『voiceful』 ナヲコ著  世界との距離が失われていると、繊細さがテーマになる

voiceful (IDコミックス 百合姫コミックス)voiceful (IDコミックス 百合姫コミックス)
ナヲコ

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評価:★★★星3つ
(僕的主観:★★★星3つ)

■評価は可もなく不可もなく・・・・でも個人的には心温まる暗い話でした(笑)


可もなく不可もなかった。百合系の繊細な感じのが読みたくて買ったので、期待通りなので。星3つだな。別に凄い完成度ってわけでもないし、テーマを深くえぐっているわけでもないので、評価はまぁ中庸。でも、絵は好きだし、なんか、もう少しエンタメに振る気持ちがあれば、いい作品かけそうだと思うなぁ。才能はあると思う。引きこもりの少女が、ネットで流れる歌を聴いて、少し元気が出て何とか外出できるようになったときに、偶然道端でその歌手に出会って・・・・見ず知らずなのに

「大好きです  幸せになってくだい・・・・・!!」


って叫ぶシーンは。とてもよかった。


あらすじはここで↓


百合姫コミックス 「voiceful」http://lilyspurity.cocolog-nifty.com/blog/cat3260357/index.html

百合佳話 [ゆり/かわ]


[漫画] voiceful (ナヲコ/百合姫コミックス)
http://cyeryl-love.at.webry.info/200605/article_64.html

マーシア×シェリル至上主義


ちなみに、百合モノというよりは、ひきこもった気持ちが前向きに変化して成長していく心の過程を描いた青春ものとかいったほうが、近い気がする。二人に恋愛感情はないし。上記のどちらの感想も、もっとLOVEがあってもよかったと言ってるしね。マリみてのどこかの書評で読んだのだけれども、百合モノってのも、いろいろレベルのグラデーションがあって、そもそも男×男にはない、繊細な仲の良さってのが少女×少女にはあって、、、それをうらやましがる気持ちが男性読者をしてまりみてのファンになさしめているのだろうという意見があって、それはなるほどと唸った覚えがある。確かに、ディープに百合になってしまうと、少し違う気がするが、あの距離感が凄く少ない親密な感じは、たしかに学園モノの少女にしかあり得ない感じがするもんなぁ。

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■世界と自分の距離


僕はよく「世界と自分の距離感が喪失している」とかいう表現をするのだけれども、まさにそれと同じセリフがあって、あーこの人よく考えているなーと感心。言葉の定義を深く説明していないが、このへんは、わかる人(=対象を客観化して、自分の心の不遇感を読み解いたことがある人ならば)にはわかるでしょう。


「世界と自分との距離をはかる練習をしていないっていうところか おねぇちゃんの功罪かね」

これは、ほとんど虐待を受けていた父親一人と姉妹で、、、姉が父親の暴力などを一身に受けていて、妹をかばっていたのだが、、事故で先に死んでしまって妹が取り残されて…という設定になっている。それで、ここでは、姉が妹を守り抜いてしまったせいで、父親の暴力からは守れたのだけれども、現実の過酷さと戦う心理的防壁を奪ってしまったということを話しているんです。だから非常に壊れやすい。依存関係は、後に引くんですよねー。バランスが悪い関係だから。



■引きこもりのビルドゥングスロマン


僕はねーこういう心が壊れそうなのをつなぎとめておいて、なんとか頑張っているという繊細さを描く物語は、微妙に嫌いじゃないというか・・・・大好き(笑)。僕自身が、そういう繊細な(=弱者の視点)を持っているということでもあるんでしょう。それは、こういう自我の鎧がない状態のでのコミュケーションは、本質が表れやすいからなんだと思う。どんなときでも、なにももっていない方が、真実により近いのだ。けど、、、もちろん、、、同時に、「この世界観」「この時間」にとどまっているのも、僕は好きではない。いま(って、07/5/31)、GiGiさんと本田透について話を進めているのだが、彼の自己回復が、、、嫁との脳内結婚(笑)によって、行われたことを考えると、、、過酷な現実と戦うためのライナスの毛布(セイフテブランケット)としての機能が、あったのではないか?という話をしているんですが・・・・

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ようは、損なわれた自己を回復するには、なんらかの聖性に逃げ込んで、自分が回復を図るヒーリングポイントを作り出して、それを足がかり現実への志向を取り戻そうというプロセスを採用しているわけで、それは有用なんじゃねぇ?って話です。その聖性は、なんであってもいいのでしょね。現実の妻でも夫でも、ボーイズラブでもエロゲーでも。・・・・話を元に戻すと、まずは自己回復へ到る物語を描くには、自己が損なわれた物語と、自己回復に出会うステージを描かなければならない。そういう意味で、こういう対幻想に閉じこもった世界を描くのは、上記で言う「自己回復に出会うステージ」の世界を描いているのだなーと思う。そして、「そこ」に留まって永遠性を志向してしまうのは、この次のステージへ向かうには、「自己が損なわれた物語」という過去に直面しなければならないので、その苦しみを描かないという選択が出てきてしまうのでしょう。この作品も、「次」への予感で終わっていますもんね、今のところ。



ただ、、、この状況は繊細で美しいですよね。



あまりに世界と距離とがバランスがなくて危うい。



でも、僕らのように、距離を適正にとるのに慣れた…仮面と役割で世界を生きる大人にとっては、こんな青臭い世界が、少し羨ましくも懐かしくもあるのです。