『機動戦士ガンダム 水星の魔女』2023 小林寛監督・大河内一楼シリーズ構成 新世代の物語の最前線をガンダムサーガのフォーマットで

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評価:★★★★☆星4.8
(僕的主観:★★★★☆星4.5つ)

1クール見た時の印象が「結局、主人公が何がしたかの軸がよくわからない」だったので、たぶん、物語のコアは2クール目でもわからないんだろうなと思っていました。それに学園ものの舞台設定をした時点で、ガンダムのテーマ上重要な設問の枝葉である「虐げられたものをどう救うか?(=地球と宇宙の格差をどう埋めるか)」という部分を実感させるための描写も弱いんだろうなと思っていた。


一言で言えば、まぁ話題作だから見るけど、期待できないだろうな、と。


舐めてました。


いやはや素晴らしかったです。新しい世代へガンダムを伝えるためというコンセプトが完璧以上に描かれ、しかも、新しい令和的な世代の価値観へのパラダイムシフトもされていて、いやはや「いま見るべき物語」でした。なによりも、面白かった。途中から止めることができないで2日で2クール目全て見ました。ガンダムって、本当に良作に恵まれるしスタッフ素晴らしいよなって思う。どの角度で見るかというのは人それぞれだけど、僕は、やはり元々コードギアスで大ファンの大河内一楼さんの脚本が素晴らしかったと思う。


1クール目がダメだったわけではなくて、ガンダムシリーズのリブランドを目指しているだけに、「新しい踏み出しが見られなかった」部分と、2020年代の作品の完成ってナチュラルに群像劇になりやすい上に、ガンダムの過去のテーマが行き着いている視点を丁寧に盛り込んだため脚本が複雑多層化していて、なかなか理解しきれなかったので、僕の頭がハレーションを起こしていたんだなと感じる。でも「その見方」はダメなんだよね。この作品は明らかに、キャラクターの良さ、関係性の良さでフューチャーされている作品だから、キャラや関係性に萌えるというか、ハマる見方で見るべきだったんだろうなって思う。僕は、すぐテーマ性や文脈、分脈を「どのように進めたのか」という点や主人公の動機を問う癖があるので、ハマりきれなかったんだと思う。でも丁寧に分析していくと、そこじゃない作品だなって感じる。


🔳女性が主人公のガンダム〜百合とかBLといった単一の価値観からではなくて


僕はこの作品の描き方が、衝撃でした。`Youtube`の解説で詳細に説明しているけれども、この作品のエポックメイキングなところは、やはりスレッタ・マーキュリーという女性が主人公だった点にあるのは間違いない。そして、そのパートナーのもう一人の主人公、ヒロインポジションもまたミオリネ・レンブランという少女であったことですね。


要は百合なのか?


と、最初は思いました。でも、驚くべきことに、グエル、エラン、エラン5号くんなど、男の子の色気が、素晴らしい(笑)。僕自身も、スレッタとグエル、スレッタとエランのめちゃラブラブの雰囲気に満ちたシーンが、強く印象に残っています。


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僕はこのガンダム水星の魔女のアドステラの世界が、「性差にあまり意味を見出していない」点に、とても令和的な価値観を、2020年代の物語の感性を感じます。


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僕、昔から女の子の制服で一番可愛いのは、ショートパンツだと思っていて、セーラー服とかスカートにそういうのにあまり幻想がないんですよね。まぁ、好みなんですけど(笑)。なので、アスティカシア高等専門学園制服が良いなとニマニマしてたんですが、ふと気づいたんですが、グエルくんがあまりにカッコ良すぎて、あれ、男の子のショートパンツもカッコよくない?って途中で衝撃を受けてあんですよね。

そう考えると、あれもしかしてこのショートパンツのデザインの制服って、作中の「性差を区別して考えない」という思想にガッチリミートしてるんじゃないの?、運営(違う)は、最初から、それ考えていたのじゃ!?って思ってきたんですよね。



公式が否定したりと色々話題にあった、百合婚エンドですが、あの物語の流れ、スレッタとミオリネの関係性の積み重ね、「家族になるんだから」というミオリネのセリフ、「ホルダーの花嫁」という設定、そして最後の、二人の指輪のシーン(指輪はミオリネの母親のものだったと思います)から考えて、結婚エンド以外にとりようがないでしょうと思う。3年後の二人の、寄り添い方って、明らかに夫婦の距離でしょう!。愛のある家族って感じがとてもする距離感。


しかしですね、百合婚エンド・・・という言葉の響きとは違うんですおね。これ百合ものじゃないんだともうし、レズビアンものでもないんだと思うんですよね。かなり話が複雑ですが、僕が言いたいのは、アドステラの世界では「性差が重きを置かれていない」ので、たぶん、男性✖️男性でも女性✖️女性でも、もちろん異性婚でも、どれでも差があまりないんですよ。少なくとも時代のコモンセンス(常識)がそこまで行き着いているんじゃないかなって思うんですよ。だから、スレッタとグエルくんやエランくんとの恋も、ミオリネの物語と対等に描かれている。まぁ、その中で、ミオリネさんを選んだから、胸熱なんだけどな!(笑)。


だから、女性同士の結婚であっても、そこに特に意味はない。だから多分、ガンダム初の女性主人公で、パートナーが同性の女性という設定から「考えられる突破した描写」ってのは、あり得ないんですよ。この場合の期待値って、多分、いままで描かれてこなかったポリティカルコレクトネスの文脈でのルサンチマンを解放して、その恨みを晴らして、描くところまで描いて「新しい基準を示せ」ということなんでしょうが、たぶん、もうそれって、少なくとも物語の世界ではかなり「古い昭和の価値観」なんだろうと思います。昭和の価値観ってマッチョイズムなんですよね。敵を叩きのめして、自分の勝利を天下に知らしめて、今まで自分を虐げてきた敵を、世の中の常識ぶち壊し、ひれ伏させて、叩きのめせ、という。これって「格差がある時の発想」なんですよね。多分、令和的な2020年の世代的なメッセージというのは、もうそれではないと感じます。「性差にあまり意味がない」のだから、晴らすべきルサンチマン自体がないって、いっているわけですから。これ、もの凄い最前線の描き方だなって、驚きました。キャラクターの関係性が売りの作品で、これって素晴らしすぎる。物語の世界は、こうなっているんだと、しみじみ思いました。


だから、制服がショートパンツで、男の子も女の子も、等しく同じユニフォームになるわけか!と感じ入ったんです。



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上の配信が1クール目が始まった時に、このテーマをどう描くか?って、僕が考えていた問題設定です。この問題意識に、さすがの回答を出していて、素晴らしい作品でした。



この他、ガンダムのテーマの「戦争をなくせ!」についてどう描かれているか、戦争シェアリングの是非をどう評価するべきかは、2クール目の完結後の`Youtube`の配信で解説しています。文字でまとめる気力がないので、今日はこの辺で。