『チョイス(SWING VOTE)』2008年アメリカ ジョシュア・マイケル・スターン監督

チョイス! [DVD]

評価:★★★星3つ
(僕的主観:★★★3つ)

こういったアメリカの政治風刺のコメディーは、僕は好きなので、時々手にとります。ケヴィン・コスナーがさえないオヤジ役をやる政治コメディーでした。冴えないプアホワイトの白人オヤジの役でしたが、いや、どーみてもかっこいいだろう?(笑)って思いました。全体的には、こういうアメリカの政治映画の系譜の中では、コメディとしてはもう一歩だし、シリアスな風刺が効くという意味では傑作だったと思うジョン・トラボルタ主演の『Primary Colors(1998)』には匹敵しないし、、、ソツなくまとまっているけれども、個人的にには、びびっと来る作品ではありませんでした。とはいえ、後半は上手く感動的に落としているので、後味はとてもよく、ウルっとく作品でした。


ニューメキシコ州のテキシコというド田舎でほとんどプアホワイト一歩手前で、飲んだくれている主人公バド(ケヴィン・コスナー)。娘のモリーは大統領選挙について学校で作文を書かせられており、なんとか選挙に父親を連れ出そうと頑張るが、選挙日当日、結局は飲んだくれて選挙には来なかった。モリーは、選挙に必要な書類等を父親の代わりに持って待っていたので、選挙監視人の目を盗んで、こっそり投票しようとするが、電子投票機は、電源が抜けてエラーになってしまう。そのままモリーは逃げ帰ってしまうが、大統領選挙が、このエラーになった有効票によって決まってしまう!(笑)という状況になったことから、全米の注目はこの有効票の再投票権を持つ主人公バドに集まることになる・・・・


というお話。もちろんこのバドに大統領候補の二人が右往左往させられるという部分がコメディで、それを通して、飲んだくれで人生をあきらめていたバドが一人のアメリカ国民として成長していくというのがストーリーの本質ではあるんですが、『ブルワース』などに比べて個々の難しい問題、たとえばプロライフとプロチョイスなどの対立に何かメスをいれるわけでもなく、ひたすらコメディーとバトの精神的な成長という部分にクローズアップされているのは、エンターテイメントとしては安定するが、毒の部分がなく平均的な作品になってしまっている気がした。ドラマとしても、大統領が入れ替わって、数々の難題を解決していく!というような『DAVE』に比較するとカタルシスむ少ないので、映画としての出来は平均値であったと思う。同時に、極端な失敗もないので、安心して見れる作品でもある。


さて、平均値でした、としては面白くないので、少し系譜の流れを説明してみたいと思います。僕が「この系統」の物語をどう追ってきたかっていう情報の羅列です。


こうした政治風刺系で、ぱっと思いつくのは『Dave/デーヴ(1993)』『Primary Colors/パーフェクト・カップル (1998)』『The American President/アメリカン・プレジデント (1995)』『Man of the Year/ロビン・ウィリアムズのもしも私が大統領だったら・・・ / 日本未公開 (2006)』とかかな。それと、ハリソン・フォード主演でウォルフガング・ペーターセン監督の『エアフォースワン/Air Force One(1997年米)』とか、『24』の黒人大統領ディヴィッド・パーマーとか。ローランド・エメリッヒ監督の『Independence Day/インディペンデンスデイ(1996米)』とかも、いかにもアメリカ大統領です!って感じで笑えます。これって、アメリカ人ならば見て凄く面白いと思うのですが、日本人はそもそも大統領選の仕組みやアメリカ社会の政治問題点などが普通に分かるというわけにはいかないでしょうから、なかなかよく知られているものではないかもしれません。でも、アメリカの政治の基礎知識(本当に基礎!)ぐらいがあれば、とても面白く見れる作品です。僕はなんちゃってアメリカウッチャーとして、彼らの「大統領という存在」がどう認識されているのかのエンターテイメントの系譜を追うのは興味深いので、見つけては見ています。


もう一つ、ヒップホップの歌に乗せて白人の大統領候補うがぶっちゃけてすげー国民に受けるというコメディー(というかかなりシリアスな終わり方だったが・・・)があったんだけど、、、、ああっ、ウォーレン・ベイティ監督の『ブルワース/Bulworth』1998米だ。たしかで『チョコレート』のハル・ベリーの姿が見れて、おーかわいーと思ったのを覚えている。ちなみに僕は、ハル・ベリーの大ファン。この作品も、大統領選で全然相手にされて勝てそうにない政治家が、自分の娘相手に保険金受取先にして、大統領選の最後で殺されるよう暗殺者を雇ったところから物語は始まる。死を前にして、もうなんでもありだ!と思った主人公は、次々にタブー発言を乱発(笑)。そのおかげで、政治的にものすごい敵を作っていくことになるが、そのストレートさが受けて民衆からウナギ登りの支持を獲得していくことになるが・・・・自分が雇ったん札者が殺しに来るまで、刻一刻とカウントダウンが進む、という作品です。おバカなコメディなんですが、「死」を意識して、何か突き抜けた気分になった主人公が次々に、なかなか表だって言えないことを表に出していく様は、ただ単にコメディだけとはいえない、演技力の深みもあり、かつアメリカの恥部や暗部にガンガン踏み込む様は、よく知っている人からすると、「えっ、それ言っちゃうの!」っていうようなことばかりで、凄く面白いです。普通ああいう発言をガンガンいったら、アメリカでは暗殺されちゃうよーって思うもの(笑)。

ブルワース [DVD]



この中では、一番わかりやすく感動できるのは『DAVE』かなぁ。典型的な民主党系のお涙ちょうだいストーリーだけど、シンプルでわかりやすい。なんというか典型的な契約と再契約の物語ですばらしい。あらすじ全文をのせてみる。僕はこの作品は、本当に物語的で、何かを学べるような深さは感じないのでお薦めできないんだけど、、、大大大好きなんです。政治家の物語では、なんといってもフランク・キャプラ監督の『スミス都へ行く/Mr. Smith Goes to Washington(1939年米)』が最高の傑作なのだが、それと並んで、時々無性にみたくなるハートフルなコメディです。善良さとか素直に頑張ること、「いまの自分がだめでも精いっぱいできることを頑張ること」とかいう、いってみれば陳腐でバカバカしいようなことを、再確認させて強く肯定してくれる、勇気をくれる映画です。アメリカ大統領をどう見るか?とかいうことウンぬん抜きに素晴らしく愛している映画です。なかなか理由でもない限り手をとりにくい映画ですが、ちょっとホッとしたい時に見ると素晴らしい映画です。

※ネタバレ注意

ボルティモアで小さな職業紹介所を経営するデーヴ・コーヴィック(ゲヴィン・クライン)は、時のアメリカ合衆国第44代大統領ウィリアム・ハリソン・ミッチェル(ケヴィン・クライン)に爪二つ。彼の存在を知った大統領補佐官のアレクサンダー(フランク・ランジェラ)、報道官のアラン・リード(ケヴィン・ダン)、シークレット・サーヴィスのデュエイン(ヴィング・レイムス)の3人は、ホテルでの演説の後、雪隠れする大統領の身代りを1回限りの条件で、デーヴに依頼する。しかし、ミッチェル大統領が突然倒れ、意識不明の重体に。目新しい体験に浮き浮きした気分で状況を楽しんでいたデーヴだったが、大統領補佐官の強い主張で、無期限で大統領を演じる羽目になる。ことの重大さに悩むデーヴだったが、権力者側と自分自身の立場との関係に気づいた彼は決意した。デーヴはいくつもの難問に直面する。まずファースト・レディのエレン・ミッチェル(シガニー・ウィーヴァー)の目をごまかすこと。そして大統領の複雑な業務を一夜漬けで勉強したデーヴは、職務を次々とこなして行き、国民に親しまれ、ミッチェル大統領のイメージを一変させた。しかし、アレクサンダー補佐官は、密かに大統領の座を狙っていた。彼は誠実なナンス副大統領(ベン・キングスレイ)の汚職をデッチあげ、失脚させようとしていた。デーヴは、エレンが自分が影武者となった事情を知らなかったことから、補佐官の陰謀を知る。ホワイトハウスから逃げ出そうとするデーヴと、事実を知り家へ帰ろうとするエレンだったが、思い直して2人はホワイトハウスに戻る。デーヴはアレクサンダーを解任し、失業率を0%にする法案を提出する。しかしアレクサンダーは、大統領本人の不正を暴露した。それを受けてデーヴは,議会で謝罪演説をして、副大統領の不正はなかったと弁護、そしてアレクサンダーの所業を告発した。そしてその直後、デーヴは発作で倒れる演技をして、本物の大統領とすり変わった。ミッチェル大統領はしばらくして死去し、ナンスが大統領になった。1年後、市議会に立候補したデーヴの前に、エレンが微笑みながら現れるのだった。

http://movie.goo.ne.jp/movies/p10253/story.html

デーヴ [DVD]

スミス都へ行く
スミス都へ行く

アメリカの政治家ものの原点中の原点といえば、アメリカの良心を高らかに歌い上げるフランク・キャプラのこの作品でしょう。『スミス都へ行く/Mr. Smith Goes to Washington(1939年米)』。これも、既得権益を守る地元の利益誘導集団から、空席の上院議員の席を埋めるために、操り人形として出馬させられたスミスの物語。最後の議会での弁説シーンは、まったくもって空想としか言いようがないのだが、その熱き理想に、涙がいつも止まらなくなる。アメリカ文学の基調低音である「無垢な人間」が「世界の悪に触れる」という「アメリカのアダム」という基本テーマなのだと思うが、まだ文明に汚されてない純粋さをと尾東部アメリカンスピリッツの理想がここに結晶化している。少なくともこの実現不可能な(笑)理想をマジで信じていきるロマンティシズムがアメリカには生きているし、その原点がここだ、というのは押さえておいて損はないものだと思います。このへんは、アメリカについての大家、亀井俊介氏の『アメリカン・ヒーローの系譜』などを読んで見ると面白さ倍増です。ちなみに巽孝之氏のこの↓批評も凄く面白いです。イノセンスに関するアメリカ社会の捉え方の流れは、抑えるときっといろいろのものが見えてくるのだと思います。僕もなん茶ってのさわりしか知りませんが、アメリカ文学を理解していく上での基礎中の基礎にして奥義のような感じみたいですからね。


巽孝之『メタファーはなぜ殺される――現在批評講義』
http://web.mita.keio.ac.jp/~tatsumi/html/zensigoto/literati/kamei/americanhero.html



アメリカン・ヒーローの系譜
アメリカン・ヒーローの系譜

ちなみに、『アメリカン・プレジデント』は、妻に先立たれている独身の仕事一筋の合衆国大統領アンドリュー・シェファード(マイケル・ダグラス)が、シドニー・ウェイド(アネット・ベニング)に一目惚れするという大人のラブロマンス。だからなんなの?といわれればそれまでだが、こわもてのマイケル・ダグラスが、恋に落ちていく様は、なかなかぐっと来る大人の香りが漂う。『大統領になったら―アメリカ大統領究極マニュアル』というマニュアル本があるんですが(笑)、これと同じで、個々の住人だったら?と想像力を働かせるのに、つまり「その人」がどんな日常を送っていて、どこに住んでいて、どんなふうにご飯を食べて、とかそういうことがよくわかって面白い。いってみれば、日本でいえば天皇陛下、イギリスでいえばイギリス国王とかそういったすっげー雲の上のセレブリティーなわけで、そういった人の日常を見るのは、なかなか面白いです。


http://ameblo.jp/petronius/entry-10000751578.html


アメリカン・プレジデント 【ザ・ベスト・ライブラリー1500円:2009第1弾】 [DVD]


大統領になったら―アメリカ大統領究極マニュアル
大統領になったら―アメリカ大統領究極マニュアル


ちなみに、おおこれわっ!!!って思ったのは、クリントン大統領の暴露本の映画化をした『Primary Colors(1998)』。これは素晴らしかった。というのは、全米で歴代かなり上位で人気を誇るクリントン大統領の政治家としての、凄さを感じるシーンがあったので。

大統領選に出馬した州知事ジャック・スタントン(ジョン・トラヴォルタ)とその妻スーザン(エマ・トンプソン)はキャンペーンに追われる日々。大学での出会い以来、持ち前の楽天的な性格とコネで政治の道に進み州知事に登りつめたジャックと、彼を支えながら自らエリート弁護士として辣腕をふるったスーザンは結婚、世間からは完壁な理想の夫婦と見られていたが、さにあらず。ジャックは女グセが悪く、キャンペーンがはじまった矢先から不倫暴露テープの発覚、逮捕歴疑惑、妊娠騒動とスキャンダルが連続浮上。選挙対策本部長のヘンリー(エイドリアン・レスター)はそのたびに対応に追われ、凄腕の選挙コンサルタントのリチャード(ビリー・ボブ・ソーントン)やスキャンダル潰しのプロであるリビー(キャシー・ベイツ)らの協力を要請したりとてんてこまい。夫に愛想をつかしながらも未来のファーストレディとして理想の夫婦を演じ続けるスーザン。彼女はジャックを誰よりも一番理解し、ジャックも浮気を重ね、失敗を続けながらも、そんな彼女を誰よりも心の支えにしている。かくして結局のところ愛し合っているふたりは、共に世間の荒波を乗り切っていこうとするのであった。


http://movie.goo.ne.jp/movies/p31344/story.html

というのは、前に記事でも書いたのだが、この作品の中で、毎朝夜が明けないころからジョギングをする習慣のある大統領が、まだ朝誰もいない店で働く黒人の青年のコーヒースタンドでコーヒーを飲むシーンがあるんだけれども、貧しい人々に分け隔てなく接し、心からの優しいぬくもりを投げかけるシーンは、まさに『マイライフ』の自伝にある通り、人間の善も悪も酸いも甘いもちゃんと見た上での豊かさを感じるんです。ああ、苦労して上り詰めてきた人の、なんというか、非常に等身大のおごりのない視線。・・・・けれども、その陰で、、、いや陰ではなく同じ1枚のコインとして、平気でレイプなどをもみ消して上昇志向を目指す貪欲で汚い行為に周りは疲弊していきます。そして、間近にいて疲弊した支持者たちは、どんどん切り捨てられていく、、、、。これが本当かどうかはともかく、この矛盾したものを一つに抱え込む、、、、その悪と善を包括的に抱え込む人間性の大きさを経の洞察力に僕は震撼しました。この映画と、ビル・クリントン大統領の素晴らしい自伝を同時に読むと、「両義的」という言葉の意味が凄くよくわかるようになります(笑)。


パーフェクト・カップル [DVD]

マイライフ クリントンの回想 MY LIFE by Bill Clinton 上
マイライフ クリントンの回想 MY LIFE by Bill Clinton 上

プライマリー・カラーズ―小説アメリカ大統領選〈上〉 (ハヤカワ文庫NV)



ちなみに、なかなか時間がなくて少しづつしか見れていないが、こういう系譜を追いながら、下記の作品を見るとやめられない。


ザ・ホワイトハウス〈ファースト〉 セット1 [DVD]