カマラハリスVSドナルド・トランプの初ディベート対決_ABC News Presidential Debate: Harris and Trump meet in Philadelphia(2024年9月11日)

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President Donald Trump and Vice President Kamala Harris are set to face off in their first debate of the 2024 election on Tuesday, moderated by ABC News. The debate will start at 9 p.m. EDT and is expected to last 90 minutes. It’s being moderated by “World News Tonight” anchor David Muir and “Prime” anchor Linsey Davis.

ABCで9月11日に副大統領カマラ・ハリスと前大統領ドナルド・トランプの初の一騎打ちの討論会。もちろん、英語でフルスピーチ聞いてみようシリーズの一環なので、全部聞いてみました。いろいろ論点はあるが、ニュートラルにみた場合、ハリスの勝利だなと感じます。正確にいうと、ディベートやレスポンス力が低すぎるとの前評判を覆して、ほぼ失点がなかった点が、今回の特徴。何もバイアスなしにみたら、ハリスのイメージが良かった。といいつつ、2016年のサンダース・トランプ現象を前提とする2024年の大統領選挙は、相手の言うことにまともに反応しないで、いかに自分の意見だけを押しつけるかという、ディスコミュニケーションのゲームルールで戦っているので、「嘘も含めた自分の土俵に誘い込んで相手をコケにするトランプさん流のコミュニケーション」に、引き摺り込まれなかったというのが、今回の、ハリスさんの得点。ちなみにいえば、この前のバイデンさんの6月の直接対決の時は、その土俵にすら登れなかった感じなので、あの失態は、流石に撤退に追い込まれても仕方なかったなと思います。

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えっと話を戻すと、2016年からのポストトゥルース的なゲームのルールになっていて、「相手の意見を無視して自分の支持者にだけ向けて、嘘をも含めて世界観をぶつけ合う」というゲームになっているんですよね。これは今までの常識からかけ離れているので、なかなか民主党側は対応できなかった。基本的に頭の良いエリートの集団なので、嘘も含めて陰謀論を撒き散らすというのは、これまでの政治のあり方から言えば、致命的なスキャンダルで政治生命を失うのが当たり前だったので、まさかそんな・・・・というのが、あったんじゃないかなーとずっと、大統領候補の討論会を見ていて思います。

全米の世論調査は、数ポイントハリスさんのリードが継続しているということなので、トータルでは、ハリスさんが上手くやった(=失点がなかった)ということでしょう。


アメリカ大統領選挙 ハリス副大統領 トランプ前大統領 テレビ討論会 複数の米メディア「トランプ氏防戦」 | NHK | アメリカ大統領選

ただ、何度も繰り返してますが、2016年のサンダース・トランプ現象を前提とする2024年の大統領選挙では、構造として、全米のほぼ半々の支持者層を抱えていて、それらの固定的な支持層は、嘘でも信じる上にイデオロギーで固まっているので、多少の問題ではほとんど支持者は動かない。事実上、浮動票なんかないって考えるのが正しいと思う。なので、今回のディベート如きでは、全く支持の構造に影響はないと思います。だとすると、個別の激戦州での評価で全てが決まってしまう。この場合は、ペンシルバニアジョージアが注目だと僕は思っています。基本的に、ラストベルトとサンベルトの激戦州の構造で、どのように表を動かしたかで、全てが決まる。

激戦州の7つ、もしくは2-3州(全人口の4%程度)で大統領選挙は決まってしまう。その他の州は、ブルーとレッドで、はっきり分かれてしまっている。なので、全国の世論調査は全く意味がない。←これは重要なんですが、日本のメディアは、全く流さないですよね。


ペンシルバニアウィスコンシン、ミシガン、ジョージアネバダアリゾナノースカロライナが激戦州。このあたりの4つぐらい取れると、勝てると思うので、本気で大統領選挙を追いたい人は、これらの州の支持率を個別に追うべき。

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ちなみに、以下のニュースは、カマラ・ハリスさんが本来支持取りやすいと普通に考えれば思える、アフリカ系アメリカ人のコミュニティの構造を追っています。これは、フィラデルフィアが黒人の比率が高く、黒人コミュニティの支持を勝ち取ったら勝てる場所なので、ここで討論会の結果がどのような影響を及ぼしているかを確認するための報道だと思います。

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ここでは、アフリカ系アメリカ人のコミュニティの中でも、宗教右派や、強烈に男尊女卑の意識を持つ黒人男性は多いことが、「女性の大統領」というポイントがどう受け取られるのかを見ているものですね。これは、とてもいい報道だと僕は思いました。というのは、アフリカ系アメリカ人は、宗教的に信仰心の厚い人も多く、しかもコミュニティが結束してて、大家族の意識を持つ人が多いんです。それは、もちろん、アメリカ黒人への差別が激しすぎる歴史を乗り越えるために、個人単位で独立してではなく、大家族、一族で協力しあうという伝統が強烈だからです。家族の結束力が固く、宗教的な意識が強いということは、逆にいうと、家父長主義が強烈に生きている世界だ!ということでもあります。ここのインタビューで、何のてらいも意識もなく、「女性は男性の従属物だから、女性に意思決定権なんかあるわけない!」と言い切る人の多いこと多いこと。アメリカ社会やマイノリティが、必ずしもリベラルなだけの世界じゃないというのは、強烈に認識しておくべき前提だと思います。アメリカの半分は、こういう意識が強烈だからこそ、家族への保守的な意識も強く、かつ共同体主義的であるという現実は、よくよく知っておくべきことだろうと僕は思います。日本人のアメリカ観は、大都市のリベラルな個人主義の感覚しかない人が多くて、このどろっどろの感覚を全く見ていない人が多い。

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この辺りの映画はおすすめのものです。一見、マイノリティが差別される立場なので、虐げられる弱者の側の全てが正しいように見えちゃうけど、マイノリティの内部に歩み寄って内部をクローズアップすると、激しいジェンダーの差別、もっとはっきり言えば男尊女卑の女性差別が凄まじかったりする。だから、ハリスさんが、ハワード大学での黒人のエリートであっても、女性であったり、アジア系であったりとして、彼らからすると差別して蔑視する理由はたくさんあるので、なかなか単純支持に繋がらないという構造があるのが透けて見えます。この辺りが、人種差別やジェンダー差別をめぐる視点ですね。またもう一つには、エリートとノンエリートの意識というのがあります。ここでは、オバマ元大統領へのコメントがありましたが、彼は、エリートではあるものの、シカゴのコミュニティのオルガナイザーとして前半生をかなり捧げており、そうとう尊大なエリート主義者ではあるもの、彼の志と姿勢と実績は、やはり否定できない。でも、カマラ・ハリスは、ひたすらエリートの道を歩み続けており、特に「検察官を職業で選んだ」というのは、基本的にアフリカ系アメリカ人に対すると敵対行動で、体勢側に立つ生き方をしているよね、と感じる人は多い。この辺りは、彼女が、体制内改革を志したという反論を自伝に書いていますよね。

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アフリカ系アメリカ人の警察や体勢側へどういう視点を向けているかは、Ava DuVernay監督『13th 憲法修正第13条』 (2016) とかがおすすめですね。

話がかなり横道にズレた。

個人的には、いきなりハリスさんが歩み寄って、握手したのが印象的。これも高得点ポイントに感じましたね。若いというか、動きが早いというか、待っているよりポジティブに見える。アメリカの大統領選挙の候補者討論会は、特に、「仕草」や「振る舞い」が重要視されるポイントで、今回の討論会のにおいては、ハリスさんの振る舞いは、なんとなくもそっとして、反応が弱かったトランプさんに比べると、僕は格段に良かったと思いました。


特に今回のディベート初対決は、カマラハリスが試される大きな試験だったと思います。


ハリスしはめちゃくちゃ幸運だ、と言われているみたいですが、それは、本来ならば大統領選挙というのは、候補者になるための予備選があって、雑多な候補の中から1年の長丁場を「試されに試されて」、候補者になるわけですが、その試練を全く経ていないからです。もう少しプラクティカルに言えば、「場数を踏んでいない」わけです。そうでなくとも、スピーチ力や、特に討論のような糖移植妙な対応が下手で致命的にダメと言われてきた人なので、この大きな試験で失点がったら、アウト!な訳なんですよね。なので、トランプさんに比べて、人生をかけて準備をして臨んできたと思います。最初にコメントした通り、あらゆることが、「きちっと想定した通り」に対応できていて、トランプさんワールドに引き込まれることもなく、「失点がなかった」という意味で合格点だったと思います。

Let’s turn the pageがキーメッセージで出てきたが、これは、MAGA(トランプ大統領のキーフレーズ)で偉大なアメリカを取り戻すという意味合いは、ある意味、過去に戻るという意味なので、それに対抗して「未来にこそアメリカの歴史がある」という対立のメッセージ。アメリカは実験国家なので、過去に戻るのではなく、「理想的なアメリカは常に未来にある」という概念があるので、それを再確認する言葉。2016年においては、陳腐化していたアメリカの歴史は未来にあるというコモンセンスに疑問を投げかけ、過去の偉大なアメリカを取り戻そうというトランプさんのメッセージは新規さがあったが、久しぶりに王道の話をされると、こっちの方が2024年のいまでは目新しい感覚がする。


機会の経済(An opportunity economy)も、中身は中間層の復活なので、あまり新し味はないのだが、2016年のサンダース・トランプ現象を背景にすると、中間層の復活の意味合いの「深さ」が変わっているので、この言葉をどこまで深められるかは気になるところ。

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その他、僕が印象的だったのは、最初が経済政策のターンでしたが、バイデン政権のハイパーインフレによる生活の困窮は、僕自身も、米国に住んでいてしんどかったことを経験しているだけに、そこをトランプさんがついてきたら、かなり試されるだろうと思ったのですが、無難にやり過ごした感じがして、かなり驚きました。全般的に、トランプさんのツッコミが精彩を欠いていた気がします。ハリス氏はバイデンさんの対応についての対応で「私はバイデンではない、トランプでもない」切り返したのも、トランプさんが対バイデンを抜けきれていないのを見透かしているような感じで、上手い対応に思えました。

あとは、やはり、トランプ節の嘘ですね。「数百万人が刑務所や精神科の病院からわれわれの国に流入している」「オハイオ州スプリングフィールドでは彼らは犬を食べている。流入してきた人たちが猫を食べている。そこに住む人々のペットを食べている。これが、いまこの国で起きていることだ」という発言がありましたが、流石に嘘がすぎるだろうというのは、トランプさん支持者でない限り思うもので、ABCのアンカーもすかさずファクトチェックに入りました。

リベラルサイドの人は、ABCのアンカーのDavid MuirとLinsey Davisを絶賛する発言が目立ったのですが、これも今の2016年のサンダース・トランプ現象以後のポストトゥルースの世界では、確かにそれは、そうなんだけど、この「小馬鹿にするような上から目線の態度」をで盛り上がると、余計に、トランプ・サンダース現象の支持者、共和党支持者サイドを硬化させるだけで、逆効果なことがはっきりわかるので、、、、それはそうなんだけど、正しいんだけど、、、正しさは、人の心動かさないと、思ってしまいます。会田弘継さんの本を読むと、アメリカの社会の見方がガラリと変わります。


🔳その後の反応

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その後の大きな反応としては、やはりこれですね。テイラースイフトがカマラハリスをエンドースメント。インスタグラムで公表しました。

若者、ティーンエイジャーにかなりの影響があったもよう。

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これへのリアクションも各所の出ている。