尺が短いせいで、SFの設定が大味になっしまった

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僕は、24話「忘れるものか この一分一秒を」を、見終わった後に、ちょっと残念な気持ちになってしまったんですよね。

というのは、やはりここのキャラクターの主観を追跡する物語になっているため(とりわけシモンの成長に特化)、全体のマクロの謎・世界観の設定・そこに存在する膨大な組織の奥深さ、といったSF的なガジェットとしては、薄い感じがしてしまう。
http://ameblo.jp/petronius/entry-10080091594.html


その気持ちを一言で言い表すと、「尺が短いせいで、SFの設定が大味になっしまった」につきます。けど、井汲さんがコメントくれた内容が、あまりに納得で、自分が感じた違和感をミクロで細かく分析してくれたので、ちょっと引用させていただきます。

■やりたいことは解るけど、色々と準備不足


グレンラガン24話ですが、「安易な特攻賛美」という批判に割と素直に当てはまっちゃうところがもどかしいです。

最初のゾーシィが死んじゃうのは、話としてわかる。だけど、その後のキッド&アイラックの死は………ゾーシィの死の後は、彼らの無謀な突撃は、「意味のない、単なる己れの無謀さが招いた死」にしかなっていないんですよね。


その後のマッケンとジョーガン&バリンボーの死も、「人を殺すことで受け手を感動(したような気に)させよう」という意図が見え透きすぎてしまっていると思います。例えばジョーガン&バリンボーがギミー・ダリーという「弱き子供」をかばって死んで行く…というのは、一見感動的ではあるんですが、それ以前に「そもそも、この戦いは『未来ある子供』を安直に連れて来てしまってよいものだったのか?」という問題があるはずなんですよね。


基本的に第4部の「シモン遠征」は「惚れた女を取り戻すための討ち入り」であって、ヤクザな大グレン団の私闘、という側面が強い(一応、「将来のアンチスパイラルの地球侵攻を事前に食い止めるため」という理由もあったけど、それは本当に起こるかどうか不確かな所もあって、おまけみたいなもん)。そういう、てめぇの勝手な事情ではたらく出入りに、ギミーやダリーのような子供を連れていっていいのか?という点はかなり疑問で、「ジョー&バリの『見せ場』を作るためにギミー&ダリーをダシに使いました」って色が濃厚なんですよね。たとえ作り手にそういうつもりがなかったとしても、結果としてそういう色がついてしまっている。


井汲 景太 2008-03-18 22:24:30

うん。結構安易な批判が、簡単にあてはまっちゃうところが、今回の演出としてダメだなーと僕が思ったところ。これって、「安易な特攻賛美」なんですよね。この作品は、意志の力で、気合でものごとをひっくり返せ!みたいな「熱さ」を過剰に演出する傾向があるんですね。けれど、そういったものには、根拠や必然性がないと、ただのバカになってしまうんですよ。カミナぐらいの小さな村の不良集団や愚連隊の革命集団とかならば、それもありだとは思うのですが、全人類に生存をかけた政府の首脳陣がやることじゃないよね。これ、、、いままでロシウが批判していたことを何も学んでいないじゃないですか。

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トップをねらえ!1&2合体劇場版』 庵野秀明鶴巻和哉監督 仲間を守ることと自己犠牲?
http://ameblo.jp/petronius/entry-10020155175.html

ここで書いたことなんですが、最終戦争的なこと、多くの人間を動員して戦争とかに駆り出すには、相当の大義が必要なんですよね。そして、基本的にその大義すら、個人にとってはウソにすぎず、個人が真に戦う理由は、個人の大事な人を守ったり同胞のためにすぎないんですよね。人を戦いに駆り出すってのは、とても倫理に問われることなんです。それを、安易にやり過ぎだぜ、君たちって…って思ってしまう。これは、演出の問題だと思うのですが、観客が、この戦いが人類を守る「絶対に避けられない」「逃げられない」ものであるという印象を持たないうちから、こういう特攻を見せられると、無能な指導層の下だとみんな悲しいよね、っていう気分になってしまうのだ。そりゃー仲間が死ぬシーンは、感動的だからぐっと来るさ、、、けど、それは犬死だし、ただの能無しの特攻なんだよね。それは、ちょっと嫌な気分になる。

■続き


この24話については私はよく「最初に地球近傍であらかじめ人型に変形しておいてから出発すれば、命を落とす奴の数はもっと少なくて済んだんじゃないの?」というとっても野暮なことを言ってしまうんですが(笑)、それは半分冗談だけど半分はやっぱり本気で、「時間を稼ぐ仲間が次々命を落として行く、それをただ見ているしか出来ないやるせなさ、悔しさ」を話の芯に据えて「忘れるものか、この一分一秒を」とサブタイトルにまで込めるのであれば、それが「真にやむを得ない事情によるもの」であることを、脚本段階でちゃんと保証する作りにしなくちゃいけなかった、と思うんですよね(「人型が螺旋力を最もよく発揮できる形」なんてことは初めから知ってるんでしょ?だったら最初から言っといてよ、ロージェノムヘッド!(笑)これから最強の敵に殴り込みをかけようというそのときに、こちらが最強形態を取らない理由なんて全然ないじゃん)。


キッド&アイラックも、「そこで冷静になって帰投するような『できた』人間は大グレン団にはいない。頭に血が上って後先構わず突っ込んじゃうような奴だから大グレン団にいたんだし、政府では無能だったんだよ」という事情はわかるけど、やっぱりそれは「言い訳」レベルでしか機能してないと思うんですよね、この脚本だと。で、そうやっていろいろ粗が見えるので、相対的にマッケンの犠牲的行為も単なる「特攻バンザイ」にしか見えない…というか、そういう風に批判されても庇いきれなくなってしまっていると思うのですよ。


次の25話って、見方によっては割と無駄な回だったので、そちらを少し削って、代わりに24話を2回にまたがる形にしてでも、もうちょっと24話に対する配慮が欲しかった…というのが素直な所です。
井汲 景太 2008-03-18 22:25:49

「真にやむを得ない事情によるもの」。うん、まさに、僕もそう思う。残念ながら、これは最初の僕が思った通りに、「尺が短くて、SFの設定が大味になっている」という、この作品の根本的な問題点から発生しているのだと思う。27話でまとめるには、やはり前半で時間を食い過ぎている、と思う。いや、素晴らしい作品で、その意図もわかるのだけれども、この作品がいかに残りの話数で素晴らしい終わり方をしても、たぶん10年後も忘れられなくて思わず「見直してしまう」ような位置付けにはならないと思うのだよね、僕の心の中で。20年経っても忘れられない「トップをねらえ」とかに比べると。

たぶん、SF設定・・・・マクロの設定から積み上げるという手法がとられていないためなんじゃないかなぁ。第三部や第四部は、シモンたち革命政権のその後の登場人物ここの生き方という部分にクローズアップになっており、「この世界そのものの謎」というような部分が、かなり捨象されて、演出からも除外されてしまっている。そういう意味では、00年代以降の作風な気はするが・・・うーん、やっぱりこれだけ面白いのだから、残念だ。

とはいえ、僕はまだ25話以降見ていないので、楽しみなことには変わりないんですがね(苦笑)。


■参考記事
24話「忘れるものか この一分一秒を」
http://ameblo.jp/petronius/entry-10080091594.html
20話『神はどこまで僕らを試す』〜選択肢を奪われた指導者の全体主義への飛躍
http://ameblo.jp/petronius/entry-10073395458.html
19話 後手に回るプロジェクトリーダーの悲哀〜ロシウくんの苦労に感情移入
http://ameblo.jp/petronius/entry-10071838736.html
19話 『生き残るんだどんな手段を使っても』〜生真面目なエリートは、全体主義的思考に走りがち
http://ameblo.jp/petronius/theme-10000273916.html
17話 『あなたは何もわかっていない』 革命軍が秩序を打ち立てる時
http://ameblo.jp/petronius/entry-10069642744.html
11話「シモン手をどけて/何がそんなに心が震えるのだろうか?
http://ameblo.jp/petronius/entry-10067598169.html
いつだって俺の強がりを支えてくれたのはあいつなんだ
http://ameblo.jp/petronius/entry-10060155418.html
セリフだけでこれだけ熱くさせてくれるのも、なかなかないね
http://ameblo.jp/petronius/entry-10055915786.html
グレンラガン見はじめています!
http://ameblo.jp/petronius/entry-10052009528.html