さすが、とうならせられるアンドリューニコルの新作。物凄い力を持った作品だ。エンターテイメントとはいいがたいめちゃ重い作品ではあるが、できればたくさんの人に見てほしい気がする。
あらすじは、↓HPで見ればいいしたくさん書かれている思うので、一番評価したい部分の批評に集中して見ます。ちなみに、ネタばれなので、見ていない人は遠慮して、ぜひ映画を見に行ってください。
公式HP:http://www.lord-of-war.jp/index2.html
■暴力的な映画/観客の立場にいる人々への告発機能
暴力的な映画、と僕は評したい。それは、バイオレンスを描いているからではない。観客の内面をえぐり、攻撃を加える作品のこととです。
映画史上、観客に攻撃を強いる映画といえば、最も有名なのがこれ『アンダルシアの犬』。この作品は、物理的な痛みを見せることで観客に攻撃を加えたのですが、この『ロードオブウォー』は物語の感情移入という仕組みを使って、観客に暴力を振るいます。それが余りに見事であったので、さすがっとうなりました。
このような観客の内面への暴力は、よほど上手く脚本を練らないとできません。
それは、最後の最後の主人公(ニコラス・ケイジ)が、インターポールのヴァレンタイン刑事(イーサン・ホーク)についに逮捕され拘束されている部屋のシーンで起こります。
武器商人として成長し、人生を極め成功してきたウクライナからの移民ユーリー・オルロフ。
けれど、自分が売った武器で子供すら死んでいく現実を、これでもかこれでもか、と描かれていきます。彼の売る武器が、世界に死と戦争を振りまきます。
そのビジネスマンとしては輝きに満ちた人生も、実は心が死んでしまっているユーリーと、彼の良心を表現する弟のヴィタリー(ジャレッド・レト)の麻薬におぼれてボロボロになっていく姿を見れば、いかに内面をズタズタに引き裂くシゴトであるかをうかがわせます。
そして、自分の素晴らしいブルジョワな生活、宝石、絹の服、高級車が、銃という殺人の道具で贖われているという恐怖に耐え切れず、彼の妻は子供をつれて出て行きます。
これを見ている観客は、いかに武器商人が汚く、最低の職業であるかということ、そしてそれが人間の内面をボロボロにする最悪の仕事であるかを、物語の筋で主、ユーリーでも弟でも、妻でも、誰に感情移入してでも、感じるでしょう。
しかし、麻痺しているユーリーも含めて、どの登場人物に感情移入しても、
武器の販売は悪であるという前提に立つことができます。
だって、全ての人間が苦しんでいるのだから。
武器売買は悪いことなのです。ちょっぴりユーリーなどの感情移入しながら、観客は免罪符を得るのです。
こんな悪いことには、関わるべきではない!という風にね。武器売買は悪いことだ、だからみんな苦しんでいるのだ、というストーリーを受け入れれば、必然的そうなるはずです。
そして、もっと正義感づらした人は、それこそ正義の味方ヴァレンタイン刑事に感情移入するでしょう。
しかし、最期にユーリーは捕まった。
捕まったユーリーを見て、ほーら、悪は滅びるのだ、ユーリーはここでやっと罪を自覚して、この戦争ビジネスという悪夢から逃れることができるのだ、という安心を感じます。
逮捕は、解放なんですよね。もうあんな最悪のことには関わらなくていいのだから。
・・・・・・・・・・・・・・・しかし
新聞記事をまじまじと読む、ユーリー。
そのあきらめに満ちた、固まったような渇いた悲しみとも笑みとも区別がつかない表情は見事。
「僕は釈放される」
と彼は、いうのです。
それは、彼のようなフリーランスの小物は、しょせん小物ですが、もっと大物の武器商人の隠れ蓑に使われるので、証拠を出されたくなく、まだ彼をうまく使いたいその大ボスから釈放命令が出るというのです。
ヴァレンタイン刑事に対してユーリーはこういいます。
「君のもっと上の上司だよ・・・・・・・・・合衆国大統領さ。」
と。
そして、解放されてまた、死の商人を続け続ける映像に、テロップとして、
この話がほぼ実話に基づいている
ことと
世界の巨大な武器輸出国は、国連の安全保障理事国である米・露・仏・英・中の5大国
であるというメッセージが出ます。
わかりますでしょうか?
この武器輸出5大国の国民への告発なのです。
「実は、このユーリーの姿は、、、、のうのうとして釈放されて、戦争を拡大し難民や子供を殺しまくる武器を販売して儲けて、幸せな日常を営んでいるのは、、、、君たち自身なんだ!!!」
というメッセージです。
映画の文脈で感情移入していれば、このメッセージは突き刺さります。
とりわけ米国民には、きつい告発です。
ちゃんと普通に感情移入していたならば、この麻痺しながらただ関係ないといって、ビジネスをしているだけだといって世界に死を振りまき続け、、、、、その儲けで、物質的な豊かさを維持する先進国の生活者全てが、ユーリーと同じ存在だ、というのはわかるはずです。
これは、エグイ。
僕は、苦しくて、つらくなった。
これは、見事に観客への告発機能を果たしている映画です。
ただ、実は、これは日本でのみ、唯一、その罪悪感が弱くなる作品です。
なぜならば、世界の巨大経済を運営する先進国のうち、唯一、武器の輸出をマジで禁じており、それでも経済が豊かに繁栄している国が日本だからです。
まぁ、世界の最先端兵器のキーテクノロジーは、かなりメイドインジャパンが入っているので、単純にだから日本エライとはいえない。それに、日本の景気は、アメリカ市場やアジア市場に依存しており、この市場は、かなりの高い割合が兵器産業の輸出で維持されているからだ。
そういう意味では、世界の全ての映画を見れるほどの豊かな生活ができる生活者への告発です。よくこんな映画つくれたなーと感心。
ちなみに世界最大の武器輸出国であるアメリカでは、この映画への資金提供は、されなかったそうだ。さもありん。もちろん、圧力もあったのだろうな。まじで。