【AzukiaraiAkademia2021年2月ラジオ】マンガのあり方は、ジャンプ黄金期の500万部を誇った紙帝国による流通支配の構造から解き放たれて、マンガ本来のポテンシャルを、全力で追及するフェースに入っている!

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マンガ・ジャンプ+俺にはこの暗がりが心地よかった+Webマンガ

一言でいうと、マンガの最大ポテンシャルが発揮されて、マンガがエンターテイメントのメインストリームに復帰する兆しを感じる!というお話。


ちなみに、最初は、ツイッターとか表現の自由アメリカの話が枕になって言うので、本題は、第二部で、約40:00過ぎたところからこの話は始まります。


2月のアズキアライアカデミアの配信は、個人的には重要な考察の回だったと思う。この数年、大きな文脈として「新世界系」の次の次世代の物語は、何か?と問うてきました。どうやら「新世界系」という文脈で物事を見る時期は、既に終わりつつあり、「結論が描かれ」「その先」の新しいものにシフトしている感触があるというのが僕らの感触でした。けど、まだ「それが何か」具体的なキーワードで、示すことができていない。すでに文脈が「変化してしまっている」感じは受けるのですが、「それ」が何かまだ明確にできていない感じです。


なのですが、この数年にわたって、次世代の物語を考えるときに、「考えるべき土台(=インフラストラクチャー」が、まったく変化して変わってしまっているよ、ということを、ずっとLDさんが指摘してきました。


これまでは断片だったので、いまいちそれが「総合的にどういうものなのか?」が分からなかったのですが、今回、ババババっと、すべてが統合された感じがします。もちろんこれは「僕の理解の仕方」なので、同じものを、LDさんも、LDさんの言葉ですべて説明しなおしているので、興味がある人は、ぜひともじょうきの2020/2013のアズキアライアカデミアの配信を聞いて勉強してください(笑)。いや、「この視点」は、頭に叩き込んでおいて、絶対損はないと思いますよ。単純に物語を楽しむだけではなく、エンターテイメント産業の今後を考えるときに、欠いてはならない視点だろうと思いますから。


結論を言ってしまえば、今時代は、「ジャンプ+」のWebマンガが重要な見るべきトレンドだということ。マンガの楽しみ方、あり方は、ジャンプ黄金期の500万部を誇った紙帝国による流通支配の構造から解き放たれて、マンガ本来のポテンシャルを、全力で追及するフェースに入っている。そのフロントランナーが、「ジャンプ+」だということ。その具体例の展開で、『彼方のアストラ』(2016-2017)『サマータムレンダ』(2017-2021)『地獄楽』(2018-2021)が、宿題に出されて、どのように新しい時代の構造が、物語に、マンガに展開しているさまを解説していきます。ああ、これを見ると、ブレイクが起きたのは、2018-2019ぐらいですね。

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LDさん的、ペトロニウス的視点では、以下になります。


面白さの最小単位(LDさんの用語)


ドラマトゥルギーのピークをどこに設定するか?(ペトロニウスの用語)


この「面白さの最小単位」の話は、LDさんがここ数年こだわっていたものです。すぐ見つけられないのですが、せっかくなんで参考に「魔女集会」の時の漫研ラジオを置いておきます。結論だけではなくて、常に重要なのは、「ものを考えた過程」と「どういう概念の組み合わせで結論に至ったのか」です。この過程を自分で作り出す力がないと、「自分が面白さを独力で感じ取る」ことができないんです。結論だけわかってもだめなんですよ。「自分で考える力」が養われないから。「自分で、自分の頭で考える」ことができるトレーニングは、自分が好きな人の思考プロセスを、すべてトレースして暗記することでしか養えません。ちなみに僕は、尊敬する評論家の中島梓さんの本を丸写しの写本とかしてましたよ中学時代に(笑)。プロセスを暗記しなければならないんですよ。2-3人やれば、自分オリジナルになるもんなんですよ。あ、これ「物語三昧」の目的が、「物語をより深く楽しむ方法」を伝えたい、考えだしたいということがあるので、それている脇道です。

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話がそれたけど、Twitterの魔女集会で会いましょうとか、LDさんが指摘していたのは、『疑似ハーレム』とかですよね。『疑似ハーレム』も、これを最初から単行本で見てしまうと、Twitterで出てきた時の「感覚の新しさ」が分かりません。ようは、Twitterの短い閲覧で、「一目見て」「ドラマの起伏と落ちが分かる」という感覚ですね。起承転結でいえば、いきなり「結」があって、その「結(落ち・ドラマのピーク・物語の一番おいしいところ)が、表現されてしまっている状態を、「面白さの最小単位」と呼んでいます。角度を変えれば、長編の物語も、「この核」を軸に、その前後の起承転結などを広げて、展開しているにすぎません。たとえば、少女漫画で仮にピークが、「告白して結ばれる」ところだとしたら、「そのラストシーン」だけを切り取るというような感覚です。

疑似ハーレム(1) (ゲッサン少年サンデーコミックス)

魔女集会も、魔女が「捨て子を拾ったら」、次のコマではすでに成長してかっこいい男の子になって、「守っていたはずの男の子に愛されて守られる」に展開している。ドラマの起伏が、ほんの数枚、下手したら一枚絵で、この共同幻想は成立しています。よく、男の子向けのHな漫画で、女子高生を拾ってHをするとか、育てるというような、ロリータ的な話の類型があるじゃないですか。あれの、逆バージョンのプリミティヴな形だと僕は思っています。『私の少年』とかのイメージですね。これを、魔女という設定にしただけで、物語の「種」というか、「何に人が萌えているか」というのか、その種、原初、コア、ドラマトゥルギーのピークがよくわかるものです。魔女集会は、検索すれば山ほど出てきますので、見てみてください。かつて中島梓が、人には、保護欲(=何かを愛し守り支配したい)と被保護欲(=何かに愛され支配されたい)が原型(物語のドラマトゥルギーのコア)にあって、それが権力で入れ替わるさまが、この世界の真実の姿というようなことをいっていたのですが、それを思い出します。

https://www.pinterest.com.au/pin/679762137497506678/


私の少年(1) (ヤングマガジンコミックス)


まぁ、この物語類型個別の話は、さておき、ここで指摘しているのは、これまでは週刊誌のような500万部も誇る「席の限られた出口」の配分によって、物語の世に出る量は限られていました。また、紙による印刷というテクノロジー上の、産業上のエコシステムの仕組みによって、一度売れてしまったものは、できるだけ長く引き伸ばして投資金額を回収するという圧力がかかりました。これが、支配的な構造だったわけですね。

集英社週刊少年ジャンプのアンケート至上主義というのは、「週刊誌自体を売る」ことと新人を育成して新陳代謝を進めるというメリットに適応しているわけです。逆に、この仕組みだ、「毎週の面白さ」に最適化してしまうので、小学館のサンデー系の長期連載系を目指す編集方針が対抗で出てきたりましました。その週刊誌をベースに、コミックスを販売するという構造ですね。LDさん的な言い方でいえば、物語のピークを10年後に持ってきてもかまわない、ということです。市場が寡占、独占状況だったからできたことですね。だから、新規の育成ができなければ、どんどん物語長期化していくことになります。一度売れたものを、ひたすら「引き延ばして売る」ということが最適解になるからです。これだど、さらに新規参入が、クリエイター側も、消費者側も、難しくなって、産業が先細ります。

この典型例が、小学館の『週刊サンデー』ですね。いろいろな理由があるのでしょうが、見ていて思うのは、「アンケート至上主義」というシステムではなくて、長期連載による物語の面白さを追求する小学館の方式は、編集者という個人の「目利き」にたよるために、成功の再現(=新人の育成)が難しいことにあるのだろうと思います。会社としては、「アンケート至上主義」集英社のほうが、属人性が低い。なので、組織として、個人を超えて、再現できる仕組みを考える癖があるのだろうと思います。どっちがいいかは簡単ではないです。だって、あだち充さんとか、高橋留美子さんとか、小学館の方式が生み出した作家の凄さってとんでもないですしね。ここで典型的な現在の作品を、田中モトユキ先生の『BE BLUES!〜青になれ〜』を挙げていますが、この方式がだめになったわけではないと思います。

とはいえ、携帯、SNS、携帯ゲーム、Youtube、ネットフリックスやHulu、アマゾンプライムなどの登場で、エンターテイメントが消費者の「限られた時間の奪い合い」になった時に、「席の限られた出口」だった週刊誌の紙媒体以外の、新しい「出口」が広範囲に出現してきたのが今のわけです。この新しい媒体(=消費者への出口)では、媒体の特徴や、それによって形成される産業のエコシステムが全然違うものになるわけです。「それに新しく適応した仕組み」を作るのが、だれか?という競争をしているのが現在なわけでだと思います。なので、システム的なアプローチをする組織のほうが、これに適応しやすいのは、自明だろうと思います。


■ジャンププラスの運営方法は、注目だよ!

そのフロントランナーが、ジャンププラスなんだよ!というお話。という文脈を考えて、以下のインタヴューを読むと、さすがーーーーとうなります。

www3.nhk.or.jp


news.infoseek.co.jp


では、その結果出てきたものはどんなものか?


で、『SPY×FAMILY』『彼方のアストラ』『地獄楽』『サマータイムレンダ』などを、見ていこうというのが、今回の配信のコアです。


■地獄楽とサマータイムレンダは、行こうぜ!
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力尽きたので、ここ以降はまた今度(笑)。


■俺にはこの暗がりが心地よかった【書籍化&コミカライズ決定しました!】
作者:星崎崑
https://ncode.syosetu.com/n7820go/

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この媒体の変化によって、出てくる物語のパターンが変わっているというこそ文脈で、サイトの「小説家になろう」を見たいものです。そして、最近の一押しが、これです。


■ベストのマンガのピークは、12巻説!

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炎の転校生』(1983-1985)全12巻-118話


『がんばれ元気』(1976-1981)全28巻


六三四の剣』(1981-1985)全24巻


ちなみに、LDさんが興味深い指摘をしています。「速度論」で、ベストのマンガの巻数は、12-13巻だ!と。その完成系は、『炎の転校生』だといっています。これも聞いたことがあったけど、まったくわかっていなかった。物語を分析するときには、12巻ぐらいがベストのピークを示せるという話なんですね。それを、倍くらい24巻ぐらいしたら、もう大大河ロマンになる。「これ以上」はやりすぎなんだろうと思います。


もっといろいろ話したこと敷衍したけど、時間がないので、このあたりの書き散らしで終わります。


今回の2月のアズキアライアカデミアは、凄い展開した回でした。