『なぜ日本は〈嫌われ国家〉なのか ──世界が見た太平洋戦争』 保阪正康著  せっかくなので反対方向の意見を同時に読んでみよう!

なぜ日本は〈嫌われ国家〉なのか ──世界が見た太平洋戦争 (角川oneテーマ21)

評価:★★★星3つ
(僕的主観:★★★★☆4つ半)


物語三昧では、僕のポリシーとして、何かを考えるとき、何かの情報を摂取するときには、なるべくその極と極を知ろうというものがあります。


なので竹田恒泰さんの『日本はなぜ世界でいちばん人気があるのか』と保阪正康さんの『なぜ日本は〈嫌われ国家〉なのか ──世界が見た太平洋戦争』の2冊を同時に読むことお勧めします。正直いって何でもいいんですけどね(笑)。とにかく、反対そうな意見なら何でもいいんです。


日本の自画像、もしくは海外からどう見られているか?などのこをと考える大前提として、継続的に全く逆の両サイドのポリシーを持った人の意見や感想に触れようと意識しています。TwitterFacebookで、両サイドの意見を毎日眺めていると、とても不思議な気持ちになりますよ(笑)。全く感じ方が逆なので。長く眺めていると、具体例も反対のエピソードが積み重なるので、ぐっと情感もこもります。こうした本やテレビもですが、一番いいのは、これとある程度特定した人の意見を継続的に追い続けていると、とてもバランス感覚が自分の中に生まれる気がします。なので、ぜひとも右翼!といわれる人の日々のつぶやきと、左翼!と呼ばれる人の(できるだけ極端なほうがいい)つぶやき(個人的にはFacebookが実名で写真付きなのでおすすめ)を、同時に定期的に摂取するのを進めします。さらにレベルアップすると、たとえば、韓国人と中国人の友人と、靖国神社遊就館や昭和の博物館と、韓国や中国の抗日の博物館一緒に行ったりすると、とってもいいです(笑)。アメリカ人と、太平洋戦争の話をするのでもいいですね。あまりの違いに、笑ってしまいます。ちなみに、感情的になるやつは、どのみち日本人でも何人でもダメなやつなので、そういう輩は相手にしないほうがいいと思います。まぁ、こういうのはキャラもあるしセンシティヴなので、なかなか難しいかもしれないですけれどもね。あとは、似たような話では、日本の国の仕事環境とか日本で生活することなんか最低だ!という人の意見を聞くときは、その逆に、日本で仕事することは最高だ!日本でしかつするのは最高にすばらしい!という人の意見も同時に追ってみましょう。そうでないと、バランスがすごく悪いと思います。自分の意見をどこに着地点を見出すかは、極と極を見て、全体像をつかんでから決めればいいと思います。


ああ、それとね、こういう極と極を理解するときは、もっとも重要なことは、なるべくどっちもそれなりに正しい!、どちらにも、背景の厚みと正当性のつながりや歴史があるということを大前提に、なるべく感情移入して、どうしてそうなったんだろう?、どうしてそんな風に感じるようになったのか?と考え続けながら、ある程度長い時間と、それなりに努力して情報を集めてみていくことが肝要です。何事も、拙速はだめです。動物の脊髄反射になるので。


ちなみに、このことを学んだのは、学生の時に、パレスチナ人の友人とイスラエル人の友人の大ゲンカに挟まれて、右往左往して、両者の言い分を真面目に聞いているうちに、ああ、、こりゃ、どっちも正しいわ、、、と何とも言えなくなったことが原体験にあります。どちらの言い分も経験も根拠があるし、感情的に裏付けがあるという立場に立って、ではどうするか?と現実的なソリューションを考える姿勢が常に大事です。言い合っていても、何も変わらない。戦争になるだけだ。そんな部族社会の血讐法の世界に生きている野蛮人になりたくなければ、そういう賢さはぜひ習得すべきだ、と思うようになりました。ちなみに、これは僕のブログでよく語られる善悪二元論的なものの見方は、結局何も解決をもたらさない、実際の解決やステージの転換が為されるのは、結局は第三の選択肢もしくは、ゲームルールの転換によってしかなされないという話ともつながります。


ということで、この2冊は、どちらもなかなか読みやすいし、わかりやすいし、それでいてなかなかマイルドに(=極論に走らずに)逆方向の日本の自画像を描写しているので、同時に読んでみることをお勧めします。何よりも新書で読みやすくてボリュームも全然ないですしね。特に、保阪さんの本は、エピソード中心で、しかも新書ということで内容も薄いのですが、しかし非常に重要なことがかかれていると思います。この他国から見て日本がどう見えるか?、各国が先の戦争でどういう物語を生きていた(る)のか、という視点は、当然のことであるとはいえ僕には、なかなか得るものがあるものでした。


ちなみに、僕は現在海外に住んでいて、グローバル企業で多国籍の環境で働いていますし、長いこと海外とのやりとりの仕事をしていますが、個人的にどっちの意見もとっても正しいと実感します。頭で思うのではなく、実感します。まぁ、竹田さんの本は、マイルドすぎるので、もう少し日本は素晴らしい国だ!というような右翼的な本でもいいのですが、あまり思いつかなかったので、タイトルが反対方向なので取り上げてみました(笑)。物語三昧的なおすすめで、この2冊を同時に読むのは、課題だとでも思って読んでみてください(笑)。・・・・うーん、それにしても右翼的なってどんなのだろう?。田母神さんとかの本かな?。それとも在特会とかかな?。それとも、小林よしのりさんの『戦争論』とか『靖国論』とかそういうのかな?。なんか、さっと思いつかないや。あれらも微妙に右翼って感じでもないものなー。日本って、マーケティング的にバランスのいい右翼が思いつかないんだよなー。


ちなみに、海外に住んでみれば、世界中で、どれほど日本人が非常に素晴らしい人々だと思われているかは実感できます。海外で家を借りるときに、中国人の家主に「日本人だ」というと「なに!おまえは、日本人か!!!、ぜひとも借りてくれ!日本人は家をきれいに使うし真面目で素晴らしい!日本人は大好きだ!」といわれて、びっくりしました。中国とは揉めてるんじゃなかったけ???とはてなな気分になりました。ちなみに、中国人には貸したくない、とぶつぶつおしゃっていました(苦笑)。世界中での日本人の振る舞いが、真面目で、善良で、うそをつかず、勤勉で、、、とめちゃくちゃイメージがいいのです。いや、イメージではないですね、、、実績として、いまもいままでも海外に住む日本人たちが非常に海外では高く評価されているのです。これって、凄いことですよ。そんなプラスの評価を持たれる民族集団は、なかなかいません。


けど同時に、日本という国はどれだけ悪逆で日本人はひどい奴らかという話も、、、、実は、よく言われるのです。韓国や中国とは限りません。たとえば、保阪さんの本にもありますが、イギリス人でも退役軍人の人やその家族は日本が非常に嫌いのようです。これ言われて初めて気づいたが、たしかにイギリスの人の言われたことがあります。当時は、なぜあんな嫌味を言われたかわからなかったのですが、それは、歴史的に大英帝国の息の根を止めたのは大日本帝国海軍というのもありますが、そこは結構いい話として受け取られている(ちゃんと戦ったから)んですが、そのあとの捕虜の虐待が凄まじかったからですね。こちらの方面でのB級、C級戦犯が、めちゃくちゃな復讐裁判になって容赦がなかったのは、イギリス軍に対するその仕打ちがあったからだそうです。これ読んで、目からうろこが落ちました。イギリスは、同じ海軍の伝統もあるしシレーンのパワーの国で島国だし、日英同盟の歴史的経緯も含めて、日本に対して基本的にそれほど悪意を感じないと思うのですが、ときどきそういうのある気がする、、、そうか、このせいか、、、と。


これ、僕のブログ的な用語で言うと、ミクロとマクロの違い的なところもあるんですよね。ミクロ的には、世界中で日本人は、とても評判がいい気がします。自分の経験からして。こんな真面目で勤勉なやつら、なかなかいないもん。気も弱いし優しいし。けど、意外に行動力もあるし、結果も出す。凄い奴らです。


けれども、マクロ的には、集団になると何をするかわからない、という警戒が世界中に強くあります。保阪さんの本の中心のメッセージですが、WW2において、日本だけが主要国の中で、なんのために戦ったのか?ということがはっきり言えないし、国民的な合意もないからなんですよね。なので、とても不可解な国に見える。なので、集団だと暴走する国だという風に思われていて、しかも同時にその暴走をコントロールできない(=国民の統一見解がないというのはそういうこと)と思われているんですね。個人は、気弱で優しいのに、いきなり帝国を台頭させて中国に侵略かますは、世界最強のアメリカに戦争をしかけるはで、たしかに非常に論理的にぶっ飛んだ現象が起きるので、個人とのギャップで???ってなるんだろうと思います。


個人的な感覚でも、この辺の海外の不安感は理解できる気がします。たぶん戦前の日本のエリートの最終統一見解は、瀬島龍三(元大本営陸軍参謀・戦後伊藤忠商事会長)さんがアメリカのハーバード大学で講演した講義録だろうと思うのです。一言で言えば、日本の昭和前半の日中戦争から大東亜戦争、太平洋戦争の一連の戦争は、ペリー来航から長く続く欧米列強国への自衛戦争だった、ということだろうと思います。

大東亜戦争の実相 (PHP文庫)

日本が、慶応あたりの開国から大正までにわたって、欧米列強国の植民地化の攻勢の中で綱渡りな中で国家運営をしてきた強い安全保障上の被害者意識があるのは、よくわかることですし、日本人の僕としても非常に共感できます。ようは、司馬遼太郎の『坂の上の雲』のイメージを中核とする明治建国の物語ですよね。『風雲児たち』でもいい。『風雲児たち』の林子平の物語が、彼の死後、長い長い時を経て日本の領土を守ることになる話なんか、涙なしには見れないくらいかっこいい物語ですよね。これは、事実ですねので、確かに主張としてはよくわかる。


けど、、、、日露戦争ぐらいまでは事実なんですが、ちょっとまって、、、じゃあ、張作霖爆殺、柳条湖事件満州国建国までの下りはどうなの?と歴史を普通に見ていくと、これどう考えても、侵略だよね?としか言いようがないんですけど。ましてや積極的に、日本が欧米列強の経済圏からの自立を構想した戦略行動なので、ここを自衛戦争だ!と抗弁するのは、僕にはよく理解できません。もちろん侵略が悪いのか?という善悪の議論は、さておくとしてです。ここで戦争に負けた日本が、悲願の祖国統一戦争を成し遂げた中国に対しては、物語としてとても分が悪いと思います。僕は、ここって、日本の自衛戦争だったという物語は、戦争で負けておきながら、負けたことに対しての分析と責任意識が全然ない気がします。もう少しうまく言う方法ないのかな???というも思います。まぁ、近代史をちゃんと勉強しきれていないので、まぁ、これからもコツコツ歴史を勉強していこうと思います。

風雲児たち (1) (SPコミックス)

ちなみに、中国の祖国統一の物語をかっこよく物語ちっく(←?)で描きつつあるのは、浅田次郎さんの『蒼穹の昴』『中原の虹』シリーズだと思うんですよね。あれを読むと、清朝末期の中国の革命家たちが、幕末の日本の志士たちと重なって胸が熱くなるんですよね。だってやりたいことは同じだもの。欧米列強の植民地からの独立なわけですから。これは、中国にとっては、自衛戦争という物語になるのは、当然ですよね。日本と構造上は同じだもの。

中原の虹 (1) (講談社文庫)

まぁ、これらの歴史の話は、別に話すとして、ようは、日本人が、日本国家が、日本民族が、滅亡をかけて全世界に喧嘩を売るほどの行為をしておきながら、何のためだったか?というのが、外の人からはよくわからないんですね。たぶん内部でもよくわからない(笑)。インサイダーバリバリの日本人の僕が、いまいちよくわからないくらいですから、外からなんてなおさらわかるはずがありません。国内も、まったく反対方向のイデオロギーがぶつかりあっているので、国としての統一見解がよくわからない。もちろん、全体主義国家じゃないんだから、統一見解がそうそう出るはずがないとはいえでも、歴史的な正統性の主張が軸にないんですよね。特に近代史に。軸がないので、宣伝戦でも完全に負けている。また同時に、日本国内のロジックを外のロジックに組み替えて世界に説明するという式が本当に本は弱いというかへたですよね。クジラの裁判の話が、典型的です。そのわりには、かなり力がある国なので、大丈夫か?と警戒をされるんだろうと思います。


なぜ日本は「クジラ裁判」に完敗したのか ノスタルジー食文化を脱する『鯨食2.0』の必要性


ちなみに、今回の保阪さんの本での気づきは、世界からはマクロとミクロで日本はかなり異なる見方をされる国だ、という点です。日本人が素晴らしく尊敬されやすい人々でありながら、同時に国家や集団としては非常に警戒される、おかしな国だと疑問符を持たれるということが、同時にありうるのだ!ということです。矛盾していないんですね。なんか、これは目から鱗でした。どっちが正しいのか?という議論ではなくて、実はどっちも正しい可能性があるというのは、いい気付きでした。ミクロとマクロとか、ストックとフローのような、概念レベルでの違いが構造的に隠れているのだなーと思ったのでした。


まぁ、このあたりのことはイデオロギーも絡むので、なかなか何とも主張するのが大変な部分ですが、正反対の意見を同時に読むという姿勢は、徹底すると面白いですよ。ということで、おすすめでした。


日本はなぜ世界でいちばん人気があるのか (PHP新書)