『ジャッキー/ファーストレディ 最後の使命(英題:Jackie)』(2016 USA)Pablo Larraín監督 キャメロットという夢の日々〜理想主義は結局、何ももたらさない不安がある

Jackie [Blu-ray]

評価:★★★★4つ
(僕的主観:★★★★4つ)


■物語としては面白くないが、映画の完成度は高い


一言でいうと、物語として面白くない。しかし、映画としての完成度は高い。

第35代アメリカ合衆国大統領ジョン・フィッツジェラルドケネディ、いわゆるJFKの業績を知らないと、さっぱりわからないようにできている。ファーストレディを務めていた時期と1963年のテキサス州ダラスで夫のジョン・F・ケネディが暗殺された以降のジャクリーン・ケネディを描いている。この映画は、JFKが暗殺された直後のジャクリーン・ケネディ・オナシス(ケネディ夫人)の、夫の死を間近で見て、華やかさの頂点にあるファーストレディーからいきなりその地位を追われ、心が半分壊れながらも、その最後の瞬間に彼女が、夫の業績をいか偉大に残すかにこだわり腐心したかを、記者のインタヴュー形式で振り返るという心理ドラマになっている。とても格調高く、背景の説明をバッサリ切った、思い切りのいい作品であり、いい映画だとは思う。フォーカスした部分の演出は、際立って成功しているからだ。ただ、JFKの神話という大きな幹をばっさり説明をせず、当然わかっているという前提のもとに、彼女の妻のジャクリーンにフォーカスしているため、「そこ」に知識がないと、なぜ彼女が半分壊れながらも、夫を偉大にするための儀式にこだわったか、なぜキャメロットというアーサー王の宮殿にホワイトハウスの日々を呼ぶのか、そしてなによりも、彼女がそうせざるを得なかった動機が、大きな視点でわからなくなってしまう。なので、格調高い映画ではあるが、物語としては、あまり人気が出ないマイナーな作品になるのではないかなと思う。「これ以前」が描かれなくて、前提にしてしまっているので、それではこの作品単体で、なにを言っているのかがわからない。ただし、この難解というか、半分壊れた女性の緊迫した演技を演じきった、ナタリーポートマンは、素晴らしかったと思う。


キャメロットという夢の日々〜理想主義は結局実際の実績を何ももたらさない不安がある

この物語を見ている最中に、ずっと、小野不由美さんの十二国記シリーズの『華胥の幽夢』の華胥華朶の短編を思い出していました。この作品は、僕の山ほどの小説を読んだ中でも強烈に忘れられない印象を残していまだ夢にまで見る作品で、理想主義というもの、若者の目指す夢というものが、どれだけ現実を直視できず、社会にとって罪悪であるかを、これでもかとせつなく描き上げたものです。しかし、彼らは年をとっても、そのキラキラとした夢を懐かしみます。今の全共闘世代のように、昔は良かったと懐かしむんです。この過去を憧憬で仰ぎ見たり、理想主義の出発点や動機の華々しい部分だけを見て、その後の実績と現実に裏切る場面を切り離してみることは、どれだけ醜く、悲しく、哀れなことかを、人間の、特に理想主義に燃えた人々の悪意癖です。しかし、その理想主義の動機を否定していいわけでもない。なのでせつないんです。この話は。

華胥の幽夢 十二国記 (講談社文庫)

なぜこれを思い出したかというと、弟のロバート・ケネディが作中で叫ぶように、自分たちは何もなさなかった、公民権運動も、宇宙計画も、すべてはジョンソン大統領に手柄になるといっているように、JFKの神話は、結局のところ、実際に何を成したか?という歴史視点で考えると、ほぼ何もしていないに等しく、唯一のキューバ危機の回避も、自分がキューバにきつく出すぎたせいのリアクションでマッチポンプなのではないかという批判が絶えない。このことを考えると、理想主義的でいまだアメリカにとても人気のあるケネディの最も大きな特徴は何かと問えば、実は、理想主義が現実に裏切られる前に暗殺されたので、現実に理想が負ける瞬間を見なかっただけだ、と歴史的な評価では言われているものもある。僕も、詳しくないので、この映画をきっかけにケネディの時代をもう一度追ってみたいな、と思うのですが、たしかに、この後のLyndon Baines Johnson(ジョンソン大統領)の方が、公民権運動、もともとニューディーラーであったことから国内失業率の減少と、国内には高い業績をもたらしています。すべてはケネディの課題だといわれればそうですが、それを成し遂げるに十分な素質と実行力があったのも確かで、ケネディにそれがあったかどうかは、わからないからです。それが試される前に、すべてが終わってしまった。あとはできることは、伝説を、伝説として印象づける印象操作しかありません。そして、歴史がつくられるとき、そういった印象操作、それを詐欺でもウソでも捏造でもいいですが、そういったところで、それを大衆が望み、多くの人に拡散していく中で選び取られていくことが、その出発点を盛る行為が本当にダメだと言い切れるのか、は難しいところだろうと思います。アメリカの人々にたくさんのものを与えてくれたキャメロットに、非常に批判的な姿勢の記者は、価値があったものだと肯定態度をとっています。


そういうせつなさを全編に感じる映画でした。ずっとジャッキーに寄り添っている弟のロバーケネディも、この後、暗殺されます。ここで父の意味の死がわからない、幼い息子は、飛行機事故で亡くなります。ケネディ一族の神話は、この後、悲しさに包まれていくことになります。


アーリントン墓地のケネディの墓にいったのですが、なぜ奥さんが、子供が一緒に埋葬されているかわからなかったし、なぜあそこなのか?がわからなかったのですが、映画を見て、なるほどと唸りました。あのシーンなども、ワシントンDCのアーリントン墓地に行きなれていないと、わからないかもしれませんね。

この映画を見ていて、なんどもジャッキーが、キャロラインに呼びかけるシーンがあります。日本人としては、つい最近まで、キャロライン・ケネディは、駐日大使で様々な場面で顔が認識できる人でした。ノラネコさんのおっしゃる通り、地続き感が凄く印象的でした。それと、アメリカでは、ファーストレディの位置づけは、選挙で選ばれたわけでもないのに公的な注目度は高くなってしまうため、、長く論争があり、それぞれの大統領夫人の様々な業績で、今日の姿がありうます。特に、エレノア・ルーズベルトや、ナンシー・レーガンヒラリー・クリントン、そしてミッシェル・オバマと様々なタイプの夫人がこのポジションにあり、人生を戦ってきた流れが、アメリカにはあります。特に、ヒラリー・クリントンは、もう一人の大統領といってもいい手腕で、かつ実際にその後NYの上院議員になり、国務長官として辣腕をふるい、ついには敗れはしたものの大本命の大統領候補として、2016年の選挙をトランプさん45代大統領と闘っています。それから考えると、首相夫人が、このように注目されたのは、初めてで、安倍さんの奥様の昭恵夫人の行動は、いい悪いの評価は別に、米国型のファーストレディが一つの形として注目されつつある時代の反映なんだろうと思う。僕は私人公人論争はよく知らないのだが、その国の最高権力者の奥さんが、トロフィー・ワイフ的な形、専業主婦的な家庭を守っているだけという形を超えて、そのポジションで何を為すかが、問われるのは一つの時代の流れだろうと思う。そういう意味で、歴代ファーストレディの在り方はとても興味深いと思った。まだ日本では、見ぬ形ですから。これから現れるものになるでしょう。


ちなみに、ケネディ大統領関係の映画で有名なのはオリバーストーン監督の『JFK』やロジャー・ドナルドソン監督の『13DAYS』、ピーター・ランデズマン監督『パークランド ケネディ暗殺、真実の4日間』ですかね。

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それと、このドラマかな!なんといっても。


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