『SING/シング(英題:Sing)』(2016 USA)監督ガース・ジェニングス  物語を見るよりは音楽を聴く映画なのだが、それを邪魔しないスムーズな脚本は見事

Sing (Blu-ray + DVD + Digital HD)

評価:★★★★4つ
(僕的主観:★★★★4つ)

素晴らしくよかった。歌のオーディション形式で、さまざまな洋楽(アメリカの歌謡曲が多い)がでてくるので、洋楽をたくさん知っている人であると、あの曲が!というような連想と懐メロの懐かしさなど、面白さが何倍も跳ね上がる。ミュージカルではないが、アメリカの楽曲を楽しむ、という構成の映画なので、知らないと本質的にはもったいない。しかし、英語版と吹替え版を、交互に見れたら、とても子供の教育というか、音楽体験には素晴らしいと思う。DVD買って、家で子供に見せると思う。吹替え版があると、英語の歌も日本語に吹き替えて翻訳されたものも、両方楽しめて二倍おいしいといつも思う。決して、英語のだけが本物だ!とは思わない。素晴らしい楽曲だった『アナと雪の女王』のLet it goは、松たか子の日本語の歌の方がオリジナルよりはるかに情感があってよかったと思っている。



ユニバーサルの子会社で、3Dアニメを作るイルミネーション・エンターテインメント(Illumination Entertainment)がつくっているのですが、『ペット/The Secret Life of Pets』『ミニオンズ/Minions』『怪盗グルーのミニオン危機一発/Despicable Me 2』などで有名で、子供には大人気でしたので、僕はほとんど興味なかったのですが、子供を連れていったらこれが大ヒットでした。



★5。主人公である劇場主のコアラのバスター・ムーンが好きになりきれなかったんで★4ですが、それはほとんど評価に影響を与えるものではない傑作です。脚本の整合性は、嫌な奴である彼が、すべてに失敗して自分を捨て去ったところから立ち上がるというところにドラマが設定されているので、嫌な奴じゃなきゃいけないんですしね。アメリカンアイドルのような、オーディション形式なので、様々な自分の居場所がない、自己実現できないといった不遇を抱えている各キャラクターたちが、自分自身を見出していく成長物語になっているのだが、それぞれの個々の思いを示現できる「場」が劇場であって、バスター・ムーン(コアラ)の自己実現は自分を押し出すことではなく、個々の多様なクリエイターに場所を提供するのだと気づくことで、成功を取り戻していくという脚本。おのおのの見せ場を見せながら、全体としてのハーモニーを保っている見事な脚本。それぞれの歌の見せ場とドラマがあるので、軸が失われてしまいやすい脚本になりそうなところを、バスタームーンの劇場の意味と価値を見出していくところに軸を置いたシンプルさは、見事でした。安心して見れるし、子供でもよくわかるシンプルな筋書きです。


個人的なツボとして、この物語の見どころは、コアラのバスター・ムーンが、劇場のすべてを失って、車の洗濯屋をはじめるところ。彼は、劇場を父親の援助で立ち上げているが、その父親は、洗濯屋でコツコツ金をためて息子の夢を手助けした人なので、もう一度、振出しに戻ったのだ。これが、大笑いで、海水パンツに水中眼鏡で、自分の体に石鹸をぬって、車に飛びついて体で泳ぐように洗う。全身モップ(笑)。何もそこまで落ちなくても、という落ちっぷり。超印象的なのか、3歳の娘も、コアラが泳いでるやつ!と終わった後、ご機嫌にしゃべっていたので、大人だけでなく子供が見ても、あのウルトラ変わりようは、大うけみたいです。なのですが、感心したのは、友人で金持ちの子供エディ(ヒツジ)が、それにつき合っているところ。いっしょにやっている。大金持ちのボンボンで、無職のニートくんで、たぶん働いたこともないようなやつが、バスター・ムーンにつきあっているのだ。これ、なんか僕はぐっと来た。それと、ああ、中身もないのに自信過剰でごまかしてばかりのコアラは嫌な奴にみえるけど、こういうときに付き合ってくれる友達がいるんだ、とじーんとした。エディとの付き合いは、依存関係に見えるけれども、少なくとも社会的ステイタスの上下で動くようなものじゃないんだ、というのがよくわかって、ああ、そういう友達がいるやつなんだ、と感心したもの。


人間の本質は、落ちぶれた時、ダメになった時に出る。その時に、どういうふるまいをするか、どいう仲間がいるかで、その人自身が生きてきた人生がわかる。In the end, we are our choices.(つまるところ、我々自身は、それまでの選択の総体なのだ)by Jeffrey Preston Bezosなのだ。なるほど、最後の最後で、自分ではなく、みんなの歌う場を作りたいと「思える」ようなやつなんだ、というのがこれで、スッとわかった感じがしたからだ。人間、どん底に落ちないと本質は見えないし、本当に自分のふるまいの変化は訪れないものなんだよね。


個々のキャラクターたちのドラマは、ぜひとも作品で見てもらえばいいと思う。


Secret Life of Pets (Blu-ray + DVD + Digital HD)