『メッセージ(Arrival)』(2016USA) Denis Villeneuve監督 世界が決定論的に決まっていたとして、あなたはあなたの人生をどう生きますか?

Arrival [BD/Digital HD Combo ] [Blu-ray]

客観評価:★★★★★星5つ
(僕的主観:★★★★★星5つ)

テッド・チャンの傑作SF短編である「あなたの人生の物語("Story of Your Life")」の映画化。英題は、Arrival。ちなみにネタバレです。

一言でいうと、ファーストコンタクト(異星人との初めての邂逅)ものなのだが、料理の仕方が素晴らしい。この作品が見事なのは、もう元に戻れない人類史レベルの変化を描くのが本質であるファーストコンタクトもの、たとえばクラークの『幼年期の終わり』などなのですが、この作品の焦点はそこではありません。主人公の言語学者であるルイーズ・バンクス博士(エイミー・アダムス)という個人の世界認識が劇的に変化していくことを軸に描いている。言葉でいえば、時系列を順序良く体験していくのではなく、過去から未来を同時に共時的に認識すると「世界がどう個人にとって見えるか?」というものを、自分と娘の関係で、劇的に、鮮やかに、しみいるように見せてくれる。エイミー・アダムスの娘に向ける慈愛の演技は、その背景の意味が全部見終わって理解できたときに、深い余韻と衝撃をもたらします。これは自由意思を扱った問題で、死ぬとわかっている自分の娘を、それでも生みますか?というドラマトゥルギーになるんですが、自由意思のなさの苦しさや絶望を描くのではなくて、「たとえ決定論的に未来が決まっていたとしたら」、いまをもっと深く大切に生きるという風に人の人生は変わるのではないか?という解釈が、見ているものに深い感慨をもたらします。短編のポイントはそこだったんですが、とても分かりにくかった文章が映像で見ると、染み入るように理解できる。わが子の喪失を生まれる前に体験していながら、それでも、愛せますか、という問いが、すっと入ってくる。メメントモリ(死を忘れるな)というやつで、喪失を軸に考えると、それまでの過程の重さ、価値が輝いて感じる。

そうした叙情的・内面的ともいえるフラッシュバックの演出と並行して、アメリカの大陸的な美しさを凝縮したようなモンタナ州の風景と巨大宇宙船の映像を組み合わせ、世界全体がこの「認識の違いによる意識の変革」を誤解して緊張をはらんでいく政治シミュレーションとなっているところも、ファーストコンタクトものの主題が、そもそもマクロの変化にあるというツボ抑えて映像と演出で、映画としてのスケール間を上げているところもとても技巧的だった。日本は、公開が1年ぐらい遅れているが、同時期(2017年6月)に公開しているアニメーションの『正解するカド』(これもファーストコンタクトもの)などと比較すると、その凄さが如実にわかる。

あなたの人生の物語 (ハヤカワ文庫SF)