『FLIP-FLAP』 とよ田みのる著  充実するって、どんなことなのか?がよくわかっている

FLIP-FLAP (アフタヌーンKC)


p116の「やっと静かになった」というシーンが、この物語の頂点。この同じシーンを、内面の描写では、全く音がない真っ黒なシーンでありながら、次のシーンでそのアメリカで周りの観客の拍手喝さいされているシーンが続きます。この表現は、充実というものをとても良くあらわしているなーと思いました。1冊で終わる短いお話だが、とても勢いがあって、読後感が良い。ピンボールというものに興味も知識もゼロでも、入り込めます。もちろん、テーマは、「充実」とは何か?です。


卒業式に主人公は、ある女の子に告白します。その女の子は、ある条件をクリアーしたらつきあってもいい、といいます。その条件は、近くのゲームセンターでのピンボールの最高得点をたたき出したUFOという人のスコアを超えること、です。


この物語の脚本の構造は、この2つだけです。


1)彼女と付き合いたい


2)そのためにはUFOという人のスコアを超えること。


そして、短いながらよくテーマをうまくリンクさせているなーと思うのは、まず1)が目的だった主人公が、ピンホールにハマっていき、いつしか2)が重要な目的になっていきます。やればやるほど、この最高得点を叩き出したUFOという人のレベルは高いことがわかり、あきらめかけもするのですが・・・・いつの間にか、主人公は、UFOに勝つことも、彼女の付き合うことも、それはそれで目標なのですが・・・「ピンホール自体をやることを楽しむこと」それに「没頭していること」が楽しくなってきてしまいます。

そう、いつのかにか2)の目標が、


3)ピンホール自体を楽しむこと、その瞬間に没入していることにはまること


にスライドしていくのです。


そして、1)や2)は非常に功利的で、いってみれば「意味がある目標」です。けれども、3)自体は、もう意味自体がなくなっているものです。なぜならば、なぜそれをやるかと問われれば?、「楽しいから」としかならならず、


目的が消失している


んですね。「他人に勝つ」とか「彼女を得る」という功利的な目的が、意味を失っているんです。そして、そうなったところまで到達した主人公に、彼女は、惚れちゃうんですね。またそこまでいって初めて、UFOの人の得点を、主人公は超えるんです。


いやーなんか人生の教科書みたいな物語ですねー。


人は意味や功利的な結果を求めていく手いるものですが、そういった欲望に駆動されて入った「世界」で、正しい形で、正しく追及して諦めないでいると、人はいつしか「それ自体を楽しむ瞬間」に到達するんです。


そして、目的に対する意味を失った瞬間に、ブレイクスルーが訪れ、何もかも手に入れることができるものなんです。そして、そうなった時は、「それ自体が楽しいからやっているん」んであって、目的を達成したことには、意味はないんです。



それが、充実。それが実存。



生きている幸せを感じる時です。



そして、「そこ」まで到達した時には、「そこ」は、誰よりも高い高みなんですよね。だから、その過程での条件はすべて満たしてしまうものなんです。目的を目指している人には、意味を求めている人には、到底到達できない瞬間だからです。



いやーパワーある漫画でした。