劇場版『大雪原のカイナ ほしのけんじゃ』安藤裕章監督 巨樹「軌道樹」の上に「天膜(てんまく)」に住み世界を見下ろすビジュアルの未見性だけで満足できるくらい好き


劇場版
評価:★★★★★星5つ
(僕的主観:★★★★★星5つ)  

アニメシリーズから劇場版にかけてきちっと終わっている。とにかく素晴らしく好きだった。満足。そ、そんな大事なことがなぜ伝わっていないんだ!人類(笑)と僕も、叫び出しそうになったけど、過去に何か大きな出来事があって情報が断絶したんだろうなって思う。

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アニメシリーズ
評価:★★★★★星5つ
(僕的主観:★★★★★星5つ)  

どんな作品かと言えば、エンターテイメントを追求してた頃のかつての宮崎駿の世界を弐瓶勉が描いたというノラネコさんの感想が、僕も同感。しかしかといって、オリジナル性がないわけでもない。オマージュを強烈に感じるのだが、かといってコピーやマネを感じない、見事な世界観がある。どうこれを説明すれば良いのかわからなかったけれども、最近のノラネコさんのTwitter(X)で言及している


未見性


という概念で、かなり説明できるような気がする。僕がよくSFに対して求めているのはセンスオブワンダーという言い方をするんですが、これの中身を分解していくと、「見たことがないものを見せてくれたかどうか」という部分で、これがまさに未見性というやつなんだと思います。そして、『大雪原のカイナ』で僕がぐっときたのは、巨樹「軌道樹」の上に「天膜(てんまく)」に住んで、世界を見下ろすビジュアルだと思うんですよね。風の谷をもっともっと小さくして、滅びる直前の最後の生き残りだけの村の若者のカイナが、食糧を狩るために、虫を狩り、食べるシーンから物語が始まる。もう、ここだけでノックアウトですよ。

ここで語られているように、物語のストーリーを楽しんだり、その整合性を気にしていると、未見性を楽しむというセンサーが薄れる気がするんですよね。SFのアニメーションや映画は、何よりもこの、「いままで見たことがないものを見せてくれること」ができているかどうかが、最も大きなコアの魅力だと僕も思います。評価をするのならば、物語性や、その整合性は、2番目だろうと思うんですよね。でも、これが許せないと主張する人は、なぜかネチネチいますよね。あれなんなんでしょう。僕も、どちらかというと、ストーリー性を評価しがちなので、たとえばギャレス・エドワーズ監督の『ザ・クリエイター 創造者』とかが、とても評価悪いです。でも、これもやはり「未見性」という評価軸で見ると、素晴らしい出来の作品なので、この辺りの「どの視点で自分は見る癖があるのか?」と「自分が得意ではない見方を育てたり感受性を高める」というのは、人生を楽しみため、映画を楽しむためには大事な意識だと僕は思います。僕も、初見の時に、『大雪原のカイナ ほしのけんじゃ』も『ザ・クリエイター 創造者』も、世界観の解説、説明が弱いよ!って不満を持って見ていましたし、終わったときのモヤモヤも基本そこでした。そういう意味では、典型的な日本の観客なんだろうと思います。でもこれを、未見性を体験させてくれたか?という視点で見ると、評価がガラリとかわる。ストーリーを追う分には、情報摂取なので、小さなiPadの画面で十分。しかし、SFの未見性のセンスオブワンダーを感じたいのならば、大画面の方がいいし、最終的には、映画館の方がダントツに良いだろう。この視点からは、両作品とも、かなりの水準に到達していると思う。

🔳ストーリーとしての評価

SF的には、「これだけ人口が少ない」滅びそうな村という設定から、この若者は世界の謎を知ろうと、そして家族を作るために女の子を探しに村を出るんだなとしか思えません。また、軌道まで大きな木があって、膜を張っているなんて、地球を浄化しているか、異なる星でテラフォーミングしているとしか思えません。最初の10分もしないで、この時点で、全て普通にわかるでしょう。水が軌道樹から出なくなって人類が滅びそうということは、普通に考えて、浄化プロセスかテラフォーミングが終わって、フェイズの変更しなければいけないのに、システムが狂っているとかなんとかそうとしか思えない。と考えましたが、ほぼ当たりでした。でも、この既視感のある設定だからといって、全然、このセンスオブワンダーの感動は損なわれなかったんですよね。


そして、地上から女の子が浮いて登ってくる!!!(笑)。ラピュタの逆じゃん!


構造的には、『シュナの旅』と同じだと思う。本当に宮崎駿ワールドなんですが、やっぱり素晴らしいよ。BOY MEETS GIRLって、「女の子が降ってくる」というラピュタガンダムUCで定型化したある種のご作法じゃないですか。それを、物凄い単純ですが、逆に地上から浮いて登ってくるって、素晴らしいです。「それを納得させる」世界観を作り出さなければ、ダメだからなんですよね。僕は、この最初の「軌道樹の虫の狩のシーン」と「アトランドの王女リリハが軌道樹の根元から登ってくる」シーンだけ、何度も実は見返しているんですよ。好きで好きで。


全体的に、ストーリーとして何かの新規性はないんです。とても骨太で、古典的。既知の世界観、ストーリーなんですが、これを緻密に練り上げて、それビジュアルで示す力は本当に素晴らしい。僕は大好きな作品で、これからも何度も見返すでしょう。

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