『ウマ娘 プリティーダービー』から広がる競走馬の世界の物語へ

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評価:★★★★★星5つ
(僕的主観:★★★★★星5つ)

■事実とフィクションの組み合わせの演出〜サイレンススズカ(Silence Suzuka)とトウカイテイオー(Tokai Teio)の史実と演出の関係に注目

親友のLDさんからサイレンススズカというドラマがあって、そのドラマをベースに、物語をつくっているので、その事実を知っていると涙なしには見れないと勧められたところから、興味を持ちました。というのは、艦これもそうなんですが、競走馬を萌え擬人化したキャラクターで描く、このタイプの物語類型というかフォーマットは、それぞれのキャラクターの持つ「過去のドラマトゥルギー」をどう利用して描くかが、重要だからなんです。しかしながら、むしろ結構好きな、戦闘機や撃墜王や戦艦などの物語を、名前からさかのぼって戦史を調べてみようという意欲は起きなかったんで、なぜ今回に限ってみてみようという気になったかは、偶然としか言いようがないですねぇ。ただし、Twitterを見ていて、ウマ娘は、名前の使用を馬主さん許可を得て、二次創作でエロを描かないという、かなり思い切ったやり方をしていたので、何となく心に残っていたんですよね。それで娘と一緒に、見たらハマりました。温泉回とかでも、エロシーンも入浴シーンも全く描かないのが潔くて、むしろよかったです。さて、実は、そうはいっても、最初の数話、あんまりおもしろくなかったんです(笑)。僕は、あんまり萌え擬人化って得意じゃないんですよね。絵としてはかわいいけれども、そういう女の子たちが、たくさん出てくると、なんかマーケティングされているようであんまり気持ちよくない。


けど、まずハマったのは、「駆けっこ」の魅力が詰まっている、ことです。


走るシーン。単純に走るだけじゃないですか、競走って。でも、この追い抜くとか逃げ切るとか、走るのって、めちゃくちゃなんか血沸き肉躍るんですよね。この時点では、サイレンススズカも、スペシャルウィークも、シンボリルドルフも全く知らないので、フーンと思いながら見ていたうえに、萌えにもあまりヒットしないので、ほとんど興味なかったはずなんですよね。けど、この「駆けっこ」の競争の、抜く抜かれるは、見ていてシンプルに心惹かれる。いま思い返すと、まさに競馬の本質って、これんじゃないかなって思う。これを大観客の万雷の拍手と歓声の中駆け抜けることって、そりゃ見ていて、心が沸き立つよ。こればかりはぜひと見てほしいとしか言いようがない。これを見てから、僕は、リアルの競馬の映像が面白くてたまらなくなりました。二期中心ですが、感想は物語三昧チャンネルのほうに挙げています。

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さて、僕ごとき素人が解説するまでもなく、ウマ娘を見ている人とかは、馬の背景知識はあると思うので、僕のアウトプットのして覚えるための自己満足なんでしょうが、まぁ自分日記で書いてみます。サイレントスズカの特徴って、


1)大逃げ

2)天皇賞(秋)においてレース中に左手根骨粉砕骨折を発症、予後不良と診断され安楽死


ていうことで、この「事実」をベースに、何を描くかってことなんですよね。これって脚本家がどこに焦点を合わせるかってことなんですが、LDさんが感動にむせびながら解説していたように、絶頂期で死んでしまったサイレンススズカが、その後、走っている姿が見れるだけで、泣くという言葉が象徴しているように、この悲劇のストーリーをどう料理するかで、たぶん直接この悲劇を見ていた人たちが伝説として語り継ぐポイントは、もしサイレンススズカが生きていたら!というイフになっているんですね。もちろん悲劇に仕立ててもよかったんですが、まぁ第一期の最初で、そんな苦しいことを描いても仕方がないので、必然的にこうなるかなって思うんですが・・・・レスター伯爵いわく、本当はサイレンススズカって、凄い気性が荒い馬だったそうで、このドラマの構成とキャラクターのおしとやかな感じをみると、悲劇のヒロインとして描いているのがわかるんですよね。

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そこに元気いっぱいなアイマスの春香的な、なんというか万人受けしそうな、それでいて特徴がない(笑)スペシャルウィークという新人のウマ娘が、サイレンススズカにあこがれて「彼女と一緒に走りたい戦いたい!」と憧憬を持つところにキャラクターの主人公の動機を設定しているところに、脚本家素晴らしいと思いました。というのは、このお気楽な、天真爛漫な頑張り屋さんのスペシャルウィークが、強いあこがれを持てば持つほど、「それは実はかなわない夢であるというはかなさ」が見ている側につはどんどん蓄積されていくわけですから。この後の二期のトウカイテイオーメジロマックィーンのライバル関係を設定するのも、僕はこの脚本見事だなぁと思います。というのは、僕のような競馬に興味がない素人には、まずはディープインパクトセクレタリアトのような物語の重みをもった大スターをシンボルとして軸にして伝えないと、誰が何だか、何が何だか分からなくなってしまうからです。しかしそれを、一人にしないであえてひねってライバル関係に設定しているのは、僕はうまいと思いました。というのは、日常萌え系の女の子たちがきゃははうふふとイチャイチャするアニメの類型・フォーマットをベースにしながら、この関係性が、選抜と競争という過酷な世界で試される構造になっているからです。なので、見ていて感情移入すればするほど、この「関係性」が、物凄く過酷な方向へ突入していくことを、ドラマの展開上を見ざるを得ない。そして、それほど過酷で悲劇であるからこそ、逆にどうでもいいような日常の関係性が、美しく際立つという構造になっている。僕は二期が好きで好きで、たまらないのですが、エンディングテーマでトウカイテイオーメジロマックィーンの声優さんが歌う「運命のいじわる」というところで、いつも涙してしまうのですが、それは、どれほど普通に仲良く生きていても、サラブレッドの競走馬の世界というのは、過酷な生と死をかけた競争の世界の残酷さに常に直面しているからです。やはり懸命に生きている人は美しい。


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サイレンススズカスペシャルウィークの関係性に「追いかける憧憬」を設定して単純に日常をコツコツ、それこそ日常萌え系で積み上げるだけで、それが悲劇への序章となって、ドラマトゥルギーを大幅に押し上げる並みとなるわけです。どんなに思っても、あこがれても、頑張っても、、、、サイレンススズカは、大舞台の天皇賞で足を折って、死んでしまうのですよ。もうかなわないことを観客は知っているわけです。そして、最終のシーン。サイレンススズカが骨折してしまうシーンは、僕は演出がうまいとうなりました。というのは、通常のドラマを盛り上げるような劇的な演出をわざわざ「しない」んですよね。それはもう、不思議なくらい淡々と、描いている。これは本当によくわかっている演出だとうなりました。だって、すでに起きてしまった伝説の悲劇を見ている側は前提で知っているから、ことさら演出をぐどくする必要がないんですよ。


まとめると、ウマ娘は、このタイプのシナリオの作りかたを洗練しているなぁと思いました。


■一緒に見る快楽〜解説者がいると全然理解が違う


重要なことなのですが、僕は競馬が好きではないです。うーん、という言う言い方は、よくないなぁ、、、というか、僕はギャンブルがダメなんです。僕は子供の頃から賭け事が大嫌いで、パチンコとか見るのも嫌でした。今でも、あまり変わらないのです。ラスベガスに何十回遊びに行っているんだ?というくらいいっていますが、一度もかけ事をしたことがありません。だから射幸心を煽るようなゲームは、本当にダメです。だから、「競馬の楽しみ方」というのも、基本よくわからない人です。


その僕が、競馬の醍醐味、歴史の面白みを、感じれるというのは、本当に嬉しい。趣味がクロスするもののも面白さってここにある。


もともとは、物語類型の話で、LDさんがおすすめしてくれたから見たものでした。けど、二期を見ているときに、友人のレスター伯爵や哲学さんが、リアルタイムで見ているあいだLINEで付き合ってくれて、いまこの場面見ている!と書くと、その解説を(笑)どんどん入れてくれて、なんか物凄い楽しいリアルタイムセッションでした。


二期を見ているときに、レスター伯爵から、


ペトロニウスさんはサイレンススズカ状態ですね」


といわれたのが、始まりでした。最初意味が分からなかったんですが、これは、サイレンススズカアメリカに挑戦していて、このトウカイテイオーメジロマックィーンのストーリでは、アメリカから見ているという設定なんですね。しかも、たしかに、僕は、サンタアニタデルマー競馬場の近くに住んでいます!。途中でわかって、おお!そういうことかとつながりました。サンタアニタ競馬場にはいったことがあったんですが、デルマー競馬場(Del Mar Racetrack)はなかったんですよ。そしたら、ちょうど11月にブリーダーズカップがあるって、伯爵が興奮しているんですよ。最初は名前すら知りませんでした。でも、なんというかこの辺は、「新しいものを知るきっかけ」にいいよなって思って、無理がない限りは、いろんなところに直接に見に行くのは大事だと思っていて。物語は、「頭の中だけで体験している」と、途中で全然面白くなくなってしまいます。なんというか、新しい知識や体験を自分の中に蓄積しないと、面白さが摩耗していってしまうようなんですね。これは人生を楽しむうえでも真理だと僕は思っていて、ある程度、新しい知識や体験を継続的に積み重ねていないと、もともと「自分が楽しいと感じていた軸」みたいなものも失われて、飽きてしまいます。だから、せっかくレスター伯爵がリアルタイムに「二期を見るの付き合ってくれている」幸運の出会いを、無駄にしてはいけない!と、そこでブリーダーズカップを見に行くことを宣言しました。僕はこういう「偶然の出会いやきっかけ」は、物語の種だと思っていて、そういうのは大事にしようと思っています。何かアクションを起こして、人との関係性が結ばれていると、なんというか「何かを為すことに重みが生まれる」と僕は思っています。えっとね、僕は残りの生涯を物語を楽しもうと決断してかなりしぼっています(人生の優先順位をだいぶ絞っている)が、それでも選択肢はたくさんあるんですよね。なにも、アニメではなくても、競馬ではなくても、何でもいいじゃないですか。でもね、人には、何かしらの「理由」が必要ようだと僕はおもっています。そして、レスター伯爵くらい競馬の好きな人が、リアルタイムで付き合ってくれるような幸運ってなかなかないんですよね。僕は、アメリカで、なるべくいろんなものを見ようと思って、たとえば建国史を知らないといけないし、建国の父を知らないといけないな!と思ったら、ジョージワシントンの家であるマウントバーノンに旅行に行ったりします。実際に「その目で見る体験」をすると、その後の理解が飛躍的に上がったりするからです。僕は自分の頭の良さには自信がないので、こうやって体験を差し挟んで、理解度や感受を上げようといつも努力しています。

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2021ブリーダーズカップに日本馬が予備登録 JRA

https://www.jra.go.jp/news/202110/102807.html?fbclid=IwAR2zNoY1lcmod0s9wi4y4i14UEyYjvBMNkFldv6ZfuPKlrT3i247_TcFsbgwww.breederscup.com


ちなみに、これで課題というか宿題ができましたので、せっかく行くのに調べたりしていかないともったいないので、レスター伯爵に電話して、何を見ればいいというのを講義してもらったら、さまざまなことがわかって、、、これは!と次のステージに行くことになります。

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ちなみに、レスター伯爵はガチの歴史学の学者さんなので、近代スポーツ史は、ガチです(笑)。こうやって、世界は広がっていく。新しい知識というのは、こうやって広がっていくもんで、ありがたいなぁとしみじみ思いました。ちなみに、そこで何か映画化小説でいいのがないかと紹介されたのは、シービスケットなんですが、それは配信で見れなかったので、ディズニー+ですぐ見れたこの『セクレタリアト』を見ることになります。もちろん、せっかくアメリカのブリーダーズカップを見に行くから、アメリカの伝説や情報を知らないと話にならないので、アメリカ縛りで絞っていきます。なんでも調べものってのは無限に考えていると、ダメなので、なんか理由を作って縛りを作っていくと、スムーズに進みます。

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この辺を聞いていただければ、ちゃんと勉強してそれなりに、素人よりは通な見方をしているのがわかるでしょう?(笑)。これが趣味になるまで広がるかわかりませんが、少なくとも、これで機会があれば、アメリカの三冠である、ケンタッキーダービープリークネスステークスメリーランド州)、ベルモントステークスニューヨーク州)などは、頭の片隅に入りましたし、雑談チャットでアメリカ人に振ると、この辺は常識に近いものみたいで、少なくとも名前は聞いたことあるって感じで、話が広がります。広がると、もっと知りたくなるし、いろいろ教えてもらえます。こういうの最高。


ということで、明日(今日は、2021/10/5)にデルマー競馬場で、ラヴズオンリーユー(Loves Only You)を見に行ってきます!。


ゆうきまさみ先生の傑作『じゃじゃ馬グルーミン★UP!』を読み返す。

競馬を知るに一番いい物語は何か?と言ったら、やはり『じゃじゃ馬グルーミン★UP!』ですね、と言われました。それで、全巻再度読み直してました。なかなか興味深かったのは、これって荒川弘さんの『銀の匙』と動機の構造は全く同じなんですよね。親子関係も似ている。勉強ばかりやっていたけど、「何のためにやっているか?」がわからなくて、家でうまくいかなくなって、北海道や農家や牧場に逃げ込んでいくことで、自分の人生の目標や大事な人を見つけていくという流れ。僕自身は、この少年のビルドゥングスロマン(成長物語)として読み込んでいて、好きで何度も何度も読み返しているのですが、競馬の血統の選抜の物語という新しい知識がわかったところで読み返すと、かなり違った流れを感じられて、名作は本当に重層的で凄いとうなりました。これはパールバックの『大地』とか、家族の年代記になっているところ、世代を超えて受け継がれていく思いがあるところが好きだったのですが、それには、この競馬の「世代を重ねることで見えてくるもの」が重なっているからなんですよね。いやはや、一粒で何度もおいしい、傑作は違うなぁとしみじみ思います。


また、最近実感するのですが、僕自身の世界観や地理感の「感覚」が、物凄い変わっているんですね。僕は小学校まで北海道で育ったので、僕の中に、日本というと東京と北海道なんですよね。自分の人生の実感がそこにある。けど、もうアメリカにも住んで7年ぐらいになるので、なんというか、本当にアメリカの景色とか地理とかが「普通」になって来たんです。一番下の娘に至っては、人生の9割はアメリカなわけで、子供たちにとってもほとんど故郷みたいなもんなんです。そうすると、なんというか、競馬という物語を見ても、体感感覚では、昔は牧場というと、北海道しか思い浮かばなかったんですよね。でも、最近だとカリフォルニアでも内陸とか、オレゴンとかあっちのほうも、あーそういう生活あるよなー的な感じがうっすらと感じる。だって行ったことあるし、知り合いもいるから。多分身体的な地理感覚がアップデートされているんだろうと思うんですが、そうするとね、「競馬という産業、文化にかかわる人間の営み」みたいな重層的なイメージが、日本に限定されなくなってきた感じがして、、、そういう感覚で、府中の競馬場とかデルマー競馬場とか、そういうのが並列に「感じる」んですよ。うまくいえないんですが・・・・なんかねぇ、凄い世界が多様性にあふれているというか、、、、こんなに世界って広く深いんだ見たいな圧倒的な立体感のある感覚が来るんですよ、、、、胸に。これ間違いなく、「さまざまな異郷の地に住んだことがある人」が「様々な異郷の地の歴史や生活や人間関係も体感して」いるときに起きる感覚だと思うんですよね。この圧倒的な世界の複雑さ、地理的な広さの実感って、、、物語歴史を読んで学んで(縦軸)、それとガンガン旅をしたり生活をして(横軸)、時間と空間の重層性を「実感している」人にしか訪れない感覚だと僕は思う。イヤーこんな感覚が、新しい世界が、訪れるなんて、、、と最近感心している。もっと旅したい、いろんなところに行きたいし、暮らしたいし、もっと本も映画も楽しみたい。。。。凄くそう思う今日この頃です。

じゃじゃ馬グルーミン★UP!(1) (少年サンデーコミックス)

■おすすめ

ちなみに、レスター伯爵にお勉強として、おすすめされた本当がこれ。あと、いろいろテキトーに動画を見てたやつを。

競馬の世界史 サラブレッド誕生から21世紀の凱旋門賞まで (中公新書)

NumberPLUS「Number競馬ノンフィクション傑作選 名馬堂々。」 (Sports Graphic Number PLUS(スポーツ・グラフィック ナンバー プラス)) (文春e-book)

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