多様性を否定する根拠にセキュリティー(安全保障)を持ってくる議論は、これからの世界の重要な争点なると思う

この「エピソード7」では、完結編3部作におけるドラマの中心を担っていく新世代の人物が登場するのですが、それを演じる俳優陣はデイジー・リドリー(イギリスの白人女性)、ジョン・ボイエガ(イギリスのナイジェリア系男性)、オスカー・アイザックアメリカのグアテマラ系男性)、アダム・ドライバーアメリカの白人男性)と多様性(ダイバーシティ)を体現した顔ぶれになっています。

 特に中核となるリドリーとボイエガという、白人女性とアフリカ系男性という若手2人のコンビに関しては、シリーズのファンからも極めて好意的に受け入れられ、すでに現象になっているように思います。アメリカの世相として、そのことにはまったく違和感がないばかりか、むしろ自然に思える、それが2015年末の現在なのです。

 多様性ということでは、同性婚について最高裁判決で全国での権利が確定したのが遠い昔のように、すでに社会では当たり前となり反対論はどこかへ消えてしまいましたし、IT業界では女性のCEO(最高経営責任者)やCOO(最高執行責任者)が大勢活躍したり、男性の育休が拡大したりしています。FRB連邦準備制度)のトップも女性のイエレン議長になって、その権威も今回の利上げの判断で確立しています。時代はどんどん先へと進んでいるのです。



「トランプ旋風」は多様化社会に抵抗する保守層の悪あがき
2015年12月24日(木)16時45分
http://www.newsweekjapan.jp/reizei/2015/12/post-798_1.php


トランプ現象は、やはり所詮過渡期の現象に過ぎないという判断ですね。冷泉さんさんは。これが、常識的な感覚ですよね。アメリカに住んでいると、この国がどれだけ深く真剣に多様性への歩みを進めているかがわかります。その実感からすると、とてもじゃないけど、ありえないと思えるんですよね。それは僕も同感です。


とはいえ、トランプの支持率の上昇を見ていると、とても不思議な気がする。インタヴューや新聞で統計を取ると、かなりアメリカ人が(50%以上)大統領になったら恥ずかしいと、いう。しかし、イスラム教徒の入国禁止等、それをいったら政治生命を失うだろうというよう暴言を吐いても、それでも支持率の上昇は止まらない。もちろん、本命の対抗馬というか、大本命としてどうせヒラリークリントンがいるのだから、共和党はそういった、ルサンチマンのはけ口でもいいだろうというやけっぱちがあるのかもしれないのだが。


それにしても、と思う。あと、丁寧にトランプ氏の主張を聞いていると、これまでの政治家が逃げていたりする部分に、非常にクレバーに踏み込んでいる気がしてならない。たとえば、オバマ政権や民主党グローバリズムと人権介入外交が、アラブの春などを生み、結果として、中東やカダフィの独裁者がいなくなったせいで、その無政府状態に近い空隙に、ISISのようなインターナショナリズム的なものが生まれたというのは正しい分析であり、民主党の指し示す人権外交的な手法が大きな間違いを生んだのだ。世界の安定のためには、独裁者を許容すべきであったという部分。

さて、このトランプとクルーズという「右派ポピュリスト」ですが、「イスラム教徒入国禁止」とか「ISILへの絨毯爆撃をせよ」といった「暴言」ばかりでなく、大胆な中にも「考えさせられる発言」を混ぜていることを指摘しないわけにはいきません。

 例えば、軍事外交に関してですが、トランプに続いてクルーズも加わる形で、過去20年間のアメリカの「レジーム・チェンジ(政権交代)政策」をハッキリ否定し始めているということが指摘できます。

 要するに中東などの情勢に軍事的に介入する中で、「反米的な政権を交代させる」ように画策したケースのほとんどは失敗に終わっている、だから、そのような「レジーム・チェンジ」は否定すべきだというのです。

 具体的には「サダム・フセインを温存すべきだった」という論と、「ムバラクカダフィ、アサドはアメリカの国益にかなっていた」という主張です。

 重要なのは、この2つの話が組み合わさっているところです。前者だけなら「イラク戦争反対論」ということで、どちらかと言えば民主党などの反戦論に近いわけです。ところが後者の話、つまり「中東の独裁政権崩壊」に関して言えば、要するに『アラブの春』を承認した「オバマ外交」に対する強烈なパンチになるわけです。

共和党予備選で盛り上がる「政権交代外交」否定論
2015年12月22日(火)16時30分
http://www.newsweekjapan.jp/reizei/2015/12/post-797.php


また、今の米国に限らず、世界の先進国の重要争点は、多様性許容かセキュリティー強化か、という点だ。世界の潮流、基本的には多様性の拡大とそれを支えるリベラリズムという基本線は変わらないと思う。しかしながら、それとこの無差別テロリズムの時代に、どうセキュリティ(安全保障)と両立させるかの、バランスが非常に問われている時代だ。それを、多様性許容という「政治的正しさ=ポリティカルコレクトネス」のような、いいこちゃんの、道徳的な言説では、テロが起きるたびに、ポピュリズムで、この前提が揺らぐ。セキュリティ側に大きく舵を切った主張をするものが権力をじわじわ握っていくのは、僕は世界の潮流なのではないかと思う。なぜならば、それは本音だからだ。これを、追い詰められた多様性に反対する層の悪あがきと捕らえるのは、あまりに政治的怨念の持つ凄まじさを軽視した意見ではないか、と僕は思う。


ちなみに、現実論としては、共和党は、テッド・クルーズかマルコ・ルビオの一騎打ちになるんじゃないのかというのが、現在の大多数の感触じゃないでしょうかね。さてさて、どうなることやら。

共和党の「草の根」の根底に「ポピュリズム

 それともう一つ、「トランプ旋風」の本質は、いわゆる「ポピュリズム」(大衆迎合主義)です。アメリカの衰退に対する米国民の苛立ちをストレートに吐き出している。トランプの言っていることに共鳴している人たちは、総じて教育レベルの低い、しかも落ち目の産業で働くブルーカラーや零細農民が多いという分析結果が出ています。
("Here's The Lowdown On Who Supports Donald Trump," Emily Ekins, The Federalist, 8/5/2015)

 そしてもう一つは東部、西部のエスタブリッシュメントを形成するウォール・ストリートやリベラル派メディア、学者たちに対する反発です。にじみ出ているのは東部エリートや名門校出身者への反発です。そこには学歴に対する劣等感を痛いほど感じます。

 名門ペンシルバニア大学を出たトランプやプリンストン、ハーバードを出たクルーズがエバンジェリカルズや茶会の側に立っているのは、一見矛盾するようですが、実はそこがトランプやクルーズの強みです。知性でも学歴でも東部エリートに立ち向かうことができるポピュリストというわけです。

躍り出たキューバ系候補! トランプを超えるか 高濱
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/261004/122200006/