ミュージカル『ゴースト&レディ』を観てきました。

会社の同僚と見てきました。最近、宝塚好きの同僚と、ミュージカルをよく見に行きます。アラフィフのおっさん二人で、いそいそと(笑)。2024年は、宝塚にもいけたし、よく考えると、下の娘ちゃんと、劇団四季のミュージカルはよく行くんですよね。そう思うと、なかなか良い人生だなぁって思います。物語があふれていて、世界は素晴らしい。『うしおととら』の藤田和日郎氏の『黒博物館 ゴーストアンドレディ』が原作のオリジナルミュージカルなんですよね。東京の劇場は、2024年11月が千秋楽なので、今のうちに行っておかないと思い行ってきました。

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前情報なしで(漫画を読んでいなかったので)望んだのですが、素晴らしかった。何が素晴らしかったかと言えば、驚くほどグローバルに通用する「ミュージカル」に洗練されていたことです。演出はミュージカル『ノートルダムの鐘』を手掛けたスコット・シュワルツさんなんですね。フローレンス・ナイチンゲールの一生を描いた物語ですが、これが英国発のたロンドンのミュージカルだって言っても、そうだよね!って思うような内容なんですよね。そもそも、クリミア戦争への協力って英国のナショナリズムを背景にしているから、ヨーロッパや北米でシンパシーを得るのは難しくなさそうだし、ロシアとの戦争を赤裸々に描いているわけでもないし、究極的には「人の命を救う」という文句のない目的に人生を捧げているのだから、万人に共感可能。なんというか、世界に向けて発信できるコンテンツになっているのが凄い。コロナで配信の権利が無なかったのが苦しくなったことを受けて、自社でオリジナルのコンテンツを作らなければならないという経営判断の元でのチャレンジなんですよね。このチャレンジは素晴らしいと思う。しかし、日本的なマンガの面白さの巨匠である藤田和日郎さんの「おもしろさ」やガワを、ちゃんとミュージカルの文脈やアメリカやイギリス風のディズニー路線のテイストに翻案されているところが、痺れました。たしかに、これは、日本オリジナルコンテンツなんだけど、それがちゃんと洗練されて翻案されている。それが素晴らしい。この路線は、是非ともうまく行ってほしい。

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ちなみに、一番かっこいいお気に入りの歌は、「走る雲を追いかけて」のこれ。これが一番聴いていて燃えた。上でも書いたんですが、クリミア戦争の広告塔になったナイチンゲールの行って、ある意味、英国のナショナリズムを背景に持っているわけで、それと人の命を救いたいという気持ちのミックスが、意味を重くしていて、音楽とダンスと合わせて、凄い感動した。

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あとは、『黒博物館 ゴーストアンドレディ』からの違いを観察したいところですね。このマンガは、2014-15年に講談社のモーニングで連載されていたものですね。ある意味、それほど長くはないとは言え、単行本2冊分の物語を、2時間ちょっとのミュージカルに落とし込むにあたって

どんなミュージカルでも物語の中に歌が出てくるだけの理由が必要で。その理由がないと「これ誰の、なんの歌?」となってしまいます。その点、ナイチンゲールの90年にわたる長い生涯において、本作でフォーカスされるクリミア戦争の時期というのは特筆すべき出来事のオンパレードで。彼女の感情も大いに揺れ動きます。おまけにゴーストとの関係性などユーモア、スリル、ロマンス、アドベンチャーといった要素が満載で歌う理由に事欠かないんですよ。
舞台化にあたってのハイライトをいくつかご紹介しますと、まず原動力となる二つの筋。一つは、看護というものに対するナイチンゲールの愛と、その愛がいかに看護というものを変えたかという話。そしてもう一つの筋が、ナイチンゲールとゴーストの関係。これは非常に情熱的かつロマンチックなストーリーになると感じています。

『ゴースト&レディ』演出 スコット・シュワルツさんインタビュー|『ゴースト&レディ』作品紹介|劇団四季

テーマは接着剤のようなもの。ないと空中分解してしまいます。「黒博物館 ゴーストアンドレディ」もゴーストのグレイとナイチンゲールの生きざまを描いていった結果、二人が寄り添う形になっただけで愛情をテーマにしていたわけではないんです。でも、ミュージカル化にあたってナイチンゲールが生きた時代の看護医療体制がどうだとかではなく、愛を中心に持ってこられたのは正しいと思います。

特別対談 原作者・藤田和日郎さん×野木亜紀子さん(脚本家)|『ゴースト&レディ』作品紹介|劇団四季

これらは、劇団四季のHPからですが、、、、僕も、この『黒博物館 ゴーストアンドレディ』という原作のミュージカル化にあたって、一番のポイントなのは、ゴーストのグレイとナイチンゲールの恋がどうなるのか?ってポイントだった気がします。見るならこの部分の解釈を、よくよく注目したいところ。僕も一度見ただけなので、思い込みや勘違いもあるかと思うんですが、グレイとナイチンゲールの関係性を、


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のどちらだと考えるのかで、話が本質まで含めて、かなり大きな解釈ポイントだと思うんですよね。二人が「恋をしている」のか、それとも同じ「何かの成し遂げたい夢を持つ同志」として描くかで、役者の演技も全く違ってしまうじゃないですか。そして、ぶっちゃけ、相当の解釈力があってよくよく考えていないと、普通の観客というものは、マンガであれミュージカルであれ、恋愛のラブコメを期待しちゃうと思うんですよね。「だとすると」、最終的にグレイとフローは結ばれなければカタルシスが生まれません。

しかし。僕は原作のフローのキャラクターの気高さ、その本質は、「人を救いたいという使命」に対してウルトラフルコミット(やりすぎ)していて、個人的なものを全て捨て去っているところにコミカルさと魅力があるのだと感じます。『からくりサーカス』のしろがねを思い出すまでもなく、そうした自分個人を顧みない、バットフルスイング系の振り切れているキャラクターを描くところに、藤田さんの魅力があると思います。であれば、フローは、軽々しく恋(=自分の個人的なことを優先する)する人じゃないはずなんです。だから、少なくとも、グレイに簡単に恋をしたりはしない。


この矛盾をどう解くか?。つまりは、恋をしない、使命にフルコミットしている女性に、どうやって恋をさせる、成就させるか?。


ここが重要で、何も考えずに見ていれば、このあたりに強い緊張があることを全くわからずに、ああ二人は愛し合っているんだなーと誤解してが見ることができるようになっているのは、さすがです。ネタバレになるので、この辺りはこのへんにしておきます。この二人の関係性にどういう名前をつけるか?、そして二人の結末に、あなたはどう思いますか?というのが大事なポイントです。

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