『王国ゲェム』 天瀬晴之著 バトルロワイヤルもの洗練された作品

王国ゲェム (1) (電撃コミックスNEXT)

評価:★★★★星4つ
(僕的主観:★★★★4つ)

まだ完結していないので、最終評価をする時じゃないのだと思うのですが、思わずかなり面白かったので。星4つです。バトルロワイヤル系列の作品で、今のところ、僕の中にこれは新しい!とか、そういう批評家的な視点での差別化を抜きにして僕の感情を揺さぶるんだぁぁ!とかいう点はありません。上記でいう、評価が僕の中では客観的なポイントで、主観は僕の感情などをあらわします。なので、ちょっとびっくりなのは、どちら側も特別にはヒットしていなくて、それでも、星4つって、僕の評価基準では物凄くめずらしいんです(なんとなく、長くブログを見てくださっている人にはわかると思います)。ということで、たぶん、この作品大好きなんだろうと思います。普通、二つの評価基準でどこかで特筆しないと、星3つレベル(=読んだら面白い=別に読まなくてもいい)なんですが、、、、。


なんで、そんなに面白いと思うかというと、バトルロワイヤル系列の作品として、この作品は1)過去の作品の構造(結果)をよく踏まえて非常にわかりやすくすっきりまとめていることと、2)生き残りが個人プレーではなくて集団戦なっているところ、それと3)やっぱり作者が物語を作るのが上手だということに尽きるんだろうと思います。そもそも、大きな文脈で読み解けるほど、バトルロワイヤル系統の物語って、日本の作品では豊穣なアーカイブがあって、かつ読者をめちゃくちゃひきつける面白さがあるんですよね。でも、だれでも作れるかというと、やっぱりそこには、才能が必要であるんだろうと思います。


この設定で、どこに物語のオチをつけても、空前絶後の凄い作品にはならないと思いますが(・・・失礼な言い方ですが・・・)、けどエンターテイメントとして最上位ランクの面白さをキープした作品になるのは間違いないと思います。読めば絶対に面白い。個人的には、ということもあって、この作品を書き切った後の、次の作品が、凄い楽しみです。この人、才能あると思うので、次は凄い作品に行くかもしれない、、、と思ったりします。僕、この人ちょっとファンになりそうかも。


えっとね、もう少し言っておくと、バトルロワイヤルものって、なんというか書くのがすごく難しいんですよ。特に、設定(=ルールの設計)と、そのルールをどうすり抜けるかの推理ゲームの構成、それに、そういった過酷な環境に置かれた時の個人の赤裸々な動機の変化、それと関連してそこに集った仲間や人間たちの関係性の変化を、わかりやすく書く!だけで、物凄い能力がいるんですよ。僕は、2巻までしか(Kindleの既刊がそこまでなので)読んでいませんが、ここまでで、たいしたもんだって思う面白さですよ。なのでみなさん、単行本を買いましょう!(笑)。



僕が定義するバトルロワイヤル系ってなんぞやって?思う人は、下記の記事がメインの記事で、あとはtagで読んでもらえれば、この系統が1980年代からの日本エンターテイメントの物語類型として、僕がどう位置づけてきたかがわかると思います。


自殺島』 森恒二著 バトルロワイヤルの果てには、新たな秩序が待っているだけ〜その先は?
http://d.hatena.ne.jp/Gaius_Petronius/20110601/p7


高見広春の『バトルロワイヤル』から森恒二の『自殺島』、竹熊健太郎『チャイルド★プラネット』 、ルール設計とそのルールをどうすり抜けるかの推理ゲーム的なテイストならば『デスノート』や『未来日記』もこの系列に含まれるでしょう。アメリカのものならば米国のライトノベルに相当する『ハンガーゲーム』ですね。映画もどんどん製作されているので、比較すると面白いですよ。あと読まれたことがないとすれば、この類型の日本的な元祖の一つも言える高見広春の『バトルロワイヤル』は、おすすめです。

バトル・ロワイアル 上  幻冬舎文庫 た 18-1 自殺島 1 (ジェッツコミックス) 未来日記(1) (角川コミックス・エース) チャイルド★プラネット 1 大厄災 (ヤングサンデーコミックス)

さて、この類型の作品には、評価ポイントは2点ぐらいあるように僕には思えて、一つは「ルール設計とそのルールをどうすり抜けるかの推理ゲーム的なテイスト」の部分と、、、、これは、ようは謎解きですね。なぜ、そんな殺し合いのゲームに巻き込まれたのか?どうやったら脱出できるのか?という部分。この辺は、その部分に偏っている『インシテミル』などがとても面白い作品です。映画も出来がいいので、どちらでもおすすめです。米国で似た感じなのは、映画の『Cube』なんかも同じ系列に感じます。

インシテミル (文春文庫) CUBE キューブ [Blu-ray] ハンガー・ゲーム [Blu-ray]

もう一つは、やはりこの類型は、動機が失われていることへの問題意識から生まれてきた文脈から、登場人物たちの動機がどう変化していくか?という部分ですね。えっとこれは少し説明を要すると思うんですが、「ルール設計とそのルールをどうすり抜けるかの推理ゲーム的なテイスト」は、うまく構築できれば、おもしろいんですが、では物語の最終的なオチやカタルシスをどこに持っていくか、と考えたときに、主人公もしくは、チームの関係性がどこに落ち着くか?とその、物語の最終的な結論、落としどころというのは一致しなければならないんです。でないと、物語がうまく終わらないので。


たとえば、バトルロワイヤルモノの元祖の一つ『Fate/StayNight』では、衛宮士郎の「すべての人を救いたい」という動機や、セイバーの「自分の王国を守りたい」などの英霊の前世の動機をどう消化していくか?ということが、この殺し合いのバトルロワイヤルの構造をどう解決するか、抜け出て行くかというゲームの謎解きとは別に大きな、物語の課題設定として設定されていました。そこが解決する、もしくはそこに物語のオチがフォーカスされて重なっていくが故に、物語が「締まる」というかちゃんと落としどころに落ちていくカタルシスが生まれるんです。

Fate/stay night [Realta Nua] PlayStation Vita the Best

なので、ここでいいたいには、「ルール設計とそのルールをどうすり抜けるかの推理ゲーム的なテイスト」の部分と、「主人公たちの心の中にある動機の変化をどうカタルシスまでつなげるか」は別物だよ、ということを意識ていないと、なかなか終わらせるのが難しくなるということです。また、主人公たちの心の変化のテーマは、時代性に凄く依存するテーマ(要は時代にあっていないと人気が出ない)なので、そこが考え抜かれて伏線を張って描こうとしないと、「物語を収束する」ことが難しくなってしまいます。もう一つの魅力である推理ゲームの場合、「強さのインフレ」的な、もっと難しい謎解きをという形でマニアックに進んで飽きられてしまうのがよくある流れなので、あまりそちら側にシフトするともったいないのです。


まっとはいえ、重要なのは、この王国ゲェムという仕組みがなぜ生まれたのか?とっていう根本の部分をどう設定しているかですね。どの道こういうのは、非常に超常的なことなわけだけれども、このバトルロワイヤルの仕組みが生まれたこと、その解決が、、、主人公たちの成長=ビルドゥングスロマン(逆成長で、解放になる場合でも良し)に重なって結びつかないと、物語は終わりません。そこをどう見せてくれるかは、作者の人間性と物語の脚本構成の技術なので、「そこ」がどうなるかが楽しみです。逆に「そこ」がダメならば、ただ単にアイディアの面白かった作品で終わってしまうんですけれどもね・・・・。


とはいえ、できれば完結した後にいっきに見たい作品ではあります。続きが気になって、しんどいタイプなので(笑)。


ちなみに、この系統の作品をなるべく紹介したので、ここに上げているのはどれも超一流の洗練された作品ばかりなので、文脈や「群で楽しむ」ことを念頭に、一気に読んでみことなどをお勧めします。映画やゲームや漫画など、メディアもばらけてあるので、一気に見るといろいろインスパイアされると思うし、何よりもこのテイストが好きならばすべて凄い面白いですよ。

王国ゲェム (2) (電撃コミックスNEXT)