『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』8‐9巻 渡航著 自意識の強い人が、日本的学校空間から脱出、サバイバルする時の類型とは?

やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。9 (ガガガ文庫)


■生徒会長選だけを言うと、物語の完成度としては、『ココロコネクト』の話の方が上だと思う。

ココロコネクト』から引き続きこれも日本的な意思決定の 関連の物語類型に展開していく、 同じ類型だったということがわかった 学校空間の問題点が展開していくとどこに着地するのかということは大体同じパターンにどうもなるようだ。一色いろはの生徒会長選についてもそうだし 9巻のいろはが生徒会長になった後の 合同イベントの話についても 意思決定がなされていく現場でどのような圧力が個人にかかってくるのかということを物語のモチーフとしている点では『ココロコネクト』の 最後の話とほぼ同じだと思う。物語としての軍配は『ココロコネクト』の方に上げたいと思う。なぜならば『ココロコネクト』の方が、SF的な展開をしている分だけ物語に広がりを持たせることができたこと、また日本的意思決定の下でどのように個人が追い詰められていくかという文を表現するにあたって単純にコミュニケーションの問題と現実の世界の問題というだけではなく、SFの観点からの恐怖感というものを描くことができていて、その分、この問題の本当の厳しさ苦しさ汚さ強さというものを、如実に表すことができているからだと思う。あれだけの完成度を誇っていて、あの時期にアニメ化が継続しなかったのは、痛恨の出来事だ。無念でならない。一級のアーカイブになったのに。まぁ、単体で一つの物語類型として比較した時なので、ずっとテーマを踏破しようと継続している俺ガイルと比較するのは、おかしいのですがね。apple to apple comparisonじゃないので。とはいえ、自意識つの強い人が、日本的学校空間から脱出、サバイバルする時の類型の一つとして、生徒会と権力争いをする、もしくは生徒会選挙戦自体にうって出て権力を売る(=生徒会長になる)という物語のパターンがあることがここでは読み取れます。これ昔からあるものですね。ゆうきまさみさんの『究極超人あーる』も考えてみればそうでした。ちなみに、『究極超人あーる』は、大傑作で、たぶん日本的学校空間世界を、余すところなく書き尽くしているので、これバイブル(笑)として読み込んでおくととてもいろいろなことがわかります。必須ですね。

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■2010年代の前半から中盤は、リア充の解体作業に集中した時期

学校空間において、アンチリア充のテーマを、権力側と非権力側の二元論言分けて考えていると、最終的には、権力を奪取せよ!(既存の権力をぶち壊せ)という方向に展開するのは、ある種当然の話だ。生徒会が出てくるのも、それが権力に見えるからだ。けれども、このテーマは既に筋が悪くなっている。いや、そういう言い方はおかしいかな、、、『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』が、この筋を踏破して見せたからこそ、ああ、こういった逆転劇は、痛快な物語のドラマトゥルギーにはならないんだと、消費者が認知したんだろうと思う。ずっとこの作品は、2011年ごろからの(2010年代前半から中盤にかけて)大きなテーマの軸にあった作品だと僕は思っています。それは、アンチリア充というドラマトゥルギー。けれども、このスクールカーストの物語が、リア充側の頂点にいるはずだった葉山くんが、ヒッキーに羨ましさを感じている・・・・葉山君の背景にはまた違った孤独があってという「相手側への理解」が進むことによって、誰しも強く幸せであるとは限らないのだ、、、言い換えれば、リア充に見えたって、権力があったて、それが幸せに結びついているかは全然関係ないことが、白日の下にさらされてしまったのが、この物語でした。2010年代の前半-中盤の大きなテーマは、いまから振り返ると、リア充の解体作業だったことがわかります。そのドラマトゥルギーのコアは、アンチリア充リア充への嫉妬と攻撃であったのですが、結局それを丁寧に理解していく過程で、その方向性を踏破してしまっているのが現在だと思うのです。ヒッキーと葉山君の関係やエピソードを丁寧に追えば、この解体作業の全行程が理解できます。最前線の作品なので、奥歯にものが挟まったような、ベールに包まれたような思わせぶりな発言が多いのですが(作者がはぅきりとわかっていなかったでしょうから)、最初からこのテーマが深くインボルブされているのははっきりとわかると思います。たぶん無意識に答えもわかっていたのだろうと思います。いやはや、素晴らしい作家さんです。渡さん。結論は、簡単。二元論的に、リア充を攻撃して解体して、近づいていったところ、、、、リア充の頂点にいた葉山君の背景を知り、それが幸せでも何でもないのだ、ということがわかること。同じく、幸せを求めて苦しみ、同い年の同じ立場の人間にすぎないことがわかってしまうのだ。これは善悪二元論の果てに、悪にも悪の立場があるということを知って、竦んで動けなくなる構造と全く同じです。そこに「正しさ(=相手をぶっ殺せばいい)」がなくなると、とたんに何をしていいかわからなくなって物語がともあるのです。初期設定された動機が失われるからですね。


俺ガイルは、やはりこの時代の代表作ですね。この時期の最も大きな問題意識に、ストレートに踏み込んで、真正面から戦っている。作者は素晴らしい。そして、だらこそ、この次に出てくる問題点は、、、


続く。
(もう書きあがっているので、近日中に)


マリア様がみてる33 ハロー グッバイ (集英社コバルト文庫)


やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。8 』 渡航著 ヒッキー、それは確実に間違っているよ
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ココロコネクト ミチランダム』 庵田定夏著 伊織の心の闇を癒すには?〜肉体を通しての自己の解放への処方箋を (2)
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『コロコネクト ユメランダム』 庵田定夏著 あなたには思想がない〜Fate/staynightの衛宮士郎のキャラクター類型と同型(3)
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やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』 渡航著 (2) 青い鳥症候群の結論の回避は可能か? 理論上もっとも、救いがなかった層を救う物語はありうるのか?それは必要なのか?本当にいるのか?
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