評価:★★★☆星3つ半
(僕的主観:★★★★☆4つ半)
この巻は特筆して素晴らしい巻だった。というのが、作者が、内面をさらけ出したほうが、その順番をメタ意識を持って自覚したやつが、人生で勝つ!(ということは、恋愛でもたいてい勝つ)という定番の構造をもう自覚的に使用しているってところ。『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』の時の黒猫は、もちろん、伏見さんの作家性というか人間理解がそういうものなので、とってもメタ的な意識があって、覚悟が定まっている子でした。けれども、山田エルフちゃんは、作者自体も自覚的に設計しているよね。はっきりと。三章すばらしかった。ああ、そうだよね、人生に勝つこと、幸せになることって、こういうことを言うんだろうと思う。物語の構造上、マサムネと妹の恋愛の話なのはもうわかっているので、勝ちようがないところで、かませ犬としての構造の中で、それで告白してこの破壊力。。。読んでいて、くらっとするもん。読者ですらくらっとするのに、主人公がくらっとしないわけがない。人が、正しい順番で、リスクを取って、相手にストレートに感情をぶつける時の、破壊力が凄い伝わってくるよ。もう、胸がざわざわした(笑)。
『ベイビーステップ』 10巻 勝木光著 Baby steps to Giant strides〜自己信頼と自己放棄の関係性について
http://d.hatena.ne.jp/Gaius_Petronius/20091121/p1
これ、そのまま、昔に「どういう告白が成功するのか?」って考えた話と同じだなーと思う。そういう意味では、自分の価値観はぶれていないんだなーと思う。ああ、それにしても、この告白の章は、素晴らしかった。かわいし、漢気あふれるし、うーん、、、、完璧だよって思うよ。こういうことを即断で理解して、そして、リスクを取って素直にしゃべれる人が、人生で幸せになって、好きな人と一緒に人生をうまく歩める人なんだろうと思う。これほど自覚的には、とても難しいけれども、このメタ的な自覚さ(=何が正しいのかを構造的に読み取る視野の広さ)と、その上から目線で相手を支配せずに、自分のリスクを取って弱みを出して対等な目線で相手に自分を投げることができること、、、、。これはとても難しい。もし、これが可能だとすれば、やはりそれは、恋愛を知る前であったり、若かったり、経験がない時に、相手のことが好きで、考えて考え抜いた結論なんだろうなーと思う。だからスレちゃうと、こういう素直さは失われて、メタ視点だけが残って、、、それは賢しらで生意気で、いやな感じなってしまうんだろうと思う。素直さは、リスクをかける勇気(自分の内面をさらけ出す)だからね。
「それは知っている。・・・・・・微妙なもんだよね。物語と現実は違うってわかっちゃいるんだけど・・・・言うと負けるし、わかっていて言わずにいるとやっぱり負けるし、利用しようとしても負けるし、誰かさんみたいに天然で気づかずにいるのがベストだと思うけどもう無理だし、どうしたもんかしらコレ。・・・・・マサムネルートの難易度私だけ高くない?・・・・・ワンミスで即死するゲームやっているみたいな気分になってきたわねクフフ」
中略
好きな人にアプローチしようとしたけど恥ずかしくて誤魔化したり・・・・ついつい意地悪になっっちゃったり・・・・物語の読者みたいに俯瞰で見たらすごくかわいいけど、相手にはきっと伝わらないもの。素直になることさえできないやつが、恋愛で勝てるわけないと思うのよね。わたしは、本気を出すことさえできない臆病者どもに、負けるつもりはないの。
第三章
女に対して常に成功を収める男の武器は、美貌でもなく教育程度でもなく、ましてや社会的地位や経済力ではまったく、なくただただ言葉のつかいようにある。(「人びとのかたち」)https://t.co/zSRTmYT0EO
— 塩野七生bot (@ShionoNanamibot) 2016年9月11日
主人公に告白する時に、ぐっと一拍おいて、言葉の選び方、何を言うかの順番、結局本当に何がしたいのか?、二人がどうなりたいのか?、、、いや3人がどうなりたいのか?まで考え抜いて、するシーンは、素晴らしかった。僕は、人はこうあるべきだと思う。というか、こういう風に覚悟を持って、リスクにかける生き方が、僕はとても素晴らしいと思う。
なぜ、3人か?といえば、この主人公のマサムネくんは、家族の問題を抱えていて、既に両親ともいない。彼にとって、もちろん妹大好きっ(笑)という部分は、血もつながらないし、要は好きな子がいるということなんだけれども、それ以上に、家族の問題がある。そこにこの物語の葛藤があり、面白さがあるわけなんだけれども、既に妹は血のつながりがないということで、阻むものはない状態なんだよね。構造的には、『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』と同じなんだけれども、最初からハッピーエンドへの道を作っている。にもかかわらず、やっぱりそこは妹であり、家族であるというのは、大きな煩悶になるんだよね。それは家族として愛するということと、恋人として愛することは、違うことだからなんだろうと思う。と、いろいろまぁごちゃごちゃ悩むところへ、ドーーーんと、爆弾投下なわけですよ。
「まあ、任せておきなさい。このわたしが、あんたたち兄妹を幸せにしてあげるわ」
と(笑)。もう既に年収だって、軽々成し遂げるだけの解消もあるわけじゃない、エルフちゃんは。いやはや、これで落ちない、男の子はいないってくらいに口説き文句だったと思うよ。メタ的に観客として見ているぼくでも、たまらなかったもん。それでも、すべてをさらけ出して、自分の弱いところも見せて、リスクもすべて出して、くる姿勢は可憐でかわいいし、、、、この覚悟と気合は、圧倒的な漢気を感じるし。
うーん、、、脚本の構造的にも、面白さも、『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』と全く同じなんだけれども。本当に洗練されている。圧倒的洗練さと、、、あとなんというのだろう小説家としての円熟味を感じるよね。僕は、伏見さん大好きです。なんというか、エンターテイメントを極めているというのもあるし、同時に、にもかかわらず、キャラクターたちの心理描写が、どれも真摯だと思う。だって、誰も逃げないんだもん。聞こえない????とかいう卑怯なハーレムメイカー主人公とかが出てこない。この人の人間性だと思うんですよねぇ。
このエルフちゃんのキャラクター設計と、今回の告白の洗練さというか、考え抜かれた部分は、黒猫の頃の戦いを思い出すと、凄い進化したなぁ、、、というか成長したんだなーと、しみじみ思います。
黒猫の戦略性と比較すれば、いかにあやせが何も考えてないかがわかります(笑)。そうかーなるほど、この先が見えてないちょっと抜けているところが、逆に言うと、あやせのかわいさであり、魅力なんだなーと思ったんですが、、、ようは、それでは、このハーレムメイカー以後のヒロイン逆襲時代を経た、大戦国恋愛絵巻では、絶対に勝てないのですよ(笑)。
さてさて、このように古典的なヒロインであるあやせの行動と比較すると、黒猫の戦略性は、光ります。ただ単に、主人公・京介を攻略する意識があるだけではなく、その為に一番重要なのは、周りに自分と同じような主人公との関係性(=エピソードを)を持つ競争者が常にいることに自覚的かどうか?というポイントです。彼女は、その自覚が強い。
ああ、ここが僕は好きになったんだなー(←僕は頭のいい女の子が好きです)と思ったんですが、それだけではなくて、黒猫って、頭ではこのことに気づいて行動するんですが、そもそも恋愛は初心ですし、相当奥手のタイプなんで、自分の決断と行動に、いちいち20年前のラブコメヒロインのような反応をしてしまうんですよね。ようは、頭に比較して、経験が圧倒的に不足しているので、物凄く翻弄される。もうっ、、、黒猫とのおつきあいの始まりのシーンとか、僕はもう悶えて悶えて、黒猫が好きすぎて生きるのが苦しかったです(笑)。
僕は基本的に頭のいい子が、背伸びするんだけど経験が追いつかなくて、、というのが大好きで、、、って何言ってるんだ、おれ、、、こほん、、、しかしながら、黒猫が素晴らしいのは、そういった感情や経験不足によることにいっぱいいっぱいになりながらも、本当に大事なこと(=メタ的な戦略意識)を忘れず、意思して、決断して、行動に出るんですよね。ああ、、なんてけなげな、、、と、再度、また僕は惚れ直してしまいました。
『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』 計算通り子=絡新婦・田村麻奈美という存在が指し示すもの(笑)
http://d.hatena.ne.jp/Gaius_Petronius/20130210/p1
うん、この記事を読むと、アホみたいにメロメロですね。ぼく。どこかで全巻読みなおして、アニメも一気に見たいですね、また黒猫のかわいさに浸りたいです。
■参考記事
『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』 12巻 伏見つかさ著 あなたは恋人と友達とどっちを選ぶのか?という問いの答えを探して
http://d.hatena.ne.jp/Gaius_Petronius/20130615/p1
『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』 計算通り子=絡新婦・田村麻奈美という存在が指し示すもの(笑)
http://d.hatena.ne.jp/Gaius_Petronius/20130210/p1
『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』 7巻 バッファーが無さすぎる裸でむき出しの心で付き合うからこそ、世界は輝きを増す
http://d.hatena.ne.jp/Gaius_Petronius/20101211/p3
『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』 伏見つかさ著 嫉妬に気づけるかどうかが、正しく相手を肯定できるかどうかの瀬戸際なのかもしれない
http://d.hatena.ne.jp/Gaius_Petronius/20101120/p2
『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』 伏見つかさ著 自意識の視線〜一人称で世界を切り取る小説と神の視点で世界を構成するアニメーションの違い
http://d.hatena.ne.jp/Gaius_Petronius/20101120/p1
『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』 伏見つかさ著 経験値から学べるものと学べないもの
http://d.hatena.ne.jp/Gaius_Petronius/20101114/p3
『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』 1巻 伏見つかさ著
http://d.hatena.ne.jp/Gaius_Petronius/20090210/p8
『メイド諸君!』 きづきあきら + サトウナンキ 実存とストレートに結びつきすぎる生き方
http://ameblo.jp/petronius/entry-10019668890.html
『ココロコネクト』 庵田定夏著 自意識の病の系列の物語の変奏曲〜ここからどこまで展開できるか?
http://d.hatena.ne.jp/Gaius_Petronius/20121003/p1
『ココロコネクト』 庵田定夏著 自意識の病の系列の物語の変奏曲〜ここからどこまで展開できるか?(1)
http://d.hatena.ne.jp/Gaius_Petronius/20121003/p1
『ココロコネクト ミチランダム』 庵田定夏著 伊織の心の闇を癒すには?〜肉体を通しての自己の解放への処方箋を (2)
http://d.hatena.ne.jp/Gaius_Petronius/20121126/p1
『コロコネクト ユメランダム』 庵田定夏著 あなたには思想がない〜Fate/staynightの衛宮士郎のキャラクター類型と同型(3)
http://d.hatena.ne.jp/Gaius_Petronius/20121030/p2