『24-TWENTY FOUR- シーズン2』/『自壊の帝国』 佐藤優 情報分析官とは? 

24 -TWENTY FOUR- シーズン2 ハンディBOX

評価:★★★★★星5つのマスターピース
(僕的主観:★★★★★星5つ)

■スパイの動機〜情報分析官(インテリジェン・スオフィサー)とは?

インテリジェンス(諜報)という言葉を知っているでしょうか?。昨年読んで、佐藤優氏の著作『自壊する帝国』 で知った言葉なんですが、この言葉は凄く僕に影響を与えたようで、どうも、スパイやテロ防止活動や情報局というものに関する僕のイメージを一新してしまった。こういうことがあるので、人生は面白い。しかもちょうど、『24』を見て、そのイメージによる解釈でそれらの作品を見ると、より一層物語りに深く没入できて、なんといううれしいシンクロニシティなんだろう。ちなみに、佐藤優氏の『自壊する帝国』『国家の罠』の2冊、昨年2006年度読んだ中の本でも最高の本といえます。読書人の必読の書。下手な小説の数百倍は面白い上に、かつ現代日本社会を分析視したり、大きな流れで捕まえるに非常に役に立つ本。まさに必読、と僕には思える。超オススメですよ。

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評価:★★★★★星5つのマスターピース
(僕的主観:★★★★★星5つ)

外務省は、途轍(とてつ)もなく優秀な情報分析官を失った。おかげで読書界は類(たぐ)い希(まれ)なる作家を得た。退官した外交官がよく出すノー天気な自画自賛本が100冊かかっても敵(かな)わない密度の濃さと面白さ。



米原万里さんの書評 より

おもしろいだけでなく、この本によって、僕は読書体験を、より深くする契機を持った。それは、この本の体験によって、スパイの見方が変わったことだ。これまで、刑事ものやスパイものの物語や映画や伝説を聞くにつけ、どうも不思議に思っていることがあって、それは、こんな『ミッションインポッシブル』や『007シリーズ』などの華々しい活動はあまりに、空想的で「らしくない」とは思うのだけれども、それ以外のイメージがないので、いったいスパイというのは、具体的に、実際的にどういうことをしている人か?ということがよくわからなかったのだ。ところが、この『自壊の帝国』というあるチェコ語の勉強をしたかったという同志社の神学部出身の学究肌の青年が、ノンキャリア外交官となり、優秀な情報分析官として成長していくビルドゥングスロマンを物語として読むうちに、なぜある人が、スパイとなっていくのか?、スパイという人種が、どういう育ちや生まれを動機を持っている生き物か、ということがよく理解できるようになったのだ。これではじめて、インテリジェンス(=諜報活動)の意味が、よくわかるようになった。わかるというのは、具体性と実感を持って理解できる気がしている、ということだ。

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■公開情報からすべての必要なことは得られる〜諜報とは?


小室直樹の『大東亜戦争勝、こうすれば勝てた』(・・・・勝てないと思うけど(笑))の本の中で、原爆やらさまざまな画期的な科学技術や参戦の事実が、当時の公開情報(たとえばただの新聞記事)ですべてわかってしまうということが論証されていた。

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しかし、このことが、一国の意思決定に左右するには、二つのことが必要である。


①優秀な情報分析官が、外交官など駐在員として世界中に散らばっている。それらの人間が、語学など地元情報を駆使して、総合化して、ストーリーや事実の断片を作成する

②それらの情報分析官の世界中から集められる情報をフィルタリングして、

③意思決定の意味があるタイミングと形で、意思決定者に提供できる集約機関を持つ

もっと抽象化すると、




1)断片の収集


2)一次ストーリー化


3)分析センターへの集約


4)二次ストーリー化/意思決定に資する形式で


という構造に分解できる。これを考えると、いろいろなことがわかる。たとえば、なぜ総合商社が、世界中で凄まじい情報収集・分析能力を誇るのか?。外交官などの駐在員が遊び暮らして現地に居る必要性がなぜあるのか?。また、世界を支配する帝国であるイギリスとアメリカが、MI6(イギリス諜報部)やCIA(アメリカの情報部)などの情報局を持っているのか、また日本がなぜ持っていないのか?といったようなさまざまなことが分析可能になる。そんなこよわかってどうするんだ(笑)。と思う人もいるだろうが、物語を高い次元で楽しんだり、一つの物語の背後にある世界という厚みを実感するには、教養が不可欠で、、、ある特定の解釈フィルターを頭に実装させたときに、広がる世界の様相は、なんといえぬ知的エキサイティングだからです。


■情報が上層部に上げられる過程のフィルタリングという物語

このことを前提とした上で、24シーズン2を見ると、非常に興味深い。というのは、CTUという部局の連邦捜査官は、実働部隊か?といえば、どちらかというと、実行力を持った情報分析官・・・・インテリジェンスオフィサーであるという側面が強いからだ。今日の近代国家の広域犯罪を相手にする警察官には、どうしてもそういった側面が強いのだ。なぜならば、国際テロリズムでは、常に相手が国家であったり、戦争の可能性や、マーシャルロー(戒厳令)のような非常事態が前提となっているからだ。また、大統領というわかりやすい唯一の意思決定者に、『上げられてくる情報』の恣意性やさまざまな誤報を、彼らのブレインたちがどう選別して、分析しているか?そして、大統領自身が、どのようにそれを、判断しているか?というところが、分析された情報元に意思決定を行い、それが、憲法的な、理念的な拘束とどう関連付けられているかが、常時監視されるという状況の中で、試される。今日的な権力は、さまざまなモニタリングシステムでそのプロシディア(=手順)の正統性を、さまざまな局面から試され続けている。世界最大の権力者である大統領であっても例外ではない。

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組織で働いたことのある人は、部下や自分をサポートしてくれる機関を持ったときの「組織力」の強さってのを、実感したことがあるはずです。自分では考えられないようなスピードで、世界を動かしているような感じ。けど、、、「自分自身でやる」ことができないために、報告として上げられて集約する情報の真偽を見極めるという作業も同時に必要となります。これがめんどくさい。案外、情報というのは偏向が隠れていて、一見もっともらしい意見でも、様々なバイアスが隠されていることが多い。マネージメントとは、この自分で実際にやっていないことの真偽を、あげられた情報から判断するというかなり高度な技術を必要とする職務なんです。それが権力者ではひどくなる。足をひっぱるためや、異なる意思決定をさせるために偏ったり嘘の情報を流したり、報告者となる首席補佐官やブレインが実は裏切っていたり・・・・パーマー大統領はそういったコトに苦しめられますが・・・これは別に物語だけの特殊事情ではなく、組織では一般的にあることです。こうした組織内部の偏向を見抜き、管理して、適切に手を打つということも指導者・マネジメンターには常に要求されるんです。


そういう視点で、デイヴィッド・パーマー大統領が何に苦しみ、何を意思決定しているのか?、、、そしてそれはどういう根拠に基いて?ということを考えながら見ると、なかなか興味深い。



CIAやイギリス系の情報機関の情報に踊らされて、イラク大量破壊兵器がある!という大嘘(実際は様々な限定付きの情報だった)にのせられて、単独覇権主義イラク戦争に突入したブッシュ大統領を非常に思い出させます。その政策や行動の是非はさておき、どこまで情報の真偽を見極めた上での意思決定であったかは、検証されたいところですね。情報公開が、20年後くらいにあるはずなので、非常に楽しみです。さて、そういったあがってくる情報は、たとえばテロのような国家を揺るがす事件の場合、どういう風にフィルタリングされているのか、組織でもし裏切りや偏向が見つかった場合、権力者はどういった対応手段があるのか?ってのは、興味深い視点です。ぜひ、そういった視点で、シーズン2を見直すことを薦めです。



■参考記事

国家の罠〜外務省のラスプーチンと呼ばれて』国事に奔走する充実感①
http://ameblo.jp/petronius/entry-10020654061.html

『自壊する帝国』 佐藤優著  ユーラシアと東欧を通して世界の文脈を見る①
http://ameblo.jp/petronius/theme-10000395107.html

『自壊する帝国』 佐藤優著 千の天使がバスケットボールするより
http://blog.goo.ne.jp/konstanze/e/736a73b35960224cc50c93855cd2e3e4