『革命 仏大統領マクロンの思想と政策』 Emmanuel Macron著 親グローバリズムでEU強化を訴えながら民衆から支持を受けて選ばれる流れはカナダのJustin Trudeauの流れと似ていて、トランプ政権の傾向と逆方向ですね。

革命 仏大統領マクロンの思想と政策

客観評価:★★★★4つ
(僕的主観:★★★★4つ)

■読んだきっかけ

トランプ大統領の登場により、多くのメディアは、グローバリゼーションや地球温暖化対策は曲がり角に差し掛かったと報じた。ブレクジットについてもEUの将来を悲観的に見る報道が多かった。しかしフランスでは、グローバリゼーションを真正面から受け止めEUの強化を愚直なまでに訴えたマクロン大統領が誕生した。

中略

もっとも、政治家は、理念や思想ではなく結果で評価されるべきなので、この先マクロンがどんな結果を残すのか、とても楽しみだ。わが国では誰しもアメリカのことは学ぼうとするが、このような個性的な政治家を生み出したヨーロッパの懐の深さにも、学ぶことが多いのではないか。リーダーは、何よりも、確固とした国家観を持たねばならない。リーダーを目指す全ての人に勧めたい良書だ。

『革命 仏大統領マクロンの思想と政策』 出口 治明2018年06月14
http://honz.jp/articles/-/44803


読んだきっかけは、単純です。出口治明さんが紹介していたから。しかし、それ以上に、ここで示されている視点が、読むにあたって凄く指針になり、読むに値する現在的なテーマだと思いました。というのは、排外主義的で反グローバリズム保護主義的なトランプ政権、連合王国のブレクジット、日本の安倍政権など、傾向的に似ている流れがあるように思えるとことで、はっきりと逆の方向を示しているのがカナダやフランスだと思っていて、なぜこのような真逆の政治状況が生まれるのかにとても興味がわいたからでした。また私はアメリカに住んでいるので、トランプ政権の動向や、深く根付くアメリカの感情的な反応は日々実感しますし、同様に日本の雰囲気や流れにも直感が働くのですが、フランスなどヨーロッパ、しかも現在の流れとはまるで逆の方向のものは、よくわからなかった。なので、凄くいいチャンスでした。


またこれを読んで思ったのは、出口治明さんがシラク三原則をよく例に挙げるように、むしろ、日本としては、フランスの事例のほうがはるかに類似性というか、適用可能性が高く、例としてはアメリカやイギリスよりもはるかに役に立つのではないかと唸らされました。起きている現象や国の構造がとても似ているのが驚きでした。




■右でも左でもない何かに向かって進もう


大統領選挙直前に書かれて出されている本なので、青臭く、観念的ではあるが、さすが、39歳フラン史上最年少大統領(ナポレオン3世が40歳)になるだけある、課題山積みの成熟先進国の問題点を、俯瞰的に網羅していて、ため息が出るインテリぶりだ。大統領に当選する前に書かれたこともあり、公式回答のような優等生ぶりを感じるので、その辺を差し引かないと、政治家のマニュアル答弁のような感じがするので、少し読みにくい。テーマの読み方としては、やはり、イギリスのブリクジット、アメリカのトランプ大統領、日本の安倍首相と、反グローバリズムで、右寄りで排外主義的かつナショナリズムの傾向が強い現代のの傾向に、カナダのトルドー首相とともに、明確に、親ヨーロッパ(EU統合)、グローバリズムをベースにする逆の傾向を持つ政権で、フランスが極右の国民戦線マリーヌ・ルペン氏ではなく、なぜ彼を選んだのか、が知りたかった(もちろん、出口治明さんお受け売りですけどね!(笑))。


「右でも、左でもなく、前へ」というスローガンがまさに、はっきり表している。変化の希求を、右でもなく左でもなく示すことができたのが、勝利につながっている、30代というのもあるが、ザッカーバーグら、新世代の匂いがとてもする。彼らは、イデオロギーの右や左では踊らない感じがする。というのは、この右でも左でもなくというのは重要で、アメリカの例を見ると、アメリカで前回の2016年の大統領選挙で強い支持を集めたのは、極左バーニーサンダースさんと、右翼というわけではないが排外主義的な右寄りの姿勢を示したトランプさんだった。これは、より極端なものに、反応する先進国中間層の意識を反映していると思う。なぜ、極端なものに反応するのか?というと、これも出口治明さんの受け売りですが(笑)、象のカーブといわれる下記の図を見てもらえれば、この20年以上、先進国の中間層は希望のないどん底状態を味わい続けていることがわかります。また格差が広がっています。以前、希望は戦争(赤木智弘)、という過激な意見がありましたが、格差の是正というのは、ほぼ大戦争によってしか歴史的には是正されていません。なので、とにかく方法は、どんなものでもいい(言い換えれば倫理的とか道徳的な話を言う時代は終わった)から、この悲惨な現状を変えてほしいという強い意志が、中産階級にあるんだろうと思います。なぜ極論なのか、といえば、中道の意見では、結局は現在のグローバリズム公邸で、漸進的に進むという中庸的なものが正しいことになってしまうからです。まさにこの辺りの、道徳的にも中道で、かつ経済政策も中道だったのが、王道の選挙戦略を歩んだヒラリークリントンさんですね。なので、経済政策的には大きな政府保護主義共和党と逆じゃん!)という中道政策を主張し、道徳的に極右的な排外主義をブっtパなしたセンセーショナルトランプさんのマーケティングセンスは、秀逸だったとしか言いようがない。ここに反応して動いたのは、彼しかいなかったのだから。


丸山眞男」をひっぱたきたい 31歳フリーター。希望は、戦争。
http://www7.vis.ne.jp/~t-job/base/maruyama.html


大不平等――エレファントカーブが予測する未来


グローバリズムによる中間層の没落は、象のチャートを見るまでもなく、中間層(ボリュームゾーン)の人々の、明確な変化への要求につながっている。変化は「既存の古い仕組みや既得権益」を壊すものでなければならない。この「壊す」ことは、極左と極右と相性がいい。極論を言うので、明らかに現状打破になるからだ。没落する中間層にとっては、とにかく現状が変わってくれれば、なんでもいいのだ。「変わらない」選択だけが拒絶される。



というなかで、しかも、ブレクジットが起き、EUドイツ帝国だ!と言われるような状況下の中、フランスの選挙で、なぜ新グローバリズム、新EUマクロンが勝てたか、はとても興味深い。その手掛かりになる本だと思います。




また興味深かったのは、フランスの成熟先進国としての課題が、非常に日本と類似性があることに驚いた。アメリカ社会ばかり追っていたのだが、むしろ国としての問題点の類似性は、フランスも方が圧倒的に近い。先行する課題先進国として、人口減少に歯止めをかける政策が、はっきりとモデルとして存在しているのは、僕は素晴らしいと思う。同じことをすれば、確実に日本も人口を増加させることができるからだ。むしろ、日本のモデルとしては、とても価値があるように見える。


しかし、とても観念的かつエリート的なにおいが激しいので、現実にこれができるかが、とても要チェック。とはいえ、彼ができるかどうかだけではなく、こうした人を選ぶフランスの構造的要因が知りたい今日この頃。



というわけで、うちの読書部の課題は、次はこれ。しかもレスター伯爵による講義つきの予定。ライシテの伝統を考えて、共和派の伝統を追わないと、より深くはわからないだろうなと思う今日この頃。読書が楽しすぎてたまらない。



十字架と三色旗――近代フランスにおける政教分離 (岩波現代文庫)