『They Shall Not Grow Old (2018)』 Peter Jackson  第一次世界大戦のカラー化した映像が、前線に立つイギリス軍兵士たちを現代によみがえらす

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客観評価:★★★★★5つ
(僕的主観:★★★★★5つ)

ロード・オブ・ザ・リング』のピーター・ジャクソン監督は、ミリタリーマニアとして知られる人で、ロンドンのインペリアル・ウォー・ミュージアム(Imperial War Museums)から依頼を受けて、BBCの第一次世界大戦(Great War)の映像を修復、カラー化して音声を入れるプロジェクトの一環でつくることになったと聞いて、見たい!と思っていたんですが、全米公開するとはいえ、かなりの限定公開で、大丈夫かと思ったのですが、家のすぐ近くのAMCで2日間だけ公開していたので会社を早退していってきちゃいました。最近映画館に行けていなかったのですが、日本では公開されていないし、この映画館体験はかなり特別だ!と思ったので、行ってきました。いやはや、行った甲斐がある超ド級の映像体験でした。ちなみに『They Shall Not Grow Old 』の意味は、「彼らは決して古びない」というニュアンスかなーと思います。確か、何かの詩からの引用だったはずです。

尊敬するノラネコさんが、暗闇の共有体験こそイデア、とおっしゃっていたので、ガガーンと真に受けて、もっと映画館に行かなくちゃ!と思ったときに丁度、これは行かないと後悔する!と足を踏み出したのがよかった。ちなみに16時から回でしたが、2/3くらい埋まっていて、けっこう映画マニア?な人がいるんだな、と驚きました。ガラガラかと思っていたので。けど、年齢層的には、高めな感じでした。


さて、まだまだWW1については勉強も不足しているし、何か特にいえることがないんで、ほんと雑感なんですが・・・・。終わってすぐ思ったのは、1914-1918の大激戦の後、1939年ですから、ほんの21年後にはまた大戦争が起きるのですね。そう思うと、当時生きていた人って、いやはや、何と凄い経験をしているのでしょう。一番最年少の記録に残っている英国軍兵士は、16歳だそうで、WW2が始まるときにはまだ37歳ですよ。戦争が終わって仕事を探す、、、というセリフが何度も出てきたのですが、この後すぐ29年には大恐慌が発生するわけで、、、。この時代のヨーロッパって、なんて大変だったんだ、としみじみ思わずにはいられませんでした。


さて、それと、特に、エンドロールが終わった後に、ピータージャクソン監督の解説があるんですが、そこで言われていることがとても興味深かった。


エンドロールの最初に出てくるんですが、彼のおじいさんや親せきの思い出に捧ぐ、と出るんですね。というのは、彼のおじいさんは、WW1当時のイギリス軍の軍人だったそうなんです。おじいさんに捧ぐというシーンが出てきた時に、そもそも鳥肌立っていたのに、さらにグッと鳥肌が立つ感じで、胸にグッときました。これが「まさにあったことなんだ」というリアリティと、現在との連続性が、ビビッドに感じられたからです。実際には、おじいさんは、50歳ぐらいで亡くなっていて、戦争のケガがかなり後を引いていたみたいで(うまく聞き取れなかったので、間違いかもしれないのですが)、あれだけの大激戦、生きて帰ってきたのが不思議なくらいで、もし死んでいたら、ピータージャクソン監督はこの世にはいないわけです。歴史が、ビビッドに、「いま」につながる感じで、胸にきました。それに、ご両親は英国からのニュージーランドへの移民だそうですが、生粋の大英帝国の一族なんだなぁ、ルーツを追うだけで、歴史につながる。

この作品の構成は、最初は、Grate Warにボランティア(志願兵)で向かうところ、日常の服から軍服を支給されたり、訓練をされていたりする、日常のどかな風景から始まります。いや、そうではなく、最初は、白黒のアーカイブ的なフィルムで、歴史を語るようにずっとモノクロの映像でナレーションが入ります。これはよくあるドキュメンタリーの映像で、まぁ歴史だよなーーと思っているところで、途中からいきなりカラーになって、それまで平たんにとられた映像が、ズームされたり、シークエンスがつながったり、音が入っていき、いきなり生々しくなります。そこで、まずはまさか戦争にはならないだろう、という雰囲気から最前線のトレンチに送られていきます。そして、そこでも戦闘のシーンはほとんどなく、ひたすら日常の映像、トイレや休憩、仲間とふざけているシーンなどが映し出されて、、、、それが、ビビッドにカラーで生々しく映し出されるので、恐ろしくリアリティが感じられます。映像の技術は本当にすごいなぁ、と驚きました。そして、最後のシーンは、帰国してロンドンに帰って、軍服を返して着替えるシーンになっていて、それぞれの個人が、どういう風に戦争を体験したのかが、生々しく感じ取れました。


個人的に、驚きだったのは、大砲のシーン。映像がクリアーになってカラーになり、音が入った途端、凄まじい迫力になって、無音の絵で見ると、たいしたことがないとおもっていたのが、こんなにすごかったのか、、、と驚きの連続でした。


それと、今回の映像は、西部戦線(Western Front)の英国人兵士のみにフォーカスしていて、最後に、ピータージャクソン監督が、今回はわかりやすさに絞ったのでそうしたが、本当は、多様な民族が参戦したいたり、兵器などの生産に女性が進出し、戦争に対する大きな貢献が認められて、その結果として、女性参政権が英国で認められていくことなど、描けなかったことが山ほどあるといっていました。ちなみに、兵士に、スカートをはいている率が多くて、それが目立つのは、スコットランドの兵士が多いからなんでしょうねぇ。いやーこういうのも、映像クリアーにならないと気づかなかったかもしれません。


いやはや、凄いセンスオブワンダーの体験でした。特に、これは、暗闇で、大画面で見ないと、体験できないタイプの映像体験だったかも、、、、。そういう意味で、映画館で見れてよかった。






Kermode Uncut: They Shall Not Grow Old


Peter Jackson Talks World War I Documentary THEY SHALL NOT GROW OLD



How Peter Jackson Made WWI Footage Seem Astonishingly New - The New York Times



あ、ほとんど関係ない蛇足なんでが、日本人としては、WW1には、日本も参戦していて、本来は同盟国側での参戦なのに全くコメントもないしリストにも入っていないのは、まぁ、そりゃーそうだよなーとは思いつつも、少なくとも海軍はちゃんと参戦しているので、そこはさびしなぁと思いました。日本が、WW2で孤立していったのは、日英同盟の破棄が破滅のはじまりだと僕は思っているんですが、その理由が、WW1に日本が、同盟国であるのに陸軍の派遣をしなかったので、イギリス政府が日本に対して不信の念を持つようになったというのが効いていると思っていて、そういう意味でも、Grate Warに日本の名前が、1ミリでも出で来ないのは、やはりなーと思いつつも、残念。まぁ、もちろんこの作品のフォーカスには関係ないから当たり前なんだけどね。

ちなみに、第一次世界大戦の大枠の意味の入門書としては、下記の本が素晴らしかったので、おすすめです。ちなみに、古典といわれているハックマンの『八月の砲声』も止まってる。これは来年は読み終わらないと。


日本人のための第一次世界大戦史 世界はなぜ戦争に突入したのか


八月の砲声 上 (ちくま学芸文庫)