2023年総合ベスト

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2023年総合ベスト10(2022/12−2023/12初旬)

1.映画:ゴジラ-1.0 山崎貴 

今年一年このリストを管理していて、さすがにすずめに勝てる作品はテーマ的にもないだろうと思っていたぐらいだったのを、塗り替えたほぼ同率1の作品。山﨑貴監督の戦争日本映画シリーズ『永遠のゼロ』『海賊と呼ばれた男』『アルキメデスの大戦』と続くその果ての大傑作。『シンゴジラ』という日本エンタメ史に屹立する傑作から7年。まさか、それに匹敵する傑作が「次」の作品になるとは思いもよらなかった。しかもテーマ的に、『シンゴジラ』が到達して地点をさらに踏み台にして前に進んでいる。ペトロニウスの名にかけての傑作。
『ゴジラ-1.0』 なぜ特攻をするのか? 公に貢献したい気持ちと、国家の暴走への否定をどう描くかの問題意識に答えを出した日本映画史上の傑作 - 物語三昧~できればより深く物語を楽しむために



2.映画:すずめの戸締り 新海誠 2022

時代性というと、もうこの人しか、この作品しかありえない。最高だった。震災三部作という視点から評価したが、それは少し時間が経って何度も見直しているが、この視点で見るのは正しいと思うよ。2022年の作品だけど、23年に何度も見直しました。それ以来「この視点」と「文脈」が頭の中をずっと支配している。『君の名は』がやり直しができる点を批判されて監督は深く悩んだらしい。この批判は、僕にはなんだか典型的に何も考えていない脊髄反射的批判で不愉快に感じるが、深海監督はこの、誰もが反射的に思う部分を深く掘り下げたんだなぁ、なんて真摯で継続的な人だろうと頭が下がる。しかしその悩みには、素晴らしい物語に到達した。もともと「死」を受け入れていく『星を追う子ども』を描いているのだからこの文脈は当然だとしても、「日本という土地で生きていくのを受け入れるとはどういうことか」の到達点が、これかと唸るしかなかった。日本的ローカールを突き詰めて、普遍に至る素晴らしい作品でした。
2022-1113【物語三昧 :Vol177】『すずめの戸締まり』新海誠監督の集大成にして三部作の到達した所-184 - 物語三昧~できればより深く物語を楽しむために

2.マンガ:天幕のジャードゥーガル トマトスープ

ダントツの1位なんだけど、23年に発表という縛りで、それでも2位。とにかく最高。すでに僕の人生のベスト3に入るマンガだと思う。2020年代前半のテーマは、世界の「分断」にどう立ち向かうかなんだともうので、ユーラシア大陸グローバル化したモンゴル帝国の再評価と解像度をあげる試みは、とても理にかなっているマクロの視点。しかしそれ以上に、ファーティマという女の子が、この世界帝国の事実上のトップにまで上り詰めていく成長物語(ビルドゥングスロマン)でもあり、その中には、愛する人を家族を故郷を奪われた憎しみの復讐譚、彼女が仕える人のもつ「女性が政治の道具として使い捨てられる」ことへの怒りへの共振、そしてそれ以上に、この世界を「知」の体系を通して観察していく純粋な「知る喜び」への憧れ。それらが全て揃って彼女をとても魅力的な物語ん主人公に統合している。いやはや最高な物語だ。ペトロニウスの名にかけて傑作。
  
2.映画:キリエのうた 岩井俊二

岩井俊二版『すずめの戸締り』といえる。12年を経て東北大震災をやっとクリエイターたちが物語に昇華できるようになってきたのだろうと思う。キリエ(アイナ・ジ・エンド)とイッコ(広瀬すず)の二人の少女の人生の変転を描く。彼女たちはは劇中設定上、アラフィフの自分の1/3も生きていないのに、なんだろうこの激動の人生は。小松菜奈主演の『糸』(瀬々敬久監督)の園田葵と高橋漣の平成の終わりまでの18年を描いた物語を強く連想した。平成がちゃんと記憶の中で、一つの時代になっている気がしました。3時間の長尺のアイナ・ジ・エンドのミュージックビデオ風という作りであるにもかかわらず、全編エモーショナルなドラマチックな物語が展開するという還暦を迎えた岩井俊二の天才的な熟年の技量を持ってしか成り立たないような特殊な構成。『リリイ・シュシュのすべて』を見たときのような、何か聖なるものを見たという衝撃が鑑賞後に残る。「キリエ・憐れみの讃歌」やオフコースの「さよなら」「ひとりが好き」「Lemon」「異邦人」などオリジナルの曲とカバー曲のオンパレードが、さまざまな時代性を感じさせながらも、Kyrieの歌声と共に現代に我々を結びつける、なんというか流石の岩井美学。

2.映画:THE FIRST SLAM DUNK 2022

井上雄彦が原作・脚本・監督の全てをカバーし、その天才を見せつけた、圧倒的な未見性。スラムダンクは傑作だけれども、幾らなんでも完結してからこれほど長い時間をかけて、こんなとんでもないものをが見れるとは夢にも思わなかった。24年の2月にDVDが発売予定のようだが、このスポーツのアニメーションの世界を変えたような偉大な傑作を、映画館の大画面で体験できなかったものは、とても残念だ。この時期、世界中でアバダー2が売れに売れまくっている中、日本だけが『すずめの戸締り』や『THE FIRST SLAM DUNK』が上回っていた。ガラパゴス日本の面目躍如と言える、アメリカ的なエンターテイメントではない、オリジナルかつエンターテイメントなソフトがこうして生まれる日本に住んで日本語で見れる、我々のなんと幸せなことか!。内容の解説なんかどうでもいいから、これ見てないのなんて、なに人生損してるの?というような体験です。
『THE FIRST SLAM DUNK』井上雄彦 原作・脚本・監督 とにかく天才だとため息をつくしかない圧倒的な未見性!映画館に観に行きたい! - 物語三昧~できればより深く物語を楽しむために


3.ドラマ:サンクチュアリ -聖域-

2020年代前半は、アメリカで吹き荒れるポリコレ旋風に対して、どう距離を取りながら、それを取り込んでいくかが問われている時代文脈だと考えている。無視することは物語の進化を止めること。無批判に取り入れると物語が面白く無くなる。文脈やキャラクターを無視して、物語を作ると、途端に面白く無くなるから。その中で、ジャニーズ喜多川の性犯罪問題などが爆発した2023年を背景に、日本的な「聖域」にメスを入れ解体を迫りながら、より本質の深さ、かっこよさ、重さを描くスタイルは、素晴らしい。そしてなによりも、カッコいい。タニマチの構造、八百長興行の問題など、日本的共同体の問題点、闇の部分に足を踏み入れながら「その中で生きること」を長く続けてきて出来上がった美学を見せていく、、、かーなんとかっこいいんだろうか。このドラマは出色の出来だった。そしてネットフリックスなどの配信でないと、ここまで闇に踏み込めなかっただろうから、いやはやまさに「今の時代」の作品だと思う。主人公が、ポリコレ的でアメリカかぶれの視点を持った女性記者との対立構造の視点を配置していることも、素晴らしい。現代の読者を、「その世界」に誘う導入として本当に練られている。

3.マイスモールランド 2022 川和田恵真

主演の女優、嵐莉菜のファンになった。とにかく演技が素晴らしかった。脚本とのマッチ、監督の力量があるのかもしれないにせよ、とにかく演技が素晴らしすぎて、忘れられなくなった。僕は映画を監督か脚本で見る視点が強いので、俳優という視点ではあまりこだわりがないのですが、この人の次の作品があるなら、絶対見るなぁ。けれども作品としても、「今見るべき」作品だと思う。『モーリタニアン 黒塗りの記録』もこれを連想させられたけど、これって「国家による理由のない拘束」って、人類史、国家が生まれてからの永遠のテーマなんだなって、繋がりがわかってきた。英米法のヘイビアスコーパス(Habeas Corpus Act 1679イギリス)、いわゆる人身保護令状ですね。スリランカのウィシュマ・サンダマリさん名古屋入管死亡事件もこの文脈で見ると、色々考えさせられる。『モーリタニアン 黒塗りの記録』だけだと、アメリカの遠い国の、遠いお話にしかならないけど、自分の国でも同じ問題があること、まさに「今のアドホックな問題である」ことのライブ感は、感じながら見るべき話だなって思った。嵐莉菜さん、美人すぎるし(さすがモデル)、イラン、ドイツ、日本のハーフだし、「違う存在」に見えるのに、振る舞い、雰囲気、精神性、演技全てがもう日本人の女子高生にしか見えないので、この普遍的にきている問題と、自分達のローカルな日常が繋がっている感が凄すぎて、ほんととんでもない映画だった。ペトロニウスの名にかけての傑作。ふと思ったが、日本のローカルと、世界への扉を開くグローバルな「扉」って、やはりここなんだよね。在日朝鮮人などが題材の映画や小説とかが素晴らしいものが、この視点なんだろうと思う。竹田青嗣さんの『陽水の快楽―井上陽水論』を思い出した。こう思うと、竹田先生の文章には、人生で影響を受けているなぁ。僕の文学解釈は、多くここに影響受けている。
2023-05034【物語三昧 :Vol183】『マイスモールランド』2022 川和田恵真監督 日本映画から難民問題のこのような映画がみれるとは思わなかった!嵐莉菜さんの演技が素晴らしい!190 - YouTube

4.マンガ:詩歌川百景 吉田秋生

知らぬ間に鎌倉のすずちゃんシリーズの続きが出ていてびっくりして、3巻一気に購入した読んだら、あまりに素晴らしさに腰が抜けた。いやはや本当に円熟味が増している。吉祥天女の時から本質が変わっていないんだな、と思う。人が心に抱える闇や強い光や、そういった奥に隠れている「重さ」みたいをのを炙り出すのがとてもうまい作家だと思う。だからこそ、もちろん吉祥天女BANANAFISHのような劇的な舞台やキャラクターを造形してもいけるし、こういった日常でもどちらでもそれが光る。熟年味のある作風。しかし、『サンクチュアリ -聖域-』でも思ったけれども、「田舎の当時込められた共同体に住んでいる人」や「都市の底辺で縛られて生きている」のリアリティから日本を世界を描くのって、それこそが日本の「今ここに生きる我々」の本質のような気がする。まれ我が生きる「現実」の最も極端なものが出ている場所だから。とんでもない傑作。それと、新海誠の『天気の子』が大きな境にはなっているけれども、『水星の魔女』もそうだけど、2010後半-20年代前半に、この呪われて苦しい「現実」を生きる若者たちへの「祝福」というテーマがすごく感じる。新世界ものの文脈への答えは、これだったんだろう。詩歌川百景もそうだけど、昭和の時代の頃感覚だと、「閉じ込められた共同体」みたいな物語を描くと破局や、外に出ていけない無念が描かれた気がするが、いまは、世界のどこにいても、その苦しみは変わらないし、そうであるからには、世界のどこにいても気高く魂を燃やして生きる方法はあって、今はそのどちらもありだって感じがまざまざと感じる。それを、日本的な文脈とリアリティの共感を持って描ける吉田秋生さんは、本当に素晴らしい。

4.小説:TS衛生兵さんの戦場日記 まさきたま

好き。とにかく小説家になろうの連載で見つけた時から、ずっと好き。今年『TS衛生兵さんの成り上がり』がの商業版の1巻が出版。何か時代的な文脈を賢しらにに探さなくても、とにかく何回も何回も読み返す。単純に解説すれば、異世界転生前にFPSで世界チャンピオンだった男が、第一次世界大戦に似た状況の国に孤児の女の子として転生し、治癒の魔法の適性がったため軍人になり、塹壕戦の地獄に巻き込まれていく。多分シナリオは、彼女が衛生兵から素質を見出されて軍の英雄になっていくというドラマトゥルギーを持っているのだろう。タイトルから容易に想像できる。しかし、全然成長しない(笑)。多分3巻分ぐらい後から、ようやく「ほんのちょっと出世の兆し」が見えるくらい。だが、それまでの塹壕戦でボロボロになりながら、ただ上官に殴られ続ける戦場の日々の、熱く切なく美しいこと。コミカルさの全くない『幼女戦記』のような作品とでも言おうか。主人公の少女、トウリ・ノエルは、僕の人生の中でも最強クラスの好きな主人公。なんか、こう読んでて、グッとくる。こういう無表情クール系で、めっちゃ頭の回転まわっている天然系って、好みなんだよなー。でもまぁ、これほど戦争の悲惨さを感じる作品もないくらい悲劇しかない作品。にもかかわらず、確かに、じわじわと、トウリの無双的成長にドキドキするドラマチックな作品でもあり、見事な物語だと思う。★5つの傑作。ロドリー君とのシーンは、いつ読んでも泣きます。

5.映画:怪物 是枝裕和

この映画をどんな映画かというならば、『羅生門』のように、それぞれの視点から見ると全体像が浮かび上がっていくモノというのが最も多いのではないかと思う。構造はそこが、主軸。だから、前情報なしに「何が起こっているのか?」「真実はなんなのか?」を疑いながら、頭がシャッフルされながら見るときに、この映画が最も輝く構造になっている。カンヌ脚本賞クィア・パルム (La Queer Palm)の受賞作品なので、見ようと思って見ても、事前情報がなければ、なんの作品なのか全くわからないでしょう。その状態で見てほしい。2020年代の前半というのは、「多様性を祝福する」という方針の中身が深く掘り下げられていく過程だと思っている。これまで単純に、弱いもの、典型的なのは女性が抑圧されているという言説が、その構造に弱者男性を踏みつけにしているよねという「差別の複雑な構造が表に浮かび上がって」、それでも尚且つ、多様性を祝福しようとすると、この二重三重の構造を意識した上で物語を描かなければならなくなってきている。まさに、この観客に「多様性の祝福」という言説に乗せて他者を踏みつけにする構造を、繰り返し見せて、ひっくり返すことによって、この世界はどういうふうに存在しているのか?を見せる傑作になっている。まさに今の時代にふさわしい物語の構造。
『怪物』2023 是枝裕和監督 坂元裕二脚本 たぶん是枝監督が初期から目指したものが、坂元裕二さんと組むことで到達できていると思う - 物語三昧~できればより深く物語を楽しむために

6.映画:シン・仮面ライダー 庵野秀明

庵野秀明。彼も63歳なのですね。数々の「シン」シリーズで、日本のエンターテイメント史における伝説の名作をリブートし続けているのは、見事としか言いようがない。僕だなまで体験した第一世代より少し後の世代で、あまり知識も思い出もなかったけれども、LD教授に解説していただいたおかげで、この作品の凄みを深く勉強できた。シン・シリーズやガンダムシリーズゴジラなど、日本の持つ大衆エンターテイメントの「シリーズ性」というキャラクターを大事にして世代を超えて継続していく形式は、全世界でアメリカと日本にしかないものだと僕は思っている。貴族的なエンタメの出自を持つ欧州ではもちろん、大衆エンタメが基盤にある韓国や、台湾、タイ、インドでも、今の所はこれらのものは見られない。エンタメがグローバルに展開している韓国ですら、こういった世代を超えてキャラクターシリーズが重厚さを多様性を持って、引き継がれていくことはほとんどない。なぜなのだろう。僕は、日米の大衆文化に共通する何かオリジナルなものがあるのではないかと思っている。ゴジラとシン仮面ライダー、水星の魔女には、2020年代の「新世代」に入りさまざまなベースの昭和的な物語が令和的にアップデートされて、次の時代への基盤を作り直している新たなステージに入るのを感じさせてもらい、本当に最高の2030年だった。
『シン・仮面ライダー』2023 庵野秀明監督・脚本 本郷猛の「戦う理由・動機」の語られる部分が素晴らしかった! - 物語三昧~できればより深く物語を楽しむために


7.アニメ:機動戦士ガンダム 水星の魔女 小林寛

新しい世代へガンダムを伝えるためというコンセプトが完璧以上に描かれ、しかも、新しい令和的な世代の価値観へのパラダイムシフトもされていて、いやはや「いま見るべき物語」でした。なによりも、面白かった。数あるガンダム作品の中で、これを見よとは言えない作品ですが、リアルタイムで見るべき作品でした。記事でかなり細かく解説したしYOUTUBEでも解説したのだが、この作品が、令和的なUPDATEをものすごく意識して作られている様は驚きだ。流石のガンダムシリーズ。女の子が主人公で、しかもカップル自体も女の子同士という新しいチャレンジ。ガンダムという昭和的な物語ベースの「面白さのコア」を、きちっと令和的にアップデートしようとする意識の高さに感動する。
『機動戦士ガンダム 水星の魔女』2023 小林寛監督・大河内一楼シリーズ構成 新世代の物語の最前線をガンダムサーガのフォーマットで - 物語三昧~できればより深く物語を楽しむために

8.映画:ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー アーロン・ホーバス、マイケル・イェレニック

ピーチ姫の描き方が、とても象徴的で、2020年代的だなと。もともとはただ待っているだけの「ちょっと頭の弱いお姫様」みたいなポジションに甘んじていたものが、時代の経過と共に、能動的で、溌剌として、自分を育ててくれた仲間を国を守るために、自分の意思で行動を起こす武闘派のお姫様。物語のドラマとしては破綻している部分もあるものの、現代に適応しようとあらゆる面で足掻いているのが感じられる過渡期的な作品。そして、なによりも、大ヒットした映画の面白さがつまっているような作品。基本的に大衆的にヒットする作品には、ある種の熱量がある。この熱量を感じ取れない人が、さかしらに批評家的視点を振りかざすのを見ると虫唾が走る。色々問題があってさえ、面白い!というのは、たくさんの人に愛されるというのは、一つの正義なんだと僕は思う。
ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー 2023 評価が二分すると言われるこの作品をどう鑑賞すればよいのかについての補助線 - 物語三昧~できればより深く物語を楽しむために

9.マンガ:男友達が激甘カレシになりました 御徒町鳩

Twitterで見かけたら、これ素晴らしいんじゃないかって思って、紙の本を買ったのは何年ぶりだろう。紙しかなかったので。きづきあきらさんの『いちごの学校』以来のセクシャルな話で、自分の中でブッ刺さった作品。こちらはめちゃくちゃポジティブな作品でした。こういうの、こういうのが!見たいんだよという感じ。2020年代的視点で、男女が対等になる「中身がちゃんと描かれてる」。男性のホモソーシャルな仲間のノリって、「女性の性をモノ化して、男同士の紐帯のための道具」とするんですよね。これ、男子校や体育会系の内輪ノリを想像すると、すごくわかるんじゃないかな。例えば、「同級生の女の子の容姿とか胸の大きさとかを比較したり」する行為なんですが、これ女の子がその「輪の中に入っている」としんどいよなといつも思います。少年のホモソーシャルなノリが好きな女の子もいるでしょうけど、「性を軽く扱われて傷つくトラウマ」って、絶対起きるよなと。それが癒されて、花開いていくのは、めちゃたまらん、ラブラブで。それだけでなく、僕もムッツリ系の人なので、この「自分の性癖を表に出して同調圧力で男の紐帯を測る」って、ダメなんですよね。男同士の内輪で女の話されるのが不愉快でたまらない。しかもそれだけではなく、男性側が、なぜこの女性を選んで、癒せるのか?という理由が、ちゃんと逆側で描かれてリンクしているのが、凄まじくラブい。豪太、そりゃちえちゃんのこと、好きになるよなって、納得しきり。男性が「上の立場から女性を癒すのでは無く」、ちゃんと男性側も癒やされている理由が描かれるのは現代的。これ、こういうのが、僕の理想の恋愛だよって、唸りました。そりゃ、この二人のHって、気持ちいだろうなーと、唸りました(笑)。心と身体がリンクしてこそ、幸せなんだと僕は思うもの。★5つの傑作。

10.映画:バービー(Barbie) グレタ・ガーウィグ

『SHE SAID/シー・セッド その名を暴け』、『部長と社畜の恋はもどかしい』『JKハルは異世界で娼婦になった』『男友達が激甘カレシになりました』『月曜日のたわわ』『茉莉花官吏伝』、23年でいえばジャニー喜多川の性犯罪などの文脈で自分が気にしているのは、全部フェミニズムというか、女性の視点から世界がどう見えるか?の「世界をUPGRADEするためにどんな異なる視点からの物語がありうるか?」の体験なんだと思う。女性側からの告発が社会に見えるようになり、落ち着いてきたので反動が出てきたり、「やりすぎによる問題点の可視化」も起きているのだけれども、まだまだ現実的に権力構造が変わったわけではないし、「世の中をどう観るべきか?のUPGRADE」が浸透しきっているわけでもないので、よりウェルメイドに構築された物語が、2020年代の後半は継続していくと思う。多様性を祝福しようとすれば、「現実で無視される弱者の視点から世界を物語る」ことは必須で、同時に「男性権力によるマッチョイズムの大きな物語の解体」みたいなメインの軸の解体を行うのもまた同時並行。いまは、この弱者に、まずは現実的に女性がいて、でも実は男性も「これ」に抑圧されている人がたくさんいるでしょ?「みんな」にとっていい点はどこなの?という大きな流れがある。たしかに男性側にも弱者がいるのにそれを踏みつけにするのはおかしいでしょ?という反動は出てきているが、その議論は、「そもそも女性が構造的に踏みつけられているよね」という前提を踏まえないと、バランスの良い議論にはならない。この辺りのポリコレの進捗の深みをちゃんと反映して、「尚且つ面白い物語」が世の中に求められているのだともう。『バービー(Barbie)』は、このながれを、バランスよく掴んでいるともう。さすがの、ハリウッドだと感心する。
『バービー(Barbie)』2023 Greta Gerwig監督 分断の向こう側を射程距離にし、自分自身を見つめるときには身体性に回帰する - 物語三昧~できればより深く物語を楽しむために


🔳評価基準
ペトロニウスが2023年に読み観て良かったもの。2023年の12月はほぼ除く。今年見れば過去のものも含まれるが、評価の軸は2023年を代表し、2020年代前半(文脈評価は約5年サイクルのイメージ)を塊で考えたいと思っています。とはいえ、そもそもアニメや映画は見ている母集団が少ないので、かなり恣意的になってしまっている。この辺りの母集団の数を上げる努力はしていきたいと思う。やはり時代性は、映画が2時間でインパクトにコンパクトにまとめられているだけに表すなぁ。ただ、こういうふうにまとめると、本当に見ている量が激減している。日本に帰ってきたし、子供の受験もあったし、大きなプロジェクトアサインされているなど、まわっていないなぁ。唯一マンガだけは減っていないんだよね。僕の一番好きなものは、やはりマンガなぁのかなぁ。でももう直ぐ50代に入るので、40代最後と考えると、もっと頑張って物語を摂取しなければと思います。


🔳2023年を見る軸(1)
12月になって、『ゴジラマイナスワン』、『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』、『窓ぎわのトットちゃん』など戦前を描く傑作映画が連発しているので、本来はこのことを評価せねばならないのですが、12月は忙しすぎるし、間に合わないので、だいたい12月公開の作品は除外で、24年に回します。それを除くと、2023年を支配していた問題意識は、新海誠監督の『すずめの戸締り』の311、東北大震災のをやっと物語に昇華するフェイズに入ったことだと思っている。岩井俊二の『キリエのうた』が同じく、地震で家族を失い人生を壊された少女の物語であったことも強い共振を感じます。特に、何度も繰り返し見ましたが、『すずめの戸締り』が到達している普遍的な答えには、自分も日本人として強烈に共感するもので、まさにそれだと思わせるものがあった。日本人が日本人であり、この天災の多発する列島にそれでも住み続けることというのをどう捉えるかを、追い詰めて行った結果、世界中の人々が共感できる普遍性に到達しているのも素晴らしいと思う。この辺は、ブログやYou tubeで語りまくっているので、自分の中でも分析に満足がいっている。良い物語に出会えた。残りの人生、東京に住み続けるとすれば、いつどこで巨大地震に出会うかわからない。そうであれば、このすすめの覚悟と想いと同じものを持ち続けて生きていくしかないんだもの。

🔳2023年を見る軸(2)
マイスモールランド、バービー(Barbie)、怪物、サンクチュアリ -聖域-などなど、ジャニー喜多川の性犯罪問題やビックモーター事件などと関連すると、このコンプライアンス意識の「差異」にあるもの、「差異」とは、昭和的なもの(ブラック的なもの)と令和的なもの(ホワイト的なもの)の間の部分で、新しい時代に塗り変わっていく部分が物語になっている。ここでは、世の通例に倣い、ブラックとホワイトと書いているが、ホワイトな社会といえども必ずしも楽園ではない。僕は巨大組織の上級管理職なのだが、20代などの新入社員レベルの若手が凄い優秀で粒揃いに感じる。あまりに「例外がない」のが最近怖い。これは、きっと、学校や家庭、就職試験等々のスクリーニングの段階での弾かれる率が、昭和よりも激しくなっているのではないかと思うのだ。じゃあ、社会から弾かれている人は、一体どこにいっているんだろう?。社会の大多数の場面でホワイト化しながらも、社会的格差が広がり分断が広がるというのは、ミクロ的(僕らの主観ので見る世界の観察経験)とまるで矛盾するが、それがマクロで進むことは容易にあると思っている。多様性が表面だけのイデオロギーで空中戦を繰り広げる軸は、既に終わっていると思う。「多様性」の推進に伴う痛みや社会構造の変化によるマイナスを引き受けて解決しながら進める痛い身を伴う時代に入ってきているのだと思う。たとえば、マンガで、『部長と社畜の恋はもどかいい』『男友達が激甘カレシになりました』なんかも、この部分の女性が虐げられてきた反動がテーマなのだけれども、単純に、女性の立場の回復だけを描かなくなっているところが、、自分の中で光っているのだと思う。やはりフェミニズムの問題、、、、というか、多分フェミニズムというちょっと手垢がついたイデオロギー問題に狭く捉えたらダメなんだろうと思う。というのは、昭和的なもの、貧乏な国が近代化していく過程発生する人口ボーナス期の高度成長期には、リソースが不足しているのに「坂の上の雲」(=理想)にむかって届かない手を伸ばすということをする。だから、必然的に不足するリソース(=その能力がないのを気力とか気合いでなんとかしろ!という不可能なことに無限に負荷をかけるという「やり方が普遍化する」。この最も典型的な例が、男性や社会から女性への抑圧なので、この図式を「超えていこう」とするときにスポットライトが浴びるのがフェミニズム的な視点、構図なんだろう。だから、この広い領域を、「女性問題のみ」として矮小化すると、途端に輝きや普遍性が失われる。ジャニーズの少年への性犯罪の例が典型的で、日本の法律が直近まで、「レイプされる側の対象としての男性」を想定すらしていなかったというのは、男性にとっても女性にとってもマイナスのことであるから、そもそも協力して解決する視点がないと、どうにもならないからだと思う。だから「対立を先鋭化して抑圧者に対して抵抗して告発するフェイズ」(要は煽りまくって分断を促進する)と「共存の道を模索して社会の分断の架け橋になるフェイズ」という2つの視点がバランスよくシームレスでないと、物事はうまくいかないし、社会にも受け入れられないのだろう。もっといいかえれば、23年は、「具体的に個々のケースでどうするというミクロの領域」に足を踏み入れていっているんだろうと思う。その場合には、女性が虐げられた「構造」を変えることによって、「その構造変化によって虐げられる男性」とかが出てきた時に、どういうふうに分断を超えて、共感、共存の意識を持ち、解決していくかというフェイズに入っているんだと思う。具体的な視点位入ると、妥協の積み重ねになるので、途端にイデオロギーの推進力が邪魔になるんだろうと思う。ちなみに、下は、2022年のテーマをまとめているものだが、2020年代前半の問題意識が集約されていて面白い。

🔳2022年のベスト10

1位.UQ HOLDER! の連載終了
2位.トップガンマーベリック/ファーストスラムダンク(反面教師としてのアバダー2)
3位.すずめの戸締り
4位.同志少女よ敵を撃て/戦争は女の顔をしていない
5位.天幕のジャードゥーガル
6位.ニセモノの錬金術

新世界の過酷な現実世界に直面する
7.マブラヴオルタネイティブのアニメ化

やり直しループものの類型=逃げないで立ち向かえ!
8.やり直し姫は夫と恋をしたい/東京卍リベンジャーズ/世界で一番速い春

過酷な世界に行きながら、さらっとマクロを無視して、面識圏・親密圏を選ぶ
9.リコリス・リコイル(Lycoris Recoil)
かぐや様は告らせたいの連載終了/推しの子/異世界迷宮でハーレムを/花の井くんの恋の病

この時代のでもビルドゥングスロマンは消えない。
10.メダリスト
絢爛たるグランドセーヌ/アルテ/13歳の誕生日、皇后になりました/茉莉花官吏伝/せんせのお人形
/金貨1枚で変わる冒険者生活。/かげきしょうじょ!/アオアシ/宇宙軍、冒険者になる

11.食を通した日常
政所様のお化粧係〜戦国の世だって美容オタクは趣味に行きたいので
薬屋のひとりごと/焼いてる二人/琥珀の夢で酔いましょう/はるかリセット/北欧貴族と猛禽妻の雪国狩ぐらい/鍋に弾丸を受けながら/ダンビア先生のおいしい冒険/釣りご飯/幼女戦記食堂/空挺ドラゴンズ

ポリコレのくさみを超えた日常生活世界とは?
13.女装してオフ会に参加してみた
瑠璃宝石/神作家紫式部のあり得ない日々/熊撃ちの女/カワイスギクライシス
分裂を超えるには、まずはラブコメ見直してみようぜ!-デュアルカップ

分裂を超えるには、まずはラブコメ見直してみようぜ!
14.姫騎士は蛮族の嫁
焼いてる二人/僕の奥さんはかわいい/ふたりソロキャンプ/とにかくカワイイ/ 部長と社畜の恋/可愛い上司を困らせたい/この会社に好きな人がいましす/結婚するって本当ですか?/100日後に結婚するふたり/和服な上司が愛おしい/あせとせっけん/昨夜はお楽しみでしたね/ラララ/バトルグラウンドワーカーズ