江戸時代のノマド----日本は「中国化」するか?

Re: 江戸時代のノマド (池田信夫)
2009-05-22 07:22:45

>日本の伝統というのは江戸時代からすでにタコツボ的、自給自足的に分断化された要素とノマディックなネットワーク性をもった要素のモザイクとして成熟していたのではないでしょうか。


これは網野が一貫して主張していたことですね。江戸時代というより、古代からずっとこういう2つの要素があり、「江戸化」と「中国化」の交替もこの2つのシステムのどっちが表に出たかの違いでしょう。さらにいえば、遺伝子レベルではヒトは明らかにノマドであり、農民的な行動様式は獲得形質ですね。ただノマドも単独行動ではなく、小集団で行動していたはずだから、もともと遺伝的に両方の行動様式が埋め込まれているのだと思います。

西洋と日本の違いは、大塚史学流にいうと、西洋では工業が農村の中から出てきて共同体を解体したのに対して、日本では市場が共同体の間に発生し、タコツボ構造を壊さなかったことではないでしょうか。このため西洋では、職能集団や産業別労組のようなヨコのつながりが優位になったのに対して、日本では明治・大正期にもこうしたヨコのつながりはそれほど強くならず、「家族的経営」のようなタテの論理が強くなった。

戦後は、こうしたタコツボに依存して個人を守り、ヨコの関係を分断することによって個人の組織への帰属意識を強める制度ができた。もともとタコツボ構造が強固なのに、それを解雇規制などによって法的に補強したためタテ構造が圧倒的優位になり、硬直的な労働市場ができてしまった。このために、タコツボから排除されたロスジェネ世代が「すべり台」でホームレスになってしまうわけです。

だから労働市場を改革するときは、企業を超えたヨコのつながりを構築することが重要です。ただそれは、欧州のような産業別労組ではありえないし、アメリカのようなキリスト教会でもありえない。逆にいうと、そういう受け皿ができないかぎり、労働者がノマド化することは不可能でしょう。その受け皿が何であるかは、非常にむずかしい問題です。


http://blog.goo.ne.jp/ikedanobuo/e/e64f4e105079ee0b3f92d520e2263129
池田信夫 blog/「中国化」する日本?

かっこつける気はないので白状しちゃうと目の前のことが忙しすぎて、池田さんのブログで書かれていることなんてほとんど分からない(笑)。いろいろ思うところがあるが、やはり知識が追いついていないなーと残念に思う今日この頃。勉強し続けたいが、なかなかリーマンには、そんな余裕はないなぁ。・・・・そもそも「議論の前提となるどういうゲームをしているか?」「いま何が議論の分かれ目になっているか」という共有知識がないと、知の最前線にはいられないものなのだ。そういった知識なしに発言するのは、まぁ「感想」だよね、しょせん。とはいえ、及び腰ながらそういうことも続けていると、少々わかった感じになったりするので、逃げずに前を向こうと思ったりして。


と残念に思う謙虚さを発揮しつつ(笑)、この話題はとても興味深かった。特にここで語られていた記事に対するコメントで、「この内容」にかなり理解が進んだので、takenoteしておく。分からないなりに長く読んでいると、ああ、たぶんこの人が「語りたい内容の本質」はこの辺かな?というのが見える瞬間がある。


池田さんは日本の正社員の固定化について批判的な人なのだが、逆に言うと、彼の問題の解決の提案は、常に労働者の流動化(=ここでいうのならばノマド化)ということになる。この議論の歴史的日本社会の構造の捉え方は、日本社会(というか人類の組織のあり方?)が、



ノマド的なものと(=ヨコのつながり)


「家族的経営」のようなタテの論理(=タテのつながり)



という二つの構造を出眺めている歴史観があって、時代によってこの「構造」をうまく歴史の状況にリデザインし直した場合が、とてもうまくいくという発想を持っている。ただし、そうはいっても、「DNA」的に、たとえばヨーロッパやアメリカが、横の組織、、、、教会によるつながりや産業別の強固な労働組合のような歴史的なインフラストラクチャーはあるわけで、それは「ある種の固定費」であって、簡単になかったことにすることはできない。けれども、もともとあるそういった要素を、時代に合わせて、、、人類史の歴史的なスパンで考えると、日本は、どうも二つの変化を繰り返している、とい言っているんだよね。これは興味深い。


だから日本的コミュニティが瓦解した先にあるのは、アメリカ的な個人主義社会ではなく、中国のようにアドホックなネットワークがつながるポストモダンな<帝国>かもしれない。それは「グローバリズム」を罵倒する人々が恐れるほど未知の世界ではなく、中世に日本人が儒学を学び、明治期には儒教的な官僚システムをつくったように、意外に日本人の「もう一つのDNA」かもしれない。



池田信夫 blog


ふむ、なるほど。中国のようにアドホックなネットワークがつながるポストモダンな<帝国>かぁ・・・・中国の強さというのが逆に総体的に、なるほど、そういうものなのか、と分かってきた気がする。最近、古田武彦さんの本を読んでいるのだが、古代の中国と日本を見ると東アジアの秩序というのが伝統的に、対中国との距離でできているのは、もう間違いないんだよね。そういう時代の関係性をもう一度見直すのは、これからの時代にとても重要なことだろうと僕は思う。

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