『チェンジリング』 クリント・イーストウッド監督 晩年になってなんでこう凄い作品を連発するんだろう・・・すごい。

チェンジリング (アンジェリーナ・ジョリー、ジョン・マルコヴィッチ 出演) [DVD]

評価:★★★★★星5つ
(僕的主観:★★★★★星5つ)

晩年のクリント・イーストウッド監督の凄さは、とどまるところを知らない。『ミスティック・リバー』『ミリオンダラー・ベイビー』『父親たちの星条旗』『硫黄島からの手紙』と、傑作ばかりで言葉も失う。この『チェンジリング』などは、もともと実話!なだけに、もっと陳腐に話がつくられてしまうかな・・・とかおもっていたら・・・・言葉を失う社会派の重厚な作品に仕上がっていて、刺すような強い印象を感じる。この格調の高さはどうだ!。


正直、イーストウッド監督の作品は、余裕あのる時にしか見たくない・・・というのは、それほど「重いから」だ。その重さとは、なんというか、『ミリオンダラーベイビー』なんかが、イーストウッド監督がとらえている「世界の在り方」をよく描きだしているのだが「報われることも、幸せになることも、良いこともなにもない」この世界の理不尽さを、これでもかとえぐる。世界は、ああ、このような場所である・・・と、深く深く納得させられてしまう。見るのがためらわれるほどつらいが、素晴らしい。なんというか、世界のたとえようもない深さを、見せつけてくれるこの重厚感に、眩暈がする。


社会派ドラマとしても、サスペンス(2時間半近い時間をほとんど飽きさせないその構成力の凄さ!)としても、なによりも腐敗した権力に対して、人の絶望の中での抵抗というアメリカの共和党の本義、保守の本義を、真のアメリカ人の精神を代表するようなテーマ性の深さではあるが・・・・それはイーストウッド監督らしいテーマではあるが・・・けど、たぶん本質は「そこ」ではない気がする。この世界の理不尽さ、それ自体を表現することなんではないか・・・とそう思う。この矛盾に溢れる、世界を描く、クリントイーストウッド監督は、素晴らしい。・・・・そして、それにふさわしい見事な、アンジェリーナ・ジョリーの演技。彼女がこれほどの才能の持ち主だったなんて!と感心。いや、これもきっと監督の演出力もあるのだろうとは思うが・・・。


しかし大前提として、この世界の理不尽さ、不条理さというものに対して鈍感で、この世界の在り方の闇に対する感受性のない人にとっては、まったく退屈な2時間20分であるとも思う。エンターテイメントとして、カタルシスや、楽しさや、一時の夢を見たいのならばこの作品を見る必要はない。いや、晩年のイーストウッド監督のすべての作品は、駄目だろう。この世界の在り方の深さ、生きていくことの難しさ、そういった渋みみたいなものへの、諦め、虚無、そしてそれでも持つ希望と、それの裏返しの絶望・・・・そういったものが、いってみれば文学の馥郁たる香りのようなものを、感じ取りたい人にお薦めします。

ミリオンダラー・ベイビー [DVD]ミリオンダラー・ベイビー [DVD]
F・X・トゥール ポール・ハギス

ポニーキャニオン 2005-10-28
売り上げランキング : 4223

Amazonで詳しく見る
by G-Tools