マブラブのシェアワールドとしての楽しみ方〜オリジナルとその他の可能性を追求した同人的物語群の補完機能

マブラヴ オルタネイティヴ - PS Vita

マブラヴ オルタネイティヴ - PS Vita

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 5pb.
  • 発売日: 2016/01/21
  • メディア: Video Game


■正伝の歴史の全体像を把握する〜オリジナルとその他の可能性を追求した同人的物語群の補完機能

マヴラブシリーズの世界観について、僕は一つの問題としてあるのは、「正史」が完結していない、ということだと思うです。確かに、タケルの主観の物語としては、『マブラヴオルタネイティヴ』で物語は完結しました。「あいとゆうきのものがたり」です。けれども、よくよく考えると、タケルの去った後も、ベータ大戦は継続しています。なによりも、「ベータとは何者なのか?」というこの作品の基盤の一つであるSFの最大級の問いが明らかにされていません。また僕としてはこの作品を見た時に、なぜだか無性に彩峰中将の光州の悲劇(時系列的にはタケルが来る前の話)が見たくて見たくて見たくてありませんでした。この「以前」と「以後」を見たいという欲求は、オリジナルをやるだびに高まりました。そこで友人のDDDさんより、さまざまな質の高いSSを紹介してもらうことによる、この穴の部分が埋まるようになってきました。こんな楽しみ方もあったんですね!。最高です。オリジナルとその他の可能性を追求した同人的物語群の補完機能。このような物語の「読み込み方」に出会えたことを、アージュにに感謝します。そしてオリジナル、、、ここでは正伝と呼びましょう、が非常に高い歴史・大河的な物語機能を持つときには、その周辺のシェアワールドという機能が要請されるという仕組みわかってきました。その後、たくさんの派生的ショートストーリーの果てに、クロニクルズ(=年代記)という本編の続編に位置付けられる物語が商業リリースされたことも、僕の仮説を裏付けます。


はっきりいって、マヴラブシリーズは、超弩級のレベルの作品です。ガンダムサーガに比すべきポテンシャルをもってると僕は思います。というのは言い過ぎか、売上規模の差を考えると(苦笑)。まぁファンだからねー、凄く大きく見えるもんです。・・・しかし、構造が、大きな歴史を軸として、その設定自体が広がりと歴史を持つ構造は、非常に似ているもので、これに近いものというのはあまりありません。ガンダムと似ているというのは、マーケティング的にもそうですし、物語の内在のポテンシャル(=舞台が歴史にできるという基盤の安定性)としてもそうです。


でもだとすると、やっぱり、「タケル以後」のベータ大戦の「結末」のオチをつけて、本編のメインストリームど真ん中の結論を出してほしい、と思ってしまうのです。『クロニクルズ』も確かにいいです。けれども、スピンアウトや断片のエピソードの展開はもちろんですが、それがさらにサーガとなって、巨大な広がりを持つには(って既にかなり持ちつつあるところが凄い作品なんですが・・・)やっぱりオリジナルのサーガの結末をつけてほしい気がします。それが売れるかどうかとかかかる費用を考えると、、いろいろな条件はあるでしょうが、僕は一消費者なので、思うところはやはり、この最高の物語の全体像を語りきってほしい!です。そしてその上で、スピンアウトや断片のエピソードを思いっきり展開してほしい、と思います。まぁ販売の時系列はどうでもいいんですが、実際のところファンとしては。


・・・が、とはいっても、ガンダムの初のスピンアウト『ポケットの中の戦争』とか様々な小エピソードと違って、マヴラブシリーズは、既にその前半部分(?って勝手に僕が前半と思っている(苦笑))で、「語られていない本編」というか「語られていない歴史」が存在しています。本編でかなり説明されているにもかかわらずです。たとえば、タケルの出来事(桜花作戦)までの前の歴史になる東アジアに限ってみても、中国大陸に大東亜連合として参戦している日本北支派遣軍や朝鮮半島での彩峰中将の光州の悲劇、それに、九州の陥落とそれに続く京都防衛戦争、同盟国アメリカ軍の撤退、新潟防衛戦、関東防衛戦、そして明星作戦による横浜ハイブ奪還作戦。これだけの主要なエピソードが書かれていません。タケルが主人公としていないから(もしくはタケルのヘタレたたきのめし成長物語というコンセプトから外れるから)、といってしまえばそれまでですが、僕はふと思うのですが、『マヴラブオルタネイティヴ』はタケルの主観で描かれているために、「ここ」のエピソードが実は空白に感じるんですよね。これが見れればもっとリアルにこの世界をとらえられるのに、と痛切に思います。オリジナル本編をやればやるほど、特に最も愛する、クーデター編の素晴らしさに打ちのめされるために、「ここに至るまでの経緯」・・・特にマクロ的な経緯が、知りたくて仕方がないんですよね。




しかし!けれども、桜花作戦以後のベータ大戦はまだほとんど語られていませんが、公式設定にいくらか出ているのをよすがに、上記の空白を描いたSSは結構あるんですよね。それも、なんじゃこりゃ!というレベルの傑作で。少なくとも、僕は、こりゃー凄いなぁーと思うレベルが結構あったんで、ビックリしました。こういうものがあるのって幸せですね、ファンとしては。もともと『マヴラブオルタネイティヴ』は、舞台設定がものすごく見事に作られているので、きちんとした全体像の理解と設定を使うだけの物語る能力があれば、相当のものが書けます。構造が凄くしっかりしているんですよ。逆にそれだけ制約が大きいということでもあるのかもしれませんが、構造を考えると、物語として必要な核の部分がそろっているので、それを基盤に展開するのは容易だろうなーと思います。実は、このSSをたくさん読んでいて、クロニクルズのようなスピンアウトをまとめるようなコンセプトが出てくるのは、よくわかります。そして、これらのSSを下記の時系列の順で追っていくと、この空白をかなりのレベルで埋めることができるんですよね。ちなみに、僕はこれらの作品群で良質なモノを読み進めていくうちに、オリジナルの面白さのコアがかなり分析できたと思っています。意外な視点でしたが・・・それはまた今度にお話します。


僕はそれなりに読んだけれども(全部読んだわけではありませんが・・・いいのあったら推薦してくださいね)、下記にあげるのはその中でも別格に面白かったもので、かつ、ほとんどオリジナルの本道のサーガをすべて再現しているといっても過言ではないというか、ちゅーかこれどう考えても公式設定で成り立つんじゃねぇ?というような感じのものです。まぁ公式をちゃんと参照していないので、このへんは、まぁ実際はよく公式設定とか知っているわけではないので、てきとなー感覚ですが、時系列を頭の中で再構成すると、オルタ本編の空白の前エピソードがかなり埋まるんですよ。とにかく相当数のSSを読んでこの、日本陸軍中国大陸派遣軍や大東亜連合軍との共闘の部分(samuraiさんの『帝国戦記』第一部)から、京都防衛線のDDDさんの『帝国の守護者』、京都を抜かれ関東まで攻めのぼるベータの防衛線を書いたmitsukiさんの『水星作戦』とかとかって、もう僕の中ではあまりに素晴らしいので、歴史として刻まれちゃいました(笑)。いや、大きな流れは、満州が陥落して、朝鮮半島が陥落して、そのまますぐ九州、京都、関東近辺まで攻め落とされていくのは、たぶん事実なので、その中のエピソードしてみれば、これはたぶん歴史として成り立ってしまうと思うんですよね。別にオリジナルのキャラが出てくるわけではないので。僕がお薦めする順番は、下記です。5)の小清水さんのMuv-Luv [another&after world]は「以後」の作品で独立しているので、これは先に読んでもいいかもしれません。物凄くよくできているけれども、構造的には、オリジナルと同型のことの繰り返しなので、新しいことがあるわけではありませんが、これがまたすっげぇできなんだよ。オリジナルと同型のレベルって、そもそもオリジナルが超破格なんだから、すごいっすよ。その記事はここで書きました。

http://d.hatena.ne.jp/Gaius_Petronius/20100612/p1

1)第一部/北東アジア全域から朝鮮半島陥落まで(完結)
『帝国戦記 第一部』 samurai著
http://mai-net.ath.cx/bbs/sst/sst.php?act=dump&cate=muv-luv&all=7678&n=0&count=1

キャラクターとしては、、、、うーん、特に偏愛するのはいないのだけれども、、、、どのキャラクターも魅力あふれるんだけど、何よりもそれらが群像劇で織りなす関係が非常にいい。ずっとこの世界にいたいと思わせるものがあって、僕の中で、主人公のカップルは当然として、神楽や広江少佐や愛姫や圭介ら蒋翠華、朱文怜は、そこにいるような実在感がある・・・。まぁもう何回も読み返しているからなー。


http://www.mai-net.net/bbs/sst/sst-lay-test.php?act=dump&cate=muv-luv&all=20952&n=0
1.5)第二部/九州上陸から〜現在連載中
『帝国戦記 第二部』 samurai著

2)京都防衛線
『帝国の守護者』 DDD著
http://mai-net.ath.cx/bbs/sst/sst.php?act=dump&cate=muv-luv&all=4280&n=0&count=1

3)
『等身大の戦場』 grenadier著
http://www.mai-net.net/bbs/sst/sst-lay-test.php?act=dump&cate={cate}&all=9990&n=0#kiji

一色晏実ちゃんがかわいいです!。このボケ具合たまらない。特に、アンバールへの道(4)での京都防衛線を回想するシーンで、夜空を颯爽と描けるトムキャットのブラックナイツ隊の話は、胸に残った。その後、アメリカ軍は日米安保を破棄して、日本から撤退するのだが、それでもアメリカ軍の太平洋最精鋭部隊が、そこで大激戦を繰り広げたこと事実はかわらず、帝国戦記の2部で、そしてDDDさんの京都防衛線の話と絡めて、同じ局面で様々な多層な視点があると思って、ぐっときました。


4)明星作戦の直前の状況
戦場の片隅で「鬼と花」『水星作戦』 mitsuki著
http://mai-net.ath.cx/bbs/sst/sst.php?act=dump&cate=muv-luv&all=14231&n=0&count=1

この石動少佐がもう偉くかっこいんだよ!。バトルマニア。まったくマクロ無視で、ひたすら戦うことの手ごたえ「だけ」を愛する男、がおもわず、出自のせいで斯衛に戻されたり、将軍を含む訓練部隊の教官になったり、喧嘩していた相手が思わず自分の婚約者だったりと(笑)、物凄くごついハードな性格に似合わないことばかりおこるのが最高です(笑)。ああーこの続きが止まっているのが悲しい。本当に素晴らしいのに。samuraiさんも、mitsukiさんも非常に良くわかっているな、と思わせるのは、「日本の持つ政治的な力学」がわかっていること。斯衛という存在が、近代国家の議会や内閣と言った権力とは別に、存在してそれが皇帝との関係で二重権力になっているある種の私兵であることなど、よくよく冷静に見れば当たり前のことが、作中の人間関係に良く反映されている。「これ」が描けないと、日本近代は描けないと思うんだよね!。

本編
マヴラブ』本編

マヴラブオルタネイティブ』本編

5)
Muv-Luv [another&after world] 小清水著
http://mai-net.ath.cx/bbs/sst/sst.php?act=all_msg&cate=muv-luv&all=1152

6)その他

マブラヴオルタネイティヴ(偽)(仮) / マブラヴオルタネイティヴ(偽)  USO800著
http://mai-net.ath.cx/bbs/sst/sst.php?act=all_msg&cate=muv-luv&all=1120

二次創作/SS/〜(略)〜 情報
http://sitennsi.blog98.fc2.com/blog-category-14.html


ちなみに、これら同人作品の中で断トツかつ珠玉は、なんといってもsamuraiさんの『帝国戦記』です。これは、はっきりって、物凄い!!!。その他の作品も、凄い面白いのですが、僕がダントツイチオシになる理由は、まず第一に僕の最も見たかったものを描いてくれること!ということ。光州の悲劇で僕が見たかったのは、東アジアのマクロ構造で、それが見事に戦争を通して!!描かれている。僕は「失われた日本近代史」という視点でこのへんを継続的に調べていますが、まさにその興味にピンポイント精密爆撃をされた気分で。もう一つはこれも同じことですが、マブラブ本編の「前史」の東アジア部分がが通史的に理解できるところ。これだけのボリュームをこうした全体像を念頭に置きながら、しかも物語としての楽しさを全く失わないで書き続けられるのは、驚異ですよ!。まだ中国大陸や朝鮮半島がベータに落とされていなかったころの、東アジアの政治力学のマクロを見事に説明してあり、そしてその中で戦う兵士の話がそれに見事にリンクしている。主人公は、順調に新任少尉から大尉へと出世していきますが、難民を守るために難民の一部を殺した罪で国連軍へ出向させられて欧州に出向いたり、より上位の任官のための教育目的で1年間アメリカの大学に留学させられたりと、なんというか、物凄いリアルなので、その一兵士の成長の仕方が。しかも、この時代の北東アジア、日本、欧州戦線、アメリカ合衆国のすべてを転勤で回っていく主人公を見ていると、この世界のなんちゅーか、、、、これ、戦前の兵士の出世の流れと凄い似ているかも、、、と思わせてしまうくらい。・・・・でも見たくありません?。ベータ大戦時のヨーロッパの状況や後背地になっているアメリカとか!。なぜって、これらに先程の東アジアの政治力学が加われば、日本帝国になぜクーデターが発生したのか、榊首相の描いていたビジョンはなんだったのかが、すべてわかるからです。というか、、、、これを読んでいると、全世界の政治構造って、ベータ大戦などという大きな出来事がユーラシア大陸を覆っても、極端には変わらないんだなーと思ってしまいました。まぁ、もちろんこの時代の戦争を描けば、下敷きは第二次世界大戦になるので、それににして書くからかもしれませんが。現代でも、そんな極端に変わっていない気がします。

さて、samuraiさんの帝国戦記の解説は、次に譲りましょう。いろいろ書きたいことが多いので、次で。