20年以上ハリウッドの帝王として君臨したミラマックス(知らない人はいないでしょう!映画好きなら!)ハーヴェイ・ワインスタインの性犯罪を世の中に明るみに出したもので、日本で言うと、現在のジャニー喜多川の性的虐待事件をとても連想させる。2023年のBBCのドキュメンタリー番組「Predator: The Secret Scandal of J-Pop」で表に出てきたけれども、イギリスの国民的人気司会者の「伝説の男」ジミー・サヴィルの性的虐待を、ずっと黙認していた構造はそっくり。Netflixのドキュメンタリー『ジミー・サビル:人気司会者の別の顔』がおすすめ。イギリス、日本は、加害者が死去するまでに報道に踏み切れなかった。けれども、少女への性的暴行を繰り返し、売春を斡旋していたジェフリー・エプスタインにしても、ワインスタインにしても生きているうちに告発され、名誉を奪われ、収監されている。この生きているうちに、言い換えれば権力がまだ絶頂にあり、力がある時に、問題に切り込み戦い抜き、そして社会を変えると言う意味では、さすがアメリカと思う。これは、今の時代の「大きな変化」に関わる重要なポイントであり、見るべき、追うべき価値がある話題だと思う。陰惨で、しんどい話だが、権力は放置するとこうなると言うこと、そして一度できた権力は、どんな酷いことでも平気で行い、守られてしまうことを実感できる。ぜひとも、トランプ政権誕生から、現代の2020年代までつながるミソジニーとマッチョイズムの反動と興隆にシンクロして、この報道やMetoo運動が行われていく時代のコモンセンスが変わっていく大きな波みたいなものも感じたい。
最初に書いたのですが、ミソジニーとマッチョイズムの反動がトランプ政権下に起きてくるのは、「女性を守るため」というイデオロギーが、「男性を抑圧してもいい」という二項対立になっていく過程で生まれてきているので、とてもレフトサイド、リベラルに偏っているニューヨーク・タイムズ(The New York Times)の社会正義が全目に押し出されたら、それはそれで「2020年代の空気感をとらえていない」ことになってしまうと思うんです。もちろん、2016年のトランプ大統領の就任以降、調査報道をベースとする権力監視のスタンスで経営が良くなったのだろうから、ガンガンその姿勢で描くこともできたのに、そうではにところは、マリア・シュラーダー監督がうまいなと思いました。2020年代は、この二項対立を超えて物事を見ていく時代なので。何かを見る時にはメディアのバイアスを「どのように見ていくか?と言うメディアリテラシー」が必須で、それをベースに物事を見るととても面白いです。
システマチック・レイシズムという言葉があるんですが、これって単純な「単発な差別」だけではなく、社会が構造で、この場合は産業にすらなっていて、その仕組みを正せない状態になっていることを告発するためのものです。エイヴァ・デュヴァーネイ (AvaDuVernay)監督の『13th -憲法修正第13条』(2016)や 『ボクらを見る目(When They See Us)』(2019)などがおすすめです。
先日、2023年の9月の下旬に、iphone15の発売日にSan Joseに出張に行ってきました。土日挟んでいたので、ついでにと、いってみたかったNapaのKenzo Estateに行ってきました。ワイナリーツアー、110ドル(150円換算で約16500円)ですね。ちょっとした思いつきだったんですが、とんでもなく素晴らしい経験でした。ワイン自体も素晴らしかったけれども、Napaの通常の麓のところには山ほどワイナリーが集中していて、そこもまた素晴らしく観光体験が整備されていて良いのですが、何よりもこの山の上にあるのが素晴らしかった。Napa Valley at 1,550 feet, Kenzo Estate is a pristine 3,800-acreとあるのですが、かなり山の上の方に登っていくので、なんというかValleyに来たな、葡萄を育てるのに、そりゃこれはいい土地だよなーっていうのがめちゃくちゃ実感できて。9月に行っているのですが、朝からもすでに肌寒くて、というかかなり寒かった。サンフランシスコのホテルに泊まっていたので、都市の混雑したゴミゴミしたところから一気に異郷に来た気分でした。
そろそろ力尽きたのですが、同じスポーツを題材にしていても、『ベイビーステップ』や『絢爛たるグランドセーヌ』を見ると、もう日本が全然違うステージに入っているのことが、見事に伝わってくると思うんですよね。この「落差」は感じると、すごく面白い。だからこそ大谷くんとか、そういうスポーツのスター選手が次々に現れて、しかも、決して「日本を背負う」ような自己犠牲精神で生きているわけではなくて、個人としての幸せもちゃんと感じれるような人ばかり。『ベイビーステップ』を見ていると、見事に科学的にトレーニングが展開されているし、『絢爛たるグランドセーヌ』のような東洋から西洋の芸術をするにあたってさえも、狭き門とはいえ奨学金を取得ルートが複数あって、英国の『ロイヤル・バレエ学校(The Royal Ballet School)』のスクールキャンパス編がいま展開してますが、このグローバルに才能を選抜していく多様性を問う尊ぶ仕組みが全世界に広がっている。そしてそのシステムの中に日本が位置を占めているのが、よくよく伝わってきます。もう戦前の日本のような世界では、全然ないんだな、と。だからこそ「人材の層が厚く、育成選抜がシステムになっている(社会資本になっている)」からこそ、少数のエリートが全ての責任を背負い込む使命感スタイルではなく、「個人の意志が尊重され」ている。これって、『アオアシ』とか見てても全く同じ印象を受けます。あれも高校サッカーという日本的泥臭いシステムとプロのユースによるエリート選抜システムが、「両方並存している」という日本の状況を描いていて、そりゃ世界に通用するような選手が次々に出てもおかしくないよなって思いますよ。いやは、この辺の違いを見ながら古典と比較すると、ものすごい面白いですよ。
今月(2023年9月)のアズキアライアカデミアの配信でLDさんたちと解析をしようと思い、無理やり半休とって会社抜け出して見てきた。いやはや、見事な作品だった。いつものごとく見終わったらノラネコさんのブログで復習するのだが、この監督だったんだと、驚き。『レディ・バード』(2017)や『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』(2019)の Greta Gerwig(グレタ・ガーウィグ)監督の思想性あふれるキレのある演出が、最初のシーンから鮮やか。キューブリック監督の『2001年宇宙の旅』(1968)の人類の夜明けののように、赤ちゃん人形をぶち壊し、投げつけ、蹴りつけるシーンは、少女のかわいがる人形は赤ちゃんという固定観念の中に、鮮烈に登場したファッションドールのバービー人形の衝撃の歴史が見事に描かれている。このシーンだけで、思想性は深いは、演出はかなりぶっ飛ばして指し込んでくる作品なのは、想像がつく。内容的には、ロバート・ルケティック監督の『キューティ・ブロンド』(Legally Blonde)2001を思い出すんだけれども、思想的な鋭さが、さすがのグレタ・カーウィグ監督。よくぞこの監督を、この脚本を起用したなって感心する。最近のハリウッドのセンスは、なかなかガンバっているなって気がする。『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』(The Super Mario Bros. Movie)2023もそうだったし。2023年は、素晴らしい映画の目白押しの気がする。