『ブレイキング・バッド(Breaking Bad)』シーズン1-2 USA 2008-2013 Vince Gilligan監督  みんな自分の居場所を守るためにがんばっているだけなのに 

ソフトシェル ブレイキング・バッド シーズン1 BOX(3枚組) [DVD]


評価:★★★★★5つ
(僕的主観:★★★★★5つ)

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2019年の目標は、アメリカのドラマやバラエティをいろいろ見ること。ということで、1月からスタートダッシュをかけてて、シーズン3の真ん中まで来ているところ。

はじめは、痛快なマフィアの映画とかのイメージで見てたんだけれども、全く違うめちゃくちゃダークなシリアスな物語。正直言って、最初の数話で、見るのがしんどくなるくらい、心が折れたんだけど、、、、それでもやめられない味わい深い魅力にあふれた物語。このペースに入れば、シーズン5は、すぐ消費できると思う。ネタバレというほどでもないけど、物語は、ウォルター・ホワイト(ブライアン・クランストン)という化学教師が、肺がんにかかるところからはじまる。妻のスカイラーは妊娠しており、長男のフリンことウォルタージュニアは、脳性麻痺で松葉杖で生活しており、、、、もし自分が死んでしまったら、家族はどうなってしまうのか、と追い詰められます。大きな病気というのは、幸いなことに僕も僕の身内では経験がないのだが、それなりに生きていると、大病で苦しみ、若くして死んでいく、悲劇はそれなりに見ている。感情移入のシンパシーの問題だと思うが、すべての貧病苦というのの本質は「なんで私が」という偶発性であって、その人がそうなる根拠など、なってしまえば、どうでもいいことになってしまう。言い換えれば、いつ何時、自分自身に降りかかるかわからないものだ。感受性の問題だと思うのですが、僕は、怖くて夜寝れなくなりましたよ。すべての人生の意味や目標、未来、希望が一瞬にしてふさがれるわけで、、、、。ウォルターは、本当に普通の人で、特に強く何かを主張する人でもなく、どちらかというと積極的で社交的で強気な奥さんに尻に敷かれながら、いろいろなものはあっても、ぐっと我慢して、それなりに幸せに、穏やかに生きていくはずだった。。。。。。

けど、もう治療を受けるのも、無理なんですよね。ほとんど。アメリカでは、先進医療は、異様な金額になります。また、よい保険に入っていなければ、いざ病気になった時に、もうどうしようもなくなる。普通の治療を受けているだけで、たぶんこの家は破産してしまうでしょう。奥さんは、何とかならないか、生きるようにあがいて、頑張って治療をしてほしいとウォルターに迫りますが、そうでなくても自分の死後に破産して、碌な人生が遅れない可能性が高い家族に、これ以上治療の借金を残せない、、、と苦しみます。この辺りの大病してしまうと、破産して、本人も、残された家族も、地獄に落ちるのと同等の貧困層に転落してしまうリスクが、中産階級の普通の生活している人にさえ常にリスクとして隠れているアメリカの構造を実感しないと、なぜいきなりこんなにウォルターが追いつめられるのかはわからないでしょう。マイケルムーア監督のドキュメンタリー映画の『シッコ』などを補助線おすすめします。ちなみに、アメリカにの保険制度を知れば知るほど、日本やフランスの公的保険が、いかに良くできているのかと驚きます。さすがに、アメリカの医療保険をめぐる構造は、ひどすぎると思います。「これ」一点で、アメリカが成長しているから、日本を出てアメリカに移民したりすべきだ!みたいな能天気な議論は、単純には成り立たないと僕は思いますよ。これ、全然貧乏人とか貧困層の話じゃないですから。それなりの中産階級でも、即日ホームレス、破産に叩き込まれて生活できなくなるリスクが常にあるんですから。だからグローバリズムの負け組のラストベルトの中年白人男性層が、死亡率が劇的に上がって(確か先進国中へ平均寿命が下がっているのなんてここだけだったはず)、トランプさんを支持して政権が誕生しちゃうのも、この背景の切実な苦しさ、今目の前にある貧困をみないとだめなんですよ。総論としては、オバマさんや過去の民主党医療保険改革の理想はみんな認めていると思うのですが、しかし、実際は共和党との妥協の中で、医療険はオバマケアのせいでめちゃあがって、さらに生活は苦しくなっているのが実感で、本音のところでは、オバマケアのせいで生活がさらにひどくなったと、凄まじい恨みと不満を持っている層が厚くいるように僕はとても、周りの友人の話を聞いていて思います。理想は否定できなくとも、それで実際の生活がめちゃくちゃ悪くなれば、本音で人は、そんなの許容できないものだともいます。寛容さは、経済のパイの拡大があってはじめてなんだ、としみじみ思います。


シッコ(字幕版)



マイケル・ムーア最新作「シッコ」予告編(日本語)-SiCKO Trailer(JPN)



「自分で一度も自分自身の決断をしたことがない。一度は、自分自身に関することを決断したい。」


みたいなことを、癌の治療をあきらめるのはなぜか、と家族に問われたときにウォルターが答えます。僕、これにはグッときました。これ、ウォルターの人となりを見ていればすごいわかります。この人は、ベースいい人で、ちよっぴり常に自己主張を弱くして「少しだけ」ゆずってしまう人なんだろうと思います。それの方が、うまく回るし、それでいいじゃないか、と思って生きてきた。たぶん、何もなければ、それなりに悪くない人生だと思いながら、生きていたでしょう。でも、実際は、そのせいで、いろいろ損をして損をして、才能あふれる、ノーベル賞に貢献するような優秀な科学者だったのに、アルバカーキの化学の教師になって、ちょっと病気をすれば、貧困に叩き込まれるぐらいになってしまっている。僕は、こんな押しが弱い性格のウォルターが、スカイラーのような押しが強い、社交的な人と結婚した理由、愛している理由が、まだ全然わかりません。どう考えても相性悪いように思えるんですよ。スカイラー自体が、いやな人だったりするわけではないですが、、、、まだ、正直言って、シーズン3の真ん中まででは、なぜスカイラーと結婚したのか、なぜ大企業になる会社の設立メンバーから離れたのか、母親との関係が疎遠なのはなぜか、とかがわかりません。彼の人生の「悪い方へのシフト」は、その大学時代のころからであり、たぶん結婚にまつわるいろいろ隠れている背景があるように思えるんですよね。このあと、大きな出来事が起きるから、その矛盾がどんどんどんどんドラマトゥルギーとして大きく膨れ上がってしまうけれども、きっと、こういう背景があっても、一度人生が分岐してしまうと、本当はもう戻ることがないのでしょう。


だから、最後ぐらいは、自分で決断して治療をやめる。そして、せめて借金を、家族に残したくない、と思ったんでしょう。彼が死ねば、丸く収まるのですから。けど、奥さんのスカイラーは、それを容赦なく攻め立てます。「なぜ治療を受けるという意思を見せないのか?」と。これもね、わかるんですよ。奥さんとしては、死を目前にあきらめてしまう夫のことが、許せないというか、悲しいと思うのは。でも、これ、見ていると、余りのコミュニケーションの相性の悪さ、本音でつながっていない、ずれを感じて、ぼくには、いたたまれなかった。決して、どちらも悪い人でもないし、お互いを思いやっていないわけでもないのに、、、、癌などという大きな出来事がなければ、きっと、それなりに普通の日常が過ぎていったはずなのに。


追い詰められに、追い詰められたウォルターは、メス(メタンフェタミン)という麻薬の製造に、手を染めることになります。もちろん、家族に借家を残さないため、奥さんが「生きる希望をもって、高額治療を受けてほしい!」という意思に応えるためです。これ、ウォルターは、自分がメンバーの一部というか、自分が設立したに等しい会社の社長になった大富豪になっている友人と、かつてのたぶん恋人である、その妻に、お金を借りるのが嫌だったんですね。ここのプライドが、夫婦間のすれ違いを大きくしている。でも、これは、そもそも論として、まだ僕はそこまで見ていないですが、この「こじれ」がなければ、きっとスカイラーとは結婚してなかったんじゃないかなと思うんですよ。もし素直になって、本音で語るには、「そこ」まで戻らなければならない。それは、残された時間が少なく、しかも、大きな子供がいるほど長い結婚生活を重ねてきた二人には、もう無理だったんだろうと思います。これ、この程度の過去の隠れた嘘は、ウォルターとスカイラーの20年近くになる結婚生活の実績をからすれば、何も関係のない「過去のこと」だったんだろうと思います。はじまりにウソがあっても、重ねてきた時間は、嘘じゃないのだから。。。。でも、肺がんと、その隠れた齟齬と、そして家族を思いやる気持ちによって麻薬製造に手を住めることで、この矛盾は膨れ上がっていきます。


見ていて、、、、胸が痛かった。だって、誰もが悪くない、、、、というか、誰もが少しづつ悪いのが重なって重なって、ただ幸せに、誠実に頑張ろうとして、どんどん最悪の方向へ、崖を落ちるように転がり落ちてしまう。ああ、世界って、こうだよなぁと胸が痛かったです。


まだシーズン3の途中ですが、いやは本当に面白い。



町山智浩 海外ドラマ ブレイキングバッド たまむすび