対米戦争の目的はなんだったか?

米内光政

物事を理解するには仮説を持って、情報を集めないと、なかなか思考に結晶化してくれない。何かの「アンカーになる手掛かり」みたいなものを、ベースに僕は読む癖があるのだが、、、やっと、対アメリカ戦争というものが、少し見えてきた気がする。ずっといろいろ読んでいたんだけれども、なんだか、あまり事実が多すぎて(・・・・そりゃー多いよな)いったい何が本質なのかがよくわからなかったんだが、やっと対アメリカ戦争の本質が見えてきた気がする。


というのは、阿川弘之さんの海軍提督三部作で事実を時系列にずっと読んだのが、同じことの3回の繰り返しだったので、いったい何が決断ポイントだったか?というのが、うっすらとわかってきた気がする。何かを理解する時にまず問うべきは、その行動の本質的な目的はなんだったか?というのを問うことが、物事を理解するには重要だ。


そして、アメリカとの戦争目的は何か?と問うと、、、、、いろいろ調べていても、良くわからない(苦笑)、、というのが、実際のところだ、、、あの巨大な、大英帝国にも匹敵する東アジアの大帝国にして最先進国、列強にしてイギリスの同盟国であった大日本帝国の滅びの原因であった対米戦争が、、、、何のために行われたのか、それを決めた参謀たちでさえ、最高指導者である首相の東条英機でさえ、ほとんどわかっていないんですよ(苦笑)。もう、笑うしかないよ。


これ、ほんと凄いことだし、ここが議論のポイントなんだよね。そう、重要なのは、誰もこの戦争を望んでいないし(論理的には日本が滅びるトリガーなんだもん・・・しかも当時それは官僚群やエリートには自明の常識だったわけだし)、しかも目的もよくわからないままに、意思決定されていったことなんですね。

昭和16年夏の敗戦 (中公文庫)
昭和16年夏の敗戦 (中公文庫)

NHKの特集や、さまざまな本が、なぜこれを決断したのか?ということを日本的意思決定の致命的な弱点として何度も追及するのは、この問題の本質が日本社会の最高意思決定というのが、科学や論理性、そして予測される事実の積み上げからなる『帰結』を無視して、暴走しやすいということにあるからなんですよね。

失敗の本質―日本軍の組織論的研究 (中公文庫)
失敗の本質―日本軍の組織論的研究 (中公文庫)


いまのエネルギー問題に関する原発の反対派にも賛成派にも、両方ともにぷんぷんこのにおいを感じます(苦笑)。だって、科学、論理よりも感情の空気重視のポピュリズム、役所のセクショナリズムによる個別最適優先、そしてなによりも、「帰結(=長期の視点)」が無視されている。。。全く議論がレベルの低い底辺でされていて、意思決断も視野が物凄く狭く低い。でも、日本社会の中の「空気」にいると、そんな当たり前の論理性が、体感できない、、、、。ああ、こういうのなんだ、、、と思います。エネルギー政策というものの本質ととても遠いところで議論されているだもの、、、、。

「空気」の研究 (文春文庫 (306‐3))

さてさて、もう少し進めましょう。そもそも対米戦争の案が陸軍がら出されたきっかけは、1941年7月の南部仏印進駐に対してアメリカが資産の凍結を制裁として課してきたことから始まります。なんで、インドシナに進駐したかといえば、日中戦争継続のために石油資源が必要だからですね。これ、何を読んでも、みんなそう書いてあるので、まず間違いのない事実だろうと思います。端的なファクトなんで、これが理由としか考えられません。その後、うだうだ、いろいろ悩みますが、ファクトではなくて意思決定がおかしくなっていく過程なので、ファクトは「ここ」です。陸軍の最初の提出案です。具体的には、日中戦争継続のための物資確保、特に石油をベトナムインドネシアで確保することが目的でした。


えっ・・・・・日中戦争を継続するために、わざわざアメリカに戦争を吹っ掛けたわけ????・・・・どう考えても狂っていないか???(苦笑)。


でも、これはシンプルなロジックで、そうだとしか言いようがありません。今後、このあたりの意思決定の情報を見る時に肝に銘じなければならないのは、大日本帝国は、日中戦争継続のためにアメリカ戦争を引き起こした!ということです。


いや、ほんとなんですよ。どう読んでもそうとしか思えない。いろいろ調べても、そうとしか理解できないんだもん。でも、、、理解できないですよね!(=狂っているとしか思えないません)だって、中国なんて言う当時の後進国に戦争で勝ち切れていないのに、最先進国にして世界最強のアメリカに、同時に戦争を吹っ掛ける、、、って(苦笑)。おい、お前バカか?って思いますよね。昭和天皇が、開戦にもう執拗なほど反対するのは、、、(苦笑)、、、いやまぁたしかに昭和天皇はとても優秀な王族というか元首だったと思いますが、、、、そんなの、常識で考えれば、おかしいとしか思えないんですよ。

誰が太平洋戦争を始めたのか (ちくま文庫)
誰が太平洋戦争を始めたのか (ちくま文庫)


まぁ結論としていえば、対米戦争というのは、どうも意思決定システムの構造的欠陥が問題のポイントなようですね。今後は、このラインで、いろんな情報に接していこうかなーというまずは今のところのアンカーです。


とすると、対米戦争の戦術的なポイントというのは議論しても、ちょっと不毛なんだなということです。


戦略レベルで大きな間違いを犯しているので、もうそのミスジャッジの責任をとらされているのが個々の戦術レベルでの戦闘なので、もうどうにもならない。


だから、合理性ではなくて、大和民族とか大日本帝国という「美学」とか「文学」的問題にしかなりえない。だって、戦略レベルでのクリティカルなミスジャッジがあれば、個別にはどうしようもないので、その「どうしようもないもの」にどう納得性を持って生きるか?という生きざまとか美学になってしまうしか、話はもっていけないのだもの。


太平洋戦争、対米戦争のわけのわからな非合理的な印象は、このためだったのか!と最近納得いった次第です。なんか対米戦争の話になると、東アジア唯一の議会制民主主義国家であり近代国家である日本帝国が、いきなり西欧列強に叩かれる資源を求める悲劇の物語、といういきなり黒船時代(当時ですら70-80年近くも前の話だ!)の未開の国の原住民のレベルに後退してしまう。なんか、おかしい、と思っていのは、やはりここに断絶があったのだ。

風雲児たち (1) (SPコミックス)

坂の上の雲〈1〉 (文春文庫)

それでも、日本人は「戦争」を選んだ


では、次のポイントが、このアンカーによって明らかになりました。では、対米戦争の本質的な目的である日中戦争は、なぜ起きたのか?それを勝つ方法はなかったのか?具体的にそれはどういうものだったのか?ということです。


これは、大陸の側面にある島国である大日本帝国という国家にとって、対大陸に対する戦略をどうするか、という地政学的な戦略次元での問題になるからです。日英同盟が成功したのは、ヨーロッパ大陸に対するイギリスという島国が、旧帝国の運営方法として湾岸部の大都市を押さえて、大陸を包囲するという対フランス、スペイン帝国との戦争で編み出した戦略が、同様に日本という島国のユーラシア大陸、特に中国に対して非常に有効なものだったからです。この視点からいえば、台湾や沖縄への侵略、併合は対ユーラシア包囲網を海から抑えるというという意味で有効な戦略だったのではないか?と思えます。ちなみに、この辺を志向したのは大久保利通だったはずな気が、、、、。これは今の僕の仮説。なぜならば、いまの沖縄が米軍の太平洋の重要な戦略ポイントとなっていること、ほとんど中国すべての大陸が毛沢東に制覇されながらも、台湾は防衛に成功していまだに大繁栄していること、から考えると、ここを大陸側がすべて陥落させることがすごく難しいこと、またアメリカにとってそれは譲れないポイントであることがよくわかります。対ソ連に対しての封じ込め戦略の基本を見てもそれはわかります。では、朝鮮半島の併合や満州への侵略はどうだったか?ですね。それは有効な戦略だったのか?。ここは、まだ僕もよくわかりません。ちなみに、征韓論に代表される朝鮮と台湾の侵略は、西郷隆盛の自説ですね。


ちなみに、世界の歴史をずっと読んでいると、国家戦略の基本的な問題として、その国家が、大陸国家なのか?それとも島国(海洋)国家なのか?というのが重要なポイントにあるようです。大陸国家としては、なんといってもフランス、ドイツ、ロシア、中国です。海洋国家としては、イギリスと日本が代表例です。そして、海洋国家でもあり大陸国家でもあるという離れ業のような存在が、アメリカ合衆国です。だからアメリカは、大陸型の戦略(=共和党孤立主義政策)と海洋型の戦略(=民主党の世界の警察、シーレーン防衛戦略)に揺れ動くのです。

大英帝国衰亡史 PHP文庫

外交〈上〉


マッ、それはいいのですが、日本は、もうどうしようもないくらいに海洋国家です。なぜならば、東アジアの中心は、常に中華たる中国であって、これが圧倒的な大陸国家なので、その周辺諸国はそういう存在にしかなれないのです。これは地理的条件なので、いかんともしがたい条件です。数学的に言うと、所与。とはいえ、、、日本の歴史には、平氏と源氏的な対立があって、海洋国家貿易立国を志向する平氏的な勢力と土地を中心に考える関東平野開拓をベースにできた、いってみれば大陸型の志向を持つ源氏的な勢力とに分かれており、日本の泥臭い部分での重要な基盤は、源氏の意識の方が強いんですよねー。だから、開拓とかそういう土地を奪うことが大好き。源氏的(苦笑)。日本的な家の構造や、財産の継承スタイルがそっちに揺れやすいんだろうねぇ。とはいえ、とっても海洋国家的な性格も強く持っているダブルスたんだーとなくに見たいですね、どうも日本の歴史を見ていると。日本の歴史のダイナミズムは、この二極の行ったり来たりでとらえると、非常にクリアーにわかるような気が僕はしています。

センゴク外伝 桶狭間戦記(5) <完> (KCデラックス)

・・・・・などなどの歴史レベル、戦略レベルを念頭に置きながら、海洋国家として日英同盟を締結をしイギリス帝国の戦略に沿ってユーラシア包囲網の戦略を構築した大日本帝国が、なぜ?どうして、中国「大陸」を深く侵略していくことになったのか?。そもそも、大日本帝国には、「大陸」を支配するという覚悟は絶対なかったはずで、確実に、中国の奥地に戦線を引き込まれたことは、中国側の圧倒的な戦略センスに負けたことを意味していると思う。なかなか難しのは、中国大陸においては、個々の戦闘において帝国陸軍は圧倒的な強さを見せていたのであって(←これ重要)、戦術レベルで中国なんて言う当時の後進国には負けようもなかったはずなのに、、、、にもかかわらず、中国の圧倒的な戦略センスに負けているんですね。これは、日本側の中国という「大陸」の持っている歴史的、地政学的条件をぜんぜん考えていなかったミスジャッジだったと思うんだよなー。・・・・・とかとか、、、いまそんなことを考えています。まぁ、戦略の次元では、歴史スパンを長く見る中国の指導者の方が圧倒的にスケールがデカいのは、どうも僕も詳しくはわからないんですが、周恩来とかのいくつかスピーチを見ると、、、勝負にならんな、、、と思います。日中戦争当時の日本の指導者は官僚と化していて、維新の時のような、戦略レベルを意識する人がいないんだもの・・・・・。


と、つらつら、最近の思考の過程を、書き出してみる、、、、。日米戦争がどういうものだったか?は、大体分かった気がする。やっぱり、対中国大陸に対しての戦略スタンスが、構造がどういうものだったのか?ということを、理解しなきゃならんな、と思う今日この頃です。


東條英機と天皇の時代 (ちくま文庫)

日本海軍400時間の証言―軍令部・参謀たちが語った敗戦
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