『甲鉄城のカバネリ(英題:KABANERI OF THE IRON FORTRESS)』 (JAPAN 2016) 荒木哲郎監督 結局のところカバネリはどうして生まれてくるのだろうか?

評価:★★★☆星3つ半プラス
(僕的主観:★★★☆3つ半プラス)

よくできた作品だと唸りました。にもかかわらず、少なくともSFとしてみると致命的な欠陥があって、このシーズン1というか、12話のアニメを見ただけでは、カバネというゾンビがなぜ生まれたのか?というマクロの謎がわかりません。でも、おもしろい。もちろん、これは欠陥ではなくて、「そういう風に決めた」制作者の意志で、かつそれが全く気にならないところに、この作品の出来の良さがあるとは思います。しかしながら、まぁ、続編もあるそうなので、それを見ないと何とも言えないかもしれないですが、批評的な視点で、全体を思い返してみると、「そこ」に踏み込んでいないのは、やっぱりダメだなぁ、と思います。


けれども、いまのアニメーションの脚本とか演出、世界の作り込みとかは、凄い水準にあるなぁと思うのは、それでも、全然気にならないほどに、全体的な出来がいいのです。「出来がいい」というのは、LDさんがおっしゃっていましたが、「世界がそこに在る感覚」とでもいいますか、物語の世界は、嘘がつかれている虚構の世界ですが、その嘘がある水準を超えて、「世界がそこに在る」という感覚を引き出せると、もうそれだけで物語って、勝ちなんだと思うんです。前にラジオで、グインサーガが、なぜ僕や海燕さんにとって特別なのか?という話で、それは、「世界がそこに在る」という感覚を強烈に幼少期に凄いレベルで突きつけられてしまって、いったん、「そこに在る」と心が認識してしまうと、もう一つの現実として受け入れて認識してしまうからだというようなことをいいました。最近の作品は、そういうことをノウハウで、普通に再現できるのだなぁ、とアニメーションのレベルの高さに驚きを感じます。とはいえ、正直言って、少し経ってみると、★3級かなぁと思います。やっぱり、批評的に評価できる部分があるか、もしくは、キャラクターがそれを超えてぶっちぎりに好きか?というのがないと、★4つ以上はいかないなーと思う。レベル的には、★5つでも十分な出来のクオリティなんですけどねぇ。ちなみにクオリティ(品質)と、パフォーマンス(性能)は、別物です。クオリティは、一般的にはどんなに高くてもしょせん、品質で、あるレベルからは過剰品質にしかなりません。そういう意味では、とてもいい出来なんだけど、もう一つ最後の、もう一手がない感じです。でも、なんかそーいうところを見るアニメじゃなったんだろうなー。やっぱりバトルシーンだよね。これ。


まぁ『進撃の巨人』」と似てると誰もが思うんだけど、それは構造だけであって、僕は全然似ている作品には思いません。『進撃の巨人』は、マヴラブのもっていた全体に個を捧げるというナショナリズムのコアの部分が強烈に生きていて、そこの崇高な美しさが、この自由に慣れきった今の時代に対する批判機能として痛切に表現されていたところに魅力の根源があるのであって、カバネリには、それはないと思います。マブラブも進撃の巨人も、組織のために、全体のために、という意識がすごく深く埋まっていますが、カバネリは、基本的には、主人公の生駒にせよ美馬、無名にせよ、個人的な動機だけで、戦っています。『進撃な巨人』やマブラブの興味深いところは、個の欲望や動機からスタートしていても、戦っているうちに、仲間や所属の部隊を通して、組織の目的や意志、その組織を支配する国レベルと、全体が目指すところと、自分の個のあるべ自己実現(欲望、動機)がぐちゃぐちゃになっていくところに、しびれるところがあります。なぜならば人間の世界は、いつもそうだから。けど、なかなか組織や全体は描けないんですよ。そうすると、話が複雑になって、シンプルでなくなって、面白くなくなるので。


カバネリは、むしろゾンビものの系統の典型的な作品だろうと思うんですよね。滅びゆく世界の黄昏を描くところ。だって、この世界、マクロ的に救いがあるようには見えないもの。それを解決する方法も、結局カバネがなんで生まれたのか?、何か?が明らかにされないから、全然わからない。あとは、前半の主人公の生駒が、戦う意思を獲得していくエピソードで、彼の存在がカバネ(敵)なのか、味方なのか?という二元論の狭間にいる存在として、描かれるところ、、、、いってみれば『デビルマン』の葛藤を前面に押し出すところがこの作品のコアであって、形的には『進撃の巨人』と似ているけれども、似ているようには思えないなー。ちなみに、デビルマンの葛藤をせっかく物語に設定しているのに、意外にあっさり、生駒が仲間に受け入れられていくのは、、、、前半は、それが凄い難しいことはわかるんだけど、後半にいきなり美馬の物語になってしまって、話が違う父親と復讐と、滅びの物語に切り替わってしまったので、あまり生きてこなかった。脚本は思い切りがいいせいで、凄いシンプルで、描きたいものに収斂しているので、サクサク見れるし、とても充実感が見ているとあるんだけど、後に残るほどではないんだよなー。やっぱり、それは、物語をさくさく進め過ぎたからなのか、、、しかし、サクサク進まないと今の時代は視聴者がついてこないし、、、で悩ましいところだろうなぁ。


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そういえば、女の子が(男の子もだけど)やたらかわいいなー、よくこんなのアニメで動かせるなーと思っていたんですが、美樹本さんのデザインだったんですね。こういうのがきれいに動くんだから、今の時代って凄いよなーとしみじみ。美樹本さんといえば、まぁ普通はマクロスなんでしょうが、僕は、学生の頃、ニュータイプで連載していた『マリオネット ジェネレーション』だなぁ。物語はさっぱり、だった気がするが、それ以上に女の子のかわいさが凝縮されていて。こんな一枚絵のレベルの凄い絵が、漫画で動くってのに、信じられない気持ちで見ていました。けど、そういうのは、今の時代は本当に当たり前になってしまって、日本のエンターテイメントのレベルってどんだけ上昇したんだよって、驚きます。でも、心に残るかどうかは、単純じゃないんだろうなーと思います。『マリオネット ジェネレーション』とか、物語としては、ほとんど落第だったと思うんだけど、絵とシュチュエーションとかキャラクターだけで、そういうの超越して心に残っているものなぁ。。。。

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