物語三昧のなんちゃって2010年ベスト 小説部門

2010年の特筆すべきことは、i-phone(モバイルスマートフォン)に変えたこととちょうど、まおゆうに出会ったことで、読んでいる物語の範疇にネットの小説や漫画が入ってきたことがあげられる。僕は、かなり厳選して自分の好みにカスタマイズして消費物を取捨選択しているが、それが自分のみのことなのか世の中がそうした垣根が変化してきたのかはまだ分からないが、少なくとも、そうは言ってもそれほど読んでいない小説にこれだけのレベルのものを見つけられるのは、玉石混交なだけではなく(それはもともとですよね)、それをフィルタリングにかける機能が揃って来つつあるってことですよね。2011年も楽しみです。

第1位:『まおゆう魔王勇者 「この我のものとなれ、勇者よ」「断る!」』 橙乃ままれ
まおゆう魔王勇者 1「この我のものとなれ、勇者よ」「断る!」

今年の断トツの最高峰。そして、同時に僕が人生で読んできた物語としては、最高峰に位置づけられる作品。僕の物語三昧のテイストが好きだと思ってくれる人は、絶対に読まないと人生を損をしていると思います、というレベルです。僕の物語論の軸であるいくつかの問い、、、「善悪二元論の果てにいったいなにがあるのだろう?」や「役割に縛られて生きている人間の自由とはいったい何のか?」というような答えの出ない難問に、真っ向からぶつかって、真っ向のスペシャルオーソドックスな手法でそれを突破している超弩級の物語。そして、これが「にもかかわらず」めちゃめちゃ面白いエンターテイメントである、というところに凄味がある。80−00年代の集大成であり一つの答え。そして、物語作家、橙乃ままれの誕生。次作の『ログホライズン』も最高の出来です。webで検索すればすべて読めるので、読みましょう。常識で考えて、ウェブで読めるモノは買わないよな、と思いそうなものだが、まおゆうは、もうそういう理屈を超えて僕は手元に置きたい。だって、ぼくの子供たちにも読ませたいもん。

第1位:『ログ・ホライズン』 橙乃ままれ

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一位はセットになるんだろうなー。まおゆうは、ある意味、異端児というか特異点な物語なので、もっと通常の小説の形態にして「同じ本質」を描けるかというのは、小説家として問われるところで、それを見事に見せてくれたのに衝撃を覚えました。まさかお金も取らないネットにこれほどの名作が転がっていようとは、本当に衝撃を受けました。00年代には、その帰結として「終わった後の物語」が志向されていた気がします。たとえば、おがきちかさんの『ランドリオール』。これは、勇者がお姫様を助けるために龍を退治する、という典型的な「めでたしめでたし」「から」物語が動き出し、広がりを見せた作品です。まおゆうもそうですが、これまでのエンタメであった「基本類型」の「終着点」の先に何があるか?という形式は、作者の力量を問われますが、00年代を通して見られた傾向だった気がします。ちなみにログ・ホライズンの仕掛けにも似たものがありますが、これはまだ連載中ということもあり、ネタバレは避けましょう。ただし一点。やはりこの作品もまおゆうや00年代の帰結の「ルールを書き換えることを志向する」というメタ的なモノをそのまま物語に、メタとしてではなく、普通に行われる行為(=実は隠れてい選択肢の一つ)として描かれているところに、その並々ならぬ新奇さと素晴らしさがあります。超おもしろいです。

第2位:『猫物語(白)(黒)』 西尾維新
猫物語 (白) (講談社BOX)猫物語 (黒) (講談社BOX)

人が内面で決意する話は、大好きなんですよね。『化物語』の真のヒロインことパーフェクトワールド羽川を、自らの手でうち壊し、自ら玉座を下りる話。前の書評で、下り坂の自分を認めることができれば、それは本当に自己を認められていることなんだろうと思うと書いたことがあるが、まさにそれ。自分を虫(=ウィンプ)だと認められるやつは、きっと人間だと思うのだ(byマスターキートン)。彼女が「告白しなきゃ駄目なんだ」と語る時、不覚にも胸が熱くなって、ぐっときました。僕自身は、白が好きなんですが(パンツの話ではないですよ!)これは、二つセットで考えるべきものなんだろうと思います。暦が、そのままの羽川でいいと言ってくれたから(=黒)こそ、そのままの自分では駄目なんだ!と行動にうつすこと(=白)ができたんだと思います。00年代の結論の一つは、「考えているだけじゃだめ」で、「行動に移せ!」というものでした。またその流れとして、「行動した行為すべて」は、責任が伴うことを突き付けられる流れがありました。そういったものをすべて、見事なエンタメで描き切ったところに感心です。ましてや、『化物語』のシリーズ「在り方」への挑戦は、セカンドシーズンにふさわしい。

第2位:『1Q84』 村上春樹
1Q84 BOOK 3

これ、記号的に、常識的な構造で考えると、4がないとおかしいですよね。それは、男性の一人称視点から、女性の視点へ、対幻想の視点を描けたので、次は家族の視点(=共同体の絆)になるはずなので。村上春樹は、日本の文壇からは無視されている人だが、世界の文学の文脈とエンターテイメント性と日本社会の同時代性を兼ね備える作家だと思う。日本のエンタメと同時代性で語りすぎると、そもそも日本文壇から無視されて、日本社会において射程距離のない島宇宙化した「語り」になってしまうので、本当は世界の文学とりわけアメリカ文学の視点から語るべき作品なのではないかと常々思う。機会があれば、書いてみたいものだ。でもまぁ僕のアメリカ文学の知識では、難しいかもなー。この作品の重要な点は2点。1点は、女性が一人称になって、村上春樹の作品に「僕」以外の初めての人間が登場したこと。それによって、世界が「風景」であったことから、ちゃんとした「世界」になったのだが、そのメタファーとして、第二点目の並行世界という世界認識を描写することになった、ということ。

第3位:『マンチュリアン・リポート』 浅田次郎
マンチュリアン・リポート (100周年書き下ろし)

僕は「失われた日本近代史」というテーマで、本を読んでいる。同時に、日本から見た世界史だけではない「北東アジアから見た歴史」を、通史として「体感したい」と願っている。その時期から、素晴らしく読みやすいエンターテイメントとして清朝末期から中国の近代化までを描く『蒼穹の昴』『珍妃の井戸』『中原の虹』そして『マンチュリアンレポート』という作品群に出会えたことは、読書を愛する書痴として、本当に幸せだ。それにしても、浅田次郎さんは、他の作品はともすれば軽過ぎて僕にはあまり会わない文体なのだが(どうせ文学を読むのなら重く堅い文体が僕は好き)、テーマが膨大かつ深く重いだけに、その軽さが逆に素晴らしく味の雰囲気を醸し出して、本当に素晴らしい。特にこの時代を読む補助線になって、本当に分かりやすい。最初に昭和天皇に呼び出されて、ある一大尉が「なぜこうなったか?」ということの意見を述べるシーンがあるんだが、日本側の政治力学を非常に分かりやすく噛み砕いてあり、分かりやすさにぐっとうなった。

第3位:『お家さん』 玉岡かおる
お家さん〈上〉 (新潮文庫)お家さん〈下〉 (新潮文庫)

金子直吉の話は、城山三郎の『鼠』で有名なのだが、この作品は、鈴木商店のオーナーであった鈴木よねという女性の目で描かれている。そこが一風変わった日本近代資本主義の「共同体的経営」の姿を、実は深く抉っていると思う。鈴木よねという人は、当時のアメリカのフォーブス誌の世界長者番付で男性部門の第一位がロックフェラーで、女性部門のトップを飾った人です。大正時代に、三井、三菱をしのぐ大商社、大財閥の鈴木商店のオーナーですからね。そんな会社があったことすら知らない人が多いと思いますが、現代の大会社のいくつもがこの金子直吉によって生み出された、日本の産業の父の一人と言っても過言ではない人です。また鈴木商店は、特に穀物取引で世界的な名声を得、当時の小説に「スエズ運河を航行する船舶の10隻に1隻は日本の鈴木に属すといわれ、そのシンボルマークは世界中の海で見ることができる」といわれました。読むにあたって面白い視点は2点。一点は、オーナーである鈴木よねに絶大な信頼を得て、辣腕をふるった希代の名経営者金子直吉との「関係」です。信頼と愛情という、現代の力のバランスによって制御する株主資本主義ではあり得ないような日本的共同体の真髄が見ることができます。またそういった同族経営のオーナー志向が、産業の育成と凄まじいスピードの対応力と次世代のリーダーの育成に非常に効果があったが、故に大恐慌期に近代的経営システムがなく、経営的に優良な企業をたくさん持ちながら、つぶれてしまったことです。もう一つは、金子直吉後藤新平の関係です。鈴木商店が、後藤新平をバックにつけた台湾銀行を背景にしていたことから、非常に「国家にとって価値のある産業の育成」という視点をを持って事業を運営していた点、そして、新植民地台湾を、近代的資本主義システムに組み入れていく過程です。これにはぞくぞくします。新領土の獲得が、商売人にとってどれほどのゾクゾクする面白さをもたらすかを、まざまざと見せつけてくれます。

第3位:『天地明察』 冲方

天地明察
一言で言うと、新しい江戸時代の側面に光をあてる物語。この作品の大きく支配するマクロの背景の設定が、とても今の時代に合っていると思う。というのは、3代家光政権の後の、武断政治による戦国時代から平和な民衆を中心とする社会を構築する、その境目の、これから始まる「終わりなき日常」への転換点を描き、そんな「大きなマクロので変化がない平和」な社会が構築されていく中で、その中でさえも、自己を燃やす世界を変えるようなことができる!という渋川春海の生きざまは、僕らにとても希望を投げかけてくれる。彼は、碁打ちの名家安井家の長男であり後継者ではあるが、「部屋住み」に近い身分。自分の「立場」がはっきりしない、「本当にやりたいことが見つからない」フラフラした人生を送っている。けれども、家業である碁も捨てきれない、という中途半端を絵にかいたような人生。そんなかれが、関という天才数学者と出会い、、、って実際になかなか出合わないのだが(笑)、自己の使命を見出していく様は素晴らしいビルドゥングスロマン。漫画の曽田正人さんの『昴』なんかを思い出したが、とにかく夢中(夢の中にいるように周りが見えなくなること)で生きていく人間の、ひたむきで、いちずで、天然さを凄く感じる。 話が前後したが、主人公の渋川がこの時代に日本の暦を変えるきっかけになるのは、日本に平和な民衆を基礎として社会を建設する!という保科正之の天才と理念がその背景にある。基本的に、あまりにいい人ばかりしか出ないので、きっといろいろな補正が物語的にかかっているのだろうとは思うが、それにしても、この保科正之という2代秀忠の御落胤にして、事実上の徳川政権の基礎を作った大政治家の凄味には圧倒される。話半分に差し引いても、この人が、徳川300年の平和社会を、江戸の社会を、織田信長にも、豊臣秀吉にも、徳川家康にもやりきれなかった軍人が社会を支配する時代から、軍人が必要とされない平和な大衆社会に移り変わる「大構造改革」をやりぬいた男・・・・大火の後に天守閣(軍事基地)を再建しないことや、軍事的に都市が丸裸になる玉川上水の建設、言い換えれば上下水道の整備など、、、軍事社会を基礎とする武士社会ではあり得ない政策の断行、そしてそ総決算として、「暦」を変える、、、公家、武士、僧侶、民衆を巻き込んだ一大イベントの挙行・・・・すべては、保科正之の天才と理念がその背景にあった、というのは、素晴らしく面白かった。もちろん、本当かどうか?は、単純ではないとは思うが、いろいろな本を読むにつけ、基本的なイメージは間違っていないのが分かってきた。物凄い傑出した大政治家であったことは間違いない。そういう物の一端を見れたことが、素晴らしく面白かった。

第4位:『逝きし世の面影』
逝きし世の面影 (平凡社ライブラリー)

僕はこれを極上のファンタジーとして読みました。徳川期の封建社会の完成形と言える文化の面差しを残した、明治初期の日本社会に訪れた外国人の観察者のテクストを微細に追うことにより、「いまはもう滅びてしまった」江戸期の日本という一つの文明を描写する試み。まるで、ル・グィンの『闇の左手』のように、この世界ではない「何か」を見せつけてくれるような圧倒的な質量を感じさせる文章たぶんこのへんの時代(徳川ー明治)や近代文明に関する原書などを読みこんでいる人であるほど、それまでの知識が統合されていく感動を味わうだろう。当時の欧米人観察者の当時の日本人の「笑顔」に対する論評の意味を明らかにしていくくだりは、それまで矛盾する評価だった、これら観察者たちの書物の描写やコメントが、そういうことか!と見事に止揚されていって、驚きの連続だ。著者が、最初の始まりに、あまりにおうぎょうに大げさに、「古き徳川期の文明は消え去ってしまった」というくだりは、ほんと大げさだなーと、斜に構えて読んでいたんだが、それが、具体的な豊富な引用と最新の学説をわかりやすく統合して、説明されていくと、衝撃が胸を駆け抜けていく。途中で、ル・グィンの『闇の左手』を初めて読んだ時のような、全くの異なる文明、異なる世界へ旅をしているような、異世界体験を感じる。ここまで見事で深い異世界体験は、最高級レベルのファンタジーでもなかなか味わえない体感感覚だ。読むだけで、異なる世界へ引き込まれる。異邦人たちの日記や見聞記を丹念に、具体的な引用から抽象的な論へ進むスタイルは、まさにこの「異世界たる古き日本」へ僕らをいざなう。繰り返すが、最上級のファンタジーだ。もちろん、これだけの引用や学説などが広い視野で語られるからには、読者側にもそれ相応の知識が要求されるのかもしれないので、万人が、この感動を、この最上級のファンタジー感覚を味わえるわけではないかもしれない。だからこそ「読書人垂涎」という帯びなのだろう。

第4位:『マブラヴ オルタネイティヴ トータル・イクリプス』 吉宗鋼紀
MUV-LUV ALTERNATIVE TSF CROSS OPERATION 『トータル・イクリプス』&『TSFIA』総集編 Vol.1マブラヴ オルタネイティヴ トータル・イクリプス 1 朧月の衛士 (ファミ通文庫)マブラヴオルタネイティヴトータル・イクリプス 1 (電撃コミックス)

やはり本家は違うな、と見せつけられた思いでした。マブラヴの幾多の質量ともにとんでもないレベルのSSをたくさん読みましたが、この作品「のみ」がはっきりと異質に光り輝いている。それは、マブラブオルタのオリジナルの持つ魅力「ではない」部分に焦点を当てている物語だからです。さすが本家というかオリジナルを描く人は視点が違うとうなりました。結構長く批評を書いたのですが、ようはタケルの物語が「人類が生き延びるためにベータと闘う」物語に集約されるのだとすれば、こちらはクーデター編のさらに延長線上にある「滅びに瀕してさえもまとまることのできない人類の内ゲバ」そして「人類を救うという大義のもとに切り捨てられるもの」をマクロの背景に描いている作品なんですよね。「これ」が入ることにより、マクロと政治が一挙に世界に背景に広がりを持たせ、このシリーズにガンダム並みの広大さを感じさせる新たなステップとなっています。物語としても面白いけれども、そもそもコンセプト(=なぜこの作品を書かなければいけないのか?)という点で、秀逸です。そういった物語上の要請が、マーケティング的にも価値があるだけに、素晴らしい。

第5位:『琉球処分』 大城 立裕著
小説 琉球処分(上) (講談社文庫)テンペスト 第四巻 冬虹 (角川文庫)激動の昭和史 沖縄決戦 [DVD]

2010年に、政権を獲得した民主党が迷走するきっかけの一つは、普天間問題。極論すれば、沖縄と日本との関係、そしてそれにつながるアメリカと日本との関係、そしてその背後にある東アジアの安全保障問題がある。それを本質的な意味で理解するには、そもそも「歴史」知らないとダメだともうんですよね。縦の時系列でいえば、ポイントは、日本、中国、琉球の帰属問題。これは、そもそも皇民化という近代日本の領土の確定というもが「何だったのか?」ということを抜きには語れない。そのために、そもそも琉球王国がどんな国で?(テンペスト)、琉球王国が日本の領土に組み入れられる過程はどういうものだったのか?(琉球処分)、そしてその帰結として、安全保障のポイントとしてどんなことがあったのか(沖縄決戦)、として3つの時期を追っていくと、かなり大きなものが浮かび上がってくる。この「読み」は僕にとって大収穫でした。いままでわからなかったものがかなり分かるようになってきました。歴史が理解していないければ、目の前のことばかりになって、「なぜそうなっているか?のメカニズムいが分からない」ので、非常にいい勉強になりました。それに、僕は近代国家の領土画定問題につきものの、新領土の獲得(=フロンティアの獲得による経済の活性化)やそれに伴う異民族や異文化のメジャー文化への同化政策(=日本でいえば皇民化)にとても興味があって、そのまさにの実例が見れて興味深かった。また、近代国家の成立が、封建国家の貴族層の特権廃止と、現地の民衆(=名もなき一般民衆)への権限移譲、彼らの生活の物質的向上を伴っていたことを背景にしないと、事実上の日本の侵略が、なぜ微妙に拒否と受け入れを行ったり北入りしているのかが理解できないことが明示されてて興味深かった。なるほど、日本政府の交渉者は、全て一応のところ貴族ではなくて一般市民であり、琉球王国側の交渉者はすべてが貴族。これは凄い興味深かった。近代というのは、やはり封建社会から見れば、思想的に強烈な革命であったんだ、いまさらながらに。

第6位:『図書館戦争』 有川浩
図書館戦争海の底 (角川文庫)

自衛隊三部作、どれも素晴らしかったが、人間の心理を丁寧に追える作家のその原点は、やはりこれかないと思います。これを読んで、なんでもう少し一般向け(たぶん女性向け)の小説とかドラマとかの脚本を書かないのか?と思ったら、まさにその後はそっちの方向へ進んでいっているんですね。まさに女性の小説家に顕著な、丁寧な心理描写は、見事です。特にうまいのは、非常に美しい心の在り方だけではなく、ストーカーや壊れていく人の心理も丁寧に分かりやすく描写できるところで、このへんは、辻村美月さんとかそういう系統の作家との類似性を感じます。まさにそっちの方面に才能がある人で、ライトノベルとして世に出ながら、売り方を全然変えた『塩の町』などなるほどなーさすが編集者はよく見ているなーと唸ります。ちなみに、年上の男性と、その彼に憧れをもって追いかける年下の女性という関係を書かせたら、神ですね。これは作者本人がそういう人なのか、もしくは、、、、なんでしょう、とにかくうまいです(笑)。

第7位:『15×24 link six この世でたった三つの、ほんとうのこと』 新城カズマ
15×24 link one せめて明日まで、と彼女は言った (集英社スーパーダッシュ文庫 し 5-1)15×24 link two 大人はわかっちゃくれない (15×24 シリーズ) (集英社スーパーダッシュ文庫)15×24 link three 裏切者! (集英社スーパーダッシュ文庫)

そろそろエネルギーが切れてきたので、コピペ。面白かった。物凄く。これもはし君お薦め、ありがとう。手法はまんま『24』。ある少年の自殺を止めるというために集まったやつらの24時間を追った物語。この物語は構造とアイディアが凄く素晴らしかった。この一作だけで、新城カズマという人が面白い物語を書く人かどうかは判断しかねるが(構造とアイディアに依拠しすぎているので判断できない)、とにかく「この本」は凄く面白い。通常のライトノベルという範疇じゃない。なんというかカテゴリーを決めるのが難しいオリジナルな作品。読書好きの人は、読むのお薦めです。構造は、24時間リアルタイム、15人の多視点(文体で描き分けているのが見事)で物語が展開していくという手法。もう一つは、テーマ。「死を巡る抽象思考」と「死を止めるというアクションの並立」。うーん、凄くリアルタイム性があるので、これが10年後に残っているかどうか微妙な気がするんで、星が少ないんだけれども、個人的感想ではすごい面白かった。傑作!と思う。

第8位『冷たい校舎の時は止まる』 辻村深月
冷たい校舎の時は止まる(上) (講談社文庫)冷たい校舎の時は止まる(下) (講談社文庫)
ちなみにこの設定って、まんま『レベルE』の高校野球地区予選編と同じ話だよね。系統としては、森生まさみさんの『7人目は笑う』も同じ。そしてどちらも、短編としては驚くべき完成度を誇る傑作というのも同じだと思う。少年漫画と少女漫画というテイストの違いはあるけれども。同時に3冊読んでみると、いろいろ共通項が見えて面白いかもしれません。単純にいえば、ある空間に閉じ込められて、そこから抜け出すためには、なぜそうなったかを・・・・閉じ込めた犯人の心理を読み解いていく・・・言い換えれば、この作品でいいえば、自殺にまつわる自分との関係をを徹底的にえぐることになるという作劇です。「なぜ閉じ込められたか?」という物理的な脱出劇の部分と、「その謎を解く」という心理的な追及の両方を重ねることで、ともすればウザくなりがちな、内面の奥底まで深く潜っていく追求をしていく・・・ああ、、、考えてみると、ハーレムメイカーや並行世界の物語も、結局とのところ「どこかへ脱出する」という作劇の構造になっていたな・・・・。この1)脱出劇と2)心理探究という二つは相性がいいのかもしれない、物語類型として。

第9位:『魔法科高校の劣等生』 佐島勤

http://ncode.syosetu.com/n2569f/

薦められて読んだが、悪く言えば冗長で、設定の説明は長いし、、、、と読み続けるのは人を選ぶかもしれないが、それを超えると、秀逸に面白い。ネットでなければ、編集者が絶対止めるような作品で、こういった作品の連載が続き、根強いファンに支えられるのはネットにおける連載の凄さだと思う。本当に「境」を超えると急速に物語が面白くなっていく。作品の本質が?というほどに読みこんでいないのだが、強烈な印象として、超絶美少女の深雪さん(僕の中では、秋葉変換されている!)のお兄さまラブラブっぷりが、もう異常(笑)。いやもーほんと「これ」だけ、この作品の面白さは、十二分にある。とはいえ面白さがうまく分析できていないので言及しにくいのだが、レスター伯さんが、自分が子供のころにはやったものがリバイバルしているような作品が最近は増えて(ラジオで言っていたうろ覚えなので間違いかもしれませんので、その場合は容赦を)というのを聞いて、おお!と思ったのです。というのは、SFとしては、ちょっと古めの世界観で、日常の描写は政治のあり方が凄く現代的なのであまり感じないのですが、実は過去に見たSFのリバイバル的な印象があって、ちょっとノスタルジーをい感じるんですよね、いわれてみると。

第10位:『帝国戦記』 samurai著

http://mai-net.ath.cx/bbs/sst/sst.php?act=dump&cate=&all=7678

コンセプトとしては、というか物語としては、本家のオリジナルの延長線上にあるものなので、トータルイクリプスのように新しい視点が導入されているわけではないですが、そもそも本家で語られること無かった中国での全アジアを巻き込んだベータ大戦のまさに歴史を緻密に描き切っていることが素晴らしい。ガンダムサーガと呼ばれるように「サーガ」としての面白さは、こうした歴史背景やマクロの背景が語られないと、物語に重厚さが感じられません。その見たかった部分を余すところなく描き切っていくれるところがたまらない。欧州、米国、アジア、日本の政治力学をちゃんと踏まえていることろがさらにたまらない。またマブラブの面白さは、どんなに平和が大事だとか、仲間を大切にとか、キレイごとを並べても、圧倒的な物量と現実の前にはそれが一切の意味を為さない「現実の過酷さ」にあり、そういった戦記モノとしての鋭さが、魅力的なキャラクターたちの成長を通して描かれるさまは、見事な小説です。強いてマイナス点をあげれば、本来のオリジナルマブラブの超弩級さのコアである、第一点目の「説教劇」としての面白さ、という部分が欠けているのだけが残念。しかし、それは、ほぼすべての同人小説、クロニクルズにも共通していることでなので、この「説教劇」の強烈さは、やはりオリジナルのコアを描く吉宗氏の才能なんだろうと思う。説教というのは凄まじい熱量と、「相手が納得させるだけ」のエネルギーがいる。これは、論理的であっても、事実だけであってもだめで、両方が同時にダブルパンチで発生しないと、「マジでへこんで死にたくなる」ようなウルトラ強烈なへこみは訪れない(笑)。また、しかもそれが主観の一人称形式で感情移入が深まっている時でないとね。そういう意味では、アージュ作品の本質は、ここにあると僕は思っています。

番外編(特別賞?って何?):『あなたの空が青い理由』 橋本しのぶ著

今年は、i-phoneとまおゆうの体験のせいで、自分の中の比較対象に、普通にネット小説や商業外のものが並列する都市で、これは非常に興味深い。2010年の強烈な思い出は、はしくんことアセティツクシルバーの橋本しのぶ君が、マブラブの同人小説を出したこと。人が新しいものに足を踏み出す瞬間というのは、非常に興味深いです。基本的には、西尾維新の『猫物語』と、なんというかポジショニングは似ているんですよね。内面の中で発生するドラマで、トラウマを昇華して新たなる行動への契機を描く物語。やはりネット小説は、オリジナルの場合は、どうしても超弩級を志向してしまうのだが、そうでない場合は、こういう幹があるモノの補完機能としては、サクサク読めるなー。オリジナルは、やはり敷居が高い。つまらなかったら、なんと無駄なのだろうと、思ってしまうところがあるものなー。必ずしも編集の目を通って商業化したからといって、クオリティが保証されるわけではないんだが。。