物語三昧の2008年ベスト 漫画部門

漫画部門

ここらにあげたのは、どれも素晴らしいので、順位を上げるのが失礼にあたるものなんで、まぁ好みの順とか思ってください。

1位『風雲児たちみなもと太郎

風雲児たち (1) (SPコミックス)風雲児たち (1) (SPコミックス)
みなもと 太郎

リイド社 2002-03-28
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文句無し、今年のダントツNo1!。出会えてよかった。本当に良かった。これ読んでいない奴ぁ、人生損している!と言い切れる傑作。信じられないほど感動的な物語性。飽きさせない構成力、画力、そういったものを総合する漫画力。深刻にならない小気味の良いテンポ。関ヶ原から明治時代の終りまでの日本史を個人で描き切ってしまおうという稀有壮大な構想力。どれを取って、最高レベルの作品。その上、先の大戦ナショナリティーを消去する方向に教育と公の思想が振れてるが故に、歴史感覚が霧がかかったように曖昧模糊としている「いまの日本」に置いて、とても意味があるものだと思う。司馬史観と並ぶ日本の歴史を描く金字塔のエンターテイメント作品と呼べる。ちなみに、蛇足だが、個人的には、「これ」によって、大正時代までの日本人のあり方が、自分の中ではかなり理解が進んだといえる。本質的には、なんとなくだがわかって気がする。そして、大正期の共同体の変質に伴って、近代化が行きつくことで、日本社会がかなり変質したことも、やっと腑に落ちてきた。日本の歴史を評価するときには、この2つの境での違いを明確にしなければならないことが、重要だということが、「腑に落ちたこと」が、頭の霧が晴れたような出来事だった。

2位『ヴィンランドサガ』幸村誠

ヴィンランド・サガ 6 (6) (アフタヌーンKC)ヴィンランド・サガ 6 (6) (アフタヌーンKC)
幸村 誠

講談社 2008-06-23
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漫画家として、幸村誠さんは、僕にとって非常に注目、かつ凄いなと畏敬の念を抱いている人だ。というのは、『プラネテス』でもこの『ヴィンランドサガ』でも、エンターテイメントでは表現しにくい抽象的な概念を、そのもっとも表現したい根幹に置いておきながら、エンターテイメントの次元から離脱しない人だからだ。ちりわけ、6巻のクヌート王の描写は、見事としか言いようがなかった。エンタメで、これが見れるなんて・・・と打ち振りえましたよ。しかも、物語に織り込みながら、その概念を、クヌート王が「理解する」プロセスまで描いている。そして、これが主人公であるトルフィンの人生の行きつく先と、もう一人の主人公といっても過言ではない輝きを放つアシェラッドの「求めるもの」とも、また戦の中で生きることの充実を味わう生き方をしているトルケルの「本当の戦士とは?」という問いともリンクしているという、その設定の見事さ。まだ完結していないにも関わらず、大傑作の風格漂う作品です。

2位『ランドリオールおがきちか

Landreaall 13 (13) (IDコミックス ZERO-SUMコミックス)Landreaall 13 (13) (IDコミックス ZERO-SUMコミックス)
おがき ちか

一迅社 2008-11-25
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幸村誠さんと同率2位になるのは、同じく、非常にエンターテイメントでは両立しがたいものをテーマに据えながら、それを見据えることをしている作品だからです。連載での人気はかなり陰ったそうですが13巻の「騎士団編」は、素晴らしかった。あれを描けたことで、少なくとも、もう読み捨てられ忘れられる凡百の作品では完璧になくなった。騎士団編を書いていた間は、体調は崩すわ、自分がこれでいいのかとの悩みとの戦いだったようですが・・・・。「あれ」を描いたことに対し尊敬と感謝を。組織を描ける作品は、小説でさえ少ないのですが、見事に描けている。昨今の漫画では、これが描けているのは『医龍』くらいだろう。09年も目を離せません。

2位『3月のライオン』 羽根海チカ

3月のライオン (1) (ジェッツコミックス)3月のライオン (1) (ジェッツコミックス)
羽海野 チカ

白泉社 2008-02-22
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まぁ僕の中で、すでに傑作として確立していて、順位は適当。なぜならば完結すれば、最高位の傑作と評するのは決まっているような、風格漂うからです。もう、素晴らしいっすよ。言葉もないっす。別に1位でもよかったんですが、、、、まだ終わってないので、この辺にとどめておきました。それにしても、言葉の選び方、細部へのこだわり、もうほんと・・・・風格ですよね。

3位『大奥』よしながふみ

大奥 (第1巻) (JETS COMICS (4301))大奥 (第1巻) (JETS COMICS (4301))
よしなが ふみ

白泉社 2005-09-29
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これも、凄い作品になったなぁ。なんというか、トンデモナイ荒唐無稽な設定で、、、、いや設定自体の大胆さも素晴らしいんだけども、これらのマクロの設定の中で描かれる人物たちの深く、暗く、凄まじい情念の歴史絵巻が、素晴らしい。彼女の代表作となる傑作です。よしながふみという人は、「針が振り切れてしまった」人格を描くのがとても秀逸です。とりわけ、家光の政治家としての、マクロを取り仕切るその才知、器の大きさ、、、、それと宗教家ともいっていい境地にある有功の清らかな境地、、、同じく全体の曲を見渡す才能と視野を持ちながら、その真逆さに打ちのめされながら、二人が狂おしい愛を抱きつつ、個人としての幸せが全く得ることなく果てていく様は、見事としか言いようのない、美しい悲恋だった。

3位『成恵の世界丸川トモヒロ

成恵の世界 10 (10) (角川コミックス・エース 60-10)成恵の世界 10 (10) (角川コミックス・エース 60-10)
丸川 トモヒロ

角川書店 2008-03-26
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この作品ほど、時間的にひっぱる作品も珍しい。まだ、よくわからないのだ。ただ、何がわからないポイントか分かってきた気がする。僕は、もっとも凄い、好きだ、と感じるのは、機族という種族の人類の上位種と、人類の不思議な共生関係なんですが、ここをうまく読み説いたマクロ設定を説明した後に、日常を生きる主人公たちの世界を評価しないと、全体を評価できないような構造になっていて、それがまだうまくできないのだ。でも、それだけ深いということでもある。すごい作品だ。

3位『CGH!』小池田マヤ

CGH! 5 (5) (Feelコミックス) (Feelコミックス)CGH! 5 (5) (Feelコミックス) (Feelコミックス)
小池田 マヤ

祥伝社 2008-12-08
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不思議くんJAM 1 (1) (アクションコミックス) (アクションコミックス)不思議くんJAM 1 (1) (アクションコミックス) (アクションコミックス)
小池田 マヤ

双葉社 2008-04-12
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個人的には、『不思議くんJAM』が凄い期待しているのだが、まだ初めなので、完結したこの作品を。小池田マヤさん、大好きです。なによりも、この人も、おいおいエンタメで「そこい」までやるのかよっ!てくらいエグい描写を連続する鬼畜さ加減が、もう愛してやみません(笑)。CGH!も、ぶっ飛んだ結論で、良かったし、死が常在する狂い度合いをよく表現していたと思う。大財閥の御曹司が、わけのわからない会社を作って、楽園のような不思議な環境を作る・・・という設定は、よくありがちだが、そのようなエネルギーは、この作品のように、死と隣り合わせにいるような凶器からしか生まれないと思うのだ。そういう意味では、マクロの環境を作り出す動機をよく描けていると思うんだよね。

4位 海街Diary『蝉時雨のやむ頃に』『真昼の月吉田秋生

海街diary 1 蝉時雨のやむ頃海街diary 1 蝉時雨のやむ頃
吉田 秋生

小学館 2007-04-26
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海街diary 2 (2) (フラワーコミックス)海街diary 2 (2) (フラワーコミックス)
吉田 秋生

小学館 2008-10-10
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ラヴァーズ・キス』がとても好きだったので、この作品も当然好き。鎌倉という舞台を中心に様々な人々の人生の哀歓が語られていく様を見ると、ああ人生というものは、こういうものだな、と不思議な既視感にとらわれる。人生は、良い時だけでも、悪い時でもなく、さまざまなものが絡まりながら時が流れていく。

5位『サイコスタッフ』水上悟志

サイコスタッフ (まんがタイムKRコミックス) (まんがタイムKRコミックス)サイコスタッフ (まんがタイムKRコミックス) (まんがタイムKRコミックス)
水上 悟志

芳文社 2007-10-27
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軽妙なテンポが、誠に素晴らしい才能を感じさせる。長期連載の『惑星のさみだれ』にも引き継がれている著者の強みがよく出ている。ただ、この短編は、むしろはっきり完結していることと、「超常の才能を持つこと」に対する倫理的な答えを、その軽快な軽やかさで、何の疑問も持たずに主人公に語らせている点で、非常に秀逸な短編だと思う。普通もっと屈折なりあるだろ、という部分が、ストレートに流されるのでその軽快さがまるでギャグのようになる。いや、素晴らしい作品だ。マクロ的に、この設問に、このような形でストレートに小粋に答えるものを僕は初めて見た。このライトでジョークのような主人公の感覚「こそ」が、この答のあり方にふさわしいものだったと思う。まっなにはともあれ、梅ちゃん、かわいいしね。縞パン万歳!

5位『ちはやぶる』末次由紀

ちはやふる 1 (1) (Be・Loveコミックス)ちはやふる 1 (1) (Be・Loveコミックス)
末次 由紀

講談社 2008-05-13
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僕は、生きる情熱と、「それ」しか見えない視野の狭さというものに対して絶賛する傾向がある。その評価軸として絶賛。この後この物語をどこで落とすのかは、わからないが、最初の出だしのこの一途感だけで、もう満腹なほど感動する。姉との関係や、友人との出会いなど、本当に素晴らしく、主人公を、「生きがいのある人生への扉」に誘う伏線になっていて、素晴らしい。が・・・・もしかしたら素晴らしいのは、2巻以降で、「これ」を通して仲間を得ていくことを描こうとしている著者の姿勢かもしれない。ただし、「人より飛びぬける目標を抱くもの」は、友人を得るのは難しいのだ。ましてや、勝負の世界を生きるものは。それを、どう描くかは、相当の力量がいる。今後に絶大な期待を。ちなみに、同じような設定で、僕の中で比較になっているのが、羽根海チカさんの『3月のライオン』です。