2019-3-2-【物語三昧:Vol.6】海燕とペトロニウスの少女マンガ講座-第2回 成田美名子著『CHIPHER』双子というテーマ with 海燕さん


2019-3-2-【物語三昧:Vol.6】『CHIPHER』成田美名子 with 海燕

海燕ペトロニウスの少女マンガ講座-第2回です。2019年は、遠き坂の上の雲におわすLDさんという巨人を超えるための第一歩として、彼の強くない領域で、戦おう!(=逃げ)というコンセプトで、やりはじめています。海燕さんと少女漫画の傑作をまずは紹介していくラジオをして自分たちの少女漫画好きを見直そういう戦術です。そこで、今回は、成田美名子さんの『CHIPHER』を紹介します。続編の『ALEXANDRITE』を含めると1985-1994連載。80年代のアメリカを描いている作品。読んでいないと、人生損していると思えてしまうくらいの傑作作品。ペトロニウス的には、本当の友達とはどんなものか?と考えるときに、常に、ロイとハルが友達になっていく過程を振り返るほど、人生に衝撃を与えた作品。逆を言えば、ここまでならないと、それは友達じゃないんだ!と、自分の中で割りきりが生まれた気がする(笑)。ちなみに、『ALEXANDRITE』を見て、アメリカへのあこがれが、具体的強固になった。当時大学生で、どうしても見に行きたくてコロンビア大学に旅行で見に行っている。写真も残っていて、自分の惚れ込みようにうに、驚きます。

愛蔵版 CIPHER 【電子限定カラー完全収録版】 1 (花とゆめコミックス)


ちなみに、せっかくつくったのでラジオの前提として海燕さんと用意したメモ。基礎知識をまとめているので、あげておきます。


◆作品データ的知識
前作『エイリアン通り』の大ヒット(500万部)1980-1984ちなみに、いまでは、エイリアンという言葉は、ポリティカルコレクトネスで、あまり使用しないと思う。フォーリナーかな。

サイファ』1985-1990 白泉社 LaLa 花とゆめコミックス
『ALEXANDRITE』(アレクサンドライト)1991-1994

1985-1994 ぐらいに描かれた、アメリカの物語。

エイリアン通り(ストリート) 1 (白泉社文庫)

ALEXANDRITE〈アレクサンドライト〉 1 (白泉社文庫)


・双子という文学テーマ。タッチ、エデンの東カインとアベルの聖書の話。最も近い競争相手。なりたかった自分(反対の自分)を常に比較されて見せられる恐怖。お互いの違いを知るとこで世界を知っていく。だいたい、女の子?という異性が表れて、完結している世界に日々が入る。


・『エデンの東』(East of Eden)は、1955年.監督はエリア・カザン。原作はジョン・スタインベック
エリアカザンの映画は、父親との和解がテーマ。原作のスタインベックは、複雑で、トラスク家の3世代に渡る物語。大河小説。サリーナスは、北カリフォルニアの農業で有名な街。アーティチョークとか。母親が住むモントレーは、今では観光の水族館で有名。イワシの缶詰なのの港町で、色濃く面影を残す港湾都市。少し南に、クリントイーストウッドが町長をやっていたので有名な、カーメル。北カリフォルニアの典型的な風景。

ケイレブ(キャル)・トラスク/ジェームスディーン
アーロン・トラスク:品行方正な兄
アダム・トラスク:正しい父親
アブラ・ベーコ:ヒロイン?キャルの相手役。
キャシー(双子の母親)
エデンの東』は、一卵性ではなく、二卵性の双子。キャル・トラスクとアロン・トラスクの兄弟。二人の確執の物語。前半は、アダム・トラスクとチャールズ・トラスクの兄弟。さらにその父親のサイラス・トラスクの話も描かれます。そこから延々と確執がつながっている。

エデンの東 (字幕版)

エデンの東 新訳版 (1) (ハヤカワepi文庫)


・読んだ年代(2019年との差異)
1985年スタートなので、ペトロニウスが小学生のころ。もう30年も前!。読んだのは、中学生だったとおもう(既にあと数巻で終わりというところだったはず)。なので、1989から1990くらいのところで読んでいると思う。
日本のバブル期。経済絶頂期。円が強かったころ。

サイファの普遍性のポイントってどこ?。リテラシーの高いよみ手と、自由な書き手がそろった、稀有な文学的香りのする作品。後半の苦しさは、いまのような「物語のトンネル」とでもいうべき「下げてから上げる」「あげてから落とす」という「落差」に耐えがたいといわれやすい(2019年)マーケット。受け手を想定している物語では、なかなか生まれないかも。津田雅美さんの『彼氏彼女の事情』(1996-2005)の後半の有馬編を思い出させる。

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・『タッチ』との共通性の話。

white-cake.hatenadiary.com


タッチ 1 (小学館文庫)


・成田美奈子さんの作家性。人間の二面性。『NATURAL』へ引き継がれる。

NATURAL 1 (白泉社文庫)


サイファ(ロイ・ラング)とシヴア/ジェイ(ジェイ・ラング)の過去のエピソードが素晴らしい。

・卓越した構成力。序盤から伏線が敷かれている。双子が陸上で記録を出していることなど。

・後半、恋愛要素が薄れていく。人気的にはどうだったのか?

・結局、何がいいたいのか? 「愛されたい」。「自分は特別だと思いたい」。存在の根拠を見いだせない孤独感=『涼宮ハルヒの憂鬱』あたりのテーマ? 少女漫画は男性文化にテーマ的に先行している?

・少女漫画のチャレンジが認められていた時代の話。

・アニス・マーフィが、素晴らしい女の子。双子に対する区別が、最後まで見事に一貫している。タッチの南ちゃんが、思わせぶりだったのと比較すると、見事。

・アニスの成長っぷりが、めちゃたまらない。『エイリアン通り』て(1980年12月号から1984)のヒロインの成長で、見せ方を学んだのだと思う。エイリアン通りは、舞台は1979年から1982年にかけてのロサンゼルス。シャール・イダニス・モルラロールと、川原翼(この子は、1965年生まれ!、、おれより年上だ、、、)。

エイリアン通り(ストリート) (第4巻) (白泉社文庫)


・『エデンの東』。カインとアベルの話。双子のテーマというのは、「ありえたかもしれない自分」という視点で、成田さんのあらゆる作品に出る主要なテーマ。
 アレクサンドライトのレヴァインの、霊につかれる話も?(名前確認)同じ。同じスタート地点であれば、様々に「ありえたもう一人の自分」を顧みれる。そうすると、「なぜ今の自分になったのか?」が、その反射で理解できる。
 この路線をうまく理解するには、「和也が死ななかったタッチの世界」という設定で読み込むのは、非常に正しい。


・アヴェニューaで検索すると、イーストビレッジに当たり。今はルドルフ・ジュリアーニ(1994年1月1日から2001年12月31日)までニューヨーク市長。彼のおかげで劇的にNYはとても治安が良くなっていて、地下鉄もそれほど怖くないと思う。いまでは。

BANANA FISH(1) BANANA FISH (フラワーコミックス)

・風景が細かい

サンバーナーディーノ郡(英: San Bernardino County)の表示が見える。最初に、UCLA?まで行く道は、たぶんフリーウエィの10号線だと思う。表示から見ると、サンバーナディーノやリバーサイドのあたりに住んでいたんじゃないかと思う。この辺は、内陸部で、郊外といった感じ。uclaには、10号線が込むので、車で行くには、1時間半は最低でもかかるので、ちょっと遠いかな。サンバーナディーノでも銃乱射事件がありましたねぇ。

www.bbc.com


ほんとは、パサデナとかグレンデールとか、ロスダウンタウンの北の方に住むのが郊外だったらありじゃないかなと思う。もしく思い切って南のトーランス、さらにマリブビーチの方のサウザンドオークス

そうえいば、サウザンドオークスも、銃乱射が最近あったな。

www.bbc.com

カリフォルニア州ロサンゼルス郊外のサウザンドオークスで2018年の11月7日午後11時20分ごろ(日本時間8日午後4時20分ごろ)、飲食店で銃乱射事件があり、現場に急行した警官を含む12人が犠牲になった。このほか、容疑者も現場で死亡しているのが発見された。

現場となったボーダーライン・バー・アンド・グリルには、事件当時少なくとも200人がいた。この日は学生のラインダンス・パーティーが開かれていた。

イアン・デイビッド・ロング容疑者(28)は元海兵隊員で、精神衛生上の問題を抱えていた。


サンバーナーディーノ銃乱射事件は、2015年の12月の純乱射事件で有名。障害者支援の福祉施設で17人を射殺。実行犯サイード・リズワン・ファルク(1987年6月14日 - 2015年12月2日)はパキスタンアメリカ人であり、サンバーナディーノのラシエラ高校を卒業し、卒業後は保健衛生指導員として働いていた。


・「友達」って素晴らしいというテーマ。主に、ロサンゼルスのHALとロイの話。西海岸的なのは、とてもマイノリティが主軸。日系のハルに、建築やPCを教えたのは、マーク(アフリカンアメリカン)。壁にぶつかって、何かをあきらめなければならない時、それを見舞ってくれて、アドバイスをくれるのが友達になっている・なので、「積極的に友人に介入する」姿勢は、いまの時代とは、だいぶ違う感覚かも。JBとシヴァの話が、素晴らしい。


・UCLA、コロンビア、NY大学、ジュリアード音楽院など、出てくるのはアメリカの中でも最高峰のトップエリート校。そういう意味では、輝かしい美しいアメリカしか見ていない面はある。樹なつみさんの『パッションパレード』で、中西部のド田舎での偏見や差別や、アフリカンアメリカンの絶望的な人生を深く迄えぐって、バスケットボールの話につなげるものなどと比較すると、理想的過ぎるきらいはある。


Hoop Dreams [Import anglais]

HOOP DREAMS(1994)

パッション・パレード 朱鷺色三角2 1 (白泉社文庫)


サイファとハル、ジェイクとレヴァインという友達の話。対になっている。


・『花よりも花の如く』と性善説の話。「世の中そんなに甘くない」。性善説が過ぎると、物語としてウソつけ、という感じになってしまう。サイファが、どうしようもない傑作なのは、起きた出来事がマイナス過ぎて、その後何とか生きていくには、生前説というか、いい人にならざるを得ないので、、、巨大な負債がある。なので、よい側面ばかり見ても、世界はそういうものだ、という気持ちにさせる。
花よりも花の如く 18 (花とゆめCOMICS)

http://petronius.hatenablog.com/entry/20120601/p7

ただ、一点、これはと思った点がありました。それは、この作者が、最初の第一話で選んだのが、非常にまじめな青年の主人公が痴漢に間違われて仕事を奪われかけるという話です。それは、痴漢だ、といった女性の側がどうも疑心暗鬼というか被害者妄想が強い人で、勘違いかうそを言っているという話の流れでした。結局、この女性は、ある程度回心して告訴を取り下げて、という話で終わります。・・・・が、僕は現実的に考えると、この話って邦画の周防正行監督の『それでもボクはやってない』になって、最後まで冤罪が晴れない、というのが普通だと思うのです。主人公は自分が明らかにやっていないのが(観客も)わかっているわけですが、いいかえれば、自分が悪くないにもかかわらず、人の悪意によって人生がめちゃくちゃにされるということの恐怖を描いているわけです。この場合はね。そこで、この物語は、痴漢を主張した女性が正しい心を取り戻して、ちゃんと事実を直視する勇気を持ってほしい、、、的な希望を託させるわけです。僕は、痴漢や冤罪に知見が深いわけではないので、この犯罪自体の話を言いたいわけではなくて、成田さんの話って、こういう風に「人の誠意が通じる」「きっと話せばわかってもらえる」というような非常に、合理的というか、ある種の悪意が解消されることを信じているポジティヴで前向きな意思がああって、それに主人公が悩むという話が多い。『サイファ』の時ぐらいまで、それに違和感を感じたことがなかったのですが、日本が舞台の作品を見せられると、、、、この前作である『NATURAL』でもそうだぅたのですが、何か違和感を感じるんですよね。これは僕が、世の中は底が抜けたような『どうにもならない悪意』もたくさんあって、それは「自分が生きている範囲」「自分が見通せる範囲」「物語の展開の内部」では解消されないことが多い、ということを信じている人だからだと思うんですが、そんわけないじゃん!と、嘘くさい前向きさを感じてしまうのです。きれいごとすぎる、、、と。

海燕ペトロニウスの少女マンガ講座



2019-2-4【物語三昧:Vol.3】TONO『カルバニア物語』人間らしさを失わずこの過酷な世界で生きていくこと with 海燕


カルバニア物語(17) (Charaコミックス)