東のエデン感想 100億円と超法規的実行力を持ったジュイスを与えられた時、なにを目指し、どうやって、この国を救うだろうか?

その他はほぼ脱落した(見なくなった)が、やはりこれは面白い。まだ全体像が見えていないので、本当にいい作品かはいまいちわからないが、その匂いを持って、僕らを物語の世界にいざなってくれる力量のある作品だ。今期は、これのみだな、胸をときめかせてくれるのアニメは。

いま見ている観点を、少し書いてみます。

■小人数のプライヴェートルールによる世界を天秤にかけるゲーム
この作品を見ていて、ふと思い出したのが二つの作品だ。一つはゲーム『Fate/StayNight』ともう一つは漫画の『未来日記』だ。この3作品には「小人数の人間がなんだかよくわからないゲームに参加させられて」「マクロ(=世界)を掛け金として競争する」という共通の舞台設定がある。

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この設定は、とても現代的だな、と思う。というのはこれは、セカイ系(世界と自分が中間組織なしで結びついてしまう)の文脈に乗っているにもかかわらず、競争の目的が「世界そのもの」になることによって、自分のナルシシズムの中に逃げ込むのを許さないという構造になっている。セカイ系の設定そのままの物語を描けながらも、その目的(賞金)が世界であるがために、「世界をどうしたいか?」「世界と自分との関係性をどういうふうに考えるか?」ということが迫られることによって、物語に大きなダイナミズムが生まれる。バトルロワイヤル形式で、常に読者が理解できるレベルの人数で、殺し合ってくれるので、見どころにも事欠かない。

また以前、昨今の物語作品には「契約」と「再契約」という二つのステップを踏んで、読者を感情移入に誘いかつエンターテイメントの重要な訴求ポイントである「全能感」を満たしつつも、それに対して倫理的な再決断(=自分がそれをマイナスも含めて引き受ける)を迫るという構造になっているという話を、したことがある。この流れにもそう。なぜならば、このごく少人数による世界をかけたゲームには、そのゲームプレイヤーの特権として特殊な力が与えられるからだ。


FATEでは、英霊のマスターに。


未来日記では、特殊な力のある携帯が。


そして東のエデンセレソンには、100億円とジュイスという有能な秘書が。


いや、共通点があったからと言って、まだ何がってことは言えないんだが、とても強く連想したので、とりあえずメモメモ。


ちなみに、こういった無理やり強いられたゲームの物語の一番面白い展開は、ゲーム自体の目的を達成しつつもゲームのルールを逸脱してゲーム自体を破壊していまうこと。「そこ」まで持ってこれたら大したものだ、と期待します。




■それぞれのミクロの物語とマクロの物語がどう接合するか?

“私は至極個人的な信念に基づきこの国を救うための救世主を12人、独善的に選抜することに決めた。そしてその12人をセレソンと名付け、更にそのうちの一人をサポーターに任命した。君は今日からセレソンだ。おめでとう。”

しかし、この100億円という設定、秀逸だ。


たかだか10人で1000億円。それ以外のインフラ(ジュイスの実行能力等)を含めても数千億で済む。


この程度で、国を救えるようなイノヴェーティヴなアイディアが出てくれば、素晴らしいよ!。


そして出てくる可能性は高い、と思う。


なぜならば、このメッセージは「リミッターを外せ(=常識を無視しろ)」と言っているのだもの。


殺人の禁忌さえない、超法規的な実行力。


そして、物語としても、とても興味深い。なぜならば、「こう」いう設定をしてしまったからには、「いまの日本を救う方法」を、脚本家は説得力を持って観客に提示しなければならないからだ。なんらかのスピリチャルとかSFとかファンタジー的な、違う目線に観客をもっていくことも、封じられている。だって、この話凄くリアルで、そういうファタジックな回答はあり得ないもの。


既に、滝沢朗というセレソンの視点が、日本社会の世代間闘争の部分に注目していることが分かってきている。


日本社会の閉塞感は、人口が減っていく中で、若者世代と老年世代の世代間のリソース配分がうまくいかず、既得権益でがんじがらめになっていことがあります。


けど、若者に60年代のようなエネルギーはありませんし、また絶対的な人口も少ない。だから再配分を志向しても、それを政治的に結集させる力がいまの日本の若者世代にはありません。


はっきりいって、どうにもならないんですよ、いまの時代は。


それを????


攻殻機動隊」の神山監督ですからね、とても期待してしまいます。