『ボクはイケメン』非モテというか、ネガティブに自分に自信がないと、人間関係は全てうまくいかない。仮にイケメンであっても。

ボクはイケメン 1 (ヤングアニマルコミックス)

評価:★★★☆星3つ半
(僕的主観:★★★★☆星4つ半)  

きづき あきらさんとサトウナンキさんの『うそつきパラドクス』『バター猫のパラドクス』『ボクはイケメン』『うそつきパラドクス -社内風紀のみだしかた-』これらはシェアードワールドなんですが好きなんですよね。ダントツというか一番好きなのは、『うそつきパラドクス』です。その他のは、その派生という感じなので、主軸はこれかなって思います。時々、異様に読みたくなって、「社内風紀のみだしかた』まで一気に読んでしまいます。いつも思うんですが、たぶん、きづき あきらさんとサトウナンキさんって、性格まるで反対なんじゃないかなっていつも思います。なので、ちょうどなるべくエンタメの方に明るく楽しく振ると、脚本がものすごくネガティヴで暗いので、いいバランスになるっていつも思います。なのでギリギリ、いいところをつくと、傑作になる気がする。僕は、『いちごの学校』を大傑作だと思っているんですけど、ものすごく暗く怖い話だよなって(苦笑)。あまりネガティブ全面にすると、そういうのが好きな人はいると思うけど、、、って僕は思う。


んで、話は戻るんだけど、『うそつきパラドクス』を読むと、この関連全て読みたくなって、やはり読み直してしまうんですよね。その中で、『ボクはイケメン』がいつも、とても気になっている。というのは、これは、超イケメンでいいやつの犬養(いぬかい)くんと、性格がひねくれてしまっている主人公の獅子丸(ししまる)が入れ替わってしまう、入れ替わりもの。入れ替わりもの類型を、、、、と説明し始めると長くなるので、そこは割愛。


ここでいつも思うのは、爽やかイケメンの犬養くんが死んでしまって魂が、超嫌なやつの獅子丸に乗り移るんですが、、、、乗り移った途端に、獅子丸くんが異様にモテ出すんです。


でも、これが読んでいて納得以外の何者でもないんですよ。ストレートで、爽やかで、相手をよく見ている。多少デブでイケメンでなくても関係ないんですよ。獅子丸は、世の中の女が自分を相手にしないのは、自分がイケメンじゃないからって、捻くれているんですが、見てくれが全然関係ないってのが、もう見ていて痛いほど伝わってきてしまう。


なによりも、何度も入れ替わっているんですが、同じシュチュエーションになっても、非モテで、自分に自信が持てなくて、他責思考で、とても嫌なやつの獅子丸に、そりゃ他人は、ましてや女の子は好意なんか寄せないよってのが、もうわかりすぎるくらいわかってしまう。これが、すげぇ怖いなってほんと心底思ったんです。前に、『花嫁は元男子。』って、性転換をした元男性の話を読んだときに、もう魂が明らかに可愛くて魅力的で、これ性別とか関係ないじゃんって、読んでてめちゃくちゃ感じたんですよね。

なんで、これを見ていて落ち込んだのかっていうと、ああ、、、人間の格差ってのは、属性ではないんだ!!というのがまざまざと感じられるからなんですよ。いままでの話にすれば、ヲタクだからもてないとか、ブサメン、キモメンだからもてないとかは、全部属性のウソであって、ただのごまかしで、その人の「人格」とか「魂の本質」とか言い方は何でもいいけれども、「その人自身」のせいで、もてないだけなんですね。ようは、一言でいえば、人間的な魅力がないだけなんですよ。非モテの議論とかも、結局は「ここ」に落とし込まれるのが、いまのリベラルな時代なんです。属性のいいわけが、まったく成り立たない様を、感じるんです、この漫画を見ていると。


これ、実はすごい怖いことですよ。その人の「人格の本質」によって、すべてが決まるっていうんですから。これ、身も蓋もない格差の結論なんです。まだしも、ヲタクとか経済的に格差があるとか、物理的ないいわけがあったほうが、人は救われるってもんです。ウソによる誤魔化しができるんですから。

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これと同じ感慨を、『ボクはイケメン』にもすごく感じるんです。獅子丸の考え方が、行動が、そりゃ、どんどん人生は悪くなるよなってのが伝わってきて。まったく同じスペックで、同じシュチュエーションで、ちょっと変わっただけの犬養くんが、状況をナチュラルに、無理なく、本当に簡単に変えてしまうので、ああ、獅子丸がモテないのは、中身の、魂の、つまりは性格の問題なんだってのが、これでもかと感じられてしまう。


きづき あきらさんとサトウナンキさんのテイストとしては、エンタメの方に寄っている作品なので、この犬養くんとの出会いが、獅子丸の気持ちを変化させて、世界が一気に優しくなっていきます。これは気持ちがいい。エンターテイメントとしても、ハッピーエンドであってほしいので読後感の良い感じにまとまっていて、とても素敵な作品です。


が、この結論(=ハッピーエンド)になるには、獅子丸が、自分の非モテネガティブ思考をどこかで捨てて、自分自身が変わることが必要です。


でもなんでなんで変われたの?


そこが、この物語の本質でコアになると思います。最終巻で、熊谷さんが、押し切られそうで、やはり同情で流されてしまいそうだったのを、止めるためでした。でも、これって、確かに物語としては美しいけれども、もともと獅子丸くんが本質的にいいやつで、そこの最後のトリガーを引けたってことなんでしょうけど、それなら、なんで今までそのトリガーは引かれなかったのかな?って、ちょっと思っちゃうんですよね。


いや、この物語としては完成しているし、4巻でうまくまとめた!って思う良作なんですが、それよりも何よりも、犬養くんと獅子丸くんの入れ替わりを見ていると、「人に嫌われて人生がうまくいかないネガティヴスパイラルに入った人」の思考を、見事に獅子丸くんが再現してて、胸が痛い苦なるんですよね。それが、エンタメとして、犬養くんに入れ替わることで、見事に炙り出されているのも、うわーーーーーーって気分になります。背筋がゾワゾワするので、ああ、ああいうスパイラルに入ったら、人生は終わってしまうだろうなって、怖くなりました。



ちなみに、この類型をもう一つ上手く品っているが、以下の話。


この非モテのネガティブスパイラルに入ったら、人生は詰んでしまう。魂が腐るからだと思う(苦笑)。


けど、もう自分を変えることは、たいていできない。では、それをするには?ってのは、今後考えていきたいテーマ。



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