『イランvsトランプ』 高橋 和夫著 2019年からアメリカは世界最大の産油国になっていたのか!

イランvsトランプ (ワニブックスPLUS新書)

客観評価:★★★★星4つ
(僕的主観:★★★★星4つ)

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2020年1月3日、米軍の無人攻撃機のMQ-9 リーパーによって、イランのガーセム・ソレイマーニー司令官が暗殺された。イランとの戦争の可能性の高まり、一時期米国の報道は緊張していたけれども、イランが外交上のしたたかな行動を見せ、なんとか収まった感がある。そもそも、イランとは、アメリカはとても相性が悪くて、イランをたたけば選挙で勝てるとというオプションは常に存在する。けれども、イランと戦争状態になれば、石油の輸出が減るので、原油価格が上がる。それが直接失業率にヒットするので、オプションではあっても、実際にはできないというのがこれまでの構造だったはずなのに、トンランプ大統領は、あっさり、それを無視して、トリガーを引いた。この辺のアメリカとイランの確執を知っていると、この辺はより興味深くなる。なので、映画『アルゴ』がおすすめ。イラン大使館人質事件を扱った映画です。

ノラネコの呑んで観るシネマ アルゴ・・・・・評価額1700円

アルゴ (字幕版)

さて、なぜそのようなオプションが取れるのだろうか?ということが不思議で、この本を手に取った。神保さんと宮台さんのビデオニュースドットコムを見ていて、中東の専門家だそうなのですが、あまりに明快な米国内政の分析、アメリカのトランプ大統領の行っていることの見事な説明に感じて、感心してしまって、これは、本も読んで観なければ、と思い立ちまして。大体に、言葉で明快に説明してくれる人は、本でも明快でとても深くまで志向していることが多いので、これはあたりでした。いままでややこしくわかっていなかった、サウジのクラウンプリンスのMBS(Mohammad bin Salman Al Saud)やジャマル・カショギなど、いまいちわからなかったもやもやしていたことが、霧が晴れたように分かった。

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ちなみに、疑問を考える前に、なぜ無人機や、特殊部隊による暗殺がアメリカでは昨今大きなオプションになっているのかは、オバマ政権に戻らならければならない。オバマ政権は、軍縮も粛々とやったが、同時に特殊部隊の急拡大をも行っている。これは、人道主義的、リベラリズムの観点や、国内の選挙対策から、国の若者がガンガン死んでいくということに、民主主義国家は耐えられない。この構造からすると、無人機による暗殺や、表立って軍を動かさないで秘密裏に暗殺部隊を差し向けるという方向にバイアスがかかるのは、ロジカルですよね。オバマ大統領は、軍縮思考で、平和主義的で、とてもリベラルな人柄の人ですが、軍を押さえた代わりに、構造的に別の部分が吐出している政策を実施していたことは、世の中やはりシンプルに割り切れないんだなぁ、としみじみ思います。

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この辺りの特殊部隊の暗殺のお話、無人機によるコラテラルダメージのお話は、上記の2つの映画がおすすめです。


さて、この本でも様々なポイントが興味深いのですが、僕的に、おおっとお唸ったのは、2018年に米国が既に世界最大の産油国になっていることです。仕事で関連するので知っていたのですが、これ、実はとんでもない大きな出来事なんだ、としびれました。


世界一の産油国となった米国、覇権国の地位強化へ | NOMURA

そして、シェールガスの技術と埋蔵量から勘案して、長期にわたってエネルギー大国として米国が君臨することが、予想されること。バレル60ドルでも十分利益が出ること、そのことが長期的に、石油価格の低位安定構造を形成すること。だから、米国にとってイラン、中東の重要性が、極端にさがること。ロシアや中米、中東などの産油国の長期的なポジショニングが下がること。これは構造的な問題なので、これからの人類の長期にわたるマクロトレンド支配するポイントだ!と思うんですよ。


ちなみに、トランプさんが、イランとの戦争がありうるオプションを平気で選択できるのは、中東の石油、イランの石油の重要比率が下がってしまっているので、アメリカの内政の問題としてこれをとらえることが可能になっているから、気安くゴーが出せるんですね。そうか、そんな構造変化があったんだ、と驚きました。トランプ政権のイスラエルに対する取扱いの違いも、これでほぼ理屈がつながります。


少し脱線ですが、小泉悠さんの下記の本が素晴らしかったんですが、何が素晴らしかったかというと、ロシアという国の宇宙観というか世界観がわかるんですね。「そこ」から導き出される戦略を考えて、すべての行為を評価すると、一貫性がある。ああいう地域大国の長期的な戦略というか生存の意志が、そういう風になっているのかーとうなったんですよ。


「帝国」ロシアの地政学 (「勢力圏」で読むユーラシア戦略)


けどね、こういう長期のトレンドは、石油価格の低位安定というトレンドで、ロシアなどの石油を基盤にする資源国の手を縛りあげるんですね。ベネズエラなどがめちゃくちゃになるのは、産油国が利益を得にくい市場構造が安定しているからなんですよね。

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なので、ここのところロシアや中東などの産油国は、非常に苦しい状況が継続している。価格が低位安定しているからですね。そうするととれるオプションがとても小さくなる。これって、覇権をとるための大戦略(グランドストラテジー)なんですよね。世界の、人類の命運を握る物理的な部分の構造をどう決定するか?という戦いをしていると思うと、シェールガスの開発って、オバマ政権の時に進めていたんですが、その果てに、世界最大の産油国になっているアメリカって、物凄い大戦略の発想だ、としびれてしまいました。

天冥の標Ⅹ 青葉よ、豊かなれ PART1 (ハヤカワ文庫JA)


全然関係ないのですが、今ちょうど小川一水さんの『天冥の標』シリーズの10巻まで(15冊目)まで来たんですが、ふと思ったのだけれども、各文明、民族などグループ間の競争というものを規定するのは、こういうボトルネックとなる部分を押さえたかどうかに尽きるような、と思うんですよね。そして、そういう「身もふたもない部分」の構造を規定されたら、もうどうにもならない。努力とかではどうにもならなくて、暴発して死に物狂いで戦争するか、あきらめてじわじわ死んでいくかしか選べない。いやーSFだと、架空の国家やグループを、物凄い長い時間空間単位で、競合させてその流転の果てを見るづけるので、、、何が、その時代の、その場所のボトルネックとなるものかって、その時代を生きている人は、なかなかわからないんですが、マクロで、超長期を考える視点は、重要だよなーといつもながらにしみじみ思いました。やっぱりこういう広い視野をくれるSF作品って、物凄く遠くに焦点が合いながら、ものを考え続けるので、本当に世界観というか、世界の見方が変わる。SFって、やっぱり好きだなーとしみじみ思います。このちょっと妄想は行ってSF的な、超マクロ、超長期、長距離空間の発想を持つだけで、世界の見方が、がらっとかわる。あとそれくらいの超長期の視点の時系列で考えると、人間の個のちっぽけさが、しみじみ感じるんですよね。この堅牢な自我を、少しでも浮かせて、違う見方もあるかも、と思わせる可能性をくれるSFって、やっぱり好きだなーとしみじみ。

話がずれた、石油価格をグローバルな低位安定をされたら、資源国はもうどうにもならなくなるじゃないですか。ちなみに、中東などの資源、石油の重要性が下がればアメリカにとっての長期的な競争相手は、なんといっても中国になるはずなので、貿易戦争を仕掛けるのは、非常に理にかなっていると思うんですよ。おースティーブ・バノンとか思い出しちゃった。この辺を理解するためには、もっとリバタリアニズムとか、古典を理解しないといけないのかもなぁ、と思う今日この頃。最新では、ニックランドの加速主義とかですよね。

ニック・ランドと新反動主義 現代世界を覆う〈ダーク〉な思想 (星海社新書)


ま、それはさておき、この中産階級が破壊されつつある先進国において、それをリカバーする方法はまだ見つかっていないんですが、アメリカは、その方策を一つ見つけているということだと思うんですよ。ようは、エネルギー産業で成長する、という選択肢です。先進国の中産階級の破壊は、経済のグローバリズム化によって新興国中産階級の拡大と結びついているので、これを阻む方法は、これまで移民制限や先進国とその他の国の「身分を固定すること」のような、中世に逆戻りすることしかオプションがなかったんですね。トランプさんのメキシコの壁、ブレクジットなどなど、この移民と自国民の格差を固定化するという方向は、1)倫理的に非常に受け入れにくく国論を二分化する、2)実際やっても効果が薄い=グローバル経済にリンクしている限り、壁を作ってもだいぶ無駄。なので、筋が悪い、なかなか迷走した方向だったんですよね。でも、現在の米国のトランプ政権の方針は明確に感じます。エネルギー産業によって成長する。そのために必要なことは、環境規制の撤廃です。トランプ政権が、エネルギー大国として米国が成長するために、徹底的に環境関連の規制を撤廃していること。気候変動をフェイクニュースと切って捨てるベースがなければ、ここまで思い切れなかっただろうこと。こういう背景とリンクさせないと、気候変動は嘘だ!とか、だいぶ頭悪い感じの意見がよくわからなかったんですが、エネルギー産業のために、環境規制をなくすというのは、戦略的ですね。ここでは、意識的に、環境という有限のインフラに、フリーライダーになるという意思がはっきり感じます。パイプラインの問題とか、どういう意味があるのかいまいち分からなかったんですが、こう考えると、すべてがつながります。

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トランプ大統領、キーストーンXLパイプライン建設を再度承認(米国) | ビジネス短信 - ジェトロ

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この結果が、どこに向かうかというと、石油関連の世界ではサウジアメリカと呼ばれて、一夜にして大きな町が生まれるような状況が起きており、熱狂的な支持につながっていること。エネルギー産業は、労働者を増やさないのですが、パイプラインの敷設!や輸送など関連産業に人が必要で、そこで雇用が激増している。これ、民主党の政策と、かなり色合いが違いますよね。民主党は大都市の知的労働者の基盤を増やしていますが、それがゆえに、崩れ行く中産階級層に対してリーチできていないと思うんですよね。ようは、グローバルな競争で生き残れる人だけが生き残り、中産階級的な市民になれるといっているようなものだから。それに比較すると、この政策は、別に知的労働じゃなくても雇用を生んでいる明けで、実際それで町がガンガンできるような産油国のような発展がされてたら、、、、いやはや、そりゃ、トランプ政権の支持、安泰だよ、と唸ってしまった。逆に言うと、これだけしっかり米国の好景気を下支えしていて、それでも危ういというのは、それだけ反発もでかいということなんだろうなぁ、と思うもの。

ウインド・リバー(字幕版)


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そして、、、ここずっと、米国の中産階級が崩壊して、貧困の連鎖の中に叩き込まれた絶望の話ばかり映画で見てきて、、、、これって、グローバル経済にリンクするのでは、解決がつかない話で、、、先行きなにもねぇなぁ、と思っていたんですが、、、、この地域にこそ、石油があったりするんですよね、、、そう考えると、いやー世界ってダイナミックだ、、、、と震撼しました。


Jeff Bezos commits to forming $10 billion Earth Fund for climate change


Jeff Bezos Pledges $10 Billion To Fight Climate Change | TODAY


Inside Bill’s Brain – Part 1


ちなみに、じゃあ、環境のフリーライダーになるがよしとするのか!というと、そこがアメリカの凄いところ。こういう物凄い億万長者で才能の持ち主たちが、全力で反対方向にかじを切っ足りも同時にしてたりする。いやー米国ってすごい気うにだなぁ、としみじみ。『Dark Water』なんかは、環境関連でケンカを売った弁護士の物語。こういうのが増えている気がする。


Dark Waters Trailer #1 (2019) | Movieclips Trailers

ちなみに、現在は、2020年2月19日なんだけど、米国大統領選挙がじわじわ進んでいる。前に紹介したブーティジェッジが、アイオワのコーカスで強くて、サンダースさんと分け合っている。残念ながらベーシックインカム唱えていたアンドリューヤンが、drop outしたけれども、名前をアピールできたし、「次」につがなるいい感じだった。アジア系の大統領候補って、めずらしいのだけれども、日系のアジア系の大統領を描いた『イーグル』を思い出した。かわぐちかいじさんは、なにをかいてもかわぐちさんの物語になって収束してしまうのだけれども、これはいろいろなガジェッドがあって、とっつきのためには、いいマンガだろうと思う。そもそも、大統領選の仕組みや構造がわからないと、何をしているのかすらわからないですからねぇ。

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イーグル(1) (ビッグコミックス)

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『ブルーピリオド』 山口つばさ著 2020年代の世界で、若者は、どのように成長していくのだろうか?

ブルーピリオド(1) (アフタヌーンコミックス)

インフルエンザにかかって、息も絶え絶えなペトロニウスです。なんか熱で朦朧となりながら、起きては、『十二国記』読んだり、『天冥の標』読んだり、なんかずっと夢を見ているようで、おかしな風邪休暇でした。と言っても、家で仕事追い詰められてイライラしていたので、休みと言っても、微妙な感じでしたが。家でも自由に仕事できる環境って、こういう時、際限ねなーとしみじみ思いました。いやーしかし、風邪ひいたり病気になると、ほんとうに、しんどいねぇ。。。なんか、人生振り返ってしまったよ。。。アラフィフになっても、全然自由は手に入らんなーいつも、やることに追われて、あせあせしている、、、まぁ人生、いつまで経って、どもこにいても、そういうのとは無縁でいられないものなんじゃないかなーと思う今日この頃。生きるのは大変だよ、、、と思いつつ。いやーこの辺の年齢になってくると、体が気力でもついてこなくなるので、なかなか気合で誤魔化したり乗り切るのがしんどくなってくるし、この辺の年齢まで来ると、キラキラする未来に向かって成長しよう!とかそういうのも、餌にならなくなるので、、、うーん、しんどいなーと思いんがら生きていくしか無くなる。まぁそういっても、サバイバル、、、生きていかないわけにはいかないし、子供の責任もあるから、食べていけるようにしなきゃいけないと、奮い立たない心を、奮い立たせるしかない感じなんだけど。いやはや、「みんな」って、ないのかもしれないけど、世の中の人は、本当に凄いなぁと思うよ。ただ生きるだけでも、生活するだけでも、本当に大変だもの。こんなにやること押し寄せてて、なんで何とかこなせるか、不思議で仕方がない。。。


そしてそういう感じで、『ブルーピリオド』は海燕さん。『ブルーロック』はLDさんにお勧めされたものですが、読んでて、あ、これどっちも、典型的な成長物語、ビルドゥングスロマン何だなと思ったんです。(いきなり話が飛んだ・・・・(笑))


LDさん的な発想では、多分、「生きるのに意欲や動機が必要」という時点で、だいぶダメですね、、、と言われそうなんですが、、、いやーそれはわかっているんですが、僕は結構気力で奮い立たせて、困難なことを乗り越えるタイプなんで、体力も気力も落ちてくるこの老後、というかおっさんになってきて、まだ勉強し続けたり、変わっていこうとするのは、しんどいなーと日々思うんですよね。基本的に生きるのは、いつもしんどいなーと、だらだら生きてきましたが、もう穏やかに、映画とか漫画とかだけ見て、暮らしたいな、、、とか思うのは、甘いのかなーと思いつつ。気力体力減っているのに、責任とかこなさなきゃいけないタスクは、年々どんどん難しくなっているようにな気がして、いや-うーん〜ーーという気が、、、、。



体力が落ちている(40代後半に入ったから?)と、特に老眼が進んで眼精疲労がひどくなったのが、なんか、色々に負担をかけている気がするがぁ、、、それ以上に、なんというか、やっぱり「がんばって坂の上の雲に向かっていく目的意識」みたいなのが、うんざりする今日この頃。そう思うのは、もう若くないからなのだろうか・・・・と、ずっと考えちゃうなー。まぁ、考えても、意味ないんだけど、、、明日は、ほっといてもやってきちゃうので(笑)。


世の中は、『ファクトフルネス』を読んで、絶対的貧困相対的貧困の軸が入り組む複雑さはあるものの、マクロ・トータルでは、良いの方が大きな流れになっているとはいえるので、まぁ、そうはいっても世界をあきらめたり絶望する必要はないのは、よくわかってきた。自分の子供や孫の世代も、大変ではあろうと思うけど、ちゃんと人の世の世界であり、生きるに十分値するのは間違いないわけだから、なんというか一般的な視点で絶望する理由は、もうないわなーというのが雑感。。。なんだけど、いやもしかしたら、おっさんというか、年寄り世代にとっては、「絶望する余裕」があったほうが、まだまだ幸せな夢を見れてたのかもしれないなぁ、としみじみ感じる。本当に厳しい現実を見据えたら、真っ先に切り捨てられるのは、もちろん現役世代ではないお年寄りなわけだから(笑)、、、、でも、人類の世代交代って、時代の流れって、そうやってきたんでしょ、とは思うので、それを受け入れられないというのは傲慢だよなぁとしみじみ。


ああ、なんか意味不明の日記になってしまった、、、、最近、老人になってきて、疲労してきてて、頑張ろうという意欲が、さらに消えています!というのを高らかに言いたかっただけ。



で、時代的な背景なのか、自分がおっさんで未来に希望が持てないかがわからないんだけど、いまこの文脈で、ビルドゥングスロマン(成長物語)を見ると、どう思うんだろう?って。(ちなみにネタバレです)



『ブルーピリオド』は、まぁそういう御託抜きで、面白かった。めちゃネタバレなんですが、僕様々な物語読んできて、美術系の受験の物語で、東京藝大の入試に合格した物語って、初めて見た!!!。はっきり言って、全く合格するなんてみじんも思っていなかったので、驚いた!!!。もちろん、そうあってもおかしくない積み上げだし、彼の自分探しの視点が、ちゃんと技術、作品と努力に適切に結びついているし、おかしいとは思わないんだけど、、、でも、藝大って、どこか「次元の向こうの存在」だと思っていたのので、自分の中で衝撃を受けました。僕は、ムサビの近くに子供の頃住んでいて、周りにたくさんムサビの生徒がいたので、あと『はちみつとクローバー』も、ムサビっぽかった感じがしたんだよね。なので、ムサビまでは、自分の想像力の射程距離にあったんだけど、、、藝大に受かる人がいるんだ!と心底、驚いた。毎年、墓参りで上野にはいってたので、あの辺はとてもなじみのある場所ではあるんです。が、、、、いやはや、、、別に自分のなかの驚きなので、全く読んでいる人は何が言いたいかわからないでしょうが、、、、。ただ、自分のなかで美術に関してはほとんど興味がなかったで、どういう基準で、どういう積み上げで選ばれているのかが、さっぱりアウトオブスコープだったんだけど、これを見て、色々なことが凄いわかった気がする。勉強になったー。


きわめていいな、というのは、「自分とは何か?」というよくある問題意識を、美術という技術と、受験勉強という「様式と手順にのっとった成長」で、丁寧に描いていくところだ。作品だけ見せられたら、難解で???となってしまうところを、これほど丁寧に物語性と、何も知らなかった少年が、受験勉強で技術を習得していく過程で、「作品で自己を表現する」という技術、ノウハウを獲得していくわけで、おうーーーこりゃ凄いって唸った。親友?の龍二くんの話とか、ジェンダーとか、さまざまな問いかけが、縦横無尽にあって、「現代」で、自分を掘り下げると、こんなに複雑かつ重厚、繊細に考察して、潜っていかないと、ちゃんとした表現にたどり着かないんだ!というガイドラインにもなっていて(だからこそ藝大の試験なわっけだし)いやー素晴らしすぎる。


やっぱり何が凄いって、一つは、こんな『自己とは何か』というような哲学的かつ繊細でややこしいことを、当たり前のように、青春のテーマに乗ってくる、受験できちっと技術で問われるという、時代の成熟さだよね。とても豊かで自由で、多様性を受け入れる時代でなければ、こんなテーマがエンタメになるとも思う得ないし、既に6巻って、けっこう人気を博しているのも素晴らしい。昔よりも、受験のシステムが洗練されて、ちゃんと中身が問われるようになって深化していている旨も書かれていて、やはり時代は豊かに深く豊穣になっているんだ、と思わせる。昔からあったんだと思うと、やっぱり近代国家は大したもんだよなーとしみじみ思う。僕が単に知らないだけで、こんな人生のルートもまたあるんだ!と感心した。



めちゃいいよ!おすすめだよ!しかも、大学編迄あるんだ!と思うと、わくわくが止まらないよ。



もう夢も希望もな特にない枯山水じじいペトロニウスだけど、やっぱり、ほんとうに若い世代って、豊饒な時代生きているのだなぁ、とドキドキしました。僕自身は、自分の人生は、「自分ごときにしては上出来」と思っているので、やり直したいとか全くないけど、、、でも、自分の息子や娘の楽しそうに生きているのを見ていると、いやーすげぇ時代に生きてて、僕よりももっと大変な時代を生きているかもしれないけど、その分エキサイティングだよなぁーこれは、なかなかいいことだよなーと感じる。より繊細に、より技術のレベル高く、僕等の若かりし頃よりは、はるかに複雑になっているのは違いない。でもだから「大変」というのは、違う気がする。このような多様性、技術の深みが評価されるプラットフォームが整備されている現代を生きることができるのは、とても素晴らしいことだろうと本当に思う。



さて、ついでに、『ブルーロック』。



これはついでなんですが、これも成長物語だよね。けど、力点が「才能がある奴を蹴落とす、その価値と意味にぞくぞくする」というのが主題に乗っていて、ああーこれも新世代の成長物語だなー、なるほど、LDさんが言うのはわかるわ、と思いました。これって、300人の高校生FWを集めた寮青い監獄(ブルーロック)をつくって、そこで、負けたら二度と敗者復活戦のない(日本代表には選ばれない)というサバイバルゲームをさせるというお話。


いってみれば、サッカーのサバイバルデスゲームみたいな類型。


けど、LDさんが指摘したように、これとても大きな主題に「才能がある奴を叩き潰していき根を止めることのゾクゾク感覚」が繰り返し描かれているところだよね。


これって、倫理的に、なかなか言いづらいものじゃないですか?。成長物語を描く時に。ようは、弱者や才能がない奴を、いや下手したら、強者や才能のあふれるやつも、策略によって、ガンガン未来を奪っていく。でも、生きる実感、生きる充実、、、、サバイバルの究極の意味の一つは、「相手の可能性を奪って生き延びた」ことにあるわけで、競争というもの、サバイバルの持つプリミティヴな価値というのは、そこがコアの一つだよね、というのを、身もふたもなく描いている。「生き残る」ことの価値って、そこだよね、と思うんですよ。それが「身もふたもなく描けている」というのは、やはりそういう時代で、きれいごととかでごまかさなくなったんだなーと、しみじみ。「新世界」じゃないですが、この世界が残酷であることを「所与のもの」として感じれば、そのみんなが余裕がない中で、それでも何とかパイを確保できたら、それはとてもうれしいこと。余裕がある状態ならば、それがフェアかどうかとか、結果の平等とか気にできるだろうけど、実際は、残酷な世界に追い詰められていると、そんなこともいっていられない。少なくとも、いままでのような、実際は逆に弱肉強食なのに、うそを塗り固めているよりも、まずはプリミティブなところを、ちゃんと認めようという気がします。これをもって、弱者を切り捨てて、格差を肯定したいとか、そういうこととしてとってもらいたくはない。。。のですが、、、ただ、絶対的格差が縮まり、相対的格差が広がることが同時に起きる世界で、、新しい世代を生きる若者の感性が、だいぶ身もふたもなく「リソースがそもそも物凄い少ない奪い合いになっている」ことへ自覚的で、あえて選ぶというよりは、所与のもの(既に与えられている前提)として受け取っていそうな気が凄く強くするんですよね。


ブログでずっと書いてきた、、、、日本社会は、余裕が他の社会よりまだまだあって、絶望が全然足りないって話と、ここでリンクするんだろうと思うんですが、、、、なんだか、この世界の厳しさってのが、うまくわかっていない感じがするんですよね、、、おっさんというか年寄り世代には。世界全体は、基本的に良くなっているんですよね。けれども、それはすなわち、先進国の中産階級が崩壊していくこととリンクしているんで、僕ら(先進国の中産階級)の世界は相対的貧困がさらに激しくなる。なので、いいかえれば、競争それ自体は、グローバル(世界すべての人々を巻き込む)なことになるので、必然的に激化します。個々の個人にとって、、、また特に言えば、先進国の社会における格差はさらに広がり、これまで福祉などの手当てなどは、激減して崩壊していくでしょう。また、世界全体の競争のプラットフォームにおいては、環境など、基本的に世界全体を保護する余裕はなくなるんじゃないかなぁ、と思うんですよ。だって、民主主義にリンクした先進各国が相対的貧困に沈めば、もうそれどころじゃない感じで、自国内の相対的貧困に対する手当を要求する声が高まるでしょう。そうしたら、ようは、環境などのいかにフリーライドになるか!という過去の姿勢に戻ってしまうと思うんですよね。だって、分配するものが、既にないんだもの。全体的な成長は、だいぶ能動が薄まってしまうので、先進国には届かない。急成長してくるその他の国々が、そこを押さえるなんてことはあり得ないので。。。だから、環境問題とかは、まず解決しないな、と思うのです。少なくとも、理想や気持ちでは、絶対に動かない。戦略的に優位な状況でないのに、譲るなんてことは各国絶対しないと思いますので。


という風に、世界全体を考えると公平に向かっては行っていますが、またトータルでマクロでは豊かにはなりますが、このグローバルリンク社会で個々人が生きていくのは、物凄く難しい。たぶん、グローバルで富を生み出す人々と、そうでな人の格差は、凄まじくなる。しんどい。競争はむしろ激化して、なりふり構わず、身もふたもなくなっていっているので。グローバル社会で、グローバルに「生きるスキルを持った人」と、そうでないローカルに沈む人の差は、もっともっと激しくなる気がします。。。えっと、、、、うーんとね、何が言いたいかというと「理想的なものが通じるほど甘ちょろい余裕は人類にはないんだろうなー」ということ。うーん、そこまではいいすぎか、、、。少なくとも国民国家に、特に旧先進国だった国々の分厚い中産階級は壊れてしまって、「そこ」を母体に、社会を理想主義的に進めていこうというのは、成り立つほど甘くはないだろうな、と思うんですよ。若い世代は、みんな、凄くその辺を直感的にわかっている気がしてならない。『鬼滅の刃』みたいな、厳しくて仕方ない残酷なのを、「特に厳しい」という感じもなく受け入れるのって、そういうことなんじゃないかなーとしみじみ思うのです。僕等よりも、後続世代の方が、世界の厳しさに無意識に敏感なんじゃなっいって。そう思うんですよ。関係ないかもだけど、グレタさんの環境問題の怒りの告発なんかも、こういう感覚に裏打ちされている気がしてならないのは、考えすぎだろうか?。だって、こういう世界にしたのは、年寄り世代なのに、つけを払わされるのは、若者世代って、腹が立つ!というのは、極めて正当な怒りな気がする。まぁ、後続世代は、常に前の世代のつけを払わされていて(それは僕等だって同じ)、いつだって、そういうものなんだろうなーと歴史を勉強すればするほど、まぁ、身もふたもねぇな、と思うようになってきました(笑)。


みたいなことを、徒然に思っている今日この頃。


ブルーロック(1) (講談社コミックス)