先進国の持つ病〜社会が成熟していくと失われるモチヴェーションー希望がなくても頑張れるか?

アメリカにきて、いろいろな人とあったのだが、特に、大学に留学に来ている若い世代の話は、あまりにみんな、僕の意見と同じモノだったので、ビックリした。


それは、モチヴェーションの喪失だ。


日本社会の少子化にともない国内マーケットサイズの縮小が、あらゆる希望を奪っている。それは、未来が再生産されない社会だからだ。また、人口構成が逆ピラミッド型になるがゆえに、高齢化世代の既得権益維持が、若者世代への重い税負担になるにも関わらず、世代間ギャップを裏付ける外部環境が違いすぎる為に、世代間の相互理解が非常に難しい。これによって、社会の共同体の絆が崩壊していく。特に、それは共同体の基礎である家庭で先鋭化する。また逆ピラミッド型人口構成は、基本的に、若年層の失業問題に直結する。これを、移民で解決すれば、基本的には、社会はネオナチなどに代表される右翼的な問題を構造的に抱えるようになる。またもう一つの選択肢である女性の社会進出の増進は、同時に、古き形の家庭共同体の喪失、男性の持つ社会的権力から権力シフトが起こるがゆえに、社会アノミーなどが頻発する。これがある程度、安定化しても、教育にかかる費用の増加により少子化傾向も決定的になる。またこれに関連しているけれども、第二次グローバル化が進展して行けば、新興国市場に巨大な中間層が形成されて行くために、そこが主軸の市場となり、そのレベルへほとんどの仕事は賃金レベルが収斂して行く現象が起き、それはすなわち、先進国の中間層の衰弱解体へとむかっていく。



国内市場とそこに参画する中間所得層の成熟化は、先進国社会から必然的に、成長の活力を喪失させる構造を抱え込ませるということが、最近よく分かって来た。



このことによるもっとも大きな問題は、社会の再生産、持続可能性に疑問を感じるイメージが広範囲に共有されることによる、未来への絶望だ。ようは、サスティナビリティがないという感覚だ。村上龍村上春樹らが言っていたホープレスとは、僕にはこのことを指すのではないかと、最近思っている。決して日本社会特有なことではない、と思う。なぜならば、ヨーロッパ社会は、既に100年近くこの問題に苦しんでいるのだから。日本が特有だとすれば、超高齢化社会の到来の早さ、規模の大きさ、また経済成長と成熟化の期間が、欧米社会に比べると比較的短期間に集中したことだろう。それがゆえに、悩みというか社会的アノミーの激しさは、濃度が濃くなっている。この問題は、成長と、停滞、成熟の落差の問題だからだ。



311の大地震で、希望がもどって来たような言説が現れたのは、もちろん短期的には、災害がもたらす物理的条件が世代など断絶したあらゆる層に平等に経験されたため、公共性が復活したような連帯感を感じられたためだろう。これは大規模災害ではありがちな事であって、本当の意味で連帯、社会の絆が戻って来たわけではない。僕は、逆にこの国の宗教的共同体のなさなど、絆の脆弱さが、凄まじく露わになった気がする。災害時のモノは、所詮、短期的なモノであるのだから。ただし、この規模な物理的現実が共有される事による経験の共有は、強い連帯、絆のコアになる可能性があり、その代替不可能性は、固有性となる可能性は高い。代替可能ではない経験の共有とは、共同体の始まりであり家族の始まりですからね。それゆえに、この経験に、希望が復活したような可能性を沢山の人が感じるのだろう。



しかしながら、先進国が持つ縮退、衰弱していく市場、逆三角形の人口構成、世代間ギャップの短期間での拡大によるモチヴェーション喪失、リベラリズムの追求による代替可能性による絆の崩壊などなどの、構造的現象自体は、そもそもなくなったわけではない。それは、先進国が行き着く等しく構造的で回避の難しい問題だ。



僕は、日本人だし、日本でずっと住んでいるので、自分の体験としてこの時代の変遷を感じ、考え、分析して来たのだが、なかなかビックリしたのは、考えてみれば当たり前なのかもしれないが、全ての先進国で起きている構造的な現象だったんだな、というのが今回のアメリカの長期出張で実感した事なんだ。数ヶ月住んでた、というのは大きなことで、そもそも、僕は、わけのわからないルートでどんどん友達が増える変な人なので、どんどんいろいろな人と話しているうちに、ああ、この希望がない、という感覚は、先進国特有の共有されたモノなのだな、と実感しました。というのは、話す人、話す人、この話やテーマって、凄い食いつきでなんだもん(苦笑)。ああ、みんな悩みは同じなのね、と思ってしまった。ボーリングフォーコロンバインなどの映画を見て、地球上の大都市に生きる人々の実存は、みんな同じなんだ、と前々から言っていただが、思想的な位置づけや、いろいろな物語や経験から類推に近いことでいっていただけで、まさに見て来たり聞いて来たりしたことでは、なかったんだけど、今回は、あまりに共感されるし(苦笑)話が盛り上がるので、ああ、これはみんなそうなんだな、と実感しました。スイス人、ドイツ人、韓国人などなど、特に先進国からの留学生は、みんな同じことでやっぱり、悩んでたしねー。

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ちなみに、あるアフリカンアメリカンの女性と話していた時に、明確にこのホープレスな状況に対して、回答とまではいかないですが、なんひどい時代なんだ!という嘆き以外の意見を聞いたんですが、それが興味深かった。



それは、


「そもそも、未来がないなんて、アフリカンアメリカンにとっては、ずっと数百年そうだったんだよ。奴隷制度があって、なくなっても強烈な差別が残っていて、とアメリカはもの凄い酷い国だったけど、ここ30年ぐらいで、本当に変わった。だって、弁護士や、大学の教授や、医者、、、まあなんでもいいんだけれども、社会の主要な職業にたくさん黒人を見るようになった。挙げ句の果てに、大統領まで黒人だよ。いま、全世界で最も黒人にとって素晴らしい国はどこかと聞かれたら、黒人の誰もがアメリカだぜ!と答えるね。他のどこの国に、黒人がそんなに自由がある国がある?。けど、こういう未来は、地道な、それこそホープなんか全くない環境の中で、一歩一歩歩いて来たことによって成し遂げられている。希望がないから頑張れないなんて、そんなのはおかしいんだよ」


と。

これは、素晴らしい答えの一つだと感心しました。

The Audacity of Hope: Thoughts on Reclaiming the American Dream (Vintage)
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