『新感染 ファイナル・エクスプレス』(2016 韓国)ヨン・サンホ監督  ゾンビ映画の大傑作

客観評価:★★★★★5つ
(僕的主観:★★★★★5つ)

ゾンビ映画の大傑作。ヨン・サンホ監督という名前は、聞いたことがなかったのだが、凄い映画でした。「新感染 ファイナル・エクスプレス」という邦題からも、あまり見ようという対象には入っていなかったのですが、評価を信じている友人が大絶賛をしていたので、見に行ったのですが、やはりの大正解。濃密な人間ドラマ。KTXという狭い空間が移動していく中でのアクション。骨太の構成。ファンドマネージャーのソグ(ユン・ユ)と娘のスアン(キム・スアン)の関係性と対立が、とても骨太で且つ繊細。とてもではないが共感できない、強欲のエゴの塊として描かれる父親のソグが、短い時間の濃密な体験を通して、観客が共感できるような娘の命を守るために自分の命を懸ける姿に変わっていくのは見事。また、結局変われなかったエゴイスティツクな男の惨めさと哀れさというか、人間としてダメなやつが辿る最低の末路は、いやはや繊細なのにキャラクター造形とドラマが骨太なのは韓国映画・ドラマの系統らしい。

超一流の大作だった。もともとはアニメーション監督らしいので、これは他の作品も見なければいけない人ですね。近年まれに見るくらいの映画として完成度の高さで、素晴らしい傑作でした。とにかくいいから見に行け!という感じです。というかもっと、宣伝しまくればよかったのに。これハリウッド並みの大作扱いにできる傑作だと思う。しかも、意外にグロさが弱く「大切な人を守る」という軸で描かれるストーリーは、まさにファミリー映画的な要素を持ったメジャー作品だと思う。

KTX(韓国高速鉄道・韓国の新幹線該当するもの)に乗り慣れている人からすると、馴染みのある風景が現れていくのと、ゾンビに埋まっていくのは、非常にテンションが上がる。KTXのルートと、韓国の地理が頭に入っていると、ソウルと釜山の中間点にある大田(テジョン)、そして釜山ということの意味がよくわかる。韓国民ならば、もしくは韓国の歴史を知っている人ならば、きっと朝鮮戦争の「釜山橋頭堡の戦い」が前提に感じるだろうと思う。突然の北朝鮮との戦争勃発で、釜山まで追い込められ、絶対絶命のところから、押し戻すという流れが、すぐ思い浮かぶはず。いいかえれば、韓国にとって、釜山は「最後の砦」の象徴であることを知っていると、全土にゾンビが発生して感染が拡大していくときに、韓国を貫くKTXに乗っている意味が深く染み入ってくる。戦線がどんどん拡大していくど真ん中を、全力疾走していくことになるわけですよ。ソウル駅でああいう状態だと、ソウルはほぼ全滅に近いはずですよね。これ、北朝鮮との戦争がはじまった時の、そのまんまのパターンですね。

何人もの友人が指摘していましたが、2016年のアニメーション『甲鉄城のカバネリ』を凄く連想させますね。ゾンビと列車という組み合わせはほとんど頭になかったのですが、こんなに親和性が高いとは。いやはや素晴らしい映画でした。

甲鉄城のカバネリ 1(第1話、第2話) [レンタル落ち]