『織田奈の野望』について哲学さんのコメントが面白いです。

織田信奈の野望 1-4巻セット (GA文庫)

とても興味深かったので、コメント転載させてもらいます。僕とは感じ方が違うけれども、一つのテキストをメタ的に解釈する、、、まぁ「見立てる」といまは仮称していますが、それをするという意味では同じです。とても面白かった。ということで、次のラジオは出てもうしかないよね、これじゃー(笑)。でもまー僕はこのテキストから、ここまで思考を回転させることは全然なかったので、なるほどなーって思いました。ループを感じさせる要素なんか全然ないと思うけど、考えてみれば、そもそも「異世界の過去にほおりこまれる」という以上設定が前提にある以上、そう考えてもいいわけですよね。ループ構造を全く感じる「手掛かり」や「構造」がないので、僕はそうは読めなかったけれども、「無理に飛躍して読みこんじゃう」ことはあっても、それは、ありなんだよね。否定される論拠や構造「もまた」あるわけじゃないんだから。そこまで飛躍するか!と驚きですが、いわれてみると、なるほど面白い見立てだなーと思いました。

どうも、『織田信奈の野望』を勧めた手前、どういう見立てがいいのか、とそのうちコミットしようと思ってたらもう解決したようでなにより。
 ……でも、せっかくだから、私なりの解釈を!
 私はまだ最新刊を読み終わってないので五巻までの話です。


 現代人はループものを経ないと王道のハッピーエンドが受け入れられないと言ったのは誰か。それはもちろん、ペトロウニスさんですね!
 実は私なりにこの物語を楽しむ方法は、『マブラブ』と『マブラブオルタ』の関係性を利用します。
 つまり、『史実=マブラブ』、『歴史物の物語=オルタナティブ』です。


 一見、織田信奈の物語はひょいひょいハッピーエンドが続いてるように見えますが、これは何周もの歴史ループが裏で繰り返されており、豊臣秀吉が何度も何度も『まどか☆マギカ』の暁美ほむらや『紫色のクオリア』のガクちゃんみたいに歴史ループを繰り返し、ようやく辿り着いたハッピーエンドルートだと仮定すればいいのです。 


 織田信長の人生はどうしても凄惨なものになるのは確実で、それを修正するにはもう、天皇家を解体して邪馬台国が天下取って卑弥呼の末裔が姫巫女として君臨して姫武将が大量に出るようになって、織田信長も織田信奈と性別改変まで行い、秀吉自身も未来から自分のオルタナティブを呼んで託すことまでしないとトゥルーエンドの歴史へ辿り着けなかった……みたいに考えるのです。


 そもそも、歴史通りに話が進まないようにすることは第一巻の時点で分かっていたことです。元来の歴史通りであれば、信奈は実の母親の前で弟の信勝を斬り殺して魔王としての覇道を歩いていくはずでした。あそこがまず最初の分岐点。そこで、弟を殺さず、そして斎藤道三を助け、と次々と武将達の悲劇を良晴は回避しています。
 だから、第三巻以降の展開も当然だと私は思います。金ヶ崎から後がつまらない、と言われますが、あそこから比叡山焼き討ちを決行したりした時点で良晴くんにとってはバッドエンドです。いかに、史実の悲劇を回避するか、がこの物語の軸の一つだと私は思いますので。


 そして、五巻。ここで織田信奈、武田勝千代、梵天丸の三人が並ぶというのはとてもとても重要な意味を持つと私は考えます。(つづく)


Philos 2011/06/22 01:44
 軽く三人の史実による略歴を並べると以下の通り。

織田信長
 才はあるものの子供の頃から奇行が目立ち、実の母親からは疎んじられ、弟に家督を狙われていた。(むしろ、実母に命を狙われたともいえる)
 しかし、父の遺志を継ぎ、弟を下し、強大な経済圏と地勢的な幸運よりいち早く京に入り、天下統一まであと少し……と言うところで本能寺の変によって非業の死を遂げる。


武田信玄
 子供の頃から実の父に疎んじられ、父は弟に家督を譲ろうとしていた。しかし、父を国外へ追放し、戦国大名へ。
 甲斐という枯れた土地で屈強な兵を鍛え上げ、日本最強の騎馬部隊を作り上げ、さらには土木工事など公共事業にも力を入れて武力・内政共に日本屈指の戦国大名へ。
 比叡山の焼き討ちを受けて織田信長打倒へと京を目指し、三方原の戦いで徳川家康を破るも、織田信長と戦う前に病没。
 あの当時の信長の兵力を考えればかなりの確率で武田信玄が勝ち、天下を取っていたかも知れませんが、後一歩のところでそれを逃した訳です。


伊達政宗
 子供の頃に天然痘で片目が潰れてしまい、隻眼となったため、実の母に疎んじられ、母に毒殺未遂まで受ける。母は弟に家督を譲らせようとしたが、才を見抜いた父親によって家督を譲られ、苛烈な戦いにより若くして奥州を平定。
 しかし、生まれた時代が遅かった。
 その頃には既に関東より西の全てを豊臣秀吉が平定しており、天下統一まであと少し、と言うところまで来ていた。
 結果、伊達政宗は小田原攻め中の秀吉へ白装束で面会し、土下座をして許しを請う羽目に。
 もし、彼が十年早く生まれていれば破竹の勢いであの広い奥州を平定した手腕から天下を取れたかも知れなかった。



 と、ざっと私の思い入れ補正がかかってますが、こんな感じです。
 並べると、全員が


1.肉親に疎んじられ、弟に家督を取られかけた。

2.天下統一を取れたかも知れない実力がありながら、その夢を前にして破れている


 と同じ境遇を偶然にも持ってます。(まあ、戦国大名なら相続争いに巻き込まれてないところはほとんどないんですけど)
 ですが、この織田信奈の野望では、信奈は良晴のおかげで色んな悲劇を回避し、それこそ「綺麗なまま」天下人へと近づいてます。
 次に、武田信玄こと勝千代は良晴の助言を経て病や暗殺を乗り越え、三方原の戦いの後も生き残り、史実では達成できなかった美濃攻めにまで出来てます。
 そして最後に、伊達政宗こと梵天丸ちゃんは良晴の話を聞き、早々に家督を継いで奥州を平定して八九の勢いで南下を開始。これにより、「伊達政宗が成長しきる頃にはもう秀吉の天下統一が終わってた」みたいな年齢的ハンデを回避。

 これにより、史実ではありえなかった「織田信長」「武田信玄」「伊達政宗」という天下をとる実力を持つ三巨頭がぶつかり合うというドリームマッチの舞台が作られた訳です。
 私的には史実の「次」が来そうでとても楽しいんですね。

Philos 2011/06/22 01:56
 史実の「次」と言う点では、5巻の美濃の戦いも熱い。史実では死んでたはずの山本勘助上杉謙信に破られた「キツツキ戦法」をさらに改良して必勝の策として挑んできた。あの時、山本勘助は史実の壁を打ち破り、その先へ行こうとしてたと思います。


 しかし、それを打ち破ったのが「親子の絆」というのがまたいいんですよね。 
 実はこの物語、史実で悲劇を回避したことで一番の役得は「斎藤道三」ですね。
 私が斎藤道三がとても好きなのですごく補正がかかってるのもあると思うんですけど、この話における斎藤道三がとても好きです。
 第一巻では、信奈に美濃を譲ると宣言したために実の息子に殺されるはずでした。しかし、良晴によってそれは回避されました。
 その後の彼は、信奈という可愛い後継者を得てよい老後を送っています。実の息子とは得られなかった、「親子の幸せ」を彼は感じられたと思います。それゆえに、二巻で「義父の城」とするのは実にいいエピソードだと思います。


 そして、三巻では、かつての想い人松永秀久と共に信奈を補佐する立場になり、そして五巻――ついには実の息子とすら和解出来てます。
 史実では、自分を殺すはずの息子とです。


 そして、今まで述べたほとんどの事象に主人公良晴くんが関わっており、彼はあらゆる悲劇を回避して、ひたすらトゥルーエンドへと走ってるんだなぁ……と思うと哲学さんとしては胸が熱くなる訳です。
 ……まあ、史実とフィクションを並べてその違いで勝手に熱くなってるだけとも言えるのですが。


 ペトロニウスさんも以前、アンパンマンを見てたら苦痛で仕方なかったけれど、やがて一周して「こいつはこんなにも頑張ってるんだ」と泣けるようになったと聞きます。
 良晴くんも、彼のマンガみたいな馬鹿馬鹿しいご都合展開の連続の裏には、史実から続く数千、数万回のループを経てやっとこのルートへ辿り着き、なんとか本能寺の変を回避できそうな感じかなぁ〜? と思ったら楽しめないでしょうか?


 ……と、哲学さんは思うのでした。