『図書館戦争』 浜名孝行監督 手が届かないと思われるような「憧れ」を胸に抱えて、前へ進むこと。

図書館戦争 第一巻 [DVD]

■その思い浮かべる憧れに

本全部読んで、相当ぐっと来ているという背景があったというのもあるけれども、見て涙ぐむ。

ああっ、おれってこういうの好きなんだなーとしみじみ思う。手が届かないと思われるような「憧れ」を胸に抱えて、前へ進むこと。


「憧れ」とかこういう物語における「執着のポイント」というのは、その人本人のコンプレックスや実存の欠陥や穴の部分の代替物や補完物として愛されるものがほとんどだと僕は思う。つーか、少なくとも、僕はそう(笑)。長年の人間観察の結果も、それを覆すほどのものはほとんどない。人間は、意見と人格を離しては生きられない動物なのだ(たぶん)。


ということで、僕は、どうも「憧れる存在がない」ということが、自分の実存的な問題みたいだなー(笑)。だから郁ちゃんのような「自分の行動を支配する憧れの体験」があることに、強い憧憬があるんだろう。人よりも惚れっぽいというか、思い込みが激しい方ではあるが、「人生の過半を長く支配し続ける」物語のようなそういったモノには、ついぞ出会ったことがない。まぁ、人生は、裏切りと失望と諦めの連続だからね(苦笑)。でも、それこそが「時間の経過がある人生」ってやつなんでしょう。そういうい失意があるから、「だから憧れない!」というのは、本末転倒。


憧れをもった人生は、豊かだよ。不可能だからこそ、挑戦するのに、感動があるんじゃん。失望があるから、不可能だからこそ、そこに喜びがあるんじゃん、とかも思う今日のこの頃。それを探し続けるってのでもいいじゃん、十分豊かだよ、とかなんとか。


・・・ちなみに、「正義の味方の不可能性」のギリギリのラインを現場で描くという物語のテンプレートは、実は、就職初体験とか、なんちゅーか、シゴトを始めた新人君の成長物語という類型となぜかワンセットになることが多いことを、何となく思った。


閑話休題


ちなみに、アニメは、小説のように内面描写が、ものすごう秀逸!にはならない、外からの描写をある距離を置いてキープする作りなので、このアニメだけを見て、ぐっと環境に引き込まれるかは微妙だが、できはものすごくいいなー。諦念だよ。浜名孝行監督ってNHKの『獣の奏者 エリン(2009年)』の監督だったんですね、納得。作りの丁寧さと、内面に踏み込まない、、、叙事詩というわけではないが、距離を置いた世界の描写の仕方は、一貫している。


小説版では、笠原の内面描写によって、「憧れの思い」が進んでいくんだが、アニメ版はそれをちゃんと弾三者視点で表現できている。


この監督、とても丁寧だ、と思う。小説の「よさ」を余すところなく、キレイに演出に転嫁している。そして、それが故に、劇的に「売れる」作品には、なりにくい気がするなー。まぁ常に、ハイレベルの内容を維持してくれるので、うまい監督といえば、物凄いうまいのだが、、、、見事に原作のコアをきれいに再現するので、逆にいうと、押井守監督や今敏監督とかああいった「自分の言いたいこと以外はすべて奴隷」というようなエゴや臭みを感じないので、それはそれでアクがなさ過ぎて、平坦な印象を持ってしまう。いや能力もないのに、エゴだされても困るんだけど、これだけの演出力があるのならば、と思ってしまうのだ。でも、エゴが強い人には、こういう丁寧な再現はできないだろうなとも思う。