『女王、エリザベスの治世 先進国の王政記』 小林 章夫著  イギリスの現代60年史をざっと俯瞰するにはとても読みやすい新書

女王、エリザベスの治世 先進国の王政記 (角川oneテーマ21)


君主とはどういうものだろう?


半藤一利さんの昭和史を見ながら、昭和天皇独白録を読みつつ、君主としての昭和天皇については少しづつわかってきた。彼は親欧米であったし。自由主義を基調とする立憲君主主義者だったし、時々の日本の軍部に対する批判的な眼差しや行動から言っても、先の戦争における戦争犯罪人には見えない。


しかし、外国からや国内にも、強く彼の戦争犯罪を問う声がある。


これはなぜなんだろう?と思っていました。イギリスの情報部はとても優秀で、戦争中には、昭和天皇重臣グループが開明的な自由主義者で、戦争に反対していることは掴んでいました。にもかかわらずこういう論調があるのはなぜだろうか?。


ということで、各国の君主はどういう行動をしているんだろうか?ということが興味になってこの本を手に取りました。


ちなみに、上記の昭和天皇の戦争責任を問うときにわかってきたことが二つあります。


一つは、昭和天皇が当時の水準からしても見事なくらい英明な君主で、自由主義的で立憲君主制を強く意識して、生涯その行動に忠実な人であったこと。


しかし同時に、憲法違反であったり、彼の受けてきた教育からすると「やってはいけないこと」ではあるにせよ、、、天皇大権を利用して、暴走する軍部を実力をもって排除しなかったことは、それはそれで君主としては罪なんですよね。外国の反応というか、冷静に各国の能動的な君主との比較を見ると、天皇は消極的すぎた。

もちろん、システム社会工学立憲主義何でもいいのですが、天皇が自身の意志で、天皇大権を強引に利用することは、それはそれで大きな問題があります。それをコントロールする議会も貴族も育成されていないのに、そんなことすれば、国にどれほどの惨禍がもたらされるかわかりません。昭和天皇は英名でしたが、君主が独裁権を使用できるとなれば、暗殺して首を挿げ替えればいいわけですから。

まぁ長期的に見れば、天皇が独裁的な大権を使用することの可否はいろいろあります。

とはいえ、昭和のごく初期の短い間にこれができなかったことは、、、、それは、確かに問われるポイントなのかもしれない、、、と最近感じています。なぜならば、いくつかの意思決定で、彼は統帥権等にはかなり細かく介入しているわけだから。。。、できないわけではなかった、、、となる。可能であるならば、良心に照らしてなぜ決断できなかったか、という個人の問題は問われると思うのです。


昭和天皇や彼を取り巻く重臣グループの歴史や本を読んでいて、最初に凄く思ったのは、これほど自由主義的で、立憲君主の概念がよく分かっていて、軍隊、内閣、議会に裏切られ続けている人を、責めるのは酷じゃないか?ということでした。僕は団塊の世代Jrなので、基本的には心情が左翼よりは右翼の方向にウェイトがかかりやすいばバイアスがあると思うのですが、それもあって、非常に同情的に感じていました。しかも、もう10年ぐらいいろいろな本を読み続けていますが、この感覚を裏付ける資料や本ばかりで反対事実を見たことがほとんど皆無なので、まぁ、そうなんだろうな、、、と思っていました。

裕仁天皇の昭和史―平成への遺訓-そのとき、なぜそう動いたのか (Non select)


けれども、もう少し広く外国の意見を冷静に見てみると、、、、というか、海外の君主制の、、、もう少し言えば、元首の権限を見てみると、やっぱり、昭和天皇の帝国憲法の権限と似ているものは多くあるわけですよ。統帥権は、つまりは軍隊の運用権限や開戦の権利とか、結構大きなものが付与されているケースが多い。それを、あとから議会で手綱をかけるという形のようなんですね。


なので、当時の日本は、まず何といっても、暴走した軍部(統帥権)を抑える方法が簡単にあったんです。それは、予算の承認を議会がしなければよかったんですね。これが構造上難しくなったのは、大臣の現役武官制のせいで、これって広田弘毅首相の行ったことですよね。226事件の後とはいえ、、、これは大失敗だったと思います。広田首相のこのことは大問題と思いますが、、、、同時に、その前の若槻礼次郎内閣だっけ?、満州事変のために、朝鮮軍の越境を認めたことは、やっぱり大失敗だったと思います。あそこで予算つけなければ、陸軍の暴走は止まったはずです。なので、議会と内閣の罪は相当重い。


また同時に、同じように、統帥大権をあやふやながらもっていた天皇が元首として、戦争を認めないというのは、やはり構造上可能だったわけです。しかししなかった。理由はかなり同情できるとしてもです。実際には、内閣の奏上は無条件で承認する立憲君主制をほぼ貫いているわけだから、それを文句言うのは、、、難しいとはいえです。


ちなみに、しかし、これどっちが良かったかは、非常に難しい問題です。イギリスで議会制度が機能するようになるには、王様がめちゃくちゃ戦争しまくって、税金かけまくって、フランスとなんか100年くらい戦争してて、もうめっちゃくちゃやり続けるのを100年とか見続けて、、、こりゃー君主に自由にやらせんのはダメだってなった伝統があるわけですよ。日本はね―――そういうのないんですよね。なので、3権分立的な、権力のバランサーがうまく機能品かったんですね。そのバランサーがないところでは、君主が勝手にやらないで、議会と内閣に任せるという昭和天皇の姿勢は、とても先進的で開明だったと思いますよ。けど、それが利用された上に、議会も内閣も、、、、まともに牽制できなかった、、、。難しい話です。

仕事に効く 教養としての「世界史」



そんなことを考えているうちに、では、イギリスの国王は、どういう風なんだろう?と思って手を取りました。前置きが長すぎですね(笑)。前置き長すぎて、各気力が消えてしまいました。



ちなみに、『クイーン』『国王のスピーチ』や『鉄の女』など、イギリスの政治を扱った映画はたくさんありますので、このへんも勉強し直してもう一度みたいところです。やっぱり歴史の大きなマクロの流れと構造がわかってみるのとでは、意味合いが全然違って見えますもん。このへんがわかってくると、炭鉱もの素晴らしい映画である『リトルダンサー』や『ブラス』などのその他の英国映画の意味も文脈が全然変わってくると思うんですよねー。楽しみです。


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最近、歴史好き仲間でチャーチルがすごいって盛り上がっていて、同時に、ヴィンランドサガで、実はイギリスの成立は、クヌート帝国(ヴァイキング)のせいだったんだ!というのがわかって、連合王国が熱いんです(笑)。

ヴィンランド・サガ(14) (アフタヌーンKC)

ちなみに、この動画、面白かった。やっぱり大英帝国は、日本の近未来のモデルとしてみるべきフロントランナーだといつも思います。


アゴVlog大英帝国はいかにして借金を踏み倒したか

イギリス 繁栄のあとさき (講談社学術文庫)