その選択は、正しい。

とらドラ〈10!〉 (電撃文庫)


10巻読みました。9巻まで読んでいないので、竜児の大河心底LOVEな状態に、ちょっと雰囲気に入れずに失敗だったな・・・と思いつつも、、、、。って、アニメの今週の話を見ると、みのりんが、あー出て、大河と竜児の話に物語がシフトして焦点が合っているから、このことを見ていると、10巻は、あーここでこうなるのはなるほど、となるが・・・・・その前提を除けば、うん、いい話だと思った。というか、丁寧に内面を追っているところが、そして、単純なファンタジー(=空想的で不可能なというようなマイナスの意味で)に逃げ込まないで、ちゃん足元をついた選択肢を考えさせるところに、作家さんの誠実さを感じました。いい人なんだろうね、この作者は。


初見での流し読みで(&花粉症)、10巻以前を小説では読んでいないので、この「読み」が正しいのかわからないけど、読んでいて、あーこの竜児の発想は、とても清々しくて僕好みだな、と思いました。よく少年漫画なんかで、AかBかどっちか選べ!と迫られると、「どっちも選ぶ!」みたいな包括的な解決方法を提示されることがありますが、よほど複雑に背景を練らない限り、こんな選択肢は陳腐なものなんです。なぜならば、「そもそも二択しかできない状況に追い込まれているからこその二択」というのが現実では、普通だからです。「それを超える」発想・行動というのは、ほとんど不可能なくらい難しいものなんです。日常の、どこにでもある普通の学生の関係性を描いている限り「これ」はありえない。


・・・おもわず記憶をよぎったのは、、、、大河と竜児の二人で逃げるのかな・・・と思った時に、禁断の愛で二人の逃避行というか、どんどん逃げて落ちていく様を描いた高見まこさんの『いとしのエリー』(心にのころ素晴らしい作品でした・・・)を思い出しました。逃避行というとこの作品を思い出します。なんというか、立場も常識もわきまえない二人なんですが・・・「なんという常識のなさ!」、なんという「間違った選択肢を!」と、危なげのない?人生を歩む僕は物凄く危機感に襲われるような内容で、、、、年上の先生を好きになった高校生の男の子は、学校を中退し(←この時点で僕的にあり得ない(笑))、先生を追いかけて家も出ていきます・・・・。あれはありえなかった(苦笑)。


今はひきこもりとか不登校も多いし、僕のころのようなタブー感があるのかどうかは分からないけれども、普通の高校生の大多数にとっては、やはり「親に敷かれたレール」を飛び越えることは恐怖だと思うんですよね。コードギアスR2のラストで、スザクがカレンの「虐げられた者たちの気持ちが分かるか!」という叫びに反論して、「では組織の中でしか生きられなかった者の気持ちがお前に分かるのか!」という、物凄く僕的には感動する反論を放つんですが、それと似た感じです。世の中には、より弱者に見える方が正しい的な、パワーハラスメントが横行しているように見えますが、その構図の中では強者に見える人だって、結局はシステムの奴隷なんですよ。雪村誠さんの『ヴィンランドサガ』でアシェラッドが、「人間はみんな何かの奴隷なのさ」とつぶやくようなものです。そのことの苦しさを等分に秤に載せないで、話される弱者論議は、僕にパワハラにしか見えないなぁ・・・。何かの正当性をバネに、人を説得し追い詰める戦術にしか・・・

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話がそれました、『いとしのエリー』の主人公の晋平君ですが、つーか、もうほんとに「後先見ない」で、周りに迷惑掛けまくりなの悲惨なほど、、、、悪い恋の代名詞みたいなものなんだけれども、、、それでも、この作品が、素晴らしいなと思ったのは、その禁断の恋が「ほんもの」だったことなんだよね。後半のあまりのシリアスさに衝撃を受ける展開なんですが、それもこれも、晋平くんと枝里子先生の「ほんもの」を正統づけるためで、物語のバランスとしてはとても良かったんです。普通の高校生にとっては、「家を出ていくこと」や「学校をやめること」って、ある意味人生のレールを外れてしまうような恐怖感があるわけで、少なくとも僕にはそういうものはとても大きくあって、「それ」をしてでも貫く恋愛ってのは、すげぇな、って感心したのを覚えています。当時。この作品は、そうそう小池田マヤさんの『聖☆高校生』なんかもそうなんですが、「家を出ること」が周り(家族や友達)にどれだけ重圧と迷惑を与えるか、一人で生きることがどれだけ不安で苦しいものかという「現実」をこれでもかって描くでの、その「重苦しさ」が、向こう見ずな行動の「代償」なんだ、と当時の、、、当時は中学生だったなぁ、、、僕は、強烈に思わされたのでした。

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だから、逃避行というとこの『いとしのエリー』を思い出すのは、逃避行というのが、駆け落ちというのものが、学生にとっては、不可能なほど二人の人生を壊してしまうもので、ほとんど取り返しのつかないダメージを人生に与えてしまうからです。経済力がない、社会的信用がない状態で、自分の意思を貫くというのは、それほど困難なんです。その帰結をまざまざと見せられた気がして、この漫画には、物凄い衝撃を受けたのでした・・・・あまりに主人公の上野晋平くんが、無鉄砲でエリー一筋なんだもの。でも、ここまで深刻になるんだ・・・と、感心した・・・。まぁ駆け落ちした僕がいうのもなんですが(苦笑)。でも、駆け落ちした時に、式も、新婚旅行も、新居も、車も自分一人の経済力でやれる!と思った時の、そして、社会的信用力のある肩書きをしっかり持っていると確信した時の「あの自信」の感覚は、今でも忘れられません。ああ、おれは「好きな女を守れるんだ・・・」と思ったもの。羽海野チカさんの『はちみつとクローバー』で、真山巧という青年が、大学生のころからお金を貯めていて、就職しても貧乏生活を送る姿を見て、竹本祐太くんは、「なぜですか」と問うのですが、その時の答えをが僕にはツボでした。「好きな女を1年ぐらい何もしないでいいよ、と守れるだけの経済力がないとだめなんだよ・・・」とというような内容を言うのですが、これ、僕の胸にいつもある言葉です。そう、自分の思いを守るには、口だけでわめいても、思いがどんない強くてもダメ、時間をかけた信用でその空間と時間を確保するしかないんだ。短絡的にいうと、金だ。金がすべてというんじゃなくて、「ほんとうに大事なもの」を守るためには、本気がいるってこと、そのためには、人が生きる人生の「たくさんのモノ」を捧げなければならない。もちろん、それは、自分の命であってもいいのでしょうが、それは、まわりも自分も不幸にする究極の手段で、やっぱりもっと何か二次的なものを犠牲にして(=要は金(笑))みんなで、なんとかしあわせになりたいじゃないですか。

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えっと、話が長くなったんですが、、、、というような前提で見ると、竜児の

「・・・・ただ、俺はほんの少し、何かを・・・・戦う方法を間違えている気がするんだ・・・・」



p79


セリフは、うーん、もしかしてよくわかっている???。とか思いました。ちなみに、「考えろ。俺はぜった味方だ」と恥ずいセリフを連発する北村君は、いいやつだなーと思います。これ、言えるのが本当の親友だよね。・・・・この戦う方法ってのは、できれば「みんなで幸せになる方法を」ってことなんだよね。前に、羅川真里茂さんの『しゃにむにGO』と津田雅美さんの『彼氏彼女の事情』の感想で、「本当に幸せを求めることは、その人の本質を追及すること」だ、言い換えれば自分が自分自身に出会うことだ、というようなこと、、これは、幸村誠さんの記事でも書いたんだけど、それって、家族も含めないとだめだみたいなことを書いたこがあるんだよね。というのは、「その人」の人格は、その人だけで出来上がっているというよりも「連綿と受け継がれる」親から引き継いだものを引きずっているもので、「その親の持つ不幸(幸福も)の連鎖のドラマトゥルギー」を人はひきついでいるものなんだ、って、、、僕はそう思っています。だから、日本的な私小説では、日本の「家」の血のしがらみと、自意識の相克でこれを描くものが多いですが、このパターンのテーマです。ちなみに、こういうことは過去のものでもあるし、解決することはほとんどできません。けれども、直視して問題の構造がなんで出来上がっているか知ることはできます。せめて、それは自覚しないと、自己把握ができないと思うんですよ。「自分を知る」というのは、自分を構成した人々を読み解くことから始まると僕は思っています。「自分探しという趣味」(by岡田斗司夫さん)。

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だから、竜児は、自分の母親のやっちゃんの問題を直視しなければならないし、大河は、自分の母親(父親はそれになりにわかった)との関係を直視しなければならないんですよね、、、これは、人生でも同じだと思うんですよね。


そうでないと、本当の幸せは訪れません(←ほんとか?)。近代の個を大切にする発想は、親の世代や過去の自分を切り捨てる発想が多く生まれがちだけど、それはきっと人の心にとって良くない発想だと僕は思うんですよね(ましてや日本の宗教観や世界観の文化風土だと特に)。ましてや学生は、自分で自立できないだけに、親の問題はストレートに自分の問題で、それを直視(=解決はできないことが多い)しなければならないと思うんです。「そこ」から目をそらしてはいけないんですよね。・・・ああ、ちなみに、自分で省みて、ちゃんと今では、僕は親族みんなと仲良しですよ(笑)。多大な努力と労力を傾けましたもの。自分の意見は、すべて通しても関係を絶たない、これがベストですねー。というか、吉住渉さんの『ママレードボーイ』のあのぶっとびまくりの両親の生き方が僕の理想んですねー。・・・ということで、この流れは、僕にはとても清々しいものに感じました。ああ、、、わかっているなーって。それに、一貫して、このとらドラ!という物語は、青春物語で、僕的な定義でいうと「居場所を探す物語」であって、恋愛物語じゃない気がしていたんですが、最後もそれにふさわしい締め方だったと思います。・・・何を言っているかというと、たぶん竜児と大河はすぐ結婚するんでしょうが・・・まぁこのパターンだと、みのりちゃんも亜美ちゃんも、まだチャンスをありますよ(笑)ってことなんだけど・・・でもこの話は恋愛がメインではないので、青春時代の大事な「仲間」という居場所を大事にするものなので、それはないでしょうね。まるで、いつまで行ってもそこにある、高橋留美子さんの『めぞん一刻』の一刻館や、那州雪絵さんの『ここはグリーンウッド』の緑林寮みたいなものですね。木原敏江さんの『摩利と新吾』とかも思いだすなー。

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閑話休題


ちなみに、この話は、「ある程度落ち着くところに落ち着いた」なんですが、大河の父親のように、もともとが人間がくさっている人もいるわけで、もう切り捨てるしかない腐った親というのも、まぁこの世の中には多いものです。マイケル・ギルモアの『心臓に貫かれて』なんか読むと、もうどうしよもねーなーと思いますし、、、、そうえいば、『24人のビリーミリガン』もそうだけど、この辺を読むと、あと、、、吉田秋生さんの『ラバーズキス』とか、栗本薫さんの『終わりのないラブソング』とか、、、僕の中では、『ファーファッカー』を書いた内田春菊さんも、みんな、正しく親を切り捨てて、乗り越えて生きていくにはどうすればいいか?って事に焦点が合っている(=テーマの一つ)物語な気がする。この辺の親との関係の問題というのは、深くて暗い闇だなと思います。大江健三郎が生涯を家族に焦点を当てて小説を書いていたというようなことを、栗本薫ががっかりした・・・と書いていたが・・・それは、そういうことの方が、正しいあり方なのかもな、内面を追う小説かという人種にとっては、という気もしないでもない。自分の実存に関係のない大所高所の話はウザいもの。ああ、、、話が、すげーずれた。。。このライトノベルには似合わないが、ほんとうは、大河の家族の方を追っていくと、、、、暗くつらーぃ自傷系の話になったと思うのですが・・・おっ、と思うと、大河って、おかしなやつだけど、、、あの環境にも負けない、強い意志の持ち主だったのかな・・・そう思うと、、、、なんか、かわいく思えてくるな・・・。

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