『The Rider』 2017 Chloé Zhao監督 オグララ・スー族の馬とともにある人生の美しさとIndian Reservation(インディアン居留地)残酷さ

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評価:★★★★★星5つマスターピース
(僕的主観:★★★★★星5つ)

■見たきっかけと
2021年の第93回アカデミー賞作品賞受賞の『ノマドランド』の Chloé Zhao監督の第二作目。『ノマドランド』が、あまりによかったので興奮してノラネコさんに話したところ、それならば『The Rider』『Songs My Brothers Taught Me』のサウスダコタ・パインリッジ・リザベーション二部作を、ぜひ見てくださいとおすすめされたのがきっかけでした。

■見るべきポイント
観るうえで少し知っておきたい前提知識は、以下の文脈。

アメリカ中西部のサウスダコタ州のパインリッジ居留地 (Pine Ridge Indian Reservation) が舞台

パインリッジは、ウンデット・ニーの虐殺があった場所であり、平原インディアンの最大部族であるスー族の支族、オグララ・スー族の人々が自治権を持つリザベーション(居留地

Indian Reservation(インディアン居留地)は、アメリカの白人がフロンティアに入植していく過程でネイティヴアメリカンの土地を奪いどんどん追い詰めていった場所

この場所での失業率や産業のなさは極端で、そこに住む限り、豊かな生活や教育を獲得できる機会は限りなく低い

ワイオミング州ウインド・リバー・インディアン居留地を舞台にしたTaylor Sheridan監督の『ウインド・リバー(Wind River)』2017も同時に見ると理解が深まるのでお勧めです。


アメリカ社会において、ネイティヴ・アメリカンの扱いが歴史的にどういうものであり、今現在どういう状態なのか?という知識なしには、よくわからない物語でしょう。日本における田舎と都会の格差で考えるとわかりやすいとノラネコさんが指摘されていますが、居留地での閉塞感、閉じこめられて抜け出ることができない絶望感、アル中と教育なさが連鎖する空間の「どこにも行きようがない」感覚を前提に物語を見ないと、主人公たちの絶望が分からないでしょう。

演技的な視点では、『ノマドランド』もそうなのだが、ドキュメンタリー風といわれるように、映画の登場人物がほぼ本人というところが、クロエ・ジャオ監督の凄さ。ふつうそんな素人に演技させれば、演出がまともに機能しなくなってしまうはずなのだが、信じられないほど情感が細やかに演出される様を見ていると、いったいどういう撮影方法をしているのか驚いてしまう。これの一つをとってもアカデミー賞の風格あふれる監督であると思う。

驚くのはここからで、クロエ・ジャオの選択は、ジャンドロー自身に主人公を演じさせたこと。役の苗字こそブラックバーンと映画用に変えられているが、ファーストネームは同じブレイディ。演技経験などもちろん皆無の彼に、自分自身が経験した過酷な運命を再現させたのである。さらに信じがたいことに、ブレイディの家族や、落馬の後遺症に苦しむロデオスターら周囲の人たちも当人に演じさせている。中でもブレイディの自閉症の妹の演技は本作の重要ポイントとなったが、プロの俳優も顔負けのリアリティで、彼女は観る者の心をわしづかみする。自身の経験を再現するという、簡単そうでハードルの高い作業を、クロエ・ジャオ監督が的確に導いたと言える。

https://www.banger.jp/movie/55463/

■Be a man!(男らしくあれ!)の同調圧力として単純にとらえてしまっては、この作品の深さが分からなくなる

物語は、主人公ブレイディ・ブラックバーン(ジャンドロー)が、ロデオと馬の調教で生活していたが、落馬事故で馬に乗るのが難しくなってしまい、もしロデオや乗馬のような激しい動きをすれば、ほぼ死ぬか再起不能になってしまうだろというところからはじまります。これが実体験であり、俳優がその再起不能になった本人であるというのが凄いところなのですが、この作品のドラマトゥルギーは、主人公ブレイディが、「命を懸けてでも馬に乗るか?」という部分にドラマトゥルギーがあります。なので、ドラマを分解すれば、「命を落とすか半身不随になって再起不能になるのがほぼ確実」で「それにもかかわらずロデオに復帰したいと主人公が悩ん」でいるわけです。ただし、彼にロデオを教えてくれたあこがれのロデオスターは、落馬の後遺症立つこともしゃべることもできない状態になっています。このままロデオどころか乗馬をしているだけで、「そのようになる」という危険性を見せつけられてもなお、ブレイディは、馬に乗りたがるのです。そこにこの物語のキーがあります。

日本で、この映画を鑑賞した人の感想を読むと、「同調圧力」という言葉をよく目にする。
再起不能になるかもしれない怪我を負ってでも、再び馬に乗ることを当然だと考える、パインリッジの若者たちには、確かに日本の田舎にもある同調圧力的な力が働いているのかもしれない。
外の世界での可能性を諦めたジョニーも、様々なプレッシャーは感じていただろう。
だが、都市も田舎も基本的に同質の社会で、気に入らなければ出て行ける日本とは、はじめから選択の重みが違う。
馬に乗れるのと乗れないのとでは、経済的な格差に繋がる。
そして彼らにとって、カウボーイであることは、誇り高きラコタ・ネイションのアイデンティティと同義なのである。

単純に映画を見ていると、カウボーイ仲間から「早く復帰しろよ」という圧力が何度もかかり、主人公時代も、それ以外に生きるすべが知らず、父親から「Be a man!(男らしくあれ!)」とのみ育てられてきた、激しい同調圧力が垣間見ることができます。カウボーイ物は、基本的にこの米国にお「男らしくあれ!」という同調圧力の強さの象徴として描かれてきており、その激しさのアンチテーゼとして、アン・リー監督の『ブロークバック・マウンテン(Brokeback Mountain)』などが描かれているのです。これは、男らしさの協調であるカウボーイの男性の同性愛を描いたところに物語に力点があります。


が、、、、僕は、この話を、Be a man!(男らしくあれ!)の同調圧力の犠牲者の物語、とはとれませんでした。


もちろん、そういう側面があるのことも、土壌があることも否定はしません。しかし、この作品の白眉であり、最も印象的なシーンは、主人公ブレイディが、馬とともに荒野を駆けるシーンでした。サウスダコタの荒野。暗く、汚く、何もないところで、そこでスーパーの商品陳列を、何の喜びもなくしている主人公の姿は、哀れの一言で、「底辺の生活」がありありと感じられました。しかし、その現実は何一つ変わっていないのに、彼が馬とともにサウスダコタの平原を疾駆するシーンになった瞬間に、その美しさに、アメリカの自然の雄大さに、胸がつかれるような、痛むような感動を覚えました。これが、平原インディアン、オグララ・スー族の「馬とともにある人生」なのだ、という鮮烈な感覚が、ビビッドに伝わってきたからでした。


このシーンから、もう僕は、ブレイディが、同調圧力の犠牲者であるようには一切見えなくなりました。『ノマドランド』の話と同じ類型です。安楽な、都市での白人中産階級の生活をするよりも、物質的には底辺であっても、「馬とともにある」人生でのたれ死んだほうが、その美しさに包まれているほうが、生きている「かい」があるんじゃないかというのが、映像でガンガンつたわってくる気がするのです。そうなると、ブレイディが、なぜ再起不能か死ぬ確率が高いのわかりきっているのに、馬を捨てられないかが、切ないほどわかります。

リベラリズム的な同調圧力を超えて

この問題、選択肢の構造で、僕は「安楽な資本主義での都市生活」よりも「自分自身のアイデンティティのある」生き方のほうが、たとえ「のたれ死んでもよいのではないか」という難しい問いが語られているように感じました。この問いが難しいのは、ほぼ百発百中で「のたれ死ぬ」のが分かっているからです。確かにアイデンティティのある生き方のほうが美しく気高くあれます。しかし、既に、そのような選択肢がない状態で、この問いが語られるところの難しさが、クロエジャオ監督のマイノリティへ向ける限りなく寄り添う視点に感じます。だって、物質的には、アメリカの実際の空間、生活としては、最底辺中の最底辺で、明日生きていくのも難しいような生活をしているのですから。それでも馬がいいとは、単純い言えるのでしょうか?。

ここでは、都市の中産階級的な生活こそが正しい!という「大前提」のリベラリストの傲慢さ、マジョリティの冷酷さが激しく感じられる気がしました。少なくとも、2020年の民主党共和党の大統領選挙での大激突は、「これ」が背景にあるわけで、それに対して敏感さがないというのは、アメリカではありえないと思います。ただ物質的に恵まれている都市の中産階級になるために「資本主義の最底辺の機能の駒で労働力を切り売りする人生にエントリー」するのが、本当に幸せかよ?って。

アイデンティティと一体になっているものを、簡単に一部分だけは解体して変えることはできないところが難しい

これ、難しい問いかけだと僕は思いました。なぜならば、このBe a man!(男らしくあれ!)の同調圧力と、オグララ・スー族の馬とともにあるアイデンティティは、重なっているものなので、都合よく櫃だけ抜き出して帰るというのがむずかしいからです。キャンセルカルチャーに代表されるような、ポリティカルコレクトネスが、正しく左翼の末裔なのだと思うのは、「一部分だけ人工的に考えて」それを変える為ならば、その他はすべて専横したり皆殺しにして、一旦更地にしてしまってもかまわないという激しい暴力性があるからです。これを、若い、女性の、しかも中国人のChloé Zhaoが作っているところに、凄みを感じます。彼女を評して「マイノリティに寄り添う視点」といいますが、まさに「寄り添っている」のであって、人々の生きる「生」がそんな単純じゃないことをまざまざと見せつけてくれます。

■これを底辺ととらえるのか、それとも豊かなオグララ・スー族の馬ともにある人生ととらえるのか?の難しい二択

しかしながら、主人公のブレイディ・ブラックバーン(ジャンドロー)の生活をどう考えればいいのだろう?。というのは、物質的な視点、「白人中産階級の都市生活者」の視点で考えると、最底辺も底辺ですよね。多分、これを告発して否定するというのがリベラル的な視点になるんでしょう。その視点で見ると、彼は教育を受けに外に出ていくか、仕事を探して居留地を出ていくのが正解になってしまうでしょう。『Songs My Brothers Taught Me』が、まさにそういう話です。しかしながら、それはすなわち彼らが、「馬とともにあり」「綿々と親から同胞から伝えられてきた」生き方-----アイデンティティが消滅するという意味でもあります。つまり、ちゃんと物質的な生活の豊かな世界に行けという話は、アイデンティテェイを殺せ、消せということと同義なんです。これ近代化とともに消えていく「その土地に住むことであるアイデンティティ」や「近代的な都市生活にフィットしない慣習」をどのように考えるかという大きなテーマと結びつくと思います。僕は、2011年の傑作台湾映画『セディツク・バレ』を連想します。

なぜ、こうした首狩りなどの野蛮な行動が美しく見えるか?と問えば、それは、そこに明確な信仰と尊厳に結びついた世界観が存在するからだ。異世界ファンタジーを描くときに、そこでのセンスオブワンダーを感じられるかどうかのポイントは、その「異なる」世界の異なる宇宙観を描けるか?どうかだ。もう少し言えば宗教、信仰が描けるかどうか?。どういうことかといえば、、その社会の持つ優先順位価値の体系が、我々の文明社会と明確な差を持って描けるかどうかが一つのポイントにあると思う。

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また、この文脈でアメリカのものであれば、有名な2009年のジェームスキャメロンの『アバターAvatar)」ですね。『セディツク・バレ』を、洗練化したというか、「怖さ」を抜いたような脱色した感は否めないですが、同じテーマだと僕はお考えています。この文脈で、全部見同時に連続で見ると、描き方の違いが、受ける印象の違いが面白いですよ。日本人にとっての『セディツク・バレ』と同じをアメリカ人でいうならばたぶん1990年のケビンコスナーの『ダンス・ウィズ・ウルブズ(Dances with Wolves)』に当たるのではないかと思います。

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同様にこの文脈で、転載、沢村凛 さんの小説『ヤンのいた島』をおすすめします。沢村凛 さんは、マイナー?な感じがしますが、読む小説すべてが、とんでもない傑作です。解説もったいないので、だまされたと思って、読んでみるのを進めします。『The Rider』の文脈ではないですが、沢村凛さんなら、まずは下記がおすすめです。素晴らしいセンスオブワンダーを感じられる骨太のファンタジーです。

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アメリカがアメリカンドリームで上に上ることもできるけど、いきなり最下層に容易に落ちやすい競争社会である恐怖

さて、せっかくなのでも一つの視点。

かなりの貯金をしていても、職を失ったり、病気になったら貧困層に転がり落ちるのがアメリカなのだ。

cakes.mu

僕がいつも尊敬してモニターしているアメリカ鵜っちゃーの一人である渡辺由香里さんが『ノマドランド』に寄せた記事で、最もなるほど、と思ったのは、ここ。アメリカというのは、医療保険がほぼない社会なので、いったん大きな病気をした瞬間に、「人生が積んでしまう」というのが、日本人員はどうもわかっていない。「この前提」を理解していないと、アメリカに住む人のと生活実感のスタート地点が、わからない。これは、僕は、『ブレイキング・バッド(Breaking Bad)』を説明するときに強く強調した部分です。

この辺りの大病してしまうと、破産して、本人も、残された家族も、地獄に落ちるのと同等の貧困層に転落してしまうリスクが、中産階級の普通の生活している人にさえ常にリスクとして隠れているアメリカの構造を実感しないと、なぜいきなりこんなにウォルターが追いつめられるのかはわからないでしょう。マイケルムーア監督のドキュメンタリー映画の『シッコ』などを補助線おすすめします。ちなみに、アメリカにの保険制度を知れば知るほど、日本やフランスの公的保険が、いかに良くできているのかと驚きます。さすがに、アメリカの医療保険をめぐる構造は、ひどすぎると思います。「これ」一点で、アメリカが成長しているから、日本を出てアメリカに移民したりすべきだ!みたいな能天気な議論は、単純には成り立たないと僕は思いますよ。これ、全然貧乏人とか貧困層の話じゃないですから。それなりの中産階級でも、即日ホームレス、破産に叩き込まれて生活できなくなるリスクが常にあるんですから。だからグローバリズムの負け組のラストベルトの中年白人男性層が、死亡率が劇的に上がって(確か先進国中へ平均寿命が下がっているのなんてここだけだったはず)、トランプさんを支持して政権が誕生しちゃうのも、この背景の切実な苦しさ、今目の前にある貧困をみないとだめなんですよ。総論としては、オバマさんや過去の民主党医療保険改革の理想はみんな認めていると思うのですが、しかし、実際は共和党との妥協の中で、医療険はオバマケアのせいでめちゃあがって、さらに生活は苦しくなっているのが実感で、本音のところでは、オバマケアのせいで生活がさらにひどくなったと、凄まじい恨みと不満を持っている層が厚くいるように僕はとても、周りの友人の話を聞いていて思います。理想は否定できなくとも、それで実際の生活がめちゃくちゃ悪くなれば、本音で人は、そんなの許容できないものだともいます。寛容さは、経済のパイの拡大があってはじめてなんだ、としみじみ思います。


ブレイキング・バッド(Breaking Bad)』シーズン1-2 USA 2008-2013 Vince Gilligan監督  みんな自分の居場所を守るためにがんばっているだけなのに 
『ブレイキング・バッド(Breaking Bad)』シーズン1-2 USA 2008-2013 Vince Gilligan監督 みんな自分の居場所を守るためにがんばっているだけなのに - 物語三昧~できればより深く物語を楽しむために

また、アメリカの「格差が激しくある社会に生きること」と「最下層に容易に落ちやすい」という社会の前提を踏まえた上で、「格差」をどう考えるか考えてほしいのです。そのラインで、テイラーシェリダンの新フロンティア三部作を見ると、アメリカ映画やドラマ-----だけでなく政治が全く違って見えてくること請け合いです。

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とりあえず、参考の記事等々をいろいろのっけておきますので、おすすめです。何かを見るときは、文脈や背景知識をリンクさせると、面白さが数十倍に膨れ上がるとペトロニウスは考えています。

■参考

ブレイキング・バッド カテゴリーの記事一覧 - 物語三昧~できればより深く物語を楽しむために

ノラネコの呑んで観るシネマ クロエ・ジャオの世界「Songs My Brothers Taught Me」と「ザ・ライダー」

ノラネコの呑んで観るシネマ ノマドランド・・・・・評価額1750円

ザ・ライダーのノラネコの呑んで観るシネマの映画レビュー・感想・評価 | Filmarks映画

ROAD TO 2024 - 米国政治を見ていくうえで背景として押さえておきたいことのまとめ-トランプ支持の7400万票の意味を問い続ける必要性(3)

さて、ペトロニウスがなんちゃってアメリカウオッチャーとして、2024年のアメリカ大統領選挙を理解するための「視点」として「定点観測すべき」視点=パースペクティヴを、文脈をまとめているのがこれで3回目です。


ちなみに、これを書いていたのは、2月なんで、もう古くなっている(時がたつのはやいー)けど、思考の履歴を残しておきたくて、掲載します。この3-4月は、シンエヴァ命で、ほかのこと考えられなかった。


基本的に、2020年の選挙は、民主党のバイデンさんがかったので、トランプ支持の7400万票の背景を考察しなければ、次は読み解けないと思っています。これはすなわち、ヒラリーさんが負けて、トランプさんが勝った2016年の選挙の問い、第二次オバマ政権の否定に戻るわけです。この問題意識の文脈が「綿々と生き残り続け、育ち続けている」ことに、このダイナミズムを解くキーがあるはずなので、それを追っていきたい。大手メディアや、グローバルエリートが、傲慢に切って捨てる部分を考察してこそ、意義があると思うので、やはりアメリカの保守について、「それは何か?」と問い続けることになると思います。


■事実かどうかは関係ないことが分かっていない~声が届かなければ、人々は踏みつけられたと感じる

“We are finally heard.”(ようやく声が届いた)

トランプ支持者と話していてよく耳にするフレーズだ。誰も耳を傾けなかった自分たちの声をようやく代弁してくれる大統領が出てきたというのだ。

「メディアは人々の声に十分耳を傾けてこなかった」

その批判が的を射たような出来事が、2016年に起きたブレグジットと、トランプ大統領を誕生させた選挙だ。世界に衝撃を与えたどちらのケースも、主要メディアは予見できなかった。原動力となった地方で暮らす人々の心情を都市に住む記者たちが理解できていなかったことが原因の1つとされている。

トランプ支持者はなぜ熱狂的に支持しているの? とにかく彼らに会い続けた記者が、これからも語り合う理由
トランプ支持者はなぜ熱狂的に支持しているの? とにかく彼らに会い続けた記者が、これからも語り合う理由|NHK取材ノート


まずは基本に戻ってみると、上記のマイケルムーアさんの意見が、実に端的に、44代オバマ政権が否定されて、45代トランプ政権に期待したものがなんであるかを言い当てています。選挙を通しての投票の決定打、選挙が終わった後の分析を通しても、「まさにこれ」が言い当てていると思います。

いったい「何の声が届いていない」ということだったのだろうか?。マイケルムーアのトランプ勝利の予測を振り返ってみましょう。

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デトロイトで財界の会合に出席したトランプがフォードの役員たちを前に 「もしメキシコへの工場の移転を進めたら逆輸入される車には35%の関税をかけてやる。 そうすれば誰もフォードの車など買わないぞ」と脅しをかけた。 驚くべき発言だった。 これまでそんなことを言える政治家は民主党にも共和党にも一人もいなかった。 その言葉はミシガンやオハイオペンシルバニアの人々の耳には心地よい歌声のようだった。 オハイオの住民ならその意味がわかるはずだ。 トランプは人々の苦しみに訴えかけている。 そして中間層から追い落とされた人々の多くがトランプを支持している。 彼らはトランプのような震源爆弾が現れるのを待ち望んでいた。 自分たちを隅に追いやった社会に対して爆弾を投げつける時が来るのを待っていた。 11月8日の選挙の日、失業し、家を追い出され、家族にも見捨てられ、車を持っていかれ、 何年も休むことを許されず、最低の医療しか受けられず、 すべてを失った人々の手にたった一つ残ったものは、 1セントもかからないが憲法で保障された投票する権利だ。 彼らは一文無しで家もなく繰り返し踏みつけれてきた。 しかし、11月8日の投票日にはそのすべてに対する仕返しができる。 億万長者も失業者も同じ一票しか持っていない。 そして中間層から脱落者の数は億万長者よりも遥かに多い。 11月8日、すべてを失った人々が投票所に現れ、投票用紙を受け取り、投票箱の前で、 彼らの人生を破滅に追い込んだシステムの全てをひっくり返すことを約束している 候補者の名前にチェックを入れる。 それがドナルド・J・トランプだ。 トランプの勝利は史上最大の"FUCK YOU"になるだろう。

マイケル・ムーアのスピーチ
マイケル・ムーアのスピーチ - データをいろいろ見てみる

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5大湖周辺の白人のワーキングクラスの没落が、投票のキーになって、大統領選を支配しているのですから。ここが難しいのは、この人々は、実は、コアなトランプ支持者であるとかオバマ支持者ではありません。それは、この層が、熱狂的にオバマ支持をして、そのあと、トランプ支持に鞍替えしている。そして、揺れ動いたうえで、バイデンさんに投票しているのがデータからはっきり見えるからです。なので、製造業に従事する5大湖周辺の白人ワーキングクラスの最大イシューは、製造業の空洞化による失職なんです。下記のアメリカンファクトリーというドキュメンタリーも、「この文脈」でぜひとも見てほしいのです。そして、この白人ワーキングクラスは、同時に、グローバル化についていけなかった人々であるのも、わかると思います。この辺の属性は、「かさなっているように見えて」、「それぞれは別の属性」であることも意識しておかなきゃいけないと思う。

1)白人、男性

2)-a石油産業や大手製造業などの重厚長大産業の労働者(共和党支持者)
2)-b金融・ITなどの先端産業にジョブチェンジできなかった人々(民主党に切り捨てられた人々)

3)キリスト教福音派(Evangelical/エヴァンジェリカル

4)白人至上主義者(white supremacy)


まとめちゃうと、こういうプロファイルが浮かび上がってくるんだけど、重要なのは、1)-2)はコンビで、3)と4)は、必ずしもこのセグメントの過半なわけじゃない。だから、是々非々で、オバマ、トランプ、バイデンを行ったり来たりする。


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トランプ大統領を生み出したものが、どのような「構造」だったのか、最近分かりかけている気がする。まさに、ポストトゥルースの新しい情報環境が、アメリカのローカル文脈と接続して、対立や党派性を鋭く大きくしている。


・大手メディア自体が既得権益とともに、グローバル化で「生き残れる」側の党派性を持っていることに無自覚なこと


なにがトランプ現象を支えているかというと、「グローバル化の波に乗ることができる都市部のクラスター」と「グローバル化に乗り損ねて、土地や閉じられた世界に閉じ込められている郊外や田舎クラスター」と、ざっくり二つに分けるときに、大手メディア自体は、グローバル化の正義を信仰して、そこでメリットを享受する組織であるから、「苦しんでいる人々に対してひどく冷淡で切る捨てる態度が露骨である」。上記のNHKの取材がとてもアメリカの二分している世界の違いをよく表しているものなので、ぜひ読んでほしいですが、とにかく大手メディアは、「耳を傾けない」どころか「積極的に切り捨てに加担している」という風に人々は感じている。この根深い不信感が、陰謀論に加担する「そもそも事実を信じない」という姿勢に結びついている。


かなり難しくしているのは、大手のメディアが、総じて通常の意味でのリベラリズムを信奉しているので、「グローバル化に乗り損ねて、土地や閉じられた世界に閉じ込められている郊外や田舎クラスター」について、肯定的に評価することが非常に難しくなってしまいやすい。


なぜならば、これらのクラスターは、


グローバル経済に参加することができない「残された人々」なので、彼らが最後に依拠するコアは、「血と土」になる。このアメリカの場合は、ナショナリズム自国第一主義の展開して、白人至上主義、白人のみの共同体の樹立になりやすい。また、「そこ」までいかなくとも、基本的には、アメリカファースト的な「アンチグローバリズム」を旨とするので、大手メディアの支持母体と真逆になる。だから、大手メディアとしては、彼らに「耳を傾ける」ことすら、構造的に難しい。実際、「白人を優遇せよ!」とか叫ばれたら、いかに背景に深い理由があっても、まったく考慮すらできないのは、メディアからすれば、ちょっとありえない。この倫理道徳を盾にとって、自分に都合が悪いことを隠して逃げる姿勢が、大メディアへの不信を増加させる。これが、ポリティカルコレクトネスが、倫理的に正しくても、嫌悪され拒否されるトレンドを生んでいる。


つまり、


構造的要因:グローバリズムの経済にアクセスできずに取り残された人々の苦しみ

解決の手法:アメリカ人、もしくは白人の特権の復活


背景は、共感理解可能でも、その解決策がワンセットで出てくると、メディアとしては、報道に乗せることすら難しくなってしまう。


なので、グローバリズムの経済にアクセスできずに取り残された人々の苦しみについての原因と、その解決方法を、


自己責任!もしくは、長い間の白人の特権が公平になっただけなので、自分たちの過去の罪があるのだから、我慢しろ、お前が悪いんだという結論になる。


ここで重要なのは、グローバリズムが、それを背後に持つ、IT、金融、先端産業を中心とする政治家(民主党)の癒着利権構造が腐敗していないか、というと、そうではないところが難しい。グローバリズムの「やり方」において、だいぶ問題があるのは事実。また、グローバルのうまみばかりを、高所得層やグローバルエリートが吸収して、そのネガティヴなファクターを、共同体に押し付けて自己責任の視点で、打ち捨ててきたことはまた事実だと思う。「それ=バイデンら民主、共和両党の中道派」に対する不信と怒りは、AOCやバーニーサンダース(民主党最左派)でも、トランピスト(極右)でも、どちらも変わらず既得権益層への、怒りが渦巻いている。癒着利権構造が腐敗は、あきらかに、格差を見ればよくわかる。再分配が全くなされていなければ、金持ちが得をしている構造は明らかだ。


これは、オバマ政権時代から変わっていない構造です。


■ラジオが支配する保守層の世界~Rush Limbaughの死去-Rush Limbaugh Dies at 70; Turned Talk Radio Into a Right-Wing Attack Machine

では、このちょっと「血と土」的なだいぶに閉鎖的かつ差別主義的な「虐げられた人々の声」を、いったい何が、どこが吸収してきたか?を見てみよう。この「血と土」という言い方は、ナチスプロパガンダですが、『バイデン新政権の真の課題は単なる脱トランプではない』(マル激トーク・オン・ディマンド マル激トーク・オン・ディマンド (第1033回))の会田弘継(あいだ ひろつぐ)さんの回を聞いて、衝撃の受けて、気にしているキーワードだ。物凄く端折って言うと、「グローバル化に乗り切れない人々」は、どんどん移動の自由の失って、「狭い折に閉じ込められるように」自由を失っていく。経済的な成長がなければ、その恩恵に浴すことができなければ、自分たちの持った板「既得権益」を維持するため-------いいかえれば、もう最後に残った既得権益として「血」(=この場合は白人至上主義)と「土」(=アメリカファースト的な自国第一ナショナリズム)を主張するしか、「生き残るための手段」がなくなってしまっているのだ。会田さんは、これまで特別だった、アメリカの「ヨーロッパ化」という視点でこの部分を見ようとしている。これは刺激的な視点だ。

アメリカには、世界最大の富が集中し、フロンティアがあり、拡大する中産階級という成長が継続しており、「そこに住む人々」が広く移動の自由を持っていた。ああ、やっぱりここでも機能は、「フロンティア」なのかもなぁ。フロンティアがなければ、成長はないし、機会もない。「今いるところ」を掘り進むしかないので、いつか資源は枯渇する。そして、ナチスドイツへ、、、、。このあたりは、もっと、ヨーロッパ史、WW1-2あたりを勉強したいと思う。うーん課題が多くなるなぁ(笑)。


アメリカで、友人と話しているときに、MSNBCやNYT、CNNのリベラルよりは、激しくて、いったい保守や右翼はどこにいるのかな?というときに、もちろんFOXが上がるんだけど、その前に実は重要な保守の砦があるといわれた。


それは、ラジオだ。それも地方の、ローカルラジオ局。


NYTこのように言っている。

ラッシュリンボーは70歳で死去。 トークラジオを右翼攻撃機に変えた
1,500万人の支持者と、嘲笑、苦情、卑劣な言葉の分裂的なスタイルで、彼はアメリカの保守主義を再形成する力でした。

Rush Limbaugh Dies at 70; Turned Talk Radio Into a Right-Wing Attack Machine
With a following of 15 million and a divisive style of mockery, grievance and denigrating language, he was a force in reshaping American conservatism.


www.nytimes.com

これ、ラジオ局って、アメリカでは重要なんだよね。特に、これは実感する。僕は、ラジオで毎日日常的に、様々な情報を摂取するには程遠い英語力なので、なかなかできないが、それでも「通勤等に移動で車を使いまくる」というアメリカのライフスタイルからすると、このラジオってのが重要なポジションにあるのは、物凄く良くわかる。ポリティカルコレクトネスの言葉狩りが横行するアメリカ社会で、どんどん大手メディアから、保守的な視点が追放されて、様々なところに分岐して濃縮されてい浮くのですが、僕が見ている限り、大きく2点ある。


一つは、地方のローカルラジオ。もう一つは、キリスト教福音派などのメガチャーチや教会。


これが、保守の牙城になっている。ラッシュリンボー(Rush Limbaugh)は、このシンボルのような人なので、なんちゃってアメリカウオッチャーとしては、覚えておくべき人ではないかと思います。彼は、2020年2月4日連邦議会の一般教書演説の最中にドナルド・トランプ45代大統領より大統領自由勲章を授与されている。この衝撃は、凄かった。大統領自由勲章って、民間が得られる最高の栄誉で、かなり相当のいろものだと思われていた彼が受賞したのには、賛否がものすごかった。日本でいえば、高須克弥さんが、大勲位菊花大綬章受けるとかそんな感じかな。とにかく、めちゃ保守的な人なんですよ。それも、いくらなんでもそれをいっちゃあというような発言に切り込んでいく。フェミニズムや環境活動家が嫌いで、“feminazis”や "Tree hugger"などをよく叫んでいます。人口の12%ぐらいしかいない黒人なんか無視したほうがいいみたいな発言もよくします。ポリティカルコレクトネスをまるで無視の人気ラジオパーソナリティーなんです。それも絶大なシンボルという感じの。

番組が一気に保守派の間で人気を得るようになったのは、米連邦通信委員会FCC)が1987年に、「公平原則」を廃止したことがきっかけだった。1949年に制定された「公平原則」の廃止により、アメリカの放送事業者は異論のある問題について相反する意見を放送する必要がなくなった。米紙ウォール・ストリート・ジャーナルは2005年に、公平原則の廃止がきっかけで、「激怒している何百万もの保守派有権者に対して、激しく弁の立つ保守派司会者がマイクを提供するようになった」と書いている。

ラッシュ・リンボー・ショー」は1988年に全国配信されるようになり、2020年までに毎週2700万人の聴取者を獲得していたとされる。

中略

リンボー氏は番組で、新聞に載る容疑者の指名手配写真はどれも、黒人公民権運動指導者ジェシー・ジャクソン師に見えると発言したり、「奴隷制に一番、罪悪感を持たなくていい人種は白人だ。歴史上、白人が奴隷を持っていた時期は最も短いし、その数も少ない」などと発言した。

https://www.bbc.com/japanese/56107437

www.cnn.co.jp

www.foxnews.com


これ以降は、書く余裕がなかったので、メモとして。


■右翼のタッカーカールソン FOXのアンカーTucker Carlson

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ちなみに、VOXはメディアとしては最も左なので、「その前提」で見てくださいね。いろいろ見たけど、ポジショニングが決まっていて批判したいVOXのまとめが一番わかりやすかった。