
リベラルが勝った?──表層のカタルシス
アメリカのニュースを見ていて、「リベラルが息を吹き返した」と感じた人も多いだろう。ヴァージニア州ではアビゲイル・スパンバーガーが、ニュージャージー州ではマイキー・シェリルが、それぞれ知事選で勝利。どちらも穏健派の民主党員だ。さらに、ニューヨーク市長選では、急進左派のゾーラン・マムダニが当選した。メディアは一斉に「反トランプの風が吹いた」と報じ、SNSではリベラル派の人々が安堵と興奮を交錯させた。
たしかに、ここ数年のアメリカ政治を見れば、民主党の勝利にカタルシスを覚えるのは自然だ。だが、僕の見立ては逆だ。この結果はむしろ、民主党の分裂が一段と深まった兆候だと思う。
「中道」と「急進左派」──同時に勝ったことの意味
今回の選挙結果のポイントは、勝ったのが「どちらか」ではなく、「両方」だという点だ。スパンバーガーもシェリルも、中道寄りの政策を掲げている。高騰するエネルギー価格や住宅供給など、生活の安定を重視する現実路線だ。一方で、マムダニは完全に急進左派の旗手。デジタル戦略や社会主義的な再分配政策を訴え、支持者の熱狂を集めた。
つまり、民主党は「現実主義」と「理想主義」が同時に存在し、どちらも一定の支持を得ている。だが、それは多様性ではなく、ねじれだ。党としての方向性が二重化し、どちらも譲らない。結果、選挙ごとに「民主党とは何か」という問いが再燃する。
共和党を見てみれば、事情はまるで逆だ。トランプを中心に「トランプ党」として結束し、主張も明快だ。善悪の単純化を批判することは簡単だが、少なくとも有権者にはわかりやすい。
その明快さこそ、民主党が今いちばん失っているものだと思う。

「勝利」の裏で進む、危うい静かな崩壊
この数年、民主党は「多様性」という言葉を盾に、分裂を肯定してきた。しかし、現実の選挙は理念の戦場ではなく、結束の力比べだ。
リベラル派の人々が「勝った」と感じているその瞬間、共和党はより静かに、より一枚岩になっている。今回の結果で勢いづくのは、実は民主党ではなく、トランプ共和党のほうだ。なぜなら、対立が明確であるほど、人々はわかりやすい敵と味方を求めるようになるからだ。
僕は、民主党が負けているのは政策の問題ではなく、「まとまりのなさ」だと思う。
ゾーラン・マムダニのような急進左派が当選したことは、希望であると同時に、危機の始まりでもある。
アメリカのリベラルが本当に再生するには、勝利ではなく、分裂の痛みを直視する勇気が必要だ。
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