『ウーマン・キング 無敵の女戦士たち』 2022 Gina Prince-Bythewood監督 ダホメの女性軍団(アゴジェ)をベースに描かれるアフリカ側からの視点の物語

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評価::★★★★4つ
(僕的主観:★★★★☆4つ半)

実話を元にしたアフリカ版のブラックパンサーに見える。19世紀アフリカ西部、現在のベナンにあったダホメの女性軍団(アゴジェ)をベースに描かれる。

ダホメ王国VS オヨ王国というアフリカ内部の部族、王国同士の抗争があり、この争いはお互いの捕虜を奴隷貿易で白人に売り払っている。この構造には、グローバルな奴隷貿易と搾取の構造が組み込まれている。そして、さらに、女性軍団というジェンダーの問題、女性差別の問題も組み込まれている。構造は射程の距離が広すぎて、よくわからなくなりやすいマクロの構造を持っているのに、基本的には、ゴリゴリな人間ドラマで、わかりやすい人間関係のドラマトゥルギーとなっている。わかりやすく感情移入しやすい骨太の物語に仕上がっている。このあたりは、ジーナ・プリンス=バイスウッド監督の演出がさすが。ある意味で、センスオブワンダーな未見性に魅力はあるのだが、稀少な分だけ、感情移入する視聴者の像の想定が難しい。だから、ジェンダーの問題と絡めて、新兵ナウィの成長や、ジェンダーで抑圧される女性の苦しみと、親と子のドラマ、女性だけの軍隊というシスターフッドの絆をベースに持ってきているまとめ方は、さすがだと思う。物語は、ビオラ・デイヴィスが演じる将軍ナニスカと19歳の新兵ナウィを軸に進む。ナウィは、ナニスカ若かりしころ敵の捕虜になってレイプされてできた捨てた子供なんですよね。ナウィが、「あなたを汚したケダモノの血が私のも流れている」と謝るが、それに対して、「お前はアゴジェでナウィ」と答えるところは、ダホメの女性戦闘部隊のシスターフッドの関係が表されていて、深いなぁと思いました。

物語としては、隣国オヨの連合軍と奴隷商人である白人商会を、アゴジェが打ち破るという構造になっている。けれども、この先、ダホメ王国は、第2次フランス=ダホメ戦争でフランスの外人部隊に近代戦で敗北し、1894年にダホメがフランスの保護国になり、女性だけの軍隊アゴジェは解体される。イギリスは奴隷貿易から手を引くことになるが、アメリカへの奴隷貿易は、ずっと継続するんだよね。そういう意味では、局地戦を勝っても、そういう物語を作ったところで、戦略的には、奴隷貿易の構造やアメリカの南部への奴隷の輸出という構造を止めることはできなかった。やっぱり部族主義的な争いをやめられないと、どこまで行ってもグローバルな搾取な対象になってしまうんだよなぁとしみじみみてしまった。


そう思うと、『ブラックパンサー』のように思いっきり空想のファンタジーの方が、「自分たちが主人公の物語」を作るという意味では、やはり凄いなと思う。


この時代を、アフリカ人の視点で描くハリウッド映画はめずらしいと思う。そもそも北米やアジアのマーケットでは需要がないと思うし、最終的な意味で、ナショナリズムの話にもっていくにしても、歴史的には、ヨーロッパ、白人文明に搾取の構造を形成されてしまっているので、どんなかっこいい話を作っても最終的には戦略的に負けてしまった局地戦という扱いになってしまうので、なかなか難しいのだろう。アフリカの映画のマーケットがもっと成熟すると、もっと色々なものが出てくるのかもしれない。


ジーナ・プリンス=バイスウッド監督は、1969生まれの54歳。イリノイのシカゴ生まれで、一見何系かわからない。白人の養子になってカリフォルニアの中産階級で育ったみたい。よく知らない俳優さんや監督はなるべく人種は育ち生まれを見るようにしているんですが、アメリカは本当によくわからない。多様な国家なんだなと思います。白人の中産階級の家に養子に行って育てられているので、なかなか複雑。

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