これを同時に読むと、なるほど、と見えてくるものがある。

「正義の国」の日本人 なぜアメリカの日系人は日本が“嫌い”なのか? (アスキー新書 037)「正義の国」の日本人 なぜアメリカの日系人は日本が“嫌い”なのか? (アスキー新書 037)
安井 健一

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強制収容とアイデンティティ・シフト―日系二世・三世の「日本」と「アメリカ」強制収容とアイデンティティ・シフト―日系二世・三世の「日本」と「アメリカ」
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自壊する帝国 (新潮文庫)自壊する帝国 (新潮文庫)
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池田信夫さんのブログで、『「正義の国」の日本人 なぜアメリカの日系人は日本が“嫌い』のことが、取り上げられていて、軽く流してみたのだが、日本社会を多面的に見るためには、「日本の中から見る日本」、そして「境界にいる人から見える日本」と、「海外から見る日本」というのがあると思うんだが、それの構造がこれら作品を読んで、なんだかとてもつながった気がする。

特に日本は地政学的に、北東アジアである、朝鮮半島と中国との関係の力学抜きには語れないと思うし、さらに反対側の対岸にあるアメリカ合衆国との関係を抜きにも語れない。そういう中で、こういったインテリジェンスを扱うスパイもの?になるのかな、小説は非常に面白いと思う。特に登場人物の内面が、ここに隠れているマクロの関係性をあぶりだして興味深い。最近これら関係の本が、特に意識してはいなかったんだが、ずっと読んでいて・・・・なんとなく繋がって「目に見えなかったもの」が浮かび上がってきている気がするんだ。こういうのがテーマを持ってつながりで読む読書というやつで、ぞくぞくする。特に、最近東南、北東アジア全般に出張することが多く、そのホテルや移動時間に読んでいるというのも大きな意味があるんだろう。何事にも体験や情報接種には、背景の文脈が重要なので。


特に「内面のプロセス」がとても興味深い。それなりにマクロの政治や経済の軍事の関係はわかるのだが、結局軍事も外交も最終的に決めるのは人間であり、そこに住むトップが、組織が、人々が、内面でどう感じてどう思っているのか?って事が実感しないと、どのような意思決断がされるかが曖昧模糊となると思うんだ。そういった内面のプロセスを追うには、やっぱり直にあって友人となることと、こういった小説がとてもいいと思う。小説と事実を混同して考えるな、という注意は必要であろうが、所詮人間は本当の意味では理解し合えないので、やはり時系列として長く「内面の変化のプロセス」を追ってそれを追体験できるメディアは、小説が群を抜いていると思う。なんというのかな、一種のシュミレーションだと思うのだ。冗長ではあると思うが、僕はレポートを書く時も物事を考える時も、冗長に相手の思考プロセスを再現できるように、だらだら情報を集めて積み上げていく癖がある。いちおうミニッツは、意識すれば要約して一瞬で書けるのだが、そういうものは、情報の持つその背後にある「目に見えない網の目」みたいなものを、結局あぶりだすことはできないと思うんだよね。僕がやりたいのは、「目には見えないものを明らかする」ことと「その情報を使って意思決断をし現実を変えること」なんで、まぁビジネスなんだよね。小さいサイクルでもこれができると、ぞくぞくするんですよ。


さて日本人の僕は、日本社会の情報や日本人としての常識というものはいつもとらわれているのでよく知っているんだが(=つまり「空気(ニューマ)にどっぷり浸かっているということ)、今回特質して面白かったのは、五條瑛さん、佐々木譲さんや山崎豊子さんの小説で、アメリカの情報機関に所属する日系アメリカ人の視点というものを体験することで、一気にアメリカから日本がどう見えるのかというもので、自分の感覚が相対化されたからなんだと思います。これは、素晴らしい視点の体験で、久々に興奮しています。その原点は、なんといっても、山崎豊子さんの『二つの祖国』で、実在の人物をモデルにした日系二世のアメリカ人情報将校である天羽賢治が、日米戦争にあたって苦悩し続ける過程を小説にしているんですが、この日系のアメリカ人のアイデンティティの変遷が、かなり深く日本とアメリカとの「関係性」を明らかにするよう感じるんです。特に、アメリカに同化するために、必要以上に白人社会にこびへつらって、アメリカ人以上にアメリカ的なものへの過剰な忠誠心とコミットするチャーリー田宮と、日本人であるというアイデンティティを捨てきれなかった天羽賢治や井本梛子との対比は鮮やかで、この対比の果てが、『「正義の国」の日本人 なぜアメリカの日系人は日本が“嫌い』にいるような、日本を正義感から告発し続ける日系アメリカ人の議員ような存在になるのでしょう。


これも表の結果や機能だけ見ると、まぁ日本に住む日本人の僕からすると、なんだよこいつ?って不愉快なりますが(だって情報操作で踊って、しかも自らの実存のエゴ丸出しで、事実や公平さが無視されているようにしか思えないもの)、けど、チャーリー田宮や日系移民のアメリカ合衆国への同化プロセス、つまり一つの旗のもとへ忠誠を誓うということが、「後から移民した既得権益のない人たちにとってどういうものであるか?」という内面のプロセスを少しでも勉強、共感、追体験すると、単純には憎んだり怒ったりできなくなるんですね。なぜなら、もし自分が同じ立場であったら、やはり同じような実存のエゴ、自意識の病で悩むと思うから。


あと僕の少ない読書量(微妙に本気で謙遜でもあるが・・・まぁぼのぼのさんやノラネコさんのような凄い例があるので、、、、)で、北朝鮮の内面をちゃんと人間として描いたものってほとんど見たことなかったんですが、五條瑛さんの『スリーアゲーツ』は、良かったなぁ。というのは、最後までこのドラマチックな物語って、家父長の理想の在り方を説いているんで、主体思想のようなアジア的皇帝専制の思想の枠組みの基礎ってまさにこれだもの。けど、これが家族愛に変換して、家族を愛する父親の誇り高き義務という、我々にもわかりやすい形式で感情移入させてくれると、もう最高によくわかるの。この北朝鮮のスパイには、強いシンパシーを感じたよ。そもそもこういう職業人は、自分の意志よりも強制的にマクロの波にのまれて、組織のしがらみと国家権力からの恫喝と恐怖でコントロールされていることが普通で、、、それは、多かれ少なかれ「食べて家族を養うために」会社の社畜となること(笑)と、もちろん質的な違いはあるしても、そんなに変わるようには僕には思えないんだよね。もちろん、「国益」と「こうした個人としての共感」は別物で、そんなに事情は分かっても、人格的にシンパシーはあっても、国益を貫くためにどんなえげつないことでもしなければならないのが、またこお弱肉強食の競争社会なんだよね・・・人類が生きる世界、社会ってそういうものだもの。


なんかまとまらないですが、上記のようなものをずっと追っていて、なんとなく、日本をめぐる「いまのポジショニング」がとても相対化されて、僕には素晴らしい読書体験でした。