い込まれることが多い。悲しいことに。両方を満足させる選択肢が、いつもあるとは限らないんだ。。。。その時に、ちゃんと、「決断=(全体を生かしつつ個も救うギリギリの努力と、目の前モノで最良の結果を引き寄せる)」出来て、その「結果責任」をすべて引き受けることが・・・・大人になることなんだと思う。

こういう「覚悟」を持った人間が、大きな責任を引き受けた時に、「たくさんの人を指揮できる指導力」という物を持つんだと思う。なぜならば、彼は部下や大切なモノを絶対裏切らない。絶対に粗末にしない。けれども、全体の目的も見失わない。もし、そのどっちかしか生かせない状況が来たら、最良の選択として、「その死」や「その決断」が、最も効率的で意義あるように生かすこと・・・・。うーん、、、こう書くと、凄く極端に聞こえるなぁ。。。実際には、これが「戦争をしている」または「人類の滅亡がかかっている」という前提があるからこそ許容されるファンタジーでもあるんだけれどもね。この設定から、「死が間近にあること」という前提を抜いたら、やはり「決断」をすることには、さまざまな前提がついてしまうもの。このへんが、平和とは言わないが、人類の滅亡にギリギリ迫られていない、現代ってのは、難しい時代だなーと思う。

まぁとにかく、このSSはとんでもなく楽しかったです。とにかくねーーーーなんちゅーか、安定している物語だった。桜花作戦を勝利に導いた、天才衛士の英雄物語。言葉通りの「人類の救世主」。逆に言えば、「そこ」で人格が安定してしまうのは、オルタというオリジナルではありえないことかもしれないけれどもねー。上手く表現できているかわからないけれども、、、このSSは、とんでもなく面白いんだけれども、、、構造や「伝えたいことの本質」は、オルタとまったくかわらない。まーシナリオも同じだけれどもね。ミンスクハイブへを全人類が命運をかけてつぶしにかかるのは、構造的には第二次桜花作戦なわけだから。えっと、たとえば、トータルイクリプスも凄く面白いんだけど、おもしろさっていうのならば、僕はこのSSと同じレベルくらいに感じる。けど、やっぱりさすがに違うなーと思うのは、TEは「人類を救う大義」に押しつぶされる「虐げられる人々の怨念」を描くという、はっきりとしてオリジナルの「伝えたい核」がある。このへんは、やっぱりオリジナルだなーと思う。商業やオリジナルってのは、はっきりと異なる「差別化ポイント」を出さなければいけないだけに、大変だなーと思う。いつでも、沢山の人の想像力を超えるモノを出すってのは、たいへんだもの。ましてや、これだけ設定がしっかりしていてシェアワールドが確立されると、、、。でもそういう意味では、きみいたも、きみのぞも、オルタもTEも、強烈ドカンと「伝えたいオリジナル」があるってのは、濃ゆいなーーー(苦笑)とおもうアージュ


お薦めの作品は、読んだモノでいまのところ以下。

SSのリスト
http://mai-net.ath.cx/bbs/sst/sst.php?act=list&page=7&cate=muv-luv

Muv-Luv [another&after world]
http://mai-net.ath.cx/bbs/sst/sst.php?act=search&page=1&cate=muv-luv&words=%E5%B0%8F%E6%B8%85%E6%B0%B4

やっぱり、これは、すごかったなー。


帝国の守護者

http://mai-net.ath.cx/bbs/sst/sst.php?act=search&page=1&cate=muv-luv&words=DDD

千葉のダンディズムにぐっとくる。京都防衛線の歴史の意味が、これを読んで、ほほーとうなった(そんな設定ないかもしれないが(笑))。

Muv-Luv ALTERNATIVE 〜復讐の守護者〜
http://mai-net.ath.cx/bbs/sst/sst.php?act=search&page=1&cate=muv-luv&words=%E5%BE%A9%E8%AE%90%E3%81%AE%E5%AE%88%E8%AD%B7%E8%80%85

いってみれば、アンリミテッドの続編?というか、バットエンドの美しい話。読後感は、バットエンドなのでよくはないが、なんというか美しい残酷さって感じ。

まだ読んでいないけど、これもお薦めらしい。

等身大の戦場
http://mai-net.ath.cx/bbs/sst/sst.php?act=search&page=1&cate=muv-luv&words=%E7%AD%89%E8%BA%AB%E5%A4%A7%E3%81%AE%E6%88%A6%E5%A0%B4


ちなみに、僕はまだ人から勧められない限り、ネットのSSは読まないので、、、ぜひぜひ、いろいろお薦めを教えてくれると嬉しいです。


マブラヴオルタネイティヴ DVD-ROM版 リニューアルパッケージ