自ら立てた誓いを守ることへの憧憬〜奈須きのこの世界観①

奈須きのこさんのメジャーな作品は、僕はほぼ読破・プレイ済みだ。そこで、とりわけ個人で書いている『DDD』を読むと、彼が、「自ら立てた誓いを遵守する」ということに限りない憧憬を覚えているというのがわかってきた。ほぼすべての作品の主人公や、壊れていくキャラクター(それは悪役ではあるが切ないもう一人の主人公)の基本の動機構造が、


自ら立てた誓いを守る


という構造で成り立っていることがわかる。

その典型的なキャラクターであるのが、Fateの士郎とセイバーである。この伝奇ノベルゲームの主人公が、あれほど鮮やかな凛でも、究極の守るべきものとしての存在である桜やイリヤでないのは、この物語の核心を貫く原理が、「何もないところで、自らが自らの心の中に立てた誓い、その根拠のない誓いを、どんな過酷な現実に出会おうと根拠がなかろうと守り抜く」ことだからなのだと思う。

奈須きのこさんの世界観が、非常に重厚で独特なのは、このある種の信仰にも似た強烈な人格ドラマツゥルギーを、コアに置き深く掘り下げているからだ。このような極端な人間本質の類型に深い造詣を見せるのは、文学の挑戦にも似た探究のように思える。エンターテイメントの領域であろうが、エロゲーであろうが、この人が、まさに「作家」であることは、このことからも窺い知れる。

そして、このことこの葛藤を描くことこそが、奈須きのこという作家の最も成し遂げたいことである、と僕は確信します。