2011年 物語三昧ベスト マンガ部門

第1位:『恋愛ラボ』 宮原るり著  

恋愛ラボ 1 (まんがタイムコミックス)恋愛ラボ 2 (まんがタイムコミックス)恋愛ラボ 3 (まんがタイムコミックス)恋愛ラボ 4 (まんがタイムコミックス)恋愛ラボ 5 (まんがタイムコミックス)恋愛ラボ(6) (まんがタイムコミックス)

けいおん』系のいいかえれば、日常系、空気系、無菌系の系列に連なるであろう4コマ漫画。であるにもかかわらず、物語が動き出し、男女の恋愛漫画になりつつある本作品のエネルギーは、今年1年を振り返っても記憶に最も刻まれて、かつ今後が楽しみな作品となった。時代は、ゆるやかに安定した輝きに満ちた「日常」に定着しつつあり(昔は非日常の反動だったが今はその反動もなくなった)、ああ時代なんだな、という気がする。とにかく5人の女子高生のかわいさには、思い出しただけで、胸がときめく。『けいおん』や『らきすた』には、ヲタクの男性の視点がどうしても張り付いていると思うが、本作品はその文脈から完璧に離れているどころが僕には新しく、そして本道に戻った気がする。むしろ女の子にお薦め。あーもう、最近、読むたびにドキドキして眠れません(笑)。水波風南さんの典型的少女漫画『今日恋をはじめます』を読んでいて思ったんだけど、世界って分断されているなー思います。なんというか、現代社会では、人間って自分が属している時間や空間、所属で、本当に見えている世界が異なってしまう。一部非日常を求めて宇宙開発や戦争、ビジネスを求めて生きている人もいれば、日常にどっぷりつかって「そこ」だけで生きている人もいる。そして、少なくとも、現代の最先端の国家において、その生き方には優劣はなくなっているのだ。。。。とか、なに難しいこと言っているんだろうおれ?(てへ)。もう6巻で、リコがかわいくて、かわいくて、もだえ苦しんでいるだけです。脳に虫が湧いている感じです。僕も女子高生に戻りたいです(←いやもどったら、男子高校生だろう(苦笑))。
 

第1位:『センゴク外伝 桶狭間戦記』 宮下英樹
センゴク外伝桶狭間戦記(1) (KCデラックス)

ひたすら自己の「読み」の文脈で、これほど自分の内的世界を豊かにしてくれた漫画は久しぶりであった。そういう意味では圧倒的な作品。戦国時代そして織田信長の時代が、どんなものであったのか?ということへの理解の進み具合が、コペルニクス的とも言えるくらい深まった。神様に感謝を!と叫びたいくらい楽しかった。日本の歴史を理解する上で、要となるほど理解が進んだ。2012年はおかげで、おかげで、ついに源頼朝鎌倉幕府まで進める。それにしても、今川義元あれほど、凄い男だったとは、、、、戦国大名の「大名」たる存在の凄さをまざまざを実感する物語だ。そして、戦国時代最強であり戦国時代の帰結であった今川義元という存在を、偶然とは言わずとも、打ち破ってしまった織田信長の「時代から使命が与えられてしまった!」というその後の切迫は、このことを理解しなければわからなかったと思う。歴史は「つながり」だ。一局面だけ見ていては、本当に分からないのだ、と思う。ラジオでもLD教授としゃべったのだが、織田一族が、なぜ尾張の凄く小さい家でありながら巨大な今川と対立する存在感を放っていたのかは、織田三代をさかのぼり、あの地域のあった金融と海運の商業ネットワークを支配していたということ抜きにも語れない。これが、「土地」を基本とするこれまでの世界のコンセプトにコペルニクス的転回をもたらしている。そんなことが、ビシバシわかる作品だった。今川を倒した!ということが、どれほど大きなプレッシャーとして若き織田信長の心に重くのしかかり、その後のリミッターを外していったかは、これを見るとよくよくわかります。はじめて、織田信長という人の心象風景に迫れたような気がします。


第2位:『オールラウンダー廻』 遠藤浩輝

オールラウンダー廻(5) (イブニングKC)

鉄風』『自殺島』『東京トイボックス』どれも同じ現代的同時代的文脈(=この動機のない不毛な都市社会で、熱く生きるということはどういうことか?)の傑作で、どれがここに入ってもよかったが、最も売りにくい形式で表現していることにおいて、この評価。そこは斬新。あと、遠藤さん好き!。2011年の漫画は豊作であったので、意識的にメジャー作品と過去の評価作品は外してあるが、その中でも、とびきり深い存在感を持つ作品。絶望が前提となって突き抜けているキャラクターたちの心象風景の安定度合いは、抜群。絶望を日常で生きている若者の振る舞いに注目。いま最も現代的な作品。そして『EDEN』で、マクロの「小難しいこと」を書ききれたのか、こちらの作品では、作者のコメディ的な世界とのバランスの良さが随所に出ていて、読んでいて楽しい。絶望を突き抜けた日常は、ようは「普通の日常」なので、楽しいのですよ。だって、生きていることそのものは楽しいんだもの。前に記事でも書いたが、北野武監督の『キッズリタ−ン』と合わせてみると、日本社会の若者の構造的な絶望が感じられて、いろいろ考えるところがある。でも、もしかしたら、日本の大都市の問題点の「突き抜け」は、大阪にあるのかもな、、、とか、キッズリターンや橋本市長の誕生を見て思う。ちなみに、これらの作品は完全に文脈読み、なので、いくつか記事を書いているので、僕の文脈にシンクロしたい人は、最新は↓以下なので、読んでみてください。感想とか何か似た文脈のお薦めまっております。

自殺島』 森恒二著 バトルロワイヤルの果てには、新たな秩序が待っているだけ〜その先は?
http://d.hatena.ne.jp/Gaius_Petronius/20110601/p7


鉄風 1 (アフタヌーンKC)自殺島 1 (ジェッツコミックス)東京トイボックス 1 新装版 (バーズコミックス)EDEN(17) (アフタヌーンKC)キッズ・リターン [DVD]



第3位:『水の森』 小林有吾著 

水の森(1) (KCデラックス)

こと文脈ぬきで、ひたすら「物語の力だけで」今年ダントツの評価。文脈を無視した面白さ、物語のレベルの高さでは、間違いなく1位。僕は号泣しました。僕の「読み」の文脈がつながらない(=要は好みじゃない)ので、絶対読み返さないであろうにもかかわらず、圧倒的なレベルの高さを感じるんだから、大したもんだ。こういうキレイゴトを追求する話は、意外につまらないところに着地しがちなのに、これはうまかったなー。特に、ラストの「死」に関するエピソードは斬新だった。あれは、相当の数の物語読みの僕にも、めずらしくオリジナルを見た!と思った。

第3位:『星を継ぐもの』星野 之宣 J・P・ホーガン

星を継ぐもの 1 (ビッグ コミックス〔スペシャル〕)星を継ぐもの 2 (ビッグ コミックス〔スペシャル〕)星を継ぐもの (創元SF文庫)

映像で見れる日が来るなんて!!!


第4位:『1/11』 中村尚儁著

1/11 じゅういちぶんのいち 1 (ジャンプコミックス)1/11 じゅういちぶんのいち 2 (ジャンプコミックス)

1巻だけであったら、1位にあげようか悩んだ作品。まだ続きがあって、これだけ完成度が高いと、続きをどう「展開」させるかに悩むので、それを待っている感じです。これも『水の森』と並んで泣ける作品。1巻で号泣しました。新川直司さんの『さよならフットボール』とかサッカーのいい物語に多くであったなー2011年。僕は、大切なものを貫く思い、というものに感動を覚えるたちのようです。

さよならフットボール(1) (KCデラックス)



第4位:『軍靴のバルツァー』 中島三千恒

軍靴のバルツァー 1 (BUNCH COMICS)軍靴のバルツァー 2 (BUNCH COMICS)

19世紀のプロイセンをベースに、近代国家が、近代の軍が、形成されていく様を描くというポイントだけで、非常に売りにくいので応援。でもバンチはこういう野心作を書き切らせてくれるので、、、と思っていたら、虚無の欲望が求める革命と無政府主義への希求のドラマトゥルギーがベースになりそうなこと、男装の麗人(笑)がでてくるなど、とっても頑張ってくれちゃって、これ、マジで期待になってきました。そもそも設定やマクロのレベルでの、目の付けどころがオリジナルで秀逸なので、物語ることができたら、素晴らしい作品になることは確実です。そして、多分ん、これはいける!。



第5位:『銀の匙』 荒川弘

銀の匙 Silver Spoon 1 (少年サンデーコミックス)銀の匙 Silver Spoon 2 (少年サンデーコミックス)


文脈的には、非常にオーソドックスで取り立てて取り上げる必要もないような青春物語、、、にもかかわらずその圧倒的なレベルの高さで読ませてくれてひきこむ作者の天才性に感心。これも今の時点だけで考えると、本当は、第1位なんだけど、テーマが面白くないので、番外にしてもいいんだけど、あまりに面白すぎて下げれなかった。ゆうきまさみさんの『じゃじゃ馬グルーミンUP』と同じく、10−20年たっても普遍的に読める、かつ人気も消えない凄い作品になりそうです。


第6位:『将国のアルタイル』 カトウコトノ
将国のアルタイル(9) (シリウスコミックス)

現代的ファンタジーの結晶のような作品。『小説家になろう』のサイトのコアである自己の欲望充足に忠実な主観記述の系統と似ているが、主人公の動機設定を読者の感情移入しやすいヘタレに設定することで、「物語が動かなくなってしまう(笑)」という問題があるのだが、マクロが全く理解できていない主人公が、巻を重ねるごとに、マクロを理解して学んで(=思い出して?)いくのが、なぜだか見事なビルドゥングスロマンになっちゃっている不思議な作品。ただ単に初期の設定の失敗であるはずが…。7巻ぐらいまで行くと、王道のビルドゥングスロマン・ファンタジーに変わっていく。そこまで行くと安心して読めます。その変わり身の凄さが、注目。



第6位:『ちょっと江戸まで』 津田雅美著 


ちょっと江戸まで 6 (花とゆめCOMICS)eensy-weensyモンスター 1 (花とゆめCOMICS)

2011年に6巻完結。『彼氏彼女の事情』を書きあげた作者の熟年の技が光る作品。今年の選評には、過去に上げた作品は極力排す、という前提があるのですが、それでもこれは上げておきたい。津田雅美ワールドの本質と粋が詰まった宝石のような作品です。『eensy-weensy モンスター』に並ぶ珠玉の作品です。ほぼ現代の江戸時代?という時代考証や設定無視なんですが、物語世界というのは、こういう風に構築できるもんなんだなーと感心する。おとぎ話が作られているを間近で見るような作品。



第7位:『まおゆう魔王勇者 「この我のものとなれ、勇者よ」「断る!」』石田 あきら, 橙乃 ままれ

まおゆう魔王勇者 「この我のものとなれ、勇者よ」「断る!」 (1) (角川コミックスエース)まおゆう魔王勇者 「この我のものとなれ、勇者よ」「断る!」 (2) (角川コミックス・エース 264-5)


まおゆうの脚本自体は、超ウルトラレベルの物語なんですが、概念が多いし、セリフ回しで進めるものなので、漫画化がどこまでできるか?と思っていたのですが、これは凄く丁寧でうまい。絵柄も僕のとても好み。エロすぎない清楚な雰囲気が、逆にエロいというのが僕の主観(笑)。小説出版のコンセプトが、10年先にも図書館の片隅にある、というものだそうですが、このマンガも、同じ匂いを感じます。たぶん、10年後に、子供に読ませたい、ととても思うもの。『獣の奏者』なんかと似た位置づけだなー。



第8位:『海街diary  帰れない ふたり』 吉田秋生著 

海街diary 4 (flowers コミックス)海街diary 1 蝉時雨のやむ頃海街diary 2 (フラワーコミックス)海街diary 3 陽のあたる坂道 (フラワーコミックス)ラヴァーズ・キス (小学館文庫)


過去の上げた作品は上げないのルールを破るほど、今年の感動が大きかったので、やはり。『BANANA FISH』『YASHA』の昔から、喪失感を描いたダイナミックな物語では定評のある作者ですが、『カリフォルニア物語』など日常を描いても同じテイストで淡々と描きながら、「同じもの」を感じさせる希有な物語作家です。あれだけ破天荒なダイナミックな物語と、この現代日本の鎌倉の日常が地続きに、とても「つながっている」ような印象を受けることが僕には感動します。世界は、そのようなんだ、と思い。ああ、そうそう「これ」だけ読んでいる人がいたら、もったいないですよ。吉田さんの過去の『櫻の園』『BANANA FISH』『YASHA』など全部読んだ果てにここに来ると、凄い感動がありますよ。

Banana fish (1) (小学館文庫)YASHA (1) (小学館文庫)櫻の園 白泉社文庫河よりも長くゆるやかに (小学館文庫)



第8位:『進撃の巨人』 諌山創著 

進撃の巨人(6) (講談社コミックス)

作者は、マブラブオルタの大ファンらしいですが、らしく、似た構造を備えていてマルチ展開やショートストーリをしやすい構造になっています。実際映画化もされるようですし。けど、本質である「根本の物語の太さ」までちゃんと同じなんだから、それは作者の才能ですよね。SF作品としては、マブラブオルタに似て、きっと結論は陳腐なものと予想されるんですが、物語の本質は、そこにはなく、その過程での人類の絶望と奮い立たせるような有機愛国心なんだよね。ああ、この人は、きっとこの物語を描き切るな、人気がどうなっても、と思わせる5−6巻の展開に感心した。作者は本物です。

マブラヴ オルタネイティヴ(全年齢版)


第9位:『女王の花』 和泉かねよし

女王の花 1 (フラワーコミックス)女王の花 2 (フラワーコミックス)女王の花 3 (フラワーコミックス)女王の花 4 (フラワーコミックス)


久しぶりに少女漫画でこういうダイナミックにドラマトゥルギーが展開しそうな物語を見つけたので、ほくほく。たぶんポジション的にマイナーに位置しそうなので、応援。少女小説や漫画には、時々こういうマクロとミクロを包括しそうな作品が出るんだよね。まぁ流血女神伝クラスまで行くと驚愕ものだけど、あそこまで行かなくても、この系統はいい物語になる。楽しみ。

第9位:『青空エール』 河原和音

青空エール 8 (マーガレットコミックス)

少女マンガ部門をつくれば、ほぼトップに来てしまうだろう、傑作。「成長することのヒリヒリ感」をここまで逼迫感、切迫感を持って描ける作家は、たぶん物語を描く全体を見回してもそうはいない。そのボルテージ最高潮の最前線、という感じ。いや読んでいてつらい。けど、そのつらさに、鮮烈な勇気と清涼感がある。『獣の奏者』の感想で、世界が人に厳しいです、というのがあったが、それと同じ。生きることのつらさが、厳しさが、これでもかと詰め込まれている。けど、全体としてとても勇気づけられてエネルギーが湧くのは、「それでも前へ向き歩く!」ということが、結局は人生には必要だし、人間として格好いい姿だからなんだろうと思う。。。。ちなみに、やっぱり前向きにポジティヴに生きていくには、多少馬鹿で盲目的でないと、ダメだな、と思う今日この頃。変に頭がいいと、世界を斜に構えて、前へ進めない。少女漫画というのは、本当に幅が広い。『今日恋を始めます』『青空エール』『女王の花』『花咲ける青少年』とかが同時並行であるんだからさ。


第10位:『今日恋をはじめます』 水波風南

今日、恋をはじめます 13 (フラワーコミックス)

まったくダメ系統の少女漫画なんだが(苦笑)、その妄想エネルギーの強さに、すっかり虜というか、頭を染められてしまった。さすがの少女漫画、大王道の作品。たぶん、現代の流行の最先端にして古典的王道の作品。なんのとりえもない女の子をイケメンのいい男が好きになるという、ぶっちゃけ、そういうことないから!的な作品(←妻の言葉より)。けど、こういう欲望は、しゃーないじゃん。みんなの夢だよ。男の子だって、かわいい女の子が空から降ってくる、とか言うしょーもない妄想ばかり信じて、生きているんだもん(笑)。『恋愛ラボ』の読みの文脈とも似ているんだけど、日常を追求していく(=競争や進歩を無視する)と「自分の居場所」とか「友達」とか「恋」とかそういうことが(特に若者は)重要になるんだよね。共同体の中の狭い閉じた関係性の中での戯れ。そして、すべての人間というのは「そういう閉じた世界でのみリアルを感じて生きている」だよね。すっかり、こういう色恋の世界を忘れていましたが(僕は40台まじかの大企業の管理職です(笑))、ああ、そうだよなーと実感した作品でした。最初は「自分の立ち位置」から見て馬鹿にしてしまったのですが、数巻読んでいるうちに、感情移入が始まってきて(やっぱり漫画や物語の熱量とうまさが半端ないですもん、さすが売れてる作品)、ドキドキうるうる始まってしまって(笑)。。。。岡田斗司夫さんがいうオカマエンジンのようなものですが、僕は、栗本薫さんの影響で、BLからなんでもこいの少年時代を送ったせいか、スイッチさえ切り替えれば、ほぼなんでもいけます。雑食なので。

第10位: 『花咲ける青少年』 樹なつみ

花咲ける青少年 特別編 1 (花とゆめCOMICSスペシャル)

まさか、あの続きが見られる日が来るとは、、、、。